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6話 魔塔

 ここは魔塔と呼ばれる場所だ。

 リーン王国の首都に隣接する小さな町の中にある魔塔は、魔法使いの育成や魔法の研究、非常時の魔道士の派遣などを行う独立機関で、このユグドラル最大の魔法戦力とも、最高の治癒機関とも謳われる謎の多い場所でもある。

 原作には双剣リーンリジルの保管場所として出てくるから、フィオラはその興味から何度もここを遠目で覗き見しようとしたのだけど、何故か何も見えなかったんだよね。

 

 フィオラは使い魔になった。だから依頼をこなす為に魔塔に召喚された。……のだけど、隣には何故かローラン殿下がいる。

 そう、フィオは1人でBランク(紙)の召喚スクロールすら、破る事が出来なかったのだ。

(ちなみに、Aランクは鞣した革。Cランクは無駄に丈夫な布だった)

 

「じゃあ、小鳥ちゃんはそっちを咥えてて。僕がこっちから引っ張ってあげるから。ああ、なんて可愛いクチバシなんだ……」

 これが初めての共同作業だね(ハート)なんて言うから、恥ずかしくて泣きそうだった。


 召喚主はボサボサ頭の不機嫌そうな魔法使い。若そうなのに、魔塔の主だと紹介された。

 部屋の中は本が山積みで、壁いっぱいの本棚は新品のまま放置された感じ。いつかやろう……そんな心の声が聞こえる、典型的な片付けられない男がそこにいた。

 

「じゃ、この部屋の掃除を頼むよ。本は動かさないでくれ。何処に何があるか分からなくなるから」

 この状態で把握しきれていると?場所を覚えるパワーがあるなら、体を動かして並べろよ。驚くべきズボラ精神だ。

 

「で?どっちがやるの?」

「ぴ!」

 フィオは手を挙げて風を呼んだ。蝶々が舞い、小さなつむじ風が楽しそうに部屋の中を走る。

 風はフィオラが小さな頃からのお友達。唯一の遊び相手だ。蝶の姿で現れては、小さなつむじ風となって応えてくれるの。これがお掃除に最適!

 

 フィオの部屋は塔の最上階にあるのだけど、食事は1階の扉に付いてる専用の小窓から入れられていた。

 食事を手に入れるには、1階まで螺旋階段を下りて行かなきゃなんだけど、これが吹きっ曝しでね。砂ホコリが積もれば滑りやすくなって、子供だったフィオラとっては下りるのも命がけの冒険。だからこうやって……。

 フィオラは尾羽をフリフリ。ホコリは小さなつむじ風に巻き上げられ、そのまま窓の外へ!


「素敵な魔法だね。さすが僕のご主人様だ!」

 そうでしょ、ローラン殿下!もっと褒めてくれてもいいのよ!

「ほお……。俺でも使えねぇ魔法が使えるときた。便利な使い魔だな。……で?そっちのごっつい鷹は……窓開けるだけなんかい!」

 

 本で埋まっていて分からなかったけど、中々に広い部屋だ。ホコリを巻きあげたつむじ風で何度も窓を行き来してるけど、一向に終わりが見えない。……あ!壁に高級そうな剣が掛かってるわ!これが有名な国母、踊り子のリーンの双剣、リーンリジルね!

 なるほど、噂通り双剣だけど一本しかないわ!もう一本は何処にあるのかしらね。

 

 魔塔の主はその間も、机で何枚も同じ魔法陣を描き続け、殿下は興味があるのか、それを横で覗いてた。

「おい、ごっつい鷹。そんな、睨まないでくれる?集中出来ないんだが」

「すまないね」

「喋れるんかいっ!」

 

 そうだよね。普通の使い魔は人語を喋れはしない。

 森の仲間達も、姿こそ特別だけど、召喚された現世では喋れなかったらしい。もちろん、フィオラもぴよ語だし……ローラン殿下だけ特別とは。さすが主人公の彼ね!

 

 暇になった殿下は壁の装飾品を暫く眺めた後、今度は山積みの本を眺め始めた。

「ここの本はあまり手をつけていないようだね」

「ああ、それは貰った本だ。興味が持てなくてそこに置いてる」

「では、一番端の本棚の1番上に並べておこうか?」

「いいね、そうしてくれ」

 クチバシで器用に本を掴み、バッサバッサと運ぶ。ホコリが舞った。

 

「ちょっと待てぇ!姿を変えろや!他でもない俺様の血で召喚してやったんだ。そんくらい簡単に出来るだろ!」

 魔塔主の叱咤に、ローラン殿下は何を考えたのだろう、頬を染めた。

「それって……好きな子に変身出来るって事かい?」

「隅々まで再現出来る自信があるならな」


 結局殿下は、現世での自分の姿になって、本を並べる事に。

「すげーな、鷹。ローラン王子のファンか?」

 本人です。

「でも、残念だな。彼、女を庇って亡くなったらしいぞ。ショックでルークの王様は寝込んでるっていうし、ダミアン王子が国王の座に着くのも時間の問題だろうって……荒れるだろうな」

 何処が、とは言わない。でも、あのダミアン王子が国王になれば、世界中が争いに巻き込まれそうよ。

 

「お陰で俺は忙しくなるし、もう仕事なんて辞めちまおうかな。……ああ、その一帯にある本はその下に並べてくれ」

 ローラン殿下。それは依頼外のお仕事よ!やる必要はないのよ!

 しかし殿下はとても素直。働く働く。

 

「ところでそれは、召喚スクロールのようだけど、実に美しいね」

 軽く片付けながらローラン殿下は、魔法陣をちょいちょい覗き込んでる。それ、召喚スクロールだったのね。

「ああ、お前にも分かるか?美しいだろ。お前の言う通りこれは使い魔を召喚する魔法陣、召喚スクロールだ。誰でもこれに願いを書いて血を垂らせば、遅かれ早かれ使い魔が召喚されて願いを叶えてくれるって訳だ。……まあ、喋れる奴は初めてだがな」

 召喚スクロールは魔塔主渾身の手作りでした。

 

「けどさあ、最近、需要が増えちゃって大変なんだよ。なんでも、変な動物とか、竜とかが召喚されるってんで、有名になっちまってな……」

 どこか既視感が。

「召喚スクロールは全部君が書いているのかい?」

「召喚スクロールの描き方は魔塔でしか教えない。かなり複雑だし、芸術だし?魔力を流しながら書く必要があるからな。まあ、闇堕ちした魔道士のたまり場である闇ギルドが発行しているのを除けば、ほぼほぼそうなるかな」

 魔法使いは少ない。だから魔塔が保護しているらしいのだけど、魔塔を出た方が稼げるから、闇堕ちする魔道士もかなりいるらしいと風の噂で聞いた。


「それは、闇ギルドの召喚スクロールにも、一定の需要があるという事かな?」

「ああ。奴らの作る召喚スクロールには魔力が少なすぎてランクが付けられない分、安いんだ。だから、自分の生命力と引き換えにしてでも、使い魔をこき使いたいって奴が飛びつくのさ。それに、なんか最近、闇ギルドの召喚スクロールは竜が出てくるらしいし?」

 フィオラを見て拗ねないで。比べないでくれる?

 

「なるほど……。しかし、魔法使いはそんなに少ないのかい?」

「年々減ってるね」

「その理由を聞いても?」

「めんどくせえ奴だな。まあいいだろう」

 いいの?この人、意外にフレンドリー。

 

「ごっつい鷹、お前はこの世界に大きく2種類の魔力があるのは知ってるか?」

「2種類?一般的に知られる火、水、土、風の4種類ではないんだね」

「ああ、もっと根底の意味だ。魔とは大地にあり、それを食い荒らす者は魔物となり、共にあらんとする者は精霊となる。かつてこの世界に住んでいた者らは、魔物から得る魔力を黒魔法。精霊から得る魔力を精霊魔法と呼んでいた」

 

「ほう。でも、このユグドラルでは、その境がないように思えるね。混ざってしまったのかい?」

「その通り。その昔、人間は魔物を狩り黒魔法を使い、エルフは精霊と契約し精霊魔法を使っていたものだ。しかし、エルフと人間が共にこのユグドラルに住んでいた時代、多くの者がエルフと人間との混血を産んだんだ。故に、魔力はひとつになり、属性のみが残された」

 ハイブリッドって訳ね。

 

「なるほど……興味深い歴史だね」

「でだな、何が言いたいかと言うと、魔物もエルフもこのユグドラルを去った今、魔力持ちの血は薄まる一方だという事だ」

「なるほど。このままでは、魔法使いが消えてしまう運命にあるのだね」

「ああ。それなのに人間は、俺が保護しているにも関わらず、魔法使いを争いの道具にしか使わない。最近では、戦に巻き込まれたくないが為に、魔道士の素質が顕現しても隠す傾向にある」


「確か、魔道士の斡旋先の多くは、魔物大陸とユグドラルの境であるダイン国や、領地戦をひかえた貴族家だと聞くね。特にこのリーン王国は、貴族による領地戦が絶えないらしいし、いくら土地が肥えていても、持つものがそれでは、国力は衰えていくだろうね」

 そうなのよ。街には貧しい人や孤児が溢れているのに。


「ああ。……まあ、そんなこんなで、魔塔の人間も減っちゃってさ。ただでさえ1日1枚召喚スクロールを描くのがやっとって魔力しか持たん奴らだ。残りは全部、俺に回って来るんだよ。……でもまあ、これも魔塔運営資金集めの為だしぃ」

「それは大変だね。僕が手伝えればいいのだけど」

「いいな、それ。お前、ちょっと、やってみろよ!」

「ぴぃぃぃ――!」

 フィオは魔塔主の手をつついた。殿下、依頼外のお仕事よ!!

 

「おいおい、怒るなよ!お前も変身したいのか?」

 やぶさかではない。でも、もうお仕事は終わったの!

「魔塔主よ。掃除が終わったようだね」

 そう、本はそのまま。ホコリは外に。きっちりやらせて頂きました!

 

「……マジか。すげーな、ヒヨコ。何かご褒美をやろう。お前ももういいぞ」

 その合図で、殿下は鷹に戻った。魔法ってすごい。

 更に驚く事に、ローラン殿下のお片付けスキルによって出現したテーブルの上には、何処から出てきたのか、山盛りのクッキーが出現!!

 

「ぴよ――!!」

 思わず机から飛び降りようとしたフィオは、焦る鷹を尻目に、魔塔主の手によってキャッチされた。

「ただのクッキーだぜ。そんなに喜ぶもんか?」

「ぴよっぴぃー!ぴぴよぴよぴよ、ぴよぴよぴ!」

 イヤッホォォイ!生まれて初めて食べるんだもん!

 

「何言ってるんだ?」

 魔塔主が殿下を見た。殿下はそっと目を逸らした。

「お前も分からんのかい!って、ごっつへこんでやがる。面白いなぁ」

 面白くはないわよ!!早く食べさせなさい!!ガツガツ……。

「ハハッ!アホみたいにがっついてんな」

 こんな美味しいものは初めてで、フィオラは夢中になって食べた。後ろでは、なぜか2人が揉めていたみたいだけどね。


「魔塔主よ、笑っている場合ではないと思うのだが?」

「は?それはどういう意味だ?」

「貴殿はもう少しこの国の世論に目を向けた方がよさそうだね」

「……ほう?俺に説教か?」

 険悪な雰囲気になってない?

 しかしフィオラが顔を上げた瞬間には、魔塔主の顔は戻っていて、フィオラにさらにクッキーを押し付けた。

 

 もっと食え。そう言うと、魔塔主は机に戻り、再び召喚スクロールを描き始めた。

「食ったら帰っていいぞ。次はお絵描きで呼ぶから、必ず来いよな」

 ふざけて手を振る。次もクッキーくれるなら、来てあげてもいいわよ!ガツガツ……。

 

 おなかいっぱいになったフィオラは、そっとローラン殿下に引き寄せられた。胸毛ダウンが気持ちいい。……すやぁ。

 こんなに満たされた気分は初めてよ。

 ローラン殿下、魔塔主様もありがとう。……幸せ。


「では、そろそろ失礼するよ」

「ああ、ローラン殿下。その子を頼む」

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