(9)
「クロさんは、この山の主のドラゴンさん夫婦のお子さん達と一緒に居るみたいです。どうやら、親が出掛けてる間に、子供の面倒を見ているようです」
「お姉ちゃんは、子供の世話をするのが大好きなのだ」
聖女騎士様と、クロちゃんの許婚は、そう話している。
「明日の朝には、この山の動物さん達にクロさんの所まで案内してもらいましょう。今晩はゆっくり休んで、体力を蓄えておきましょう」
「しっかし……この子たち……フカフカであったかい……はぁ……もう眠くなった」
サファルは子熊を抱きながら、呑気にそう言ってる。
熊公が、どっからか果物を持って来て、一行は、それを晩飯にして、森の動物達を抱き枕代りにして呑気に休んでる。
……ただし、俺を除く。
どうやら、この山の動物達から「とんでもない極悪人」と思われてる俺は、フン縛られたまま。
「あ……あの……せめて……食事……いや……水……」
「どうぞ……しかし、大変ですな……」
そう言って、ラビット・パンダの爺さんが、水筒と切ったリンゴを持って来た。
「あ……ありがと……。出来れば、縄ほどいて……」
ぐるる……。
ぐるる……。
ぐるる……。
俺が、そう言った途端……今まで、穏かな雰囲気だった、周囲の動物達が……。
「あの……こいつら……人間の言葉わかるの?」
「はい」
聖女騎士様は、あっさり答える。
「そんな馬鹿なッ⁉」
「だって、ここは……特殊な場所なので」
「へっ?」
「大地を流れる霊力のようなモノが集中していて……そして、別の世界に近い場所です」
「べ……別の世界?」
「自然現象を司る神格と関係が深い……」
「ごめんなさい、俺、馬鹿なんで、もっと判り易くお願いします」
「早い話が……ドラゴンや妖精が誕生した世界です。一般的な言葉で言えば『妖精界』ですね」
「あ……あの……なら、初めから妖精界って言ってくれれば……」
でも……。
「でもさ、妖精界なら……何て言うか……」
うん、俺が何故か極悪人扱いされてる以外は……すげ〜メルヘンな世界じゃねえのか?
「あのさ、リーダー。妖精界を、子供向けのおとぎ話みたいな世界だと思ってんの?」
ところが、アイーシャが、変な事を言い出した。
「へっ?」
「あのさ、妖精って言っても、人間に都合のいい奴らばかりじゃないよ」
「な……何の事だ?」
「ゴブリンも妖精の一種だよ」
「え? じゃあ、この山では、ゴブリンどもが現われる可能性も……」
「大丈夫だと思います。この山の周囲には力が流れ込んで来ているだけで、実体が有る存在が転移してくる事は、ほぼ有りません」
「ほぼ?」
「年に1回有れば多い方ですし……今は『門』が開きそうな気配も有りませんし……」
「ああ……そう……でも、オークやゴブリンも妖精の一種だったとは……」
「あのさ、リーダー、一体全体、何年、冒険者やってるの?」
またしても、アイーシャが呆れたような口調で、そう言い出した。
「おい、どういう事? 何言ってる?」
「オークとゴブリンは別物だよ。ゴブリンは妖精の一種。たまたまと言うか、昔から色々有って人間と仲が悪いだけ」
「じゃ、オークは?」
「本当に知らないの?」
「え? だから、何を言ってんだよ?」
「だからさ、人間にもオークにも、この事を認めたがらないのが多いけど、人間の賢者や魔法使いが何百年も色々研究して……もう、ほぼ確定事実だと思って間違いない事なんだけど……」
「おい、さっさと言えよ、何の話だよ?」
「オークって人間の一種だよ」
……はぁ?
な……何を言って……だって、あいつら、目や髪や肌の色が、明らかに人間と違……。
「だって、人間とゴブリンの間には魔法的な方法じゃないと子供が出来ないけど、オークと人間の間には普通に子供が出来るでしょ?」
い……いや……ちょっと待って……おい。
何かおかしい。
でも……えっと……おい、何が、どうなってんだ?
な……なぁ……俺の生まれた村では、普通に、戦争やら天災やらで難民になったオークがやって来た時、面白半分に殺してたけど……じゃあ何? オークが人間の一種なら、俺の地元って人殺しだらけの因習村か何かなのか?




