07.懺悔室と、ロイドの意見と
本日4話目です。
懺悔室での初日をなんとか乗り越えたソフィアは、上々のスタートを切った。
3日後に迎えた、2回目もソフィアはがんばった。
「まあ、お気の毒に……」
「それは困りましたわね……」
「素晴らしいですわ!」
色々な相談に熱心に耳を傾け、アドバイスする。
皆、ソフィアの令嬢言葉に「ん……?」という顔をしながらも、最終的には笑顔で帰ってくれる。
(このお仕事、結構やりがいがありますわね)
お礼を言われることを嬉しく思う。
しかし、中にはソフィアの心を揺さぶるような相談もあった。
2回目の最後に来た相談で、相談者は若い女性。
内容は、
「いい感じに会っていた男性が、突然連絡がとれなくなった」
というものだった。
「出会ってから頻繁に手紙をやりとりしたり、食事に行ったり出掛けたり、お付き合いできるかと思っていたら、1カ月前になって急に『忙しくなった』って音信不通になったんです」
幸いなことに、話をしているうちに、女性の方から、
「私、もう気にするのやめます!」
と割り切ったので、ソフィアは聞いているだけで済んだ。
しかしこの質問は、彼女を深く考え込ませた。
(ルパート様も、よく連絡が取れなくなりましたわよね……)
「忙しいから」とお茶会をすっぽかされたり、観劇の予定を直前にキャンセルされたり。
当時は周囲から「男性とはそういうもの」と諭されたので、気にしないよう努めていた。
(でも、今思うと、何か違ったのかもしれませんわ)
心の奥がモヤモヤする。
*
そして、このモヤモヤが晴れないまま、3日が過ぎ―――――。
天気の良いお昼過ぎ、王都からロイドがやって来た。
「ソフィア! 王都から、あの騎士さんが来てるよ!」
マーサの声を聞いて門まで出ると、彼は馬の世話をしながら待っていた。
ソフィアを見て、軽く口角を上げる。
「お久し振りです。ソフィアさん」
「お久し振りです、ロイド様」
ロイドが修道院に来たのは、これで3回目だ。
ソフィアが修道院に来て間もない頃にあった1回目の訪問の後、
2回目の訪問は半年後くらいになるかと思いきや、彼は1カ月後にやってきた。
「これは頼まれていたものと、差し入れです」
美しい万年筆と大好きな菓子店のお菓子を渡され、ソフィアは目を白黒させた。
まさか、こんなに早く来ると思わなかった。
(もしかして、1カ月に1回様子を見に来るという話になっているのかしら……、でも、すごく大変なんじゃない?)
王都から修道院まで、街道を馬車で3日もかかる。
それとなく尋ねてみたところ、軍馬で旧街道を通ってきているという答えが返ってきた。
「道は悪いですが直線で来られますので、1日あれば着きます」
「まあ、そうですのね」
旅のことはよく分からないが、どうやら馬なら通れる近道があるらしい。
――そして、2回目の訪問から1か月後の今日、3回目の訪問があった、という次第だ。
*
ソフィアは、ロイドを面会小屋に案内した。
さすがにお菓子を頂いてばかりでは悪いからと思い、今日は修道院で作ったクッキーとお茶を持ってくる。
面会小屋のテーブルの上にそれらを並べると、彼女はお茶を淹れ始めた。
「このクッキー、わたくしが形を作りましたのよ」
やや不格好なクッキーを指差すと、ロイドが顔を少し近づけた。
「これは……猫ですか?」
「いえ、アライグマですわ」
「アライグマ」
そして、お茶が入ると、ロイドが迷わずアライグマクッキーに手を伸ばした。
「いただきます」
普段クールなロイドが、どこか嬉しそうな顔する。
渋くなってしまったお茶も「美味しいです」と飲んでくれる。
その姿を見て、彼女はとても嬉しくなった。
つい気が緩み、思わず口を開く。
「あの、ロイド様、1つ質問があるのですが」
「なんでしょうか」
「仲が良かった男性と急に連絡が取れなくなるって、何が理由だと思います?」
ずっと気になっていた懺悔室での相談内容を、つい尋ねてしまった格好だ。
その問いに、ロイドは一瞬目を見開いた。
テーブルにティーカップを静かに置く。
「……もしかして、何かありましたか?」
ロイドにそう尋ねられ、ソフィアは、ハッと我に返った。
(わたくしったら! またうっかり変なことを……!)
慌てて、最近とある人から”仲良くしていた男性が突然音信不通になった”という相談を受けた、という旨を説明する。
「なるほど。それで、音信不通になる理由が気になったのですね」
「ええ、そうなのです」
ソフィアがうなずくと、ロイドは視線を落として静かに考え込んだ。
ゆっくりと口を開く。
「……話を聞く限りでは、お相手の男性は、その女性をあまり大切にしていないのかもしれませんね」
「そう思われますか?」
はい。とロイドがうなずいた。
「本当に相手が大事なら、どんなに忙しくても一言くらいは連絡するかと。少なくとも、私ならそうします」
彼の意見では、そもそも、短い手紙すら送れないほど忙しい期間が1カ月も続くなど、そうないだろう、ということだった。
(確かにそうですわね……)
ソフィアは思案に暮れた。
ルパートから連絡が途絶えた時も、彼がそこまで忙しいようには見えなかった。
周囲は「男性はそういうもの」と言っていたが、そうではなく、ソフィアが大切にされていなかったということだろう。
(きっとそういうことですわね……)
彼女の表情に浮かぶ複雑な色を見て、ロイドが気遣うような顔をする。
空気を変えるように口を開いた。
「それにしても、今度は懺悔室でお仕事をされているのですね。調子はいかがですか」
ソフィアは、気を取り直すように微笑んだ。
「最初は無理だと思ったのですが、何とかやれていますわ」
「きっとあなたに合うのだと思います」
ソフィアは目をパチクリさせた。
「そう、ですか?」
「はい。あなたは人に寄り添える人ですから、来られた方も、ホッとして帰っていかれるのではないかと」
ソフィアは思わずうつむいた。
ロイドが自分をそんな風に見ていてくれたなんて思わなかった。
心がほんの少し暖かくなる。
その後、いつも通りとりとめもない会話を交わして、ロイドが立ち上がった。
お茶とクッキーがとても美味しかったとお礼を言うと、片づけを手伝ってから、馬に飛び乗る。
「それでは、また来ます」
「どうぞお気を付けていらしてください」
どこか名残惜しそうに、ロイドが振り返りながら街の方へ行く。
ソフィアは見えなくなるまで見送る。そして、
「……次は、もっと美味しくお茶を淹れられるように練習しないと」
とつぶやくと、少し明るい気持ちで修道院へと戻っていった。
本日あと1話投稿します。




