Far Away
一言で、獣人と言っても様々なタイプが有る。
たとえば、人間形態と獣化形態を使い分ける事が出来る種族……いわゆるワーなんとか。
あと、耳その他、体の一部が獣っぽかったり、尻尾が有ったりするが、それ以外は人間に近い外見の奴ら。
そして、直立歩行している以外は獣にしか見えない奴。
そいつは……「兎耳でモフモフのアライグマ」が人間のように2本足で立って歩いてる……そんな感じの姿だった。
今挙げた中で最後のタイプだ。
「あ……あの……用件ですが……家出した私の主家のお嬢様を探していただきたいのですが……」
「え……えっと……爺さん……でいいのか?」
俺は、そいつの雰囲気やしゃべり方から、そう判断した。
「は、はい、我が種族の基準では、私は『爺さん』と呼ばれるような年齢の男ですが……」
「え……えっと何て名前だ?」
「いえ……人間には発音しにくい名前ですので……そうですな、この辺りには私の同族は、ほとんど居ないようなので、種族名でお呼び下さい……。『ラビット・パンダ』と」
「金は有るのか?」
まぁ、この獣人が着てるのは、かなり遠い国の服だが……それでも、高級布を使っているのだけは判る。
多分、金は有るのだろう。
「はぁ……はい……」
そう言って出したのは……かなりの数の国で営業してる銀行の為替。
書かれてるのは……すげ〜額だってのは判るが、どんぐらいすげ〜のかは検討が付かね〜よ〜な金額。
「ちょっと待って……」
そう言って、パーティー・メンバーの魔法使いであるアイーシャが呪文を唱える。
「う〜ん、偽造じゃなさそうだけど……あんたんとこのお嬢様って……」
「ちょっと待て」
「何? こっちが話してんの」
「リーダーは俺だろ」
「わかった、わかった。で、どうしたの?」
「この金額って、どの位? すげ〜金額って事しか、わかんねえんでな」
「そう言う事? えっと、このパーティー全員が10年は遊んで暮せる金額。贅沢しなけりゃ20年かな? 5人で分けても冒険者やめて新しい商売始めたい奴にとっては十分に元手になるね。例えば、酒場やりたいんなら、土地と建物買って、店員を何人か雇えそうな程度かな?」
「ああ、なるほど……」
「じゃ、話戻すけど、お爺さんのとこのお嬢様って、どんな感じなの?」
「小柄で……色白で……」
「色白? あのさ、知ってると思うけど……この辺りじゃ……」
その時、いつもの「ドタドタドタドタドタァ〜♪」というリズミカルな足音が響く。
「言われた通り、捕まえてきたけん♪ この町に入り込んどったゴブリンどもたいッ♪」
そう言って……冒険者ギルドの詰所に入ってきたクロちゃんは両肩に背負っていたフン縛られた人間の男2人を床に投げ落す。
「ゴブリンじゃねえ……そいつら、人間だ……」
「えっ……そうね? ありゃぁ、ウチ、またやってしもうたごたる……」
こいつは……自称「クロちゃん」……。
人間基準では「大男」クラスの体格の2本足で立って歩いてる銀竜にしか見えない姿だが、自称は「クロちゃん」だ。一応、「女の子」らしい。
どうも、こいつらの名前は人間には発音困難らしく、それで……ん? さっき誰か似たような事を言ってた。
「あとさ、そいつら、この地区の自治会長と、この地区選出の市会議員だけど……」
アイーシャが……何の感情もこもってない口調で、そう指摘する。
竜人族である「クロちゃん」には、人型生物の区別が良く付かないらしい。
ゴブリンと間違えて人間を攻撃したり、人間と間違えてオークを助けようとするなど……日常茶飯事だ。
「え……えっと……良く判らんけど……マズかとね、それ?」
「思いっきりマズ……」
「お……」
その時、俺達に依頼をしに来た獣人の爺さんの表情が……獣人の「呆然とした表情」ってのが、どんなモノか説明しにくいが、ともかく、呆然としてるように思える表情と化していき……。
「あ……」
続いて、クロちゃんも……竜人の「慌ててるような表情」ってのが、どんなモノか説明しにくいが、ともかく、慌ててるように思える表情へと変っていき……。
「お嬢様ッ‼」
獣人の爺さんが叫ぶと同時に……。
なんと言うか……竜人の足は、同じ2本足でも、人間とは微妙に違う。
猫や犬の後ろ足みたいな感じだ。……虎や狼の後ろ足と言った方が良いかも知れないが……。
その足を利用して、ライオンか狼に追われてる兎みたいに駆け出すクロちゃん。
「待って下さい、お嬢様ッ‼」
ブンっ‼
クロちゃんが外に出た途端、クロちゃんの背中から「気」で構成された翼が生える。
これが、「気」と呼ばれる力を操る拳士であるクロちゃんの能力の1つだ。「気」ってのが秘術系の魔法使いの「魔力」とか、神聖魔法を使う僧侶なんかの「霊力」「法力」とどう違うのかイマイチ判んねえが。
そして……。
クロちゃんは夜空へ消え……。
「お爺さん、あんたの依頼受けるね。じゃ、これから、細かい条件を話そうか?」
1人だけ冷静なアイーシャは、獣人の爺さんに、そう話し掛けた。




