7話 進化
「ぴーぴよ――ぴよぴよぴよ!!(泣き言)」
「うんうん。言いたい事は分かるよ。でも、まだ1度目じゃないか」
「ぴよ――ぴよぴぃ――!(甘え)」
「そうだね。次はもっとポイントを貯めてから、いっきにお願いしようね」
初めてのステ振りは大失敗でした。
何故なら、頭にでかい羽根が1本、出現しただけだったからです。
「お!ぴよ様、立派な羽つけて、どうした?(笑)」
重低音ボイスのツキノワグマがやって来た。ニヤケやがって。
「頭に一枚だけって……。ウヒッ、まさかぴよ様、羽根を大きくして――!なんて、願ったんじゃないでしょうネ?(笑)」
ふざけたチンパンジーがやって来た。誰だよ!あんたら!
アップデートしたら種族変わっちまって、余計誰だか分かんなくなっちゃったでしょ!!
依頼をこなせばスピリッツポイントが溜まる。それは希望が叶う数だ。
希望は鏡のように現れる理想の姿に加算されてゆき、理想の姿に近づいた時に、いっきに使用してアップデートするのだという。……ってか、先に教えてよぉ!!
「ぴよぴよぴ――!!ぴよぴよーぴ――!(お見せできない暴言)」
「そんなに叫ぶと、喉を痛めるよ。……あっ!小鳥ちゃん!これ、凄く持ちやすいよ。これなら僕、小鳥ちゃんを傷つけずに運べるよ!」
ローラン殿下、嘴で羽根を持ち上げないで!引っ張ったら抜けるから!!
「兄上!緊急事態です!」
ルシアン殿下が叫べば、ボーダーコリーもアルパカもハシビロコウも、全員が集まってきた。
「どうしたんだい?ルシアン」
「兄上……父上が退位を表明しました」
「……そうか、それは残念だね」
そこにいる全員が肩を落とした。しかし、ローラン殿下はそこで終わらない。
「……となると」
ローラン殿下はグイッとフィオラを引き寄せ、綺麗な黄金色の羽を広げた。するといつものように皆が顔が引き締め注目する。……もうこれ、恒例なの?出来ればフィオラ、聞く側に回りたいんですけど。
「ルシアン。この場所以外にスクロールが落ちて来る場所は?最近増えた場所があるはずだよね」
「はい。方向は表現出来ませんが、栗の木を3000歩ほど行った所にあります」
即答するルシアン殿下も凄い。
「それは竜の足で、だよね……近いな」
殿下はまじまじとルシアン殿下(竜)の脚を眺めている。竜にしては結構長めだと思います。真顔。
「敵の種類と把握している数は?」
え?ここに敵なんているの!?
「大小合わせて6頭。統一して竜です。」
「遊び心がないなぁ……」
殿下の部下は遊び心満点。イロモノ揃いですが。
って……。
そういえば、”ワタ彼”に出てくる敵は総じて竜だった。一身上の都合で、最後まで原作を見届ける事は出来なかったけど、表紙の隅に凶悪な面構えのカラフルな竜が6頭、載っていたのを覚えてる。
途中まで読んだ限りだけど、その竜らはこのユグドラルと呼ばれるこの半島を混乱に陥れる役回りだったのだけど……その竜が全員、そんな近くにお住いだったとは!
「さて……」
ローラン殿下は、怯えるフィオラをそっと撫でると、森の仲間を見渡した。気を使わせてすいません。
「皆、なかなか素敵な姿に進化出来てるね。君らなら問題ないと思うんだけど、一応、準備しておくに越したことはないよね?」
「兄上、先ずは、何に備えるべきかを述べてはくれませんか?」
「ああルシアン、そうだね。皆も知っての通り、この世界は聖剣ルークセイバーの中だ。そして、聖剣ルークセイバーが今まで飲み込んだ人間が我々だけではない事を君たちも知っているはずだ。何故なら、ダミアンの愚行の始まりは、ルークセイバーを手にした直後。恐らく試し斬りの為に、重罪人の処刑を行った時からだったろ?」
「総長。その重罪人が竜って事か?この世界に来て間もない頃、皆、一度は奴らに遭遇してるな。あれは、まだなんの力もない俺たちをいたぶって、もて遊ぶ様な奴らだ」
この渋い声は聖騎士団隊長のモーリスに違いない。猫からクロヒョウに昇進したようで、滑らかな美しい毛並みがモフりたい衝動に駆られる。
「そうだね。僕も空中で白い鳥を捕食しているところを見かけたよ。小鳥ちゃんも餌食になりそうになっていてね、あの時ばかりは、かなり慌てたね」
フィオラが寝てる間にそんな事があったの!?助けて下さりありがとうです!
「彼らは自己顕示欲が強く、我々を脅す事で欲求を満たしているようだった。でも彼らは最強種である竜だよ?なぜ我々を殺さないのだろうね?」
「この世界では、殺しは出来ないんじゃないのか?」
「出来ると確信してるよ。先ずはその理由を今から説明しようか」
ローラン殿下がハッキリと言うなんて、狙われているの決定なのね。
「敵の目的はスピリッツポイントだ。スピリッツポイントは、この世界において、唯一の魔法と言える。使っても無くならず、この世界の動物の体内に蓄積されてゆく不滅の強化魔法だ。じゃあ、それを効率よく、手に入れるにはどうしたらいいかな?」
「まさか……」
ゴクリ……。
「そうだよ。僕らを育ててから、食えばいいんだ」
「マジか――!俺ら、食べ頃じゃん!」
この世界は弱肉強食。フィオを育てれば、ローストチキン。
「僕の記憶が確かなら、ダミアンが聖剣で裁いた重罪人の数は26人。それが6頭に減っているとするなら、皆が最強種である竜に変化するのも頷けるね」
あらやだ……食ったの?
「兄上。ですが、何故今なのですか?」
「それはね、ルシアン。とても悲しい事だが、ダミアンの興味が美しい武装品にしか向かないからだよ」
「ああ……やはりそうでしたか。私は、ダミアンの聖剣に対する恐ろしいまでの執着に気付けなかったが為に、斬られてしまったのですね」
「そうだね。あの時、僕が聖剣ルークセイバーを引き継いでいたなら……」
「兄上のせいではありませんよ、私が望んだのですから。しかしダミアンは既に聖剣を手に入れているのですよ。それなのに、まだ何かを欲するでしょうか?」
「ルシアン。新しい剣を持った者は、必ず使ってみたくなるものだ。そして、それが素晴らしければ素晴らしい程、それを使って手柄を立ててみたくなる。強さに酔ってしまうんだね。ダミアンは王位を継ぐと同時に、隣国に戦争を仕掛けるだろう」
「なるほど、兄上は竜という使い魔を用いた戦争が始まるとお思いなのですね。父上は戦を好まなかったが、ダミアンならやりかねません。相手は恐らくリーン王国。今現在、ルーク王国はいつでもリーン王国に喧嘩をふっかけられるだけの理由があります」
喧嘩をふっかけられる理由って……フィオラよね。フィオラが化け物なせいで、皆様にご迷惑を!
「その通りだよ。でも今現在のルーク王国の聖騎士団は、過去1番弱いだろ?最も優秀な人材である君らがここにいるからね」
お世辞ではないのだろう。超エリートな部下達が互いを見合ってた。ビーバーと牛もね。
「兄上は、ダミアンが戦争を始めるにあたり、本来味方につけるべき貴族の兵を徴収せず、一番手っ取り早く、強さを誇示できる方法をとるとお思いなのですね」
「ああ。ダミアンは神殿を味方につけてるんだ。お金なんて、いくらでも使える立場だろ?頭の固い貴族を説得して戦力を集めるよりも、まずは竜が出てくるって噂の召喚スクロールを試すだろうね。その方が面倒もないし、かっこいいだろ?」
「確かに……ちょっとかっこいいな……」
皆頷いて……厨二なの?
「竜がダミアンに召喚される日も近いだろうね」
しかしローラン殿下の言葉に、皆が口を噤んだ。
森の仲間たちの沈黙は、国を思っての事。国に命を捧げた人達の愛国心の強さは想像に難くない。
「そこでだ、降ってくる召喚スクロールの数次第では、竜らは互いを蹴落としてでも、自分が召喚されたいと思うだろうね。故に必要なのは自分自身の強化だ」
「強化!なるほど、ここで我々の捕食に繋がると!ああ……」
途端に食材に見える森の仲間たち。きっと皆はメインディッシュ。フィオラは前菜候補。
「なるほど。兄上の考えは分かりました。では、我々は竜相手に、どの様に対処すればよいのでしょうか。善処は致しますが、魔法もろくに使えない状態ですし、何よりこの体です。少々……いや、逃げるにしても、かなり厳しい状況かと」
皆は互いを見た。
今ここにいるのは11匹の可愛い動物たちだ。
竜に鷹。チンパンジーにクマにヒョウにボーダーコリー。まあ、ここまではいいとして……。
ビーバーにアルパカに牛。ハシビロコウにヒヨコときた。後半は錚々たる癒し系メンバーだ。
「そうだね。もし小鳥ちゃんが竜を相手にするのが嫌だと言うのなら、僕らは皆、国民を捨てる覚悟で適当な任務に逃げるしかないだろうね」
……ん?
「ぴ?」
いきなりローラン殿下に会話をふられて、フィオラは羽根をフルフル震わせた。
「え?総長。もしかして竜を倒すおつもりですか?」
フィオラもびっくりしたけど、皆も驚いたよね?しかも、めっちゃ不審そうな目でフィオラを見てるんですけど?
「兄上。このヒヨコに何が出来ると?」
「前にも言ったろ?小鳥ちゃんは特別なんだって。僕は、小鳥ちゃんが魔法を使うのこの目で見たんだよ。だから断言出来る。小鳥ちゃんこそ、この世界を救う救世主なのだと!」
そ……そうだったの!?
「小鳥ちゃん!さあ、皆に君の魔法を見せてごらん!」
力の入ったローラン殿下に押し出されて、フィオラはちょっと舞い上がった。
え?……そう?見たいの?フィオラの実力を!
フィオラは羽を揺るがせ、風を呼んだ。
蝶が舞い、辺りに小さなつむじ風が現れる。
これがお得意のお掃除魔法よ!
「おお!風が!!」
「魔法が使えるのか!?凄いな!」
「クシュン!……あ、失礼。この程度で凶悪な竜は倒せないと思うのですが?」
鼻先を通る蝶に、くしゃみをしたのはルシアン殿下。ごめんなさい。調子に乗りました。
「小鳥ちゃん、頑張って!!今、頼りになるのは、小鳥ちゃんの魔法だけなんだよ!」
え?そ……そうなの?じゃあ、植物を育てるわ!ほら、そこらの木も、フィオラの手にかかれば、ニョキニョキ――っと!!
フィオラは地面を嘴でつついて、土の精霊にノックした。すると、地面が輝き、木々も草もメキメキと伸び始めるのよ!
そう、フィオラの塔には、何故かいつも、花や実を届けてくれる鳥がいたのだ。今思えば、それは誰かの使い魔だったのだろうけど、空腹に悩むフィオラにとっては神様からの贈り物。地面をノックして願えば、それらは成長し、あっという間に果実や野菜を実らせ、フィオラのお腹を満たしてくれたのだ。
「ぴ……ぴよ――!」
「おお!」
「凄い!木々があっという間に伸びた!!」
「ジェレミーが絡まれて見えなくなったぞ――!」
森は青々と茂りアルパカを持ち上げる程に成長した。どう?フィオラの実力は!
「ストッ――プ!皆、冷静に考えましょう。この程度の魔法で、どうやって6頭もの竜を倒すのですか?」
ルシアン殿下の冷静な声に、皆の熱が急激に下がる。
「確かに。倒すとなると……無理でしょうな」
「ぴよ……」
そんなの私だって分かってるわ。
でも、母エイルがフィオラに教えてくれた魔法はこれだけなんだもの。
香りを運ぶ風を呼ぶ魔法。
寒さを凌ぐ火をつける魔法。
喉を潤す水を出す魔法。
飢えをしのぐ植物を育てる魔法。
これらの魔法は全部、フィオラが塔の上でひとり、生き抜く為の魔法。生きる為に必要なだけ鍛えた魔法だ。攻撃は想定外。
「やはり、小鳥ちゃんの魔法だけでは厳しいと思うのだけど?皆はどう思う?」
ローラン殿下、ガッカリさせてゴメンなさい。でも、フィオラだってできる事なら皆の役に立ちたかったのよ。
フィオラはいつも、塔の上から見ているだけ。城下の民が泣いていても、手を差し伸べる事も出来なかった。……今も同じね。
この先原作通りに進めば、ここにいる竜達のせいで大勢の人が死んでしまうっていうのに……フィオラはその事を知っているだけで、何も出来ないなんて。
「ウヒッ!ぴよ様、ワシにもっと蔓をくださらんか?こりゃ、面白いぞぃ!」
しかし突然、沈むフィオラに声がかかった。
ふざけた様子で、チンパンジーが木に絡まった草の蔓を引っ張ってる。確か技師長のウッツさん?
「ぴ?」
フィオラは頷くと、地面に嘴を付けて、思いっ切り育って!とお願いした。
途端にその辺の木々に這ったツルが、生き物の様にズルズルと伸びていく。魔法の剣の中だからか、とても調子がいい。
「ムム!自然のロープネ。ウヒッ!……これは使えるかもしれん!」
技師長って現場監督みたいな人だっけ?戦場だったら、戦略を形にする人なのかな?ツルを器用に扱い、試行錯誤している様子は、初めて道具の使い方を覚えたサルに見えるけど。
ウッツさんの手元を見て、ローラン殿下も金色の目をキラキラ輝かせ始めた。
「ウッツ。網は作れないか?」
「俺サマの手にかかりゃ、あっという間ヨ」
「総長!もしや捕縛を?」
「いや、どうかな。さすがの技師長だが……しかし、時間がかかれば、逃げる間もなく殺られる可能性も高くなるかも。……皆はどう思う?」
「木の上に仕掛けをするのはどうです?丸太とロープさえありゃ、できますぜ」
クマが大木を叩き、ビーバーが木に登って行った。
「それはいいね。小鳥ちゃんもそう思わないかい?」
「ぴよぴよ」
植物はフィオラの日用品にもベッドにもなった。可能性は無限大。
ここは森だ。フィオラがいれば、材料には困らない!
「危険は覚悟の上。この様な体になっても、民の力になれるのなら、やらない訳にはいかねぇでしょ!」
クロヒョウが吠え、他の動物達もいっきに動き始めた。フィオラも地面をノックして、土の精霊を起こす。
「ぴよ様!こっち側の木も育ててくれ!目隠しにするから!」
「もっと蔓を!」
「ぴよ――!」
いつ竜に襲われるか分からない。でも森の仲間たちは、生き生きとした顔をしていました。
誰かの為に頑張る。
それだけですごく力が湧くし、仲間と一緒なら無敵よ。
引きこもりのフィオでも、役に立つ事が出来る。ならば、頑張るしかないっしょ!
長年の引きこもりでつちかった魔法操作力。絶対役立ててみせるわ!




