(Another Side)一方、王都では③
本日1話目です。
ソフィアが、懺悔室クッキーの開発にいそしんでいた、ちょうどそのころ。
王都の中央大聖堂にある、大きな円卓のある会議室にて。
リュシア教の最高評議会が開かれていた。
出席者は、枢機卿や大司教など、リュシア教の有力者たち、約15名。
老齢の男性がほとんどだが、女性も数名いる。
進行役である、比較的若い大司教が声を張り上げた。
「それでは、これから最高評議会を始めます」
彼らは、分厚い資料を見ながら話し合いを始めた。
新しい教会の設立や、役員人事など、教会運営に関わる重要なことを決めていく。
そして、最後の議題となり、
枢機卿であるヴァルターが、資料を手に立ち上がった。
「大聖女について、話し合いたいと思う」
彼は、顎を上げながら偉そうにしゃべり始めた。
イザベラという娘に、近年まれに見るほど強い“癒しの力”が発現したこと。
聖女として日々熱心に活動しており、聖女としての素養も申し分ないこと。
などを説明する。
「よって、私としては、彼女を“大聖女”として認定してはどうかと思っている」
“大聖女”とは、聖女の頂点に立つ者の称号だ。
女神リュシアが天啓で定める者とされ、本来は、女神の神託により決まるものだ。
しかし、ここ100年、一向に女神の神託がおりない。
仕方なく、代わりに教会が、癒しの力が特に強い者を“大聖女”と定めてきた。
そんな、教会認定の先代の大聖女は、5年前に亡くなった。
故に、力の強い聖女を、新たな“大聖女”として認定することは、やぶさかではないのだが……。
参加者の1人が、難しい顔をした。
「確かに資料を見る限り、このイザベラという娘は癒しの力が強いようだ。だが、さすがに時期早尚ではないかな?」
「そうですね、聖女として活動を初めて、まだ1年も経っていないのでしょう?」
「1年も経たずに大聖女認定は、ちょっと早すぎじゃのぅ」
これらの意見に、他の参加者も同意するようにうなずく。
銀のモノクルをかけた初老の女性が、穏やかに口を開いた。
「大聖女は一度認定すると、よほどのことがなければ取り消せません。もう少し素養を見た方が良いように思いますよ」
それもそうだな。というつぶやきが、あちこちから上がる。
それに対し、比較的年年若い男性が、イライラしたように口を開いた。
「そうはいっても、前の大聖女が亡くなってもう5年も経ちます。いつまでも大聖女の座を開けておくわけにはいきません」
「そうですな。私もそう思いますぞ」
ヴァルターが、髭を撫でながら鷹揚に同意する。
会議は紛糾し始めた。
「早々にイザベラを大聖女認定するべきだ」と主張する者たちと、
「時期早尚だ、もう少し様子を見るべきだ」と反対する者たちに別れる。
推進派が優勢だが、慎重派も譲らない。
すると、黙って聞いていた、飄々とした雰囲気の初老の男性が、糸目でニコニコ笑いながら口を開いた。
「とりあえず、次回の最高評議会まで様子を見てはいかがかな。そうすればイザベラの活動期間も1年を超える。もう少し素養も分かるというものだろう」
「しかし、そんな悠長なことを言っている場合では……」
ヴァルターが苦々しく言うと、男性が笑みを深めた。
「ずいぶんと急ぎのようだな。何か事情でも……?」
「いえ……、そんなことはありません」
ヴァルターが渋々と引き下がる。
その後、最高評議会はこの件について、冬の最高評議会で再度検討することを決めると、その場は解散となった。
あともう1話投稿します。