表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/42

09.仮面の夜会①


本日2話目です。

 

 収穫祭の2日目。


 ソフィアたちは、朝早くから修道院の厨房でお菓子を用意し、大聖堂へと向かった。


 どうやら口コミが広がったようで、前日を上回る人々が列を作っていた。

 クッキーを含めた焼き菓子が飛ぶように売れる。


 目の回る忙しさの中で、ソフィアは、ホッと胸を撫でおろした。

 予想外の忙しさだが、ちゃんと売れて本当に良かった。




 ――そして迎えた、最終日の3日目。

 多めに作っていったにも関わらず、全てのお菓子が、なんと1時間で完売した。


 人々が、

「可愛いし、とても美味しかった」

「ぜひ、また買いたい」

 と笑顔で帰って行く。


 人気がなくなった大聖堂で、ヒルダが木箱を片付けながら笑顔で言った。



「色々大変だったけど、楽しかったわね! みんなに喜んでもらえたし!」

「ええ、本当に」



 エミリーや他のシスターたちも、片づけをしながら嬉しそうにうなずく。



「来年は、もっと事前に準備をして、数をたくさん作りたいわね」

「今後、定番化するなら、週末に売ったらいいかも」



 手を動かしながら、これからについて楽しく相談する。


 笑顔でそれらを聞きながら、ソフィアは高鳴る胸をそっと押さえた。


 今まで忙しくて気にする暇がなかったが、今日は夕方からロイドと出掛ける予定だ。



(片づけが終わったら、わたくしも準備をしなければ)



 そして、片づけを終えて、解散したあと。

 ソフィアはそっと、いつもの書庫に入った。


 置いておいた、祭りのために準備していた衣装を取り出す。

 それは、仮面の夜会でよく着られるという、古風な形の落ち着いたピンク色のワンピースで、ふわりと広がるスカートがとても可愛らしい。


 彼女はシスター服を脱ぐと、素早くワンピースに着替えた。

 ミルクティーブロンドの髪を丁寧にとかし、靴も少しヒールのついたものに変える。


 そして、書庫の奥においてあった飾りのついた鏡の前に立つと、そこには村娘風の自分が立っていた。

 少し短めのスカートがとても新鮮だ。



「ふふ、いい感じね」



 彼女は、鏡に映る自分の青い目をながめた。

 ふと、つぶやく。



「……わたくし、ロイド様のこと、どう思っているのかしら」



 最近、このことについて考えることが増えた。


 優しくて素敵な人だと思っているし、考えると心臓が騒がしくなる。

 これから一緒に祭りに行くと思うと、楽しみで仕方ない。



(たぶん、これって、好きってことよね)



 考える度に、そう思う。



(……でも、わたくし、シスターなのよね)



 しかも、家を勘当されて王都を追い出されている身だ。



(……この状態で好きかどうかなんて、考えても仕方のないことですわね……)



 いつもと同じ結論に辿り着くと、彼女は気持ちを切り替えるように、大きく息を吐いた。

 買っておいた目の部分を覆う白い仮面をつける。



「ふふ、ちょっとカッコイイですわね」



 そして、待ち合わせ時間の20分前。

 彼女はそっと書庫を出た。


 出た先の大聖堂はシンとしており、女神リュシア像が静かに佇んでいる。



「……いってまいります」



 そうつぶやいて外に出ると、夕方の気配が漂い始めていた。


 涼しい風が吹き始め、遠くから楽しげな音楽が聞こえてくる。

 道行く人はとても楽しそうで、みんな古風な衣装を着て仮面をつけている。



(まあ、こんなに賑やかになるのね)



 ソフィアは弾むような足取りで、待ち合わせ場所である中央広場を目指した。

 近づくにつれて人の波が濃くなる。



(ロイド様、見つかるかしら)



 楽しそうな人々でいっぱいの広場に到着し、少し不安になりながら、キョロキョロとあたりを見回していると、



「ソフィアさん」



 背後から、自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには仮面をつけた長身の青年が立っていた。


 服装は古風な剣士風で、整った顔に金縁の黒い仮面をつけている。

 まるで絵から出て来たかのように整ったその姿に、ソフィアの心臓が跳ねた。



(まあ、すごくかっこいいわ)



 思わず見とれていると、ロイドが近づいてきた。

 ソフィアの姿を見て、口元に軽く微笑みを浮かべる。



「今日の格好、とてもお似合いですね」

「そ、そうかしら」

「ええ。特にその色、とても似合っていると思います」

「……ありがとうございます。ロイド様も素敵ですわ」



 ソフィアは、何とか平静を保ちながら返事をした。

 秋だというのに、体がどんどん熱くなる。



「では、いきましょうか。どこか行きたいところはありますか?」

「わたくし、チュロスが食べてみたいですわ」

「チュロス、ですか」

「ええ。修道院のお友達に、“お祭りに行くなら絶対食べなきゃだめよ!”って勧めていただきましたの」



 ロイドが、楽しそうにうなずいた。



「では、食べ物の屋台が集まっている場所に行きましょう」



 2人は、人混みの中を歩き始めた。

 ソフィアに歩調を合わせて歩きながら、ロイドが口を開いた。



「クッキーの方はいかがでしたか?」

「お陰様で、あっという間に売り切れたわ」

「それはおめでとうございます」

「ええ、本当にホッとしたわ。でも、あまりに人が来たから忙し過ぎて目が回りそうで……」



 ソフィアが、クッキーを売った時のことを話すと、ロイドが楽しげに口角を上げる。


 そして2人は、両側に食べ物の屋台が並ぶ広い道に出た。

 たくさんの人々が、楽しそうに並んだり食べたりしている姿が見える。



「まあ、美味しそう!」



 ソフィアは、るんるんで屋台を巡った。

 ロイドは肉をパイで包んだものを買い、

 ソフィアは、ずっと食べたいと思っていたチュロスを買う。


 彼女は、それをくるりと手元で回して見つめ、嬉しそうに笑った。



「食べ歩きなんて、初めてですわ」

「そうですか。歩きながら食べると、2倍美味しいですよ」



 ロイドが楽しそうに微笑む。


 ソフィアは、カリカリのチュロスを堪能しながら歩き始めた。

 歩きながら、ロイドが自分の故郷の祭りの話をしてくれる。



「私の故郷は、春と秋に、それぞれ2週間ほどの祭りがあります」

「まあ、ずいぶん長いのね」

「領地が広くて移動の時間がかかるので、期間が長くなったと聞いています」



 彼曰く、祭り期間は勉強も休みになるので、幼い頃は楽しみで仕方なかったらしい。

 ソフィアは、くすくすと笑った。

 小さい頃のロイドはどんな感じだったのかしら、と思う。



「ロイド様の地元のお祭りも、こういう雰囲気なのかしら?」

「そうですね。ここよりも工芸品の屋台が多いかもしれません。私の故郷は工芸品が盛んなのです」



 ロイドの話では、山が多く珍しい草木がたくさん生えるため、薬作りも盛んらしい。



「土地が狭くて畑がたくさん作れなかったので、先人たちが知恵を絞ったそうです」

「そうでしたのね」



 楽しそうに話すロイドを見て、きっと素敵な場所なのでしょうね。と思うソフィア。



(どんな場所なのかしら)


 見てみたいわ。と思う。




 その後も、ソフィアはロイドとともに街を歩き回った。

 ぬいぐるみや、手彫りの置物などが置いてある屋台を巡ったり、大道芸人を見たりして、楽しく過ごす。


 珍しいものばかりで、時折、足元が不注意になって転びそうになるが、ロイドがさりげなく支えてくれる。

 はぐれそうだという理由で手を取られ、そこからずっと繋がれたまま、街を歩く。



(……ロイド様の手って、とても大きいのね)



 その包み込まれる感触と温かさに、ソフィアはそっと胸を押さえた。

 心臓の音が、ロイドに聞こえてしまいそうだ。


 そして、ドキドキしながらも楽しく歩き回ること、しばし。

 星がまたたき始めた紺色の空を見上げながら、ロイドが口を開いた。



「運河のあたりで、少し休みましょうか」

「ええ、そうしましょう」



 夜の運河って初めて見るわ。と思いながら、ソフィアが同意する。



 祭りの喧騒を背に、2人は夜風に吹かれながら、運河に向かって歩き出した。





(続く)




本日はここまでです。

また明日朝に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんなに素直で、一生懸命な子は、女神リュシア様だって、可愛く思うはず。 ソフィアのクッキーに、本当にご利益がありそうな気がします。 お話の展開を、毎日楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ