【Another Side】一方、王都では①
本日4話目です。
ソフィアが王都を離れてから、およそ1カ月。
王都の中心にある中央大聖堂の祈りの間にて。
“癒しの儀式”が行われていた。
貴族らしい服を着た小さな男の子が、女神リュシア像の前に置かれた椅子に座っている。
その膝には、転びでもしたのか、痛そうな擦り傷がある。
両親が心配そうに見守る中、1人のピンク色の髪の女性――イザベラが、男の子の前にひざまずいた。
両手を胸の前に合わせ、祈り始める。
しばらくして、彼女の体が、ぽうっと光り始めた。
男の子の膝の傷が、すうっと薄くなっていく。
そして、傷口が完璧にふさがると、イザベラが立ち上がった。
両親が嬉しそうに男の子に駆け寄ると、イザベラに感謝の目を向けた。
「ありがとうございます! 息子の傷をすっかり治していただいて」
「これも女神リュシア様のお力です」
イザベラが微笑みながら頭を下げる。
そこへ、黒い髭を蓄えたヴァルター枢機卿がやってきた。
ニコニコしながら両親に声を掛ける。
「いかがですかな?」
「ええ! 素晴らしいです! ぜひとも教会に寄付をさせていただきたい!」
ヴァルターは、笑顔を作った。
「お申し出ありがとうございます。女神リュシア様もきっとお喜びです」
そう言うと、イザベラに奥に下がるように指示をする。
イザベラが祈りの間から出ると、そこにはルパート王子が待っていた。
「ルパート様!」
駆け寄るイザベラを見て、ルパート王子が笑顔になった。
「見ていたよ、イザベラ。君は素晴らしいね」
「ありがとうございます」
イザベラが照れたように言う。
その顔を、どこか冷めた目でながめながら、ルパートが口を開いた。
「この調子で枢機卿の指示に従って癒しの力を使ってくれ。それと……」
ルパートがニヤリと笑った。
「ソフィアが辺境の修道院に到着したそうだ。ラングレー公爵家からも勘当されたし、もう我々を邪魔することはない」
「そうですか、それは良かったです」
イザベラが仄暗く笑う。
そして、彼女は満足げな笑みを浮かべながら、ルパートと共に大聖堂の奥へと歩いていった。
*
一方その頃。
王都の街には、新聞を掲げた少年たちの声が響き渡っていた。
「号外! 号外! 大ニュースだよ!」
通りを行く3人組の男の、そのうちの1人が手を上げた。
「坊主! こっちだ!」
「まいど!」
硬貨を渡して少年から新聞を受け取り、早速目を通す。
「へえ! ルパート第2王子と、ソフィア・ラングレー公爵令嬢が婚約破棄だってさ」
新聞の一面には、2人の婚約破棄を伝える大きな見出しが躍っていた。
その下には、澄ましたルパート王子を描いた絵が載っている。
「なんでそんなことになったんだ?」
「ソフィア公爵令嬢が、聖女様に酷い嫌がらせをしたらしい」
「あー、そりゃダメだな。さすがのお貴族様でもそれは無理だろ」
新聞には、ソフィアが聖女へ悪質な嫌がらせを行ったことにより、止むにやまれず婚約破棄になった、といった内容が書かれていた。
1人が首をかしげた。
「俺は昔ソフィア様を見たことがあるが、そんなことをするようには見えなかったがな」
「まあ、人は見かけによらないっていうヤツじゃないか?」
そんなコソコソ話を、新聞を読みながら立っている隣のフードをかぶった男が、じっと聞いている。
3人が去った後、フードをかぶった男――ロイドが、冷え切った顔でつぶやいた。
「ひどいものだな」
そして、新聞を近くの屑籠に入れると、街の奥へと消えていった。
本日の投稿はここまでです。
お読みいただきありがとうございました!
明日から懺悔室の話に入ります。(*'▽')