01.最高評議会からの手紙
本日1話目、第3章(最終章)スタートです。
修道院に来て、11カ月目。
雪が解け、ぽかぽかとした陽射しが降り注ぐ、天気の良いお昼過ぎ。
ソフィアは、マーサの御する荷馬車に乗って、街の大聖堂に向かっていた。
今日は、懺悔室で働く日だ。
柔らかな風を頬に感じながら、ソフィアがのんびりと口を開いた。
「もう春ですね」
「ああ、今年は暖かくて助かるよ」
ソフィアは青い空を見上げた。
(ロイド様、そろそろ来て下さるかしら)
彼とは、かれこれ2カ月ほど会えていない。
雪が少なかったオルテシアとは対照的に、王都周辺は雪が多かったらしく、ロイドがいつも使う旧街道が通れなくなっていたからだ。
ちなみに、収穫祭で「一緒に来て欲しい」と言われた返事については、手紙でそれとなくした。
当分会えなさそうなことが分かり、あまり長く待たせても悪いと思ったからだ。
手紙に、
『心はもう決まっておりますが、とても大切なことなので、お会いしてから改めて自分の口から言わせて下さい』
と書いて送ったところ、
『わかりました。楽しみにしております』
と返事が来たので、きっとこちらの気持ちは分かってくれていると思っている。
そんなことを考えるソフィアを乗せ、馬車は並木道を通り、街へと入った。
春物がショーウインドウに並ぶ大通りを通り抜け、大聖堂の前に到着する。
「じゃあ、行ってまいります」
「がんばるんだよ」
マーサに別れを告げて扉を開けると、祈りの間はいつも通り荘厳な雰囲気だった。
人々が持って来たと思われる美しい花々が、あちこちに飾られている。
ソフィアが入っていくと、振り向いた人々がニコニコしながら声を掛けてきた。
「こんにちは! 聖女様!」
「聖女様! 今日もよろしくお願いしますね!」
ソフィアは諦めたような顔で、微笑んだ。
ここ数カ月、「わたくしは聖女ではありません」と訂正し続けたのだが、まるで効果がなく、最近はもう諦めている。
その後、彼女はシスターたちに挨拶すると、いつも通り書庫に入った。
椅子に座ってノートを開く。
そして、
ゴーン、ゴーン……
鐘の音を合図に、懺悔室に入ってきた人影に声を掛けた。
「どうぞお話ください。あなたの心の重荷を女神リュシアに委ねましょう」
この日も、次々と相談者が訪れた。
話を聞いて欲しい女性、悩んでいる青年など、来る人も悩みも多種多様だ。
そんな彼らの話を親身に聞いて、1つ1つ丁寧に答えていく。
この仕事にもだいぶ慣れ、ずいぶんと信頼をしてもらえるようになったと思う。
「すごく嬉しいことだわ」
――そして、人々の話に熱心に耳を傾けること、数時間。
大聖堂に鐘の音が鳴り響いた。
終了の時間だ。
(今日もたくさん人がきたわね)
彼女は立ち上がると、大きく伸びをした。
書庫から出ると、シスターたちに挨拶をして、馬車を呼んでもらう。
そして、そっと祈りの間に入ると、そこには静寂が漂っていた。
さっきまで人がたくさんいたのに、今は誰もいない。
彼女は、女神リュシア像の前に立った。
「今日もがんばりました」
と静かに祈りを捧げる。
そして、
「そろそろ馬車が来るころかしら」
と、踵を返して出口に向かって歩こうとした――、そのとき。
「……ソフィアさん、ちょっといいかな」
不意に後ろから声を掛けられた。
振り向くと、そこに笑顔のアウグストが立っていた。
「……何でしょう、アウグスト様」
ソフィアはとっさに身構えた。
経験上、アウグストにこうやって呼ばれるとロクなことがない。
(今回はそう簡単に引き受けないわよ)
心の中で固く誓う。
しかし。
(…………あら?)
彼女はアウグストの表情を見て、首をかしげた。
いつものように飄々とした笑顔を浮かべているが、どことなく様子が変だ。
(……どうしたのかしら)
訝しげな彼女に、アウグストが穏やかに言った。
「ちょっと来てくれないか、話があるんだ」
「……はい」
2人は大聖堂の奥にある古い応接室に入った。
アウグストは、ソファに座るように促すと、自分もその正面に座る。
そして、ポケットから一通の封筒を取り出すと、彼女に差し出した。
「これは君宛の手紙だ」
今までにないパターンに、ソフィアは目を白黒させながら封筒を受け取った。
良い紙を使った立派な封筒で、教会印が押してある。
(何かしら?)
不思議に思っていると、アウグストが口を開いた。
「先に言っておくが、私は君が断っても構わないと思っている。だから、そのつもりで読んで欲しい」
珍しく真面目な顔をするアウグストに、ソフィアはとてつもなく嫌な予感がした。
これは只事ではない気がする。
恐る恐る開くと、一通の手紙が入っていた。
―――――――
リュシア教最高評議会は、ソフィア修道女見習いを、大聖女候補として『大聖女選定の儀』へ招聘することをここに通達する。
―――――――
(…………は?)
ソフィアは目を瞬かせた。
1回読んで理解できず、2回、3回と読み直す。
そして、顔を上げると、困惑の目でアウグストを見た。
「あの……これは一体?」
続きは夜投稿します。




