差がない人々平和の証
『貧乳は揉めないから平和主義者』
そんな事を言う人がいた。
上手い事を言うなと思ったりもしたけれど、だとすると男性は平和主義者とならないだろうか。
むしろ戦争を起こすのは男性であり、ちっとも上手い事を言っていないのかもしれない。
でも筋肉があって胸囲のある男性の方が、力で物事を解決する事を考えている。
俺みたいなヒョロ男だと、平和主義者にならざるを得ないからね。
となるとやっぱり貧乳の方が平和主義者という事になる。
弱ければ戦おうなどと思ったりはしない。
ならば貧乳は揉めなくて、そういう人たちばかりの世界はやはり平和なのだろうなぁ。
第二大陸に渡ってきた次の日、俺たち秋葉原フォウはボスを連れて冒険者ギルドで情報収集をしていた。
「第二大陸からは、冒険者カードをアイテムボックスから出さなくても、コンソール画面で操作が可能になります。それと戦闘時、ドロップアイテムの自動回収もできるようになりました」
いかにもゲームのバージョンアップみたいな感じだな。
ユーザーからの不満を汲み上げて、何かしらの対応がされたのだろう。
より快適にゲームができないと、ユーザーは離れていってしまうから。
そんな流れか、他にも思っていたのとは違う仕様があった。
「ギルド砦争奪戦は、この第二大陸では行われません。全てのギルドが土地を購入して砦を建てる事が可能になっています。この世界の本拠地をこの第二大陸に持てる訳ですね」
正直ずっとギルド砦の争奪戦が続くのは辛いと思っていた。
そんなものが続くようなら、欲望ズメンバー全員を鍛えていかないと上には行けない。
そして人数的にも増やす必要が出てくるだろう。
ぶっちゃけそれはやりたくないと思っていた。
尤も俺たちが本気で参加すれば、そのシステムが続く方が楽ではあるんだけどさ。
「だったらどうやって俺らは第三大陸に行けばいいんだ?」
「冒険者の話によると、ダンジョンの攻略によって行けるようですよ。他にも我が冒険者ギルドに、壱兆円の寄付をしていただければ連れて行く事は可能です」
「壱兆円って一体いくらなのだ?よく分からないのだ」
いや奇乃子よ。
壱兆円は壱兆円だぞ。
しかしこれは結構大変かもな。
金の岩山でも一日十億そこそこが限界だった。
この第二大陸なら倍稼げるとしても五百日はかかる。
一年以上もセコセコと金を稼ぐくらいなら、おそらくレベルを上げて真っ当に第三大陸に渡った方がいいだろう。
おそらくこの壱兆円云々は、課金者救済をリアルにしたものに違いない。
とにかくそんな訳で俺たちは、まずはギルド砦を建てる土地を手に入れようと考えた。
『妖凛。昨晩この大陸を廻ってもらったけど、何処か良さそうな場所はあったか?』
俺は第二大陸でも全ての町に直ぐに行けるように、妖凛にあらかじめ全ての町や村を廻ってもらっていた。
『タマー!』
『この始まりの草原から西に二百キロほど行った所に、楓の綺麗な公園があるそうですよ。そこだと第一大陸の砦に似た場所だからいいんじゃないかって言ってます』
よく『タマー!』と聞いただけでそれだけの情報を読み取れたな。
流石は姫ちゃん。
なんてね。
一心同体なのでそれくらいは読み取れば直ぐに分かるか。
『別に読み取ってはいないですよ?妖凛様の言葉をちゃんと理解しているだけですw』
『マジかよ!?』
タマーという言葉にそれほどの情報量があるのか。
姫ちゃんもだけれど妖凛も恐るべし?
何にしてもまずは砦だな。
「第二大陸には楓の公園ってエリアがあるそうだ。そこなら今までと似たような環境に砦を作れそうだけれどどうする?」
「楓砦はみんな気に入っていたからな。いいんじゃねぇか?」
「俺も賛成なのだ!真っ赤な秋に絡まれるのだ!」
奇乃子よ、それを言うなら『絡まれる』ではなく『囲まれる』だよ。
絡まれてどうするんだ。
なんて一瞬思ったけれど、楓砦には蔦が絡まって赤くなっていたか。
あながち間違いとは言えないようだ。
「じゃあ見に行こうぜ?」
「どうやって行くのだ?」
「何処にあるのか調べるの‥‥」
「いや大丈夫だ。空いてる時間に行ってきたから、瞬間移動で連れていける」
「もうツッコミは入れないのだ。俺は驚かない事にしたのだ」
「俺もだ。真面目に考えるとやってらんねぇよ」
いやいやみんな慣れてきたようで嬉しいよ。
でもできればスルーできる所まで行ければ完璧だ。
そんな訳で俺たちは、楓の村まで瞬間移動した。
村に一度入ってから、俺たちは砦建設に良さそうな場所を探した。
楓公園を歩くと、確かに楓砦に似た風景だった。
「とっても綺麗なのだ!」
「それにしても不思議なのです。どうして楓はいつも紅いのでしょうか?」
「うん‥‥それ私も思っていたの‥‥」
そりゃこの世界はゲームをモデルに作られているから‥‥。
と言って分かるのは想香くらいか。
想香には一応十四年分くらいのみゆきの記憶がある。
その中に日本で暮らしていた頃の記憶はないけれど、日本を思い出したりした記憶はある訳で。
ハッキリとは言えないけれど、十四年の間に少しくらいはゲームの事を思い出したりもしていただろう。
なんせ異世界生活そのものがゲーム世界みたいだからさ。
この世界はその要素がとにかく濃いと感じる。
「あの辺いいんじゃねぇか?周りに建物もねぇし、村にも割と近い。そして景色は抜群だ」
「おお!俺も賛成なのだ!丁度建物が立てられるように整地されているようなのだ」
「本当ですね。どうして此処だけ平地になっているのでしょうか?」
「もしかしたら別のギルドが此処に砦を築いていたのかもしれないな。でも必要が失くなって取り壊したか」
この第二大陸に来てから町の中なんかを歩いてみて思った事がある。
それは魔力が飛び抜けて強い者がほとんどいないって事だ。
ギルド職員の話では、『この世界の本拠地をこの第二大陸に持てる』という事だった。
つまり此処を拠点として、第三大陸以降でも活動が可能なんだと言っているように思えた。
でも実際は違う。
こうして砦を取り壊し、次のステージに行っているギルドもあるようだ。
それはほとんどが第二大陸へは帰って来ないという事。
ギルド職員の言う『この世界』というのは、もしかしたら第二大陸だけを指すのかもしれない。
ならば砦を建てても住む期間は短いかもな。
そんな事を思ったりもしたけれど、結局俺たちはこの場所に砦を建てる事にした。
第三大陸に行ってもここの砦を使う可能性は低いけれど、欲望ズみんなの事を考えればおそらく必要になりそうだからね。
すぐに隣のエリアにある町の商人ギルドで土地売買の契約をして、俺たちは再び戻ってきた。
「じゃあサービスだ。この砦は俺が建ててやる」
「‥‥」
「‥‥」
よしよし、だいぶスルーできるようになってきたな。
俺は建築の魔法を発動して砦建設を始めた。
形は楓砦に似せるか。
別にクリスタルの部屋は必要無いし、大浴場なんかを作っておくのもいいだろう。
トイレも多数用意し、みんながゆったりできる応接室なんかも欲しいな。
戦闘は一応考えなくて良さそうだから、その分個人の部屋を増やそう。
俺はそれなりに楽しんで砦を建てていった。
夕方までには建築が終わった。
みんなにはそれまで、移動用のガゼボでくつろいでいてもらった。
「終わったの?‥‥」
「まあな」
「これが新しい僕たちの家ですか。トイレはちゃんとシャワー付きですよね?」
「そうしてるよ」
正直俺たちはトイレに行く必要がない。
排泄物は自動で異次元処理されるからね。
でも別にできない訳じゃない。
少女隊はトイレが好きだったけれど、妖女隊もそうなるのだろうか。
別に似てほしいと思った事はないけれど、なんとなく似てきているような気もするからな。
流石に女性にそんな事は聞けないけれどね。
デリカシーがなさすぎるだろうし。
「ゆっくりできるトイレは重要なのだ!俺はリラックスしながらの排泄が好きなのだ!」
「私も好きなの‥‥」
「僕もです!みんなナカーマですね!策也タマはどうですか?」
デリカシーのないのはこいつ等だったな‥‥。
「ナカーマだよ‥‥」
「それは良かったのです!」
こいつらを女の子だと思ったら負けな気がする。
気にしないようにしよう。
砦が完成した事は、直ぐにボスから欲望ズのみんなに伝えられた。
早速メンバーは第二大陸の『始まりの草原』に集まり、俺が皆を楓公園へと連れて帰ってきた。
「此処が新しい砦ね」
「町の近くの方が便利でええけど、瞬間移動魔法が使える人も増えてきたしまあええやん」
「結構広くて遊べそうー!」
町が近くに無い場所なので若干不満の声も聞かれたけれど、概ねメンバーには好評だった。
「それじゃ部屋は早い者勝ちな。それで部屋を決めたら応接室に集合してくれ」
「了解!」
そんな訳でみんな思い思いの方向へと散っていった。
ちなみに俺たちは既に部屋をキープしてる。
建てたのは俺だし、メンバーもその辺りに文句はなさそうだった。
さて部屋を決め、俺たち欲望ズは応接室へと集合していた。
「集まってもらったのは、明日からどうするか決める為だ。ギルドで聞いた所、第三大陸へはダンジョン攻略が必要らしいし、レベル上げ等も必要になるだろうからな」
正直第二大陸に来て、またゲームが始めからスタートするような形となる。
最初の時ほど苦しくはないと思うけれど、普通にやれば数ヶ月、或いは数年を要する事になるのだろう。
「それなんだけど、ほとんどみんなの意見として、しばらくは休みにしてもらいたいんだけど。第二大陸がどんな所か廻ってみたいし、砦の戦いでみんな疲れてんよ」
「確かに休みも必要か。それで期間はどれくれぇだ?」
「本当は一年くらい欲しい所だけど、とりあえずは一ヶ月くらいか?」
一ヶ月の休みか。
確かに普通の人ならそれくらいは欲しいだろう。
休みって意味だけじゃなくて、これから此処でやっていくのだからどういう所かも知っておきたい。
でも先を急ぎたい俺としては、一ヶ月も無駄にはしたくないなぁ。
まあでもそもそも神の仕事は百年以内にやる訳で、そこから考えると大した期間ではないのだけれどね。
「俺はできれば直ぐにでも第三大陸を目指したいのだ」
「俺もそうだけど、みんなが休みてぇって言うなら無理強いはできねぇよな。分かった。とりあえず一ヶ月は自由行動にしよう」
その通りか。
俺の目的にみんなを無理に巻き込む訳にもいかない。
そんな訳で一ヶ月の間は、皆自由に行動する事に決まった。
次の日俺たちは、五人で色々な町に行ってみた。
どこも平和で楽しそうな町ばかりだった。
異世界にありがちなトラブルも何もなく、逆に違和感を覚えるほど。
カラオケができる店や、ギャンブルなどの娯楽もあり一日本当の意味で楽しめた。
なんというか、生きていた頃の日本の休日というか、ぶっちゃけそれ以上だ。
この世界は一体なんなんだろう。
いやこの世界と言うか、第二大陸に限った話か。
とにかく幸せを感じられる。
正に冒険者の天国だ。
冒険者ギルドに行けば、第一大陸よりも割のいい仕事が沢山あるし、金に困るような事もない。
娯楽は揃っているし、ギルド戦なんかもないからか、冒険者同士の揉め事がまるで見られない。
冒険者のレベルもマスタークラスに近い所からマスタークラスの者が殆どで、レベル百五十以上のドラゴンクラスは極一部。
それもほとんど百五十を超えた辺りの者たちだ。
みんながそこそこ高いレベルで、大体横並びになっている。
冒険者は人々から敬意を持って見られているし、自ずと冒険者もそのように振る舞う。
『揉め事は同レベルの者同士でしか発生しない』とは云うけれど、それは低レベルの話だ。
どちらかというと『金持ち喧嘩しない』に近いのかな。
しかも格差の無い社会だから、誰かが誰かに虐げられるような事もない。
総中流社会といったような世界に感じられた。
日本の社会には、大卒、高卒、中卒と色々な人々がいる。
だから上下関係以外に、心の上下関係も生まれたりしていた。
しかしこの世界はみんなが中卒なんだ。
高卒や大卒にあたる冒険者はみんな、第三大陸へと渡って行くのだろう。
ここは人生をただ楽しみたい人にとっては、最高の場所になっているのだな。
それだけに少し危険を感じる。
この世界にいたら『自堕落生活まっしぐら』になりそうだ。
自堕落とは少し違うけれどね。
努力してきた人が、早めのゴールにたどり着いた世界。
俺や妖女隊はもっと上も目指せるし、役割を持っているからそうはならないだろう。
だけれどボスや奇乃子は、こんな生活を知っても先へ進もうと思うのだろうか。
此処で十分だと思ったりはしないだろうか。
もう上を目指す必要はない。
或いはこれ以上は辛い。
そんな気持ちが少しでもあれば、きっとここでの生活は最高のものとなるだろう。
平凡な幸せが此処にはある。
これで良いと思える人は、きっと大勢いるのだろうな。
ただしもしも此処で終わるようなら、神になどなれない。
果たしてボスは?
或いは欲望ズのみんなは?
きっと答えは三日以内にでると、俺は漠然と感じていた。
次の日の朝、奇乃子は会うなりこう言ってきた。
「もう十分楽しんでリフレッシュしたのだ!俺はダンジョンに行きたいのだ!」
奇乃子が男だったら、一番の神候補だったに違いないのにな。
本当に残念だ。
でもこの子は本気で男になろうとしている。
なれるのかどうかは知らないけれど、その可能性があるのならその可能性の分だけは期待ができそうだ。
ならば俺は全力で応援するしかないだろう。
「奇乃子が行くってなら、俺も行くしかねぇよな」
そして現在本命のボスも、予想よりも早く動き出す決心をしてくれていた。
ボスは実際の所強さも一番だろうし、予想よりも早かったけれどこうなると思っていたよ。
「私はあと一ヶ月は遊びたいの‥‥」
「僕はそんな我儘はいいませんよ。だけど二十八日くらいはカジノでお金を増やしたいのです」
ただ身内は完全にダメダメでした。
まあ冗談だろうけれどね。
「お前らはいつも遊んでいるようなもんだろ。奇乃子たちがやる気なんだから付き合ってやろうぜ」
「策也ちゃんよく考えるの‥‥この大陸で私の力は不要なの‥‥」
「そうです。こんなにイージーモードのステージなら、策也タマ一人で十分なのです」
冗談やなく本気やったんかーい!
とはいえ一理はあるな。
レベル上げをするにもやるのは奇乃子とボスな訳だし、狛里や想香がいなくてもなんとでもなる。
こいつらも遊びたいようだし、此処は俺だけで頑張るか。
「分かったよ。じゃあお前らは遊んでいていいぞ。俺が奇乃子とボスのダンジョン攻略に付き合ってくるさ」
「ちょっと待つの‥‥」
「嘘ですよ。ちょっと言ってみただけなのです。放っておかれるとなんだか寂しいじゃないですか!」
まったくどっちなんだよ。
天邪鬼かい!
「それで欲望ズのメンバーはどうするんだ?」
「一応メッセージはしておいた。でもこの時間に来てねぇってのはそういう事だろう」
なるほどね。
やはりこの二人だけって事か。
こうなる気はしていたんだよなぁ。
そんな訳で結局、五人でダンジョン攻略に向かう事になった。
まず行くのは灼熱砂漠エリアにある灼熱ダンジョンだ。
冒険者ギルドで情報収集した所、この辺りが丁度奇乃子やボスのレベルに合っていると判断した。
「奇乃子と俺だけじゃ‥‥そのうち死ぬぞこりゃ?」
「策也たちも参戦するのだ!きつすぎるのだ!」
「大丈夫大丈夫!死んでも生き返らせてやるから。それに俺たちが参加したらお前らやる事失くなるだろ?」
「そんな訳ねぇだろ!手をかせ!」
「この程度、楽に倒せるだろ‥‥」
まったくしょーがねぇなぁ。
「じゃあ妖女隊、参戦してやってくれ」
「分かったの‥‥」
「この程度の火トカゲなんて倒しても面白くないのです。でも仕方がないので助けてあげます」
火トカゲとはサラマンダーの事ね。
炎のミニ竜と呼ばれる事もあるけれど、分類すると火の精霊になる。
竜と言われるだけあってかなり強いけれど、奇乃子やボスでも一対一なら割と楽に倒せるモンスターだ。
「楽じゃねぇよ!」
どうして楽に倒せないかなぁ。
やはりモンスター相手の戦闘経験が圧倒的に少ないか。
或いはサラマンダーのように空を飛ぶモンスターは、倒すのが難しいという事かもしれない。
妖女隊が参戦すると、一瞬で全てのサラマンダーがドロップアイテムへと姿を変えていた。
「えっ?」
「サラマンダーがいなくなっちゃったのだ‥‥」
だからやる事が失くなるって言ったのに。
「分かったか?次からはお前らだけで頑張れよ!」
「えっ?お、おう‥‥」
「驚いちゃ駄目なのだ‥‥驚かないと決めたのだ‥‥」
そんな訳で此処からは奇乃子とボスが本気で頑張ってくれた。
何度か死んだけれど、死ぬと強くなる法則ってあるよね。
二人は順調にレベルを上げていった。
ちなみに死んだから強くなったという訳ではなく、死んで死にたくないという気持ちが実力以上の力を発揮させていたようだね。
その辺り考えると、わざと死んでもらう作戦はどうやら使えないようだ。
ちょっと残念。
さてこのダンジョンは割と深かった。
地下十五階まで来た所で流石に体力が尽きたか。
「ど、ど、どうすんだ?俺はもう戻る事もできねぇぞ‥‥」
「こんな所に、休める場所なんて、ないのだ‥‥」
こういうダンジョンの攻略は、普通一日では終わらない。
最下層まで行くなら、ダンジョンの中で何日か過ごす事になる。
仕方がない。
闇の家は決められた人しか入れないから、俺は移動用の家を出した。
「なんだ?突然家が現れたように見えたが‥‥」
「そのままなのだ。家なのだ」
「コレは大きなテントみたいなものだ。今日は此処で休むぞ」
「どう見てもテントじゃねぇ‥‥」
「考えちゃ駄目なのだ。テントなのだ‥‥」
狛里と想香は走って家に入っていった。
その後に奇乃子とボスが、足を引きずるように入ってゆく。
今日はよく頑張ったよ。
実際レベルもそこそこ上がっているだろう。
俺は家に入ると、ドアを閉めて結界を作動させておいた。
移動用の家の結界は、レベル三百以上のモンスターの攻撃にも耐えられるようにしてある。
何処でも安心して休める家に進化していた。
移動用の家に入ると、レンチンで食えるように用意してある冷凍料理をドンドンみんなに振る舞った。
「なんでこんなにウメェもんがすぐに食べられるんだ?」
「どうやらあの箱が秘密の鍵なのだ」
「凍らせた料理を温めてるだけなの‥‥」
「そうなのです。料理はあらかじめ作っているので、正確には直ぐにできている訳じゃないのですよ」
そうそう、日頃から冷凍食品作りに励んでいる苦労の賜物なんだよ。
「なんでもいい!ウメェならガンガン食うぜ!」
「俺も食うのだ!エネルギーを補給するのだ!」
アレだけ戦った後にこれだけ食えるか。
疲れている時は食事が喉を通らないとか云われているけれど、あんまりそういう記憶はないんだよなぁ。
やっぱり疲れると腹が減るよね。
そんな感じで奇乃子とボスには移動用の家を満喫してもらった。
次の日も朝からダンジョン攻略が続く。
初日よりも戦い方に慣れ、二人のコンビネーションも徐々に固まってきていた。
「やっぱり相性がいいな。どちらも相手を弱らせてからトドメを刺すスタイルだし」
ただしこのダンジョンは奇乃子には若干相性が悪いか。
ファイヤーエンブレムの効果が今ひとつだからな。
此処は灼熱ダンジョンで、炎系のモンスターが多い。
水系魔法か氷系魔法が使えればもっと楽に戦えるんだけどな。
「そろそろ俺様の必殺魔法を使うのだ!」
ほう、実はちゃんと用意していたのか。
やるな奇乃子。
「ライトニングアローエンブレム!」
だからなんでエンブレムなんだよ!
その答えは今ハッキリと伝えられたかと思うけれど、とにかく雷が鷹のような形となってモンスターを貫いていった。
分からない人はアローエンブ‥‥で検索をかけてくれ。
ちなみにこの魔法は武器の補助を得て発動しているので、威力が大きくなっている。
「やるな奇乃子!俺も負けてはいられねぇな。カースエンブレム!」
お前もエンブレムかよ!
今になってグランプリを流行らせようとしてるのか?
つかそもそもエンブレムが、どう相手にダメージを与えるのかよく分からない。
ただなんとなく語感に優れているだけだろ。
というかこの魔法も闇が鷹を象るのかよ。
闇の鷹はモンスターを包みこんで、まとめて呪いをかけていた。
「動きが遅くなれば俺でも倒せるのだ!奇乃子の鞭は痛いのだ!」
奇乃子は呪われたモンスターを次々と斬って捨てていった。
まあ別に魔法の名前なんてなんでもいいんだけどさ。
自分が魔法を想像し創造しやすければそれが最良。
何にしてもこのダンジョンは既に手の内に入れたな。
最初は格上のダンジョンだったけれど、今では完全に超えている。
二人とも魔力レベルを百六十に乗せてきているし、このダンジョンでまだまだ上がりそうだ。
この日は前日よりも強力なモンスターが出てきていたにも関わらず、地下三十五階まで進む事ができていた。
一体何階まであるのかは分からないけれど、おそらく明日には攻略できるのではないだろうか。
二人を見ているとなんとなくそのように感じた。