タイトル未定2025/04/27 04:51
「エバァ・シモンズ男爵令嬢!何度言えば伝わるのかしら?レイモンド様と貴女とでは身分の差があり過ぎると!」
「そう言われましても、これはお互いの父親どうし・・キャッ!」
最後まで言葉を伝えようとする前に、一人の取巻き令嬢に思い切り突き飛ばされ、その勢いで私は後ろへと倒れ込んでしまった。
「エバァ様!」
そう言ってかけて来たのは同じ男爵令嬢のスマエラ様だった。
「スマ、そこをおどきなさい!私は今、何度忠告をしても頭に入らないお馬鹿さんに、貴族の序列を教えてあげている最中です!」
「お言葉ですがミランダ侯爵令嬢様。エバァ様とレイモンド様とは王様も認めた婚約です。不満があればエバァ様では無く王家へ言うべきですわ!」
「スマエラ様・・」
スマが言った事は本当です。
でも男爵令嬢がレイモンド公爵子息と結婚するとなれば、他の貴族たちが黙ってはいない事は想像出来た。
それでも流石に高位貴族のミランダ様へ、こうもハッキリ言ってしまうのは・・
「・・・私が優しく言ってる内に、考え直すと思いましたが・・」
あっ、ヤバい!
眉間にシワを寄せ、目を釣り上げているお顔はとてもじゃ無いけれど見られない。
取り巻いていた令嬢たちも静かに後ろへと下がっている。
私は次に来る行動に予想を立て、スマの腕を後ろへと引っ張った。と同時に・・
パシッッッ!
見事に私の頬へミランダ様の手が当たった。
「今度こそお父様へ言い付けるから!そうなればエバァもスマもこの学園には居られなくなりますから!去る準備をしておく事ね!」
そう言い残すとミランダ様は取巻き令嬢たちを連れて校舎へと戻って行った。
「エバァ様!申し訳ありません。私がミランダ様を怒らせてしまったばかりに・・」
「スマが無事で良かったわ。でもお願いだからミランダ様をあまり怒らせないでね。この事は・・」
私は泣きじゃくるスマを介抱しながら校舎の角へ目線をズラす。
すると影が動き校舎の裏へと消えていく。
(ケンブリット公爵家の影ね。直ぐにレイモンド様のお耳に入る事でしょうから、きっと何とかしてくださるわね。)
私とスマはそのまま保健室へと移動した。
「エバァ!影から話は聞いた!大丈夫か?叩かれた所を見せてくれないか?」
屋敷に入るなり待ち構えていたレイモンド様に捕まってしまった。
その後ろからは公爵夫人も扇が折れるんじゃないか?ってくらいに強く握っているのがわかる。
「こんなに腫れて・・痛かっただろう?さぁ、直ぐに冷そう。」
「そうよエバァ。まぁ、こんなに赤くなって・・明日は学園をお休みなさい。夫に連絡して王宮の・」
「!だっ、大丈夫です!直ぐに保健室で冷やしましたから、明日には腫れも引いていると思います!」
この親子の溺愛振りは、時に恐ろしい事もある。
でも・・
「夫人、レイモンド様。ありがとうございます。その、とても嬉しく思います。」
その後公爵は本当に医師を連れて帰って来た!
王宮では無いが、公爵家の専属医師であるコールマン様を。
腫れもニ、三日もすれば治るでしょう。と言われてホッとしたのは本心だ。
ミランダ様は本気で叩いてきたから、奥歯が折れていないか心配だったから。
「お嬢様、本当に申し訳ありませんでした。ミランダ様があそこまでお怒りになるとは思わなくて・・」
氷の入った袋を持ってきたスマが、あれからずっと謝っている。
実はスマはケンブリット家の侍女で、私の専属なのだ。そのため護衛も兼ねて一緒に学園へ通っている。
「もう謝らないでスマ。私は貴女が側に居てくれるだけで本当に心強いの。だから、明日からもまたよろしくね」
お礼を言って、明日も学園があるからと部屋へ戻るように伝えた。
するとスマが部屋から出るのを待っていたかのように、もう一つの扉が開いた。
「レイモンド様。こんな時間に婚約者同士と言っても、未婚女性の部屋へ来るものではありませんよ?」
足音も立てずに私の側へと来ると、赤く腫れた頬へと優しく触れる。
その顔は今にも泣きそうで
「本当に大丈夫ですよ?痛みはありませんから」
「エバァは我慢をするから・・今も昔もずっと・・どうして男女で校舎が分かれるんだ」
本気なのか冗談なのかわからない言葉に思わず
クスッと笑ってしまった。
「何が笑えた?」
私の頬に触れていたレイモンド様の手を取り、
「もし男女が同じ校舎、同じクラスでしたらきっと勉強どころでは無いですわ。」
レイモンド様も少し考えたあと
「そうだね。エバァが気になって勉強も手につかなくなるな」
そう言って優しく抱きしめてくれた。
私の両親が事故で亡くなったのは今から十五年前。
その日は急に王宮に用事があり、両親揃って出掛けて行った。
その帰り道で起きた、橋の崩落事故に巻き込まれたのだ。
当時まだ架けられたばかりの木製の橋が崩れた事で、死者が八名も出た大きな事故にこぞって新聞社が書き立てたと聞いた。
そして原因も未だ不明。
当時まだ三歳だった私がどのような理由で公爵家で住んでいるのか?
なぜ男爵家の私と、御次男とはいえ公子のレイモンド様と結婚出来るのか?ずっと疑問を抱いている。
翌朝学園の教室へスマと行くと、ミランダ様が取巻き令嬢と共に入り口に立っていた。
「ごきげんよう、ミランダ様。申し訳ありませんが中へ入れて頂けますか?」
「・・・」
聞こえなかったのか?退こうとしない為もう一度
「申し訳ありませんミランダ様」
「聞こえているわ!」
大きな声で答えられた。
だったら早く退いて欲しいと思ったところに
「貴女とスマの事をお父様へ話したわ。そのうち学園長から呼び出されると思うから、覚悟しておきなさい」
クスクスと笑いながら自身の席へと戻って行くミランダ様たちを、私はスマと見ていた。
その後も学園長からの呼び出しも無く、気が付けば卒業と卒業パーティーが近づいていた。
婚約者がいる人は婚約者同士で参加となり、まだ決まって無い子息、令嬢は親や兄弟での参加となる。
今は昔とは違いそこまで固くなく、友人同士での参加も許されているため恋人同士では無理でも!と、男性が女性の校舎前で待ち伏せをしている。
「あら?お嬢様見てください。ほらっ」
スマが指差す方を見ると、ミランダ様がレイモンド様に声を掛けていた。
「まぁ!婚約者のいる方にお声を掛けるなんて!サトルツィ侯爵家はどんな教育をされているのでしょう!」
確かにスマの言う事も一理ある。
普通で考えたら婚約者のいる方に声を掛けるのは御法度。
貴族の子息、令嬢なら当たり前に教育を受けている事柄だ。
なのにミランダ様はレイモンド様に声を掛けていると言う事は・・
「私本当にバカにされているのね」
公爵家子息と男爵家令嬢
普通では考えられない組み合わせだから、隙あらばレイモンド様へ声を掛けている令嬢は大勢いる。
何なら直接では無く、手紙で言ってくる人も多い。
これが爵位の差、なのだ・・
「あっ、ミランダ様がレイモンド様に相手にされず泣いてますわ!」
「スマ、それ以上はやめなさい・・」
見てみたい気もするけれど、それよりも断られた矛先がこちらに向かなければ良いけれど・・と思った。
その後はミランダ様たちからの嫌がらせもなく、レイモンド様は卒業式とパーティーの準備に忙しく走り回っていた。
私にも何か手伝える事があるか聞いてみたが
「君は卒業したら直ぐ結婚の準備が始まるのだから、卒業まではゆっくりしていて欲しい」
と言われてしまった。
結婚の準備は公爵夫人と一緒に、少しずつだが進めている。
特にウェディングドレスは夫人が力を入れており、デザインからドレスの生地にまで夫人の細やかなこだわりが入っている。
高位貴族ともなるとウェディングドレスの制作に、何と一年以上は掛かると言われ驚いた!
いったい値段はどれくらい・・と思って聞くと
「そうねぇ、その都度作るお家もあるし親子で受け継ぐお家もあるわね。わたくしも母のドレスをリメイクして着たのよ。母の形見の様な物ね。」
きっと素敵なドレスだったのだろう。
ダメ元で見せて欲しいとお願いしたら、今は実家に置いてあると言われた。
何でも少しずつ手を加え、妹様や姪御様が着ているのだとか・・
(お母様が生きておられたらきっと、私も母のドレスに手を加えていたのかしら)
母のドレスは屋敷には無く、きっと葬儀の時に親族の誰かが持って行ったのだろう。
他にも装飾品やドレスが無くなっていたと、乳母が言っていたのを思い出した。
そうこう動き回っている間に卒業式の前日となった。
この学園では教室で過ごす最後の日は、必ず卒業生全員での掃除が決められており、
「エバァ様、こちらの本を図書室に運んでくださいますか?」
そう声を掛けて来たのは同じクラスの子爵令嬢だった。
「ええ、わかったわ」
スマを見ると忙しそうに窓を磨いており、顔見知りの令嬢だった事もあり何の疑いもなくスマに一言も言わず一人で運んでしまった・・
まさか、ミランダ様にあんな事をされるなんて思いもせずに。
「どうしましょう。扉に鍵が掛けられてしまったわ」
本を片付けている間に私がいる事を確認せず、鍵を掛けられてしまったようだ。
私の力では押しても引いてもビクともせず、外も暗くなってしまった。
(今頃スマもレイモンド様も心配しているわね。)
でもきっと、影が報告しているでしょう。
助けが来るまでの間、私は窓際のイスに腰掛け夜空を眺めていた。
(そう言えば私に影が付くようになったのも、子供の頃にされたイタズラが原因だったわよね?確かあの時も・・)
ケンブリット家に引き取られ、確かレイモンド様のお兄様であるカイン様の誕生日パーティーだったかしら・・
(見ず知らずの娘がいきなり公爵家の子息たちと一緒にいた事に腹を立てた令嬢が、納屋に私を閉じ込めたのよね。)
あの時の事はほとんど記憶にはないけれど、ただ暗く狭い場所に怖くて泣いていたら、
「エバァ!大丈夫?!もう怖くないからね!」
「・・・レイモンド様。また見つけてくださりありがとうございます」
背中から抱き込まれた私は、レイモンド様の体温にホッとした。
あの時と同じように・・
卒業式当日、私の無事な姿を見てミランダ様たちは何故か驚いた顔をしていたが、そんな顔したら自分が犯人です!と言っている様なものですよ?
と言うかレイモンド様の手ですでに犯人は捕まっており、その犯人(子爵家の三男)は、
「ミランダ様の言う事を聞けば卒業後は侯爵家で働かせて貰えると約束を・・」
と言われたらしい。
何故あっさりと犯人が捕まったかと言えば、私を閉じ込めたは良いが相手は公爵家の婚約者。
何かあっても心配だと、廊下の隅で立っていたそうだ。
根が悪い人じゃ無く卒業後の不安に漬け込まれた、いわば彼も被害者なのである。
「彼はとても優秀だから、卒業後は公爵家で従僕として働いて貰う事になった。結婚後は私の秘書として働いて貰おうと思っているよ」
「まぁ、レイモンド様の秘書なんて、とても優秀な方なんですね」
「ああ、こんな事をしなくても私の方から願い出る所だった」
ちなみに彼には明日、スマをエスコートする様に伝えたよ!
そう聞いた私は、明日の卒業パーティーが楽しみになった。
無事に卒業式も終わり、公爵邸にてパーティーの準備に取り掛かっていた。
その準備も終わり、レイモンド様のお迎えを部屋で待っていた。
コンコンッとノックされ、メイドが扉を開ける。
「準備は出来たかい?ああ、思った通り綺麗だ。」
レイモンド様は私の側まで来て、手の甲に軽くキスをする。
「レイモンド様も、その、とても素敵ですわ」
卒業パーティーは小さな社交会。
その為子息、令嬢は礼装にて参加とあり!との事でレイモンド様は公爵子息の礼装姿。
あまりの美しさに 私隣に立って大丈夫? と、本気で心配になった。
「大丈夫ですよ、エバァ様。エバァ様のドレス姿もレイモンド様に負けておりません!わたし達の腕を信じてくださいませ」
と、準備を手伝ってくれたメイドが耳元で囁いた。
レイモンド様にエスコートされ、まずは公爵様のお部屋へ挨拶に。
そこには夫人もおり、私の姿を一番に褒めて頂いた。
「レイの色が凄いわね・・でもエバァにとても似合っているわ」
と言って頂けたので良かった。
メイドの腕ではなく、自分に自信がないからで・・
「楽しんでおいて。レイモンド、しっかりエスコートするんだよ」
「もちろんです!父上」
そう言って二人、礼を取り玄関へと向かう。
そこには着飾ったスマと・・
「初めましてエバァ様。あの時は本当に申し訳ありませんでした。私はフロント子爵家三男、ゾルドと申します」
と、深く頭を下げる一人の男性。
彼があの優秀な子爵家の・・
「話はレイモンド様から聞いております。私への謝罪は要りません。その代わりレイモンド様のお力になってくださいね。」
ありがとうございます。と、震える声が聞こえた。
私はレイモンド様と公爵家の馬車に。
スマとゾルド様はメイドたちと同じ馬車にて王宮の小さな会場へ。
(小さいと言っても学園のホールの二倍はあると聞いたけど・・)
私たちが会場に到着した頃にはすでに生徒たちが会場入りしていた。
レイモンド様にエスコートされながら会場へと足を進めると子息、令嬢の視線が刺さる。
「会長すみません。そろそろ王太子殿下、王太子妃殿下が入場されます」
「わかった。エバァすまない、少し離れるが大丈夫かい?」
「ええ、最後のお勤めですもの。頑張っていらして」
笑顔で別れると直ぐにスマとゾルド様が寄ってきた。
それぞれにワインに似た飲み物が渡されると、ミランダ様が男性と共に寄ってくるのがわかった。
「ごきげんようエバァ様。スマ様。紹介しますわ、こちら兄のアラン」
「妹のが色々と教育していると聞いた。が、どうやらまだ教育が足らないようだ」
私をはじめスマ、ゾルド様も首を傾げると、アラン様が急に私の腕を掴んできた。
「サトルツィ侯爵子息様何を!」
あまりの行動に思わず大きな声が出る。
スマもアラン様と私の間に入り、距離を取ろうとするが
「男爵位風情が偉そうに!」
と無下にされる。
ゾルド様も
「サトルツィ侯爵子息様。この方はケンブリット公爵ご子息の婚約者です。あまり無粋な真似は」
「うるさい!男爵位のくせに大層な服を着て。でも・・悪くはないな」
私を見る目が気持ち悪い。
手を離してもらおうにも男の力には敵わず、スマもゾルド様も身分を言われるとどうする事も出来なかった。
周りの人達は見て見ぬ振りをしていて、誰も助けてくれない。
(このままどこかの部屋にでも連れ込まれたら・・)
恐怖で全身が震え出した時
「我が婚約者に手を触れないで貰おう」
レイモンド様の手が私からアラン様の手を剥がすと、私を包み込むように抱きしめる。
「こっ、これはケンブリット公爵子息レイモンド様。実は彼女の方から言い寄って来まして・・」
「それは無い!エバァをアラン殿に群がる女性たちと一緒にしないで貰いたい」
レイモンド様の声が私の不安と震えを鎮めてくれる。
「ですが貴方ほどの方に、男爵令嬢では釣り合いも取れないのでは?と、私ならまだ・・」
「それには及ばず!今から王太子殿下の言葉をしっかりと聞けばわかる」
周りの人達にも聞こえるように言うと、震えが止まらない私をそのままエスコートし、事もあろうか両殿下の目の前まで行くと臣下の礼を取る。
私も慌てて最上の礼を取る。
「王太子殿下、王太子妃殿下に挨拶致します。本日は我ら卒業生の為に足を運んで頂き、お礼申し上げます。」
レイモンド様の言葉と共に卒業生並びにその付き添いも礼を取る。
「ああ、皆卒業おめでとう。明日からはそれぞれの進む道へ歩む事になるが、私たち階級ある者はない者の手本となるよう心を配って欲しい。」
「「「有り難きお言葉、胸に刻んで参ります」」」
「それからレイモンド、お隣にいる令嬢かい?卒業後に結婚する令嬢は」
「ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。
シモンズ男爵エバァと言います。」
「ご挨拶申し上げます。エバァ・シモンズと申します。」
両殿下の視線が痛い。
緊張からか、全身の汗と胸の鼓動が大きくなる。
「皆んな楽にして欲しい。本来は陛下から伝えるのが良いが・・レイモンド、良いか?陛下からも許可は得ている」
「我が父、ケンブリット公爵からも殿下にお任せするように。と言われております」
「そうか・・わかった。」
皆が今から何が始まるのか、緊張で騒めいている。
私も訳がわからずレイモンド様を見ると、こちらを見て微笑んでいた。
「エバァ、今から始まる事は君の事なんだ。でも大丈夫、私を信じて欲しい」
レイモンド様はきっと、これからの私たちの為にきっと王太子殿下にお願いしたのだろう。
そして公爵と夫人も。
私はしっかりと頷き、殿下の方を見た。
「レイモンド・ケンブリットと、エバァ・シモンズ。二人の婚姻は王家の名の下に認める。この婚姻に不服ある者は今、申し出よ。無ければ金輪際物申す事は許さん!」
すると一人の手が上がる。
全員がその手の方を振り返り見ると、ミランダ様が挙げていた。
「そなたは?」
「王太子殿下、王太子妃殿下には初めてお目にかかります。サトルツィ侯爵が娘ミランダと申します。」
ミランダ様は私たちの側まで来ると淑女の礼を取ると、レイモンド様の顔を見つめまた王太子殿下へと向きを変えた。
「何か言いたい事があるようだね?今日だけは許そう。気になる事を言ってごらん」
「殿下のお心に感謝し申し上げます。何故、公爵子息であるレイモンド様と男爵令嬢のエバァ様の婚姻が認められたのでしょうか。」
「それは・・王家が認めたから。では、納得出来ない様だね?」
ミランダ様は殿下の圧に一瞬ひるんだが、グッと踏ん張った。
「もちろん王家がお決めになられた事に意義を申す訳ではございませんが・・高位貴族には高位貴族が嫁ぐ。暗黙の了解というものが存在すると伺いました。」
ふむ、と頷くと殿下は妃殿下へと目線を落とす。
妃殿下はそれを受け取り
「サトルツィ侯爵令嬢。確かに高位貴族に高位貴族が嫁ぐと言うのは間違いではありません。高位貴族には外交や公務が下位貴族とは比べられない程ありますから、マナーや言語などの教育、教養が必要となる為です。ですが、下位貴族でも教育、教養が備わっていれば問題ないと思いますが?」
妃殿下の言葉は尤もだと、誰もが納得をした。
そして追い討ちをかけるように
「私も一昨年、お二人の様子を学園で見ていましたが、サトリツィ侯爵令嬢よりもシモンズ男爵令嬢のがマナーも教養も上だと感じました。」
口調は優しいが言葉は厳しい妃殿下に、ミランダ様も口を結んでしまった。
「少し昔の話をしても良いだろうか」
突然殿下が話始め、空気の流れが少し和らいだ。
ミランダ様はアラン様が駆け寄り支えている。
「今から十五年ほど前に起きた、カントー橋崩落事故。あの事故に一組の貴族夫婦が巻き込まれた事は皆、知っているよね?」
会場からざわめきが起こる。
その事故は教科書に載る程の大事故で、まだ新しい橋が崩れた事で謎をよんでいる。
「あの事故で亡くなられたのは今は亡き、ハーバッセン公爵とその夫人。海外の外交から五年振りに帰った夫妻で、その報告を兼ねて王宮へ来た帰りに起きたんだ。」
「殿下!確か亡くなられた貴族の名は伏せられていたと、そう教科書にも載っておりましたが・・」
一人の生徒が声をあげると殿下は、 良く勉強しているね。 と褒められた。
「当時貴族の名を伏せたのは、その夫妻に一人の子がいたから。その子は海外で産まれた為、この国では知られていなかった。本来なら外戚へ引き取られるはずであったが、一組の貴族夫婦が後ろ盾になると声を上げた。」
殿下の言葉で更にざわめきは大きくなり、私は何故か震える身体を止める事が出来なかった。
どこか昔の記憶で、優しい声で私を呼ぶ一組の男女。
(あれは・・私の両親だったの?)
勘の良い人たちは私を見てくる。
レイモンド様はそんな視線から私を守る様に抱きしめる。
「その子が学園を卒業し、婚約者と婚姻を結んだ暁には爵位がその子に戻る手筈になっていてね」
私は恐る恐る、殿下の顔を見上げた。
そして、殿下と目が合った瞬間
「エバァ・シモンズ・・いや。エバァ・ハーバッセン。君は公爵令嬢なんだよ。」
「 !! 」
殿下が発したその瞬間、あれほど騒めいていた会場が 静まり返った。
誰も想像していなかった事実に誰もが言葉を失う。
「レイモンドとエバァ嬢の婚約が、王家も認めるのはそんな理由からだよ。
それと、サトルツィ侯爵令嬢。さっき君、高位貴族には高位貴族が嫁ぐ と言ったよね?」
「・・・」
「君の言葉を借りると、レイモンドにはエバァ嬢以上の相手はいない事になる。貴族の上は皇族になるからね」
ミランダ様は立つ事がやっとの様で、アラン様とサトルツィ侯爵家の人が支えている。
私の側にはスマとゾルド様も駆け寄って来た。
「エバァ様、大丈夫てすか?」
スマが心配して声をかけてくれた。
それを見た殿下は何かを思い出したように
「そうそうスマエラ嬢。君の父上である辺境伯からも、そろそろ領地に戻るようにと言伝を頼まれた」
「「「「 !!!!!!」」」」
エバァと同じ男爵位だと思われていたスマが、これまた高位貴族である辺境伯令嬢だと分かりパーティーどころでは無くなった事は・・
後日、パーティを台無しにした詫びとして記念品が卒業生に配られた。
もちろん王家の、王太子殿下の懐からの出費だ。
卒業後スマは一度領地に戻る事になり、何故かゾルド様も一緒に着いて行った。
ケンブリット家としてはエバァの侍女兼護衛にはスマ以外考えられず、ゾルド様に何がなんでも連れて帰ってくる事を念押しされていた。
私は公爵夫人と義姉さまの三人で、結婚式の準備で忙しい日々を送っている。
「新居は何処にするか決まったの?」
優しい義姉さまは、大きなお腹を優しくさすりながら聞いてきた。
「はい、義父様と義母様がハーバッセン邸を管理してくださっていて、そちらに住もうかとレイモンド様と決めました」
そう、亡き両親が住んでいた屋敷をケンブリット公爵様が買取り、管理していた。
そして今回、レイモンド様と私への結婚のプレゼントとして渡してくださったのです。
「貴女にも子が産まれる。これで安心してレイモンドもエバァの、ハーバッセン家に婿入りする事が出来る。なんて幸せな事でしょう」
「「義母様・・」」
今回の事で私がどれだけ恵まれていたか、周りに愛されていたのかを改めて知らされた。
亡き両親の事も、あれから色々な方たちに聞かせて頂き、遠かった存在がとても近くに感じた。
そして一番はレイモンド様の愛が、小さな頃から変わらずに注がれていたと再認識した。
「エバァ、こちらにおいで。身体が冷えてしまう」
差し出された手に迷いなく繋ぐ。
こうして私は半年後にレイモンド様と結婚します。
最初はとても短いつもりで書き始めたのですが、そこそこ長くなってしまいました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。