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「あの……これ、マズいですよ……」
奥の部屋では、アイーシャとラビット・パンダとやらの爺さんが……どうやら竜人の中では「いいとこのお嬢様(家出中)」だったらしいクロちゃんを連れ戻す仕事の条件を話し合っている。
そっちはパーティー内で一番口が巧い奴に任せるとして、もう1つ問題が有る。
「単に気ぃ失なってるだけじゃねえのか、これ?」
俺は、クロちゃんがゴブリンと間違えて捕えてきた市会議員と自治会長を指差しながら、パーティーのヒーラー役である僧侶のジブリルにそう訊いた。
「クロちゃん、何か、この2人に変な事やってますよ」
「だから何をやったってんだよ?」
「この2人、生命力の反応が何か変です」
「どう変なんだよ、一体?」
「何かの条件で……死んじゃうとか……」
「何かの条件って何だよ?」
「意識を取り戻すとか……一定時間経ったりとか……あと……迂闊に治療魔法をかけるとか……」
「おい、待て……えっと、俺、気功拳士の技とか良く知らね〜んだけど……それって、すげ〜高度な……」
「超難易度が高い技ですね」
「クロちゃんって、そんな無茶苦茶な真似が出来るような……」
「た……多分……」
おい、クロちゃんを連れ戻す手段の内「力づく」は、「パーティーの誰かが死んでも仕方ない」レベルまで状況が悪化した場合にしか使えねえって事だろ、それ……。
俺達、どんな化物を仲間にしてたんだよ……。
「あのさ……」
「はい」
「クロちゃんは、実は、俺達が思ってたより遥かに化物だったって事?」
「ええ、ですから、ボク、そう言ってますけど……」
「あのさ……人間とオークやゴブリンの区別がよ〜付かんのに、戦闘能力だけは糞チートな野郎が1人で町中を逃亡中なのかよ、おい……」
「町の外とか、人が少ない所まで逃げた事を祈るしか有りませんね……」




