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07.忙しい日々と文通


本日2話目です。

 

 ロイドと山にリンゴベリーを摘みに行ったその翌日から、ソフィアは慌ただしい日々を送った。


 まず、彼女はロイドに手紙を書いた。

 塩と砂糖を間違えて作った“甘じょっぱいサンドイッチ”を食べさせてしまったことを、心の底から謝罪する。



(申し訳ないことをしてしまったわ……)



 思い出せば、ロイドはよくお茶を飲んでいた。

 あんなに大量の微妙な味のサンドイッチを食べるのは、さぞ辛かったに違いない。


 返事はすぐに返って来た。

 そこには、優しい文章で「気にしないで欲しい」と書いてあった。

 少し変わった味だとは思ったものの、そういうものだと思って美味しく食べたらしい。



(良かったわ。そこまで酷い味でもなかったのかしら)



 そう思って、この話を、実際に食べたヒルダに話したところ、

「その人、ものすごく優しい人ね」

 と、感心されてしまった。



(……こんな気まで遣ってもらってしまって、本当に申し訳ないことをしてしまったわ)



 反省したソフィアは、お詫びの気持ちを込めて、手紙と共に完成したジャムを使ったクッキーを送ることにした。

 手紙には、最近の何気ない日常を書いて、「そちらは最近いかがですか」といったことを書く。


 すると、しばらくして、ロイドから返事がきた。

「大変美味しかった」という丁寧なお礼と共に、彼の日常が綴られていた。


『少し前から、部屋に小さなリスが来るようになった』


 部屋にあったナッツを与えたところ、よく来るようになったらしい。


『最近は遠慮がなくなってきて、まるで自分の家のように堂々とくつろいでいる』



 ソフィアは思わず微笑んだ。

 いつもクールで言葉が少ない彼とは思えない、ほっこりする内容だ。



(ふふ、可愛いところがあるのね)



 もらった手紙を何度も読み返しては、暖かい気持ちになる。



 こんな感じでロイドと手紙のやりとりをする一方で、収穫祭の準備や懺悔室の仕事もきっちりこなしていく。





 ――そして、収穫祭まであと2週間に迫った、秋の夕方。


 懺悔室での仕事を終えたソフィアが、大聖堂の執務室で打ち合わせをしていた。

 収穫祭のお菓子の販売について、相談するためだ。


 ソフィアが、大聖堂のシスターたちに尋ねた。



「アウグスト様から、“去年もお菓子を販売した”と伺いましたが、どんな感じだったのですか?」



 シスターの1人が思い出しながら答えた。



「……去年は、ガラスのケースを置いて販売しました。買ってくれる人が結構いたんですけど、全然回らなくて……」



 注文を聞いて包んで、代金を計算して、お金をもらって、必要ならお釣りを渡す。

 わたわたして手間取ってしまい、長い列ができてしまったという。



「帰ってしまった人も多かったと思います」



 ソフィアは思案した。

 脳裏に浮かぶのは、去年まで実行委員を務めていた学園の文化祭だ。

 生徒会が主催する店も、同じように回らず、最初はかなり苦労した。


 その時のことを思い出しながら、ソフィアが口を開いた。



「まず、計算が簡単なように、価格を統一しましょう」

「統一?」

「例えば、クッキーは全て小銀貨1枚、焼き菓子は小銀貨2枚、といった具合ですわ」



 それならばお金の計算も簡単ですね、とシスターがうなずく。

 ソフィアは他にも、注文を受けてクッキーを包む係と、会計をする人を分けることを提案した。



「いちいち手を止めてお金のやりとりをするのは時間がかかりますから、係を決めてしまうのです」



 その他にも、お菓子の種類を書いた看板を置いて、注文をスムーズにしてもらうことなども合わせて提案する。


 若いシスターが、感嘆の声を上げた。



「ソフィアさん、お店屋さんになれますね!」

「ありがとうございます。少しだけ苦労したことがあるだけですわ」



 ソフィアは、控えめに微笑みながら返事をした。

 生徒会活動は本当に大変だったが、今こうして役に立っていることを考えると、悪くなかったのかもしれない。



(でも、生徒会の時よりも、今の方がずっと楽しいわ)




 *




 打合せの終了後。


 彼女は、シスターたちに見送られて修道院に戻る馬車に乗った。

 外はすでに薄暗くなっており、街灯が灯り始めている。


 街のあちこちで収穫祭の準備が始まっており、人々が飾り付けをしていた。

 ポツポツと露店も出始めている。


 それらの様子を、馬車の窓からボンヤリとながめていると、色とりどりの仮面がずらりと並んでいる店が目に入った。

 若い男女が楽しそうに見ている。



(あれは……、“仮面の夜会”の……?)



 収穫祭は、前半と後半の2部構成になっている。

 前半のテーマは「食」、後半は「芸術」だ。

 前半と後半の間の夜は「仮面の夜会」と呼ばれ、人々は仮面をつけて、身分を問わず祭りを楽しむ。


 幼い頃に読んだ絵本の影響で、ソフィアはこの「仮面の夜会」に興味を持っていた。

 王都にいたころ、何度か行きたいと思ったものの、周囲から反対されて行くことができなかった。



(……行ってみたいわね)



 女神リュシアの祭りであることから、修道院のシスターも祭りへの参加が認められている。



(こっそり行ってみようかしら……)



 そんなことを考えるソフィアを乗せて、馬車が修道院に到着する。


 夕闇の中、修道院は暖かい光を放っており、夕食の準備中なのか、何かを炒めるような良い香りが漂ってきている。



(お腹空いたわね)



 彼女は、建物の中に入った。

 自室に入ると、ランプを付けて、衣服を着替え始める。


 そして、脱いだ服をたたんでいた、そのとき。



(……あら?)



 ふと、1通の手紙が、机の上に置いてあることに気が付いた。

 手に取って見ると、それはロイドからのものだった。



(ふふ、この人は本当に筆まめね)



 ペーパーナイフで封筒を開けると、几帳面な字で綴られた便箋が2枚入っていた。

 時候の挨拶から始まり、大学のことやリスについてなど、最近の近況が書かれている。


 ソフィアは思わず微笑んだ。



(相変わらず可愛らしい手紙だわ)



 そして、2枚目の最後に目をやると、そこにはこんなことが書いてあった。



『収穫祭の“仮面の夜”に、そちらへ伺おうと思うのですが、ご一緒にいかがですか。

 もし良ければ、待ち合わせ時間と場所を指定していただけると幸いです』



(まあ!)



 ソフィアは目を見開いた。

 思わぬ申し出に胸が高鳴る。



(これって……、デートのお誘い……?)



 一瞬そう思うものの、彼女はすぐにそれを否定した。

 きっと、そういうことじゃなくて、こちらに来るついでにと思って誘ってくださったのよ。と自分に言い聞かせる。



(とはいえ……すごく嬉しいわ)



 彼女はすぐにペンを取り、手紙を書き始めた。

 まずは挨拶と共に、収穫祭の準備で忙しくしている近況を綴る。

 そして、少し考えた後、こう書き込んだ。



『“仮面の夜”ですが、ぜひご一緒させてください。

 当日は3時まで大聖堂におりますので、4時に中央広場で待ち合わせは如何でしょうか』



 手紙を折って封筒に入れて宛先を書く。

 そして、



「明日、買い物のついでに出してきましょう」



 とつぶやくと、ふわふわした気持ちで部屋を出ていった。






本日はここまでです。

お付き合いいただきありがとうございました!


また明日投稿します(*'▽')



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