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追放された元令嬢ですが、このたび、なぜか懺悔室で働くことになりました  作者: 優木凛々
第1章 公爵令嬢ソフィア、シスターになる

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05.懺悔室、1日目


本日2話目です。

 

 突然懺悔室で働くことになってしまった、翌日。

 春らしい青空が広がる、お昼前のこと。


 街に向かう1台の荷馬車が、並木道をポクポクと進んでいた。

 御者席には、シスター長のマーサと、どこか疲れた顔のソフィアが並んで座っている。


 手綱を握ったマーサが、同情するように言った。



「あんたも大変だねえ。いきなり懺悔室だなんて」

「はい……。昨日がんばったんですけど、全然準備できなくて……」



 ソフィアは眠そうに目を瞬かせた。


 昨夜、必死に指南書を読み込んで大体の内容は把握した。

 でも、全部きちんと理解したとは言い難い。



(大丈夫かしら、わたくし……)



 しばらくして、馬車は街の外れに到着した。

 ソフィアが馬車から降りると、マーサが大通りの先を指差した。



「あの先が大聖堂だよ」

「はい、ありがとうございます」



 馬車を見送ると、ソフィアは大通りを歩き始めた。


 大通りは、にぎやかで、店がたくさん並んでいた。

 ショーウインドウには服や小物、可愛いぬいぐるみなど、色とりどりの商品が飾られている。



(色々なお店がありますのね)



 そして、キョロキョロしながら歩くこと、しばし。

 ソフィアは、ついに大聖堂に辿り着いた。



(来てしまったわ……)



 彼女は軽く息を吐くと、扉を開けて中にはいった。

 中は昨日と変わらぬ荘厳な雰囲気で、何人かが静かにベンチに腰かけ、祈りを捧げている。


 彼女は静かにその間を抜けると、奥の扉を開いた。


 そこは執務室で、シスターや助祭の男性などがいた。

 ソフィアの姿に気づくと、礼儀正しく出迎えてくれる。



「こんにちは、ソフィアさん」

「こんにちは、今日からよろしくお願いします」



 シスターの1人が、ソフィアを書庫に案内してくれた。



「こちらを自由にお使いください」

「ありがとうございます」



 シスターが去った後、ソフィアは改めて部屋を見回した。

 古い本の匂いがする小さな部屋で、天窓から差し込む光りが、本棚をやわらかく照らしている。


 壁の時計を見上げると、懺悔室が開くまであと10分ほどだ。



(いよいよね……)



 ソフィアは椅子に座った。

 鞄から指南書を取り出すと、熱心に復習を始める。


 そして、



 ゴーン、ゴーン……



 教会の鐘の音が鳴り響いた。

 とうとう時間だ。



 そして、



 リンリンリン



 向かいのベルが慣らされた。

 木で編んである目隠しの先に、人影が映る。


 ソフィアは緊張をほぐすように深呼吸すると、最初の決まり文句を口にした。



「……どうぞお話ください。あなたの心の重荷を女神リュシアに委ねましょう」



 すると、目隠しの向こうから、女性の声が聞こえてきた。



「……大した話じゃないんだけど、大丈夫かい?」



 ソフィアは深くうなずいた。



「ええ、もちろんですわ」



 ソフィアの声を聞いて、女性が黙り込んだ。

「ですわ……?」という、訝しげな声が聞こえてくる。



「……あんた、ちょっと変わった言葉を使うんだね」



 そして「まあいいか」とつぶやくと、気を取り直すように話し始めた。



「実は、うちには、子どもが2人いてさ」

「ええ」

「5歳の双子の娘なんだけどね」



 女性の話によると、彼女は娘たちの喧嘩にホトホト困っているらしい。



「普段は仲が良いんだけど、いざ物を分ける場面になると、決まって喧嘩が始まってねえ」



 お菓子など、きちんと2つに分けたつもりでも 「あっちの方が大きい」「こっちの方が多い」と、すぐに揉め出すらしい。



「毎日のことなんで、本当にもう……困っててねえ」



 女性が、疲れと諦めのにじんだような声を出す。

 ソフィアは手元の紙に相談内容を走り書きしながら、思案に暮れた。



(なんだか、以前聞いた話を思い出しますわね……)



 王都にいた頃に耳にした、“遺産を巡って兄弟が争っている話”を思い出す。

 あちらも、どう分けても、「あっちの方が多い」「こちらが不公平だ」となかなか決着がつかなかったという話だった。



(あの遺産……どうやって分けたのかしら……)



 昔聞いた話を思い出しながら、ソフィアはゆっくりと口を開いた。



「……たとえばですが、片方が半分に分けて、もう片方が、先に好きな方を選んだらいかがでしょうか」

「片方が分ける? そりゃどういう意味だい?」



 不思議そうな女性の声に、ソフィアは考えながら答えた。



「片方の娘さんが、まず2つに分けて、もう片方の娘さんが、その2つのうち好きな方を先に選ぶのです。

 分ける娘さんは、不公平にならないように注意して分けるはずですし、選ぶ側は、自分で好きなほうを選べます。お互いに納得しやすくなると思いますわ」



 目隠しの向こうの女性が、呆気にとられたように黙り込んだ。

 しばらくして、「なるほど」と思わずもらしたような声が返ってくる。



「……言葉遣いが妙だから心配だったけど、――あんた、頭がいいねえ」

「ありがとうございます。これは女神リュシア様の導きですわ」



 やや照れながら、決まり文句を口にするソフィア。

 思わぬところで令嬢時代の知識が役に立った。


 そして、女性が明るい声で「ありがとうね!」と言って、寄付箱にお金を入れて立ち去った後、



「はあ……疲れましたわ……」



 彼女は、ぐったりと机の上に突っ伏した。

 ほんの30分足らずだったが、ものすごく神経を使った。



「女神様……、わたくし、がんばりましたわ」



 言葉について妙だと言われてしまったが、丁寧だし多分大丈夫だろう。




 ――と、そこへ。



 リンリンリン



 またしてもベルの音が聞こえてきた。

 見ると、また誰かが向こうに座っているのが見える。



(まあ、もう次の方が来ましたのね)



 彼女は姿勢を正すと、軽く咳ばらいをして声を掛けた。



「……どうぞお話ください。あなたの心の重荷を女神リュシアに委ねましょう」



 すると、目隠しの向こうから、若い女性の細い声が聞こえてきた。



「実は……私、ずっと好きな人がいるんです」



 ソフィアは大きく目を見開いた。



(まあ、これは恋愛相談ですわ!)






あと3話投稿します。

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