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追放された元令嬢ですが、このたび、なぜか懺悔室で働くことになりました  作者: 優木凛々
第1章 公爵令嬢ソフィア、シスターになる
10/42

08.懺悔室、3カ月目


本日1話目です。

 

 ソフィアが懺悔室で働き始めて、3か月目。

 青い空に白い雲がぽっかりと浮かぶ、初夏のお昼過ぎ。


 ソフィアを乗せた馬車が、修道院から街に到着した。



「じゃあ気をつけて行っておいで」

「はい、ありがとうございます、マーサさん」



 馬車が、街の奥に消えていく。

 その後姿を見送ると、ソフィアは大通りに向かって歩き始めた。


 街は明るい雰囲気で、夏の匂いを帯びた爽やかな風が、緑色の街路樹を優しく揺すっている。



(今日もいい天気ね)



 彼女は大通りを歩きながら、キョロキョロと周囲を見回した。

 だいぶ街にも慣れて、最近は脇道に入って探索してみるのが、ちょっとした楽しみになっている。


 そして、



「今日はこっちに行ってみましょう」



 未知の通りを見つけた彼女は、わくわくした気持ちで進み始めた。


 その通りは、とても可愛い感じで、女性の好きそうなお菓子屋さんや花屋などが並んでいる。



(いい感じですわね)



 そして、歩くことしばし。

 彼女は赤い屋根のお洒落なパン屋を見つけた。

 漂ってくるパンの香ばしい香りに、つい足を止める。


 そして、ショーウインドウから中を覗いて、



「もしかして……」



 と思わず小さな声を漏らした。


 カウンターに立っていたのは、約3か月前に

「好きな人が振り向いてくれない」

 と相談に来た女性だった。


 あの時の彼女は、ひっつめ髪に茶色のレース服で、とても疲れて見えた。

 しかし、今の彼女は、ハーフアップの髪に淡いピンクのワンピースをまとっており、とても可愛らしくなっている。



(まあ! まるで別人ですわ!)



 ソフィアは、思わず店にふらりと入った。

 トレイとトングを取ってパンを選ぶふりをしながら、こっそり接客をしている彼女を見る。

 とても明るいその様子は、3カ月前とは比べ物にならないくらい生き生きしている。


 ソフィアが、「本当にすごいですわ」と心の底から感心していると、



 カランカラン



 ドアベルの音と共に、扉が開いた。


 女性がドアの方を見て、嬉しそうな声を出した。



「いらっしゃい、ディック」



 振り返ると、そこには柔らかい雰囲気の青年が立っていた。

 女性を見て、「やあ」と照れたように笑う。



「いつもの、買いに来たよ」

「ありがとうございます」



 女性が、カウンターの奥から大きなパンを持ってくると、袋に包んだ。

 小さなパンを1つ添えると、小声で言った。



「これ、おまけよ」

「ありがとう」



 男性は嬉しそうに笑うと、袋を受け取った。

 小声で「じゃあ、また今夜」と言って去っていく。


 ソフィアの胸が暖かくなった。


 この男性が、懺悔室で話してくれた「好きな男性」なのだろう。

 きっと上手くいったに違いない。



(本当に良かったわ)



 ソフィアはトレイにパンを乗せて、カウンターに持って行った。

 女性に声を掛ける。



「これ、お願いしますわ」



 その独特な令嬢言葉に、女性がソフィアを「もしかして」という風に見た。

 シスター服を見て、察したように微笑むと、パンを袋に入れながら言った。



「……実は私、最近彼氏ができたんです」

「まあ、おめでとうございます!」



 女性が嬉しそうに「ありがとうございます」と言うと、いたずらっぽく笑った。



「……実は、3カ月前までずっと気になっていた男性がいたんですけど、煮え切らないんで、思い切って別の人と付き合うことにしちゃいました」

「まあ……!」

「だから、今はすっきり幸せです」



 目を見張るソフィアに、女性はくすっと笑いながら、紙袋に小さなパンを1つ入れてくれた。



「これ、おまけです」

「ありがとうございます」



 ソフィアは袋を受け取ると、店の外に出た。

 思わず、噴き出す。



(まさか別の方とお付き合いすることになったなんて、夢にも思いませんでしたわ)



 とても驚いたが、彼女のあの幸せそうな顔を見る限り、きっとそれが正解だったのだろうと思う。


 ソフィアは店を振り返ると、小さくつぶやいた。



「女神リュシア様の加護が、あなたにありますように」






本日はあと1話投稿します。

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― 新着の感想 ―
主人公にとって、一つのことにこだわり過ぎないと気づくキッカケになればいいですね。
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