03.クッキーと街での遭遇
本日1話目です。
懺悔室スイーツの開発に着手してから、2週間後。
天気の良い秋のお昼過ぎ。
修道院の厨房に、ソフィアの声が響き渡った。
「できましたわ!」
ついに、懺悔室スイーツが完成したのだ。
作業台の上には、2種類のクッキーが並べられている。
1種類目は、表面には、紫やピンクなどの色とりどりの花びらが飾られている丸いクッキー。
もう1種類は、真ん中に赤いハートがあしらわれた丸いジャムクッキーだ。
(イメージ)
ヒルダが感嘆の声を上げた。
「本当に可愛いわよね! これは絶対売れるわ!」
「ええ、女神リュシア様も大喜びね」
エミリーも嬉しそうに手を合わせる。
様子を見にきたシスター長のマーサが感心したような顔をした。
「大したもんだ。特にこの花のクッキーなんて、すごくいいじゃないか」
口々に褒められて、ソフィアは少し得意げな顔をした。
この花がついたクッキーは、彼女が考案したものだ。
修道院の庭に咲いている花が食べられると聞いて、思いついたのだ。
(花をクッキーにつけたら、すごく可愛いのではなくて?)
そして、色々と試行錯誤した結果、押し花にして試したところ、ものすごく上手くいった、という次第だ。
厨房のにぎやかな声を聞いて、他のシスターたちもやってきた。
口々に「この花かわいいわね」「ソフィアすごいじゃない」と誉めてくれる。
「いえ、そんな」
そう謙遜しつつ、ソフィアは心の中で舞い上がった。
(もしかして、わたくし、ちょっと才能あるのではなくて?)
密かに自画自賛する。
マーサが、もう1種類のハートのジャムクッキーを指差した。
「こっちもいいね。ハートってのはリュシア様の象徴だしね」
「本当にかわいい! でも……」
ヒルダが少し残念そうな顔をした。
「イチゴジャムだと、真ん中のハートがちょっと黒くなっちゃうわね」
確かに。とソフィアは考え込んだ。
クッキーの真ん中のハートがもっと鮮やかな赤だったら、もっと可愛くなる気がする。
彼女は考えながら口を開いた。
「……リンゴベリーのジャムとかどうかしら」
「リンゴベリー……?」
首をかしげるヒルダに、ソフィアが説明した。
「真っ赤なジャムですわ。甘くて酸っぱくて、クッキーにもよく合うと思いますの」
「聞いたことがないわね……」
ヒルダもマーサも、首を横に振る。
シスターの1人が口を開いた。
「私は故郷でリンゴベリージャムを食べたことがあります。確かにイチゴジャムより赤かったと思います」
しかし、このシスターもこちらに来てからは見たことがないらしい。
(まあ、一般的なジャムかと思っていましたけど、違いましたのね)
ソフィアは思案した。
どうせだったら、完璧なクッキーを作りたい。
「わたくし、明日街に探しに行ってみますわ」
「そうだね。もしかすると店に売っているかもしれないしね」
マーサが「行っておいで」とうなずく。
――そして、その翌日。
秋の気配が濃くなってきた、天気の良い昼下がり。
ソフィアは、オルテシアの街に向かった。
街に到着してすぐに青果店を巡り、リンゴベリーを探す。
しかし、
「うちには置いてないねえ」
「聞いたことはあるが、売っているのを見たことがないなあ」
売っている店が見つからない。
ジャムを置いている食料品店に行ってみるが、やはりリンゴベリージャムは置いていない。
(ないみたいですわね……)
ソフィアは、しょんぼりした。
残念だわ、と思う。
先ほどの食料店で確認したところ、やはりイチゴジャムが一番赤かった。
(多少黒っぽいけど、イチゴで我慢するしかありませんわね……)
彼女は、とぼとぼと歩き出した。
修道院に戻ろうと、大通りに向かって歩き始める。
そして、角を曲がって大通りにでた、その瞬間――。
「ソフィアさん……?」
後ろから突然声を掛けられた。
(え……?)
振り向くと、そこには、クールな雰囲気の長身の美青年が立っていた。
旅人のマントを羽織っており、腰には剣を提げている。
ソフィアは思わず目を丸くした。
「まあ! ロイド様!」
本日あと1話投稿します