8話 6頭の竜
緑の森の片隅。6頭の竜が、思い思いの場所を陣取り寝そべっていた。
上に見える空に模した空間を見上げ、青い竜が呟いた。
「なあ。そろそろ収穫時だとは思わねぇか?」
青い竜はその空が低い事を知っている。その先に行くには、魔法陣の描かれた紙が必要な事も。
「ん?どうしたぁ、アオ」
話に乗ってくれたのは赤い竜だ。
「なんかさ、昨日アッチでさ、ルークの城までの武器運びをやらされてたんだけどな、そん時に聞かれたんだ。お前らって戦えるのか?って」
「へぇー。面白そうじゃねぇか。勿論、戦えるって答えたんだろうな?」
黒い竜が落ちて来た紙を手を取り、サラッと眺めて捨てた。
「また、配達だ。まったく、俺らを何だと思ってやがる……」
顔を上げた他の竜たちもすぐに興味を失う。
簡単な仕事なんて、やってられねぇ。それを強要する奴らは、全て食ってやった。結果、ここに残ったのは互いに無関心なヤツらばかりだ。
気を使わなくていいが、気が抜けない。
そんな俺たちゃロンリネス。抜け出してやるぜマンネリス。……Byアオ。
「勿論頷いてやったぜ!!」
使い魔の不便なところは、あっちの世界で話せない事。主の許しが出るまでは好きな事も出来ねぇし、言うことを聞かなけりゃ、すぐに帰されちまう。だが……。
「戦いの許可が出りゃ、思い切り暴れられるんだぜ!!」
「でかした、アオ!!戦いだぜ!ひゃっほい!」
黄色の竜が喜びにジッポを地面に打ち付け喜んだ。
幸か不幸か、それが紫竜の鼻っつらに当たった。
「痛ってえ――なっ!食うぞっ!!」
突然のお食事タイム。(表現自粛)
「あ――あ。また減っちまった。……ま、いっか」
「ムラサキさんよぉ……」
「俺は元々黄色って色が好きじゃねぇんだよ。どうせなら金にしろってんだ!」
「でさぁ。なんで収穫?」
「流石アカの兄貴!俺の話、覚えくれてたんっすね!」
「……っるせえな。食っちまうぞぉ――?(愛)」
「へへっ。それがさ、そいつ、変な奴でさぁ。俺の名前を聞いてきやがったんだ」
「お前、名前なんてあったんだ」
「ありますって。俺様はアオだァァ――って」
「そりゃ、まんまじゃねぇか」
「ってのは冗談で……グフッ!!」
回し蹴り。
「……草苅り鎌のチョンって、地面に大きく書いてやったら、そいつ、俺の事、知ってたみたいでさぁ。それなら、そっちにいる他の奴らの事を教えろってうるさくってさ」
「ケケケ。だっせぇ名前だな。アオの方がマシじゃねぇか!」
緑竜が口を挟んで、紫と赤の竜に踏まれた。
「「教えたのか?」」
2頭に睨まれ、青竜は顔を青くした。……多分。
「ああ。そしたら、そこにいる奴ら、全部始末したら、こっちの世界でもっと暴れさせてくれるって言うんだ」
「……ほう」
黒い竜も顔を上げた。
「生け贄は、倒した国の人間。奴ら、マックリーン王国だけじゃねぇ。ダイン王国も落とすつもりらしいですぜ!狂ってやがる!!」
「楽しそうな話じゃねぇか」
ここでおもむろに黒い竜が立ち上がり、他の竜も続いた。
「……さ、行くか」
「楽勝――楽勝――!!」
6頭から5頭になった竜が向かったのは大きな栗の木の下だった。
「あれ?いねぇぞ」
「逃げたか。てめぇらが、ぶらぶら歩くからだろうがァ!」
「ハチ、上から見て来いやぁ!」
「誰だよっ!ハチって」
「てめぇだよ!虫みてぇな色してっだろ?」
「ハチは黄色だろ!……うおっ!?」
広場の端に、デカイ鳥が鎮座していた。
「……?」
「鳥がいるぞ」
「クッソ目付きが悪りぃ鳥だな。動かねぇけど、これ、食えるのか?」
※注 トカゲは死んだエサは食べません。
……と。竜達は突然頭上から降って来た緑のカーテンに絡まれ、踏鞴を踏んだ。
「何だ?これ――!!」
「こんなもんで俺たちを……お?」
「「あたっ!」」
見上げれば木登り熊。石や丸太を投げてくる。
「ふざけるな……ぁあ?」
飛ぼうとした次の瞬間には、地面だと思っていた床が、ズルりとずれ、全員が将棋倒しに!!
「床にも仕込んでやがった!!」
「痛ってえぇなっ!早く退けや!アカ!!」
「俺じゃねぇよ!ミドリだ!!」
「うひょひょ!!」
ジタバタする竜達の足に腕に、緑の蔦が絡みまくる。
「頃合だな……」
「お!鳥、喋った!生きてんじゃん。俺んのだからな!!」
しかし極上のエサは、いきなり号令を発した。
「網班――!」
「ぬ!?」
途端に、緑の網。恐らく蔦で編まれた網が、空から降って来たのだ!
「あっ!どっからそんなもん、持ってきやがった!!デケェなっ!」
足を取られた6頭の竜、全てを覆う大きな網だ。
「うっひゃっひゃっ!」
「くっつくな!ミドリ!」
「てめぇら、離れろ!!……おい!聞けやぁぁ!」
「巻き巻き隊――!」
次の号令で、長い蔦を口に咥えた、やたらと足の速い動物達が、竜達の周りを駆け回りだした。白黒の犬に、首の長い羊に、変な模様の猫だ!?更には鷹が目を狙って突っついてくるから、痛いのなんの!気が付けば、あっという間に身動きが取れないほど縛り上げられていた。
「何で切れねぇんだよっ!」
身体に巻き付く緑の蔦は、いくら切っても、すぐに再生してしまう。逆に育ってさえいる。
「馬鹿どもが!!落ち着け、食うぞ!!食って減らせ!!」
……と、ここで、共食いが始まった。
「痛えぇよ!噛み付くなって!!」
「食うのは草だ!草を食え!!……くそっ!バカばっかだな!!」
「食うなら肉だろ!」
「今噛んだ奴、ぶっ殺ぉ――す!」
「肉寄越せ――!!」
目を覆いたくなる下劣な戦い。決着はものの数十分でついた。
血溜まりの中、全身怪我だらけのどす青い竜だけが、蠢いていた。そいつは首をもたげると、ゆっくりと辺りを見渡した。
「……てめぇら。この落とし前、どうつけて貰おうか」




