05.リンゴベリーを摘みに(上)
本日1話目です。
ロイドと山にリンゴベリーを摘みに行くと約束した翌日。
ソフィアは懺悔室に向かうついでに、アウグストに外出してもよいか尋ねた。
ロイドの名前を出すと、アウグストが「ああ」とうなずいた。
「ルミナート公国出身の好青年の彼だね」
「ご存じなのですか?」
「ああ、最初に挨拶に来たよ」
どうやら、1回目の訪問の前に、彼はアウグストに会いに来たらしい。
彼なら問題ないということで、ソフィアは晴れてリンゴベリー摘みに行けることになった。
(まずはお弁当の準備ですわね)
マーサに事情を話して相談すると、食べやすいということでサンドイッチを勧められた。
「男の子はよく食べるからね。分厚いハムを挟んだものをいっぱい作ってやりな。山登りは汗をかくから、少し塩多めでもいい」
ふむふむ。と、うなずきながら、熱心に作り方のメモをとる。
その一方で、彼女はクローゼットから服を全部引っ張り出した。
山に登れて、動きやすいコーディネートを模索する。
――そして、あっという間に迎えた出発当日、まだ空が暗い夜明け前。
白いエプロンをしたソフィアが、オレンジ色のランプが灯る厨房で、サンドイッチを作っていた。
パンを切ってバターを塗り、野菜や焼いた卵、ジャムなどを挟んでいく。
ロイド用に買っておいたハムは分厚く切り分けて、しっかりめに塩とコショウ、隠し味のスパイスと砂糖を軽く振って味を付けると、同じくサンドイッチに挟む。
そして、一心不乱にサンドイッチを作り続けること、1時間。
気が付けば、大量のサンドイッチが出来上がっていた。
「……ちょっと多すぎたわね」
ソフィアは、自分とロイドの分を取り分けて包むと、残ったサンドイッチを皿に乗せた。
『どうぞ食べてください』
というカードを付けて、上から布巾を被せる。
そして急いで部屋に戻ると、着替え始めた。
実家から持ってきた乗馬用のパンツを履き、髪の毛を邪魔にならないように綺麗に結わえる。
そして、タオルや水筒、カゴなどを持つと、そっと修道院の建物から出た。
夜明け前の空は銀色を帯びてきており、空には星が光っている。
彼女は門に向かって歩き始めた。
門に近づくと、そこに男性と馬が立っているのが見える。
(早いわね)
彼女は、軽く深呼吸した。
急ぎ足で門に近づくと、ロイドに声を掛けた。
「おはようございます。ロイド様」
「おはようございます。早かったですね」
ロイドがソフィアを見て、目を細めた。
「準備万端ですね」
ソフィアは、「はい」とうなずいた。
なんだか少し緊張する。
ロイドがソフィアの荷物を受け取ると、馬に括りつけた。
そして、ひらりと馬に飛び乗ると、ソフィアに手を差し出した。
「行きましょう」
「は、はい」
ソフィアが遠慮がちに手を伸ばした。
ロイドが軽々と引っ張り上げてくれる。
彼女は馬の上に座り、思わず目を見張った。
(た、高いですわね)
以前乗っていた小さな馬とは比較にならないほどの高さに、思わずロイドに縋りついた。
頭上からロイドの心配そうな声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。きっとすぐに慣れると思いますわ」
気丈に振る舞いつつも、ロイドの腕をギュッと握る。
馬はゆっくりと歩き出した。
乗馬の時間に習ったことを思い出しながら、ソフィアがまっすぐ進行方向を見ながら背筋を伸ばす。
背中にロイドの体温を感じて、なんだかとても恥ずかしくなるが、とりあえず心を落ち着かせる。
そして、何とか慣れてきた、そのとき。
前方の山の間から太陽が顔を覗かせた。
周囲が一気に明るくなる。
ソフィアが目を細めてその光景をながめた。
「わたくし、日の出なんて初めて見ましたわ」
「そうなのですね」
「ええ。早朝出発して山を登るなんて、何だか冒険に行くみたいですわね」
「確かにそうですね」
ロイドが楽しそうに微笑む。
その後、ようやく慣れたソフィアは、ロイドと話をしながら進んだ。
「ロイド様の家は、高い山が多い場所にあるのですか?」
「ええ、とにかく山が多いです」
幼い頃のロイドは、野山を駆け回って遊ぶのが大好きだったらしい。
そんな話をしている間にも、太陽が昇り、周囲が朝日に包まれる。
遠方の山がどんどん近づいてくる。
そして、休みながら山を目指すこと、数時間後。
ついに、馬は山を少し登ったあたりに到着した。
「ここからは歩きましょう」
「わかりましたわ」
ロイドが馬を近くの木につなぐと、水を置いた。
ソフィアの分の荷物もひょいと持つと、「行きましょう」と山道をゆっくりと上がっていく。
その迷いのない足取りに、ソフィアは首をかしげた。
まるで、リンゴベリーがどこにあるか知っているかのようだ。
(どこに生えるか大体決まっているものなのかしら……?)
――そして、途中で泉の水を飲んだりして休みながら、山道を登ること30分ほど。
ロイドが振り返った。
「ありました」
本日中に(下)を投稿します。