02.懺悔室スイーツなるもの
本日2日目です。
懺悔室の帰りにアウグストから声を掛けられた、その翌日。
朝の礼拝を終えたソフィアは、朝日の差し込む明るい食堂で、朝食をとっていた。
今日のメニューは、自家製酵母の丸パンと、飼っている鶏の卵の目玉焼き、自家製ジャムに、修道院の畑で採れた野菜のスープだ。
スープに入っているハーブのスパイシーな香りが鼻をくすぐる。
ソフィアが、ぼんやりとフォークで目玉焼きをつついていると、正面に座ったヒルダが不思議そうな顔をした。
「ずいぶん眠そうね」
「ええ、昨日考え事をしていたら眠れなくなってしまって」
隣に座っていたエミリーが、パンにジャムを塗りながら尋ねた。
「何かあったの?」
「ええ、実は……」
ソフィアは少し声を潜めると、昨日の出来事を2人に話始めた。
*
昨日の夕方、
「再来月の収穫祭に向けて、懺悔室スイーツを作ってみないかね?」
そうアウグストに言われ、ソフィアは思い切り警戒した。
懺悔室絡みの依頼では、前に痛い目にあっている。
(これは安請け合いしない方がいいですわね……)
ソフィアのジト目を見て、アウグストが面白そうに笑った。
善良そうに説明し始める。
「再来月、収穫祭があるのは知っているね」
「……はい」
収穫祭とは、女神リュシアに収穫の感謝を捧げ、翌年の豊作を願う祭りのことだ。
期間は、6日間。
街はこの日のために飾り付けられ、出店も多く、とても賑やかになる。
「このオルテシアの街も、毎年盛大に収穫祭を祝っていてね。我々としても、稼ぎ時なんだ」
「稼ぎ時」
「ああ」
アウグストがニコニコした。
「この時期は財布の紐が緩むからね。去年は焼き菓子を売ったんだが、かなりの儲けが出てね」
「……儲け」
なんか、『稼ぎ時』とか、『儲け』とか、聖職者から聞いてはいけないセリフが聞こえた気がするが、聞かなかったことにするソフィア。
アウグストが笑顔で言った。
「今年は更なる飛躍を狙っていてね。それでソフィアさんに白羽の矢が立ったわけだ」
「……わたくし、ですか」
「ソフィアさんといえば、今や『懺悔室の聖女』として大人気だからね。その懺悔室の聖女が考案したお菓子であれば、飛ぶように売れると思うんだ。まあ、いわゆる“開運菓子”みたいなものだね」
ニコニコ話すアウグストを、ソフィアはジト目で見た。
「開運菓子」とか、何だか詐欺っぽい香りがする。
(……ただ、アウグスト様の事情も、理解はできますのよね)
田舎は貴族からの寄付金が少ないと聞く。
大聖堂を維持するには、教会が自らお金を稼ぐ必要があるのだろう。
(それはきっと大変なことだわ)
考え込むソフィアに、アウグストがニコニコしながら言った。
「もちろん材料費は出すし、材料の買い出しに行ってもかまわない。修道院の方にも全面的に協力するように話を通しておく」
ソフィアは思案した。
ここまで言うということは、きっと金銭的に困っているに違いない。
(……所属するシスターとしては、ここは協力するべきかもしれないわ)
とりあえず、純粋にお祭りのお菓子を売る、という風に考えよう。
修道院では、よく焼き菓子を作っている。
それらを参考に、祭りらしいものを考えればいい。
(お祭りで売るだけですもの、大丈夫よ)
彼女はうなずいた。
「分かりましたわ。やらせていただきます」
「そうか、それは助かるよ」
アウグストがニコニコしながらお礼を言った。
修道院に帰るための馬車を呼んでくれると、外まで見送りに出てきてくれる。
ソフィアは馬車に乗り込むと、窓から顔を出して頭を下げた。
「それでは、失礼いたしますわ」
「ああ、気を付けて」
アウグストが、にっこり笑う。
そして、ふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、先日、オルテシアの市長と話をしていてね。地域復興の一環として大聖堂に名物を作ろうということになったんだ」
「そうなのですね」
「君の作る懺悔室スイーツは、祭りが終わったら大聖堂の名物になるから、そのつもりで粋なものを頼むよ」
「…………え?」
ソフィアは目を見開いた。
「ちょ、ちょっと待ってください! お祭り限定のお菓子じゃないのですか?」
「せっかく作るんだから、お祭りだけではもったいないだろう? しかも地域復興のためにもなれば、一石二鳥だ」
そう言いながら、アウグストが笑顔で御者に合図した。
馬車がゆっくりと動き始める。
「じゃあね、ソフィアさん。大聖堂と街のために頼んだよ」
ニコニコと手を振るアウグストを、呆然と見送るソフィア。
そして、ハッと我に返ると、すでに馬車は大聖堂から離れていた。
「ま、またやられましたわ……!」
ソフィアは頭を抱えた。
「懺悔室に続き、またこのパターンですの!?」
そんな彼女を乗せ、馬車は夕方の街を通り抜け、修道院を目指して進んでいく。
そして、その夜。
ベッドの中で懺悔室スイーツについて考えていたところ、目が冴えてしまい、眠い朝を迎える羽目になってしまった、という次第だ。
*
「――という訳で、わたくし、懺悔室スイーツなるものを作らなければならなくなったの」
げんなり顔のソフィアの話を聞き終わり、
ヒルダとエミリーは、顔を見合わせて楽しそうに笑った。
「ソフィアって、大体こんな感じで仕事押し付けられているよね」
「アウグスト様らしい話ね」
ヒルダが、パンにバターを塗りながら尋ねた。
「じゃあ、昨日は何を作るか考えていた感じ?」
「ええ、色々考えてはみたのだけど、何も思い浮かばなくて」
エミリーが考え込んだ。
「王都で流行っているものとかで、参考になるようなものはないいの?」
「それも考えたのだけど、そうなると地産地消が難しくて」
この収穫祭で扱う食べ物は、女神リュシアに捧げる“供物”とされており、基本的に地元の食材を使うことが決まりだ。
たとえば、今王都では南国フルーツを使ったゼリーが流行っているが、ここで採れないため作れない。
ヒルダが明るく言った。
「まあ、収穫祭まであと2カ月くらいあるし、ゆっくり考えればいいんじゃない?」
「私たちにできることがあったら、何でも言ってね」
エミリーが微笑む。
ソフィアは2人に感謝の目を向けた。
自分だけでは心もとないが、協力してもらえれば良いものができるかもしれない。
この日から、ソフィアは懺悔室スイーツの開発に乗り出した。
洗濯をしながら何を作るか思案し、畑で葡萄の収穫をしながら、材料は何を使ったら良いか2人に相談する。
作るもの候補が決まると、空いた時間に厨房に行って、試作品を作り始めた。
他のシスターたちも協力的で、試作品を食べて、あれやこれやとアドバイスしてくれる。
この状況に、ソフィアの凝り性に火がついた。
お菓子の本を熱心に読み込み、毎日試作品を作って、結果をノートにとっては、夜な夜なながめて研究を重ねる。
――そして、懺悔室スイーツに着手してから、2週間後。
「こ、これですわ!」
ついに、懺悔室スイーツが完成した。
本日の投稿はここまでです。
続きはまた明日投稿します(*'▽')
次回くらいからロイドが結構出てきます。




