10.祝賀パーティ①
本日2話目です。
『大聖女選定の儀』が行われた、その日の夜。
シャンデリアが光り輝く王宮の大広間にて。
大聖女の誕生を祝うパーティが開催されていた。
出席者は、有力な貴族や聖職者など、約100名。
皆、豪華な服を身にまとっている。
グラスを手に、彼らはヒソヒソと話し合った。
「ソフィア・ラングレーが大聖女とは、まさかの事態になりましたな」
「ええ、本当に驚きましたね。しかも、100年ぶりの女神直々の神託でしょう?」
男性の1人が、欲深そうな笑みを浮かべた。
「聞くところによると、神の神託により決まった大聖女は、豊穣をもたらすそうですな」
「彼女が今住んでいるオルテシア周辺は、今年は雪が少なくて畑の実りも良かったそうです」
「それは素晴らしい。ぜひ我が領地に住んで頂きたいものですな」
誰かが、ひそひそ声で言った。
「しかし、ルパート殿下はどうするつもりだろうな」
「当時の婚約者だったソフィアを捨てて、あのイザベラとかいう聖女に乗り換えたんだろう?」
「大失態だな」
中年の夫婦が囁き合った。
「ソフィア様に、私たちの息子はどうかしら。年齢もちょうどいいわ」
「ラングレー家も勘当を解くつもりのようだから、後で話をしにいかねばならんな」
豪華な会場で、そんな会話が交わされる。
*
一方そのころ。
ソフィアは、アウグストと共に、馬車で王宮の入口に乗りつけていた。
ソフィアは、聖女らしいシンプルな白いドレス、アウグストは豪華な法衣を身に纏っている。
「さて、行こうか」
「はい」
アウグストのエスコートで、ソフィアはゆっくりと歩き始めた。
廊下は花やリボンで飾り付けられており、とても豪華だ。
廊下ですれ違う人の「おめでとうございます」という言葉に軽く頭を下げながら、ソフィアが囁いた。
「……なんだか、凄く豪華ですわね」
「きっと、イザベラ聖女のために用意していたものだろうね」
アウグストが飄々と言う。
ソフィアは、心の中で苦笑した。
きっと自分が大聖女に選ばれて、色々と計画が狂ったのだろうと思う。
そして、彼女が会場に入ると、楽団が一斉に楽器を鳴らした。
その場にいた人が振り返り、笑顔で拍手をする。
「おめでとうございます」
「ソフィア大聖女様!」
ソフィアは淑やかに頭を下げると、アウグストと共に端のテーブルに移動した。
チラチラと見て来る視線に、居心地の悪さを覚える。
(なんだか、感じたことのない視線ね……)
とてつもない居心地の悪さを感じる。
――と、そのとき。
「まあまあ、ソフィア大聖女」
銀のモノクルをかけた白髪の女性が、近づいてきた。
アウグストに、軽く一礼をする。
女性を見て、ソフィアが「あっ」と小さく叫んだ。
「もしかして、オルテシア大聖堂にいらした……?」
「ええ、よく覚えていてくださいましたね。冬にあなたにクッキーを頂いた者ですよ」
女性がニコニコと笑う。
ソフィアはピンと来た。
「……あなたがわたくしを推薦したのですか?」
「ええ、そうですよ」
女性は大聖女について研究しているらしく、大聖女が作ったお菓子には癒しの力がある、という記載を読んだことがあるらしい。
「それで、もしかして、って思ったのよ」
それを聞いて、ソフィアは遠い目をした。
まさかあのクッキーからこんなことになるとは思わなかった。
(……でも、遅かれ早かれ、誰か気が付いた気がするわ)
その後、3人は和やかに会話を交わした。
女性から、いつから聖女になったかと尋ねられ、
ソフィアは「恐らく収穫祭の時だと思います」と答えた。
思えば、ロイドと別れたあと、庭で誰かに金色のショールのようなものを掛けてもらったあたりから、
不思議なことが始まった気がする。
(もしかすると、あれは女神様だったのかもしれないわね)
そんな感じで、3人で楽しく過ごしていると、突然会場をざわめきが走った。
誰かの大きな声が聞こえてくる。
そして、
「ソフィア!」
聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
突然、群衆の中から、2人の人物が現れる。
ルパート王子と、枢機卿のヴァルターだ。
2人とも優しそうな笑みを浮かべている。
ルパートが、見たことがないほど親しげな顔でソフィアに微笑みかけた。
「驚いたよ、まさか君が大聖女なんてね」
「ええ、私も驚きました。素晴らしい癒しの力でしたな」
ヴァルターが微笑みながら賞賛する。
そして、2人はソフィアの横に立っている、アウグストと女性を見て、恭しく一礼をした。
「大聖女ソフィアとお話する機会を与えていただけませんか」
「……だそうだが、どうかな?」
無理はしなくてもいいぞ、と言いたげなアウグストの問いに、ソフィアが覚悟を決めながらうなずいた。
「はい、かまいませんわ」
「わかった。では、私はあちらに行っていよう」
アウグストと女性が少し離れたところに立ち去ると、ルパートが歯を見せて笑った。
「見ていたよ。本当にすごい癒しの力だった」
「……ありがとうございます」
警戒しながらソフィアがお礼を言うと、ルパートが陽気に笑い出した。
「なんだ、ソフィア。ずいぶんとよそよそしいな。お前は私の婚約者だろう?」
「……え?」
ソフィアは思わず目を瞬かせた。
一瞬、ルパートが何を言っているのか理解できない。
戸惑っていると、横から両親が笑顔で現われた。
ルパートとヴァルターに挨拶すると、ソフィアに笑顔を向ける。
「さすがは、我が娘ね! 私も鼻が高いわ!」
「すごいぞ、ソフィア! これでラングレー公爵家は安泰だ!」
そして、全員が圧を掛けるような笑顔でソフィアを見た。
「ソフィア、あなたは前と同じように暮らしなさい。ルパート殿下の婚約者として、また学園に通うのです」
「王妃教育も続けられるように手配したからな」
「あなたを中央大聖堂の聖女としても登録します。是非お力をお貸しください」
3人の大人が口々に勝手なことを言う。
ソフィアが呆気にとられていると、ルパートが高圧的に笑った。
「そういう訳だから、今日のところは全て我々に任せて、お前は黙って従えばいい」
ソフィアは無言になった。
つまり、彼らは、冤罪でソフィアを追放したことを、なかったことにする気なのだろうと思い当る。
(……でも、以前の私だったら、この人たちに間違いなく従っていたわ)
自分の意思よりもルパートや両親の顔を立てることを優先しただろう。
ずっとそう教育を受けて来たし、それが正しいと思っていた。
(でも、今は……)
――と、そのとき。
パンパカパーン!
楽団が一斉に楽器を鳴らした。
上につながる大階段から、国王と王妃が手を振りながら降りて来た。
それを見て、ルパートとヴァルター、両親がすうっと前の方に移動する。
アウグストが戻ってきて、ソフィアの横に立つ。
国王は、そのまま壇上に立つと、にこやかに口を開いた。
「よくぞ集まってくれた。まずは乾杯といこうか」
全員にシャンパンが配られ、国王の「乾杯」の言葉で、一斉に乾杯をする。
その後、ルパート王子が壇上に上がった。
国王と王妃に向かって深々と一礼する。
そして、彼はソフィアを見ると、満面の笑みを浮かべた。
「ソフィア、来てくれ。改めて君を婚約者として皆に紹介させてくれ」
会場がざわめいた。
「どういうことだ?」
「本気か?」
などという声が聞こえてくる。
会場中の全員がソフィアを振り向く中、彼女は冷静な目でルパートを見た。
(続く)
とりあえずキリの良い所まで、本日あと1話か2話、夜に投稿します。




