06.大聖女選定の儀②
本日2話目です。
ソフィアは、舞台の上に並べられた金ぴかの椅子に座っていた。
目の前は広大な広場で、奥の奥までものすごい数の人々が詰まっており、皆興奮したような顔をしている。
ヴァルターが舞台の中央に出て来ると、ふんぞり返った。
偉そうに大声で宣言する。
「これより、大聖女選定の儀を始める!」
わあっと群衆が盛り上がり、地面が揺れた。
「いいぞ! やっと始まった!」
「イザベラ聖女様―! がんばってくださーい!」
「いや、大聖女はローラ様に決まっている!」
あちこちからそんな声が聞こえてくる。
どうやら、各聖女にはファンがいるらしく、名前を書いた布を掲げている人々もいる。
そんな中、ソフィアはガチガチに緊張しながら座っていた。
人が多すぎて、見ているだけで眩暈がしそうだ。
(き、気をしっかりもたなければ)
そして、気持ちを落ち着けるように息を吐いていると、横から柔らかい視線を感じた。
見ると、舞台の下の少し離れたところに、騎士服姿のロイドが立っていた。
ソフィアを見て、大丈夫だ。という風に軽くうなずく。
(まあ、あんなに近くにいるのね)
彼女はホッとした気持ちになった。
心が少し落ち着いてくる。
余裕を取り戻した彼女は、ちらりと横に座る聖女たちに目をやった。
聖女たちもどうやら緊張しているようで、顔色があまり良くない。
ただ、イザベラだけは勝ち誇った顔をしており、にこやかに笑いながら軽く手を振ったりしている。
(もう自分が選ばれると確信している感じね)
これはますます自分には順番が回ってこないわね、と思う。
(アウグスト様の顔も立ったし、わたくしも久々に王都の街を見ることができた。帰りにみんなにお菓子を買って帰れれば、御の字ね)
現実逃避するように、そんなことを考えていると、年をとった神官が声を上げた。
「では、まずはローラ聖女!」
「……はい」
ローラ聖女が立ち上がった。
群衆に向かって淑やかに礼をする。
「ローラ聖女様!」
「がんばってください!」
群衆がわあっと盛り上がる。
そして、彼女は舞台の中央にある、巨大な女神リュシア像の前に歩み寄った。
像に向かって一礼する。
その様子を見て、会場が水を打ったように静まり返った。
大広場の全員が固唾を飲んで見守る中、ローラ聖女は像の前に跪くと、両手を胸の前で組んだ。
頭を少し下げて、祈りを捧げる。
ぽうっと、彼女の体が、ほんのり光った。
同時に、女神リュシア像も同じようにほんのりと発光する。
どうやら、この像は、聖女の癒しの力に反応するようにできているらしい。
(…………)
その姿を見て、ソフィアは思い切り動揺した。
聖女が祈りで光るのは知っていた。
でも、まさかこんな遠目からでも分かるように光るなんて思っていなかった。
(ど、どうしましょう。わたくし、光りませんわ)
青くなりながら、自分の順番が回ってこないためにも、イザベラには頑張ってもらわなければならないと強く思う。
次の聖女も同じように立ち上がると、祈りを捧げた。
ローラよりも光り方が青白く、光も少しだけ強い。
群衆から、
「聖女様によって結構違うものなのね」
「これは甲乙つけがたいな」
などという声が聞こえてくる。
2番目の聖女が席に戻ると、神官が声を張り上げた。
「次は、イザベラ聖女!」
前の2人と同じように歓声が上がり、イザベラが得意げに立ち上がった。
群衆に軽く手を振る。
「素敵です! イザベラ様!」
「がんばって!」
ソフィアも祈るような思いでイザベラを見た。
(がんばって!)
どうか圧倒的な力を発揮して、自分まで順番が回ってこないようにして欲しい。と心の底から願う。
イザベラは、悠々と女神リュシア像の前に立った。
挑戦的に像を見上げると、ひざまずいて両手を胸の前に組む。
会場がシンと静まり返る。
そして、彼女は祈りを捧げ始めた。
観衆が息を潜めてその様子を見守る。
そのまま、静かに時が過ぎた。
10秒、20秒、30秒、――――1分……。
会場はシンと静まり返ったままで、イザベラにも、女神リュシア像にも、何の変化もない。
会場が次第にざわつき始めた。
「……何が起こっているんだ?」
「もしかして、光らないんじゃないのか……?」
そんな声が聞こえてくる。
(……どうしたのかしら?)
ソフィアは首をかしげた。
丁寧に祈っているのだろうかとも思うが、それにしても長い。
大広場が、徐々に不穏な空気に包まれていく。
――そして、そんな大広場の裏にある中央大神殿では、とんでもない騒ぎが起きていた。
(続く)
本日あと2話投稿します。




