私と似た子 ”表”
リエッタ村に魔獣が現れたとの報告を受け、私は王宮より命を受けて派遣された。
黒のローブを纏い、愛馬バルフに跨がり、瞬間移動魔法によって村へと降り立つ。
私が国家魔術師だと知った村人たちは、口々に「魔獣を殺してくれ」とすがりつき、必死に懇願してきた。
──けれど、私がこのローブを脱げば、彼らはきっと、私を殺そうとするだろう。
私の髪が、“魔獣”と同じ色──銀色だから。
"魔獣"──
それは、特有の光で人を惑わせ、喰らい尽くす存在。
とくに銀や金の魔獣は、数えきれないほどの命を奪ってきた。
私が殺されずに生き延びられたのは、常人離れした魔力量があったから。
そして──命に必ず従ってきたからだ。
それが、生き残る唯一の術だった。
そう教えられたのは、王宮に拾われた日のことだった。
『使える限り使ってやる。だが、裏切れば処分する』
私は“道具”としてなら、生きることを許された。
だから、命令には絶対に背くことなどできなかった。
命に従い魔獣を殺すべく、私は探査魔法を発動し森をくまなく巡ったが魔獣の気配はなかった。
それでも、バルフと共に森を駆けていると、突然、彼が鋭く嘶いた。
何かを感じ取ったのだ。
間もなく、草むらの奥から微かな泣き声が聞こえた。
草を掻き分けて見つけたのは──
金色の髪を持つ、血まみれの女だった。
彼女の瞳には、怯えと絶望が色濃く映っていた。
顔色も青白く、このままでは命が尽きてしまうだろうと、直感が告げた。
ああ──この女も、私と同じなのだ。
“魔獣に似ている”というだけで、殺される存在。
何ひとつ傷つけていないのに。何ひとつ壊していないのに。
ただ、その見た目だけで、忌み嫌われ、恐れられ、追い詰められる。
声を上げることも、助けを求めることも許されず、
ただ静かに、命を奪われていく──
人に見つかる前に、隠さなければならない。
そう、私は強くそう思ったのだ。
私は迷わず、眠りの呪文を唱えた。
女は深く眠りについた。
それを確認して、模倣魔術で彼女と寸分違わぬ姿の人形を創り出す。
その人形の金の髪を一房だけ切り取り、火の魔術で燃やした。
焦げた匂いがわずかに立ち込める中、私は彼女をそっと抱き上げた。
私の家に連れて帰ろう。
この金髪の女の存在がばれたなら間違いなく始末され、私も拷問された後、処分されるだろう。
それでも、構わなかった。
初めて、私は命令に背いた。
できる限り、早めに投稿できるようにしたいな。(願望)