最強のダンジョン
俺は夢を見ている。
海の中を漂う夢だ。
日本で暮らしていた頃を思い出すと、それはただ瞼の裏の向こうの世界を見ているに過ぎないと分かる。
だけれど、それは現実に起こっていた。
最初は、北都尚成としてイスカンデルに行った時。
次にアルカディアへ転生した時。
そしてアルカディアの俺は、それ以前に木花咲耶姫の洞窟へ行った時にも経験している。
その後再び、木花咲耶姫の洞窟で見た。
夢と現実、現世と異世界。
或いは葦原中津国と高天原が結ばれる時、人は夢の世界を通る事になる。
自分たちの魔法で自分たちの町を壊してしまった冒険者たちは、どうやら町の復興の為に強制的に働かされているらしい。
つまり俺たちの事は後回しになっていた。
とはいえ第五大陸の冒険者は皆優秀だ。
おそらく一週間もあれば町は復興されるだろう。
そしてまた、冒険者たちは襲ってくるのか。
さてしかし、今回の件で俺たちには風が吹き始めていた。
というのも、中心の町が壊滅状態になった事で、多くの住民がにっこりタウンへの引っ越しを希望してきたのだ。
俺たちが町の人たちの救助活動をした事も、理由の一つとなっているみたいね。
それ以前に、町に被害が出た原因の一つがこちらにもあるんだけどさ。
その辺りの事も狛里は当然人々に話した訳だけれど、それでも引っ越しを希望する者は後を絶たなかった。
どうやら既ににっこりタウンで暮らし始めている人が、その良さをみんなに触れ回っているらしい。
安全という意味では、この町は最強だからな。
まだ町とは呼べない状態だけどさ。
とにかくそんな訳で、俺たちは新たな住人の受け入れに忙しかった。
なんとか落ち着いたのは、中心の町が壊滅してから一週間後の夕方だった。
「悪意を感じる者が何人かいる。一応そこはケアしておいてほしい。リストは後で渡すから」
「分かった。俺も何人かは感じている。おそらく問題はないだろう」
流石は左之助だ。
一般人の悪意くらいは見抜けるか。
ただその悪意もこの町で上手くやってやろうって程度で、町を壊そうとかそういう類のものではなさそうだ。
あくまで俺の勘であり、左之助の判断だけどね。
何にしてもこれで、にっこりタウンは小さいながらも一応町としての体をなす。
のまどたちがまだ町の治安維持をしなければならないけれど、多くが自由になった。
問題は、冒険者ギルドが再び攻撃を仕掛けてくるのかどうか。
俺はその可能性の中で、何時何が起こっても対処できるように準備をしていた。
更に一週間が過ぎた。
しかし、既に中心の町が復興しているにもかかわらず何事も起こらなかった。
「結局今年中に冒険者が攻撃を仕掛けてくる事はなかったな」
「きっと新年を祝うのにそれどころじゃないんだよ」
へぇ~。
「アーニャン、この世界でも正月は祝うのか?」
「うん、正月とは言わないみたいだけど」
やべっ!
正月は日本でだけの言い方なのか。
俺が日本から来たってバレるんじゃん。
別にバレたからと言って、特に何かがある訳でもないんだけどね。
しかしアーニャンは、その辺り全く気にしている様子はなかった。
「だけど、それだけじゃ無いみたいだ」
そう言いながらリビングへと入って来たのは左之助だった。
「どういう事?」
アーニャンが聞き返すと、左之助はソファーに座りながら話した。
「町の者たちの話によると、この第五大陸では『住民こそが上級民』なのだそうだ。だからその民が本格的に住み始めたこの町を、冒険者が攻撃する事は不可能という事らしい」
なるほど。
つまりこのにっこりタウンにいる限りは、或いはここで生活する限り、俺たちは冒険者に襲われる心配が無いって事か。
或いはここで大人しく生活する分には、冒険者ギルドも見逃してくれるのだろう。
そうなれば俺たちが世界に害を及ぼす事も、何かを変えてしまう事もない。
でも、ならばそろそろ俺たちは行くべきか。
次のステージがあるからな。
「だったらそろそろ行くの‥‥」
「そうなのです。僕は冒険を欲しているのです」
そう言うのは、この所ソファーでゴロゴロとグータラ三昧を満喫していた妖女隊だった。
「そうだな。アーニャン、左之助。第一大陸にあるというそのダンジョン、出てくるモンスターとか難易度的にはどんな感じなんだ?」
「モンスターは、レイドボスが複数って所ね」
「そして進めば進むほど、その数は増え強さも増してくる」
なかなかレベル上げにも美味しそうなダンジョンじゃないか。
尤もその程度じゃ、レベル上げにも限界がありそうだ。
奇乃子ももうレベルが上がらないかもしれない。
「だけど‥‥。私たち冒険者が入れる所は制限されていて、その先には行った事がないわ」
「そこから先は決められた者のみが進める場所。霧雨や黒川など、一部の者しか入れなくなっている」
「ほう。その先の情報ってのは無いのか?」
ゲームの頃はまともに思い出せないけれど、洞窟の先には別世界が広がっているとかって話だったかなぁ。
「先には第六大陸があるんじゃないかっていう人もいるわね。でも『奥にはボスがいる』ってのが冒険者ギルドの話だわ」
「科学技術だったかな?アーニャンは以前そんな事も言っていたよな?」
「洞窟の奥が、そんな感じに見えたってだけよ」
「どういう事なんだ?」
科学技術だと?
洞窟の奥がそのように見えた?
ボス部屋が自動ドアになっていたとか、そんな感じだろうか。
「ダンジョンの奥が、この世界の技術では作れそうにない構造をしていたってだけよ。私が転生する前に住んでいた世界に行くような、そんな感じに見えただけ」
「そうか」
まあ日本人が作った世界だろうし、そういう場所があっても驚きはしない。
だけどそんな場所があるのなら、その先は気になるな。
もしかしたら日本に通じる道があるのかもしれない。
いや、だからと言って俺はもう日本に戻りたいとは思わないんだよな。
大切なモノの多くは、もうそこにはないのだし。
それに俺、もう神だし。
だいたいその神である俺でも、世界間は自由に行き来できないのだ。
そんな事ができる所があるはずもないか。
「なんにしてもぉ~、町の方はもうなんとかなるわねぇ~。だったらそのダンジョン、そろそろ攻略に向かいましょう~」
天冉の言う通りだな。
RPGなら、次は迷わずそこに行くはずなのだ。
ここがゲームモデルの世界である以上、俺のゲームクリア条件はきっとその先にある。
そんな訳で、町の事はのまど民たちに任せ、俺たちは第一大陸のダンジョン攻略へと向かうのだった。
ダンジョンの名前は、『最強ダンジョン』だそうだ。
つまりここが、最後にクリアするべきダンジョンだって事だろう。
攻略に向かうのは撫子を除くいつものメンバー。
完全ににっこりタウンを、のまど民たちだけに任せる訳にもいかないしね。
そして一寸神も置いておく。
何かあれば直ぐに戻ってこられるように。
「戦闘は主に男性陣に任せるわよぉ~」
当然だ。
俺たちの目的はただダンジョンを攻略するだけではない。
神候補である男性陣のレベルを上げるのも重要なのだ。
「ならば俺も頑張るのだ。俺は男なのだ!」
そうだな。
奇乃子はいずれ、男になる魔法を使えるようになる気もする。
ならばレベルは上げておいた方がいいだろう。
「左之助も頑張ってね」
「俺もか。だが、このダンジョンでレベルを上げる余地はもうなさそうだがな」
話によると、奥にはダンジョンボスがいる可能性もある。
流石に最強ダンジョンのボスなら、レベルが上がるだけの経験値は貰えるはずだ。
左之助もきっとレベルを上げられる。
なんとなく俺はそう感じていた。
「それでどこからダンジョンには入るんだ?」
俺たちは初めの村にある、教会の祭壇の裏へと来ていた。
しかしそこに入口らしきものはない。
まあそんなものがあったら、ここへ来る者たちの誰かが見つけているはずか。
強力な魔力も感じないし、魔法で隠されているって事もなさそうだ。
と言うか、俺たちを待ち構えている冒険者の刺客がいるのではないかと思っていたんだけれどな。
どうやら冒険者たちも、そこまで暇ではないのかもしれない。
そう思っていると、アーニャンが何やら魔法を発動した。
これは瞬間移動魔法。
町にしか飛べないけれど、ダンジョン内にはセーブポイントもあり、町以外にも飛べる事は分かっている。
「このダンジョンは、町への瞬間移動と同じように、一度入った者は再び入る事が許されているの。だから魔法を発動すると‥‥」
何も無いと思われた祭壇の裏に、深淵の闇のような黒い穴が現れていた。
いや、ここは祭壇の裏であって別の場所か?
祭壇の裏からこの場所に移動してきたみたいだな。
「この中に飛び込んでね。術者が入ると閉じられるから、私が最後に入るわよ」
どういう原理かはわからないけれど、ここは木花咲耶姫の洞窟のような場所と考えられそうだ。
「それではまず、僕から行きます」
別にアーニャンを信用していない訳ではないけれど、流石に深淵の闇のような所に飛び込むのは躊躇される。
しかしそこに、想香は迷いなく飛び込んだ。
大丈夫そうだな。
闇の住人ニョグタである妖凛の意識が、大丈夫だと伝えてきていた。
想香がアッサリと飛び込めたのは、冥凛の意思もあるのだろう。
続いて俺が飛び込んだ。
後はもう分からないが、おそらくみんな順番に飛び込んでいるのだろう。
俺は海を漂うような波の中を、ただただ下へと落ちていった。
これは夢だろうか。
以前にも感じた事のある波の中。
真っ暗だけど、目の前に何かが揺らいでいる。
これは、目を閉じた時に見える、瞼の裏側のような感じか。
俺は眠っている?
眠る事で通じる世界があるようだ。
なるほど。
眠りの中でイスカンデルに行っていた俺。
永遠の眠りの先にたどり着いたアルカディア。
夢の世界は現実であり、異世界へと通じる。
そんな中、俺は想香の声と、頭への痛みで我に返った。
「策也タマ!」
どうやら冒険者らしき者に、頭を剣でぶん殴られたらしい。
「ダンジョン内に来る時、少しだけ意識が飛ぶようなのです!」
そうか想香。
その隙を狙って冒険者がここで待ち伏せしていた訳ね。
でも最初に飛び込んだのが想香であり、次に飛び込んだのが俺で良かったな。
想香も俺も、マジックプロテクションが自動で発動する。
この程度の攻撃では、少しの痛みくらいしか感じない。
尤も痛みは調整しているので、どんなに体がボロボロにされても、少しの痛みしか感じないんだけどね。
俺の目の前では、想香が冒険者との戦闘を開始していた。
「いきなり襲ってくるなんて卑怯者のやる所業ですよ!お仕置きするのです!」
「ここでなら簡単に殺れると思っていたが、直ぐに反応してくるとは!」
「この女、並じゃないぞ!」
そりゃそうだ。
想香はレベルもお前たちより上だけれど、俺とほとんど同じ能力が使えるからな。
「想香はそいつらをやれ!俺はこちらに来る者を守る」
「オッケーボス!」
土筆や孔聞が死んだ所で、直ぐに蘇生できるんだけどさ。
次にやってきたのは狛里だった。
あ、この子は守らなくても大丈夫だな。
「死ねぇ!」
冒険者が剣で狛里に斬りつける。
しかし剣は、硬い狛里の頭に跳ね返されて、冒険者の腕が捥げていた。
「ぐおぉっ!いってぇー!」
ご愁傷さま。
「ん?私寝てたの‥‥」
「どうやらここで冒険者が待ち伏せしていたみたいだな。狛里も遊んでやってくれ」
「分かったの‥‥。遊ぶの‥‥」
「なめやがって!俺たちはこのダンジョンを庭にしてる上級冒険者だぞ!」
はいはい良かったな。
俺たちは世界を股に掛ける、神とその御一行様なんだよ。
おっと、この後にくる奴を守ってやらないと!
「あら、私眠っていたのかしらぁ~?」
「くそっ!上手く守りやがって」
「攻撃は阻止させてもらうよ」
危ない危ない。
天冉は不老不死だから攻撃されても問題はないだろうけれど、ダメージを受けたらキレそうだからな。
相手の為にもちゃんと守らないと。
俺たちを殺しにきている敵の事まで思いやるなんて、俺って優しいなぁ。
「ここで待ち伏せしていたのねぇ~」
「俺は次に来る者を守るから、天冉はみんなと一緒に‥‥」
「この相手にこの数だとぉ~、本気になっちゃうかもぉ~」
強さは天冉の方が上だけれど、敵は数が多い。
一霊四魂を使わざるを得ない状況になる可能性があるな。
「天冉は見ていてくれ‥‥」
「はぁ~い」
涼しい笑顔でそう言われると、なんかムカつくな。
おっとそんな事を考えている場合じゃない。
俺は次々にやってくる仲間を守っていった。
「いったい何なのだ?!」
「おっと!いきなりこの状況かよ」
「つまりピンチではないでしょうか?」
「俺も加勢する!」
「あらあら。やっぱり中で待ち伏せされていたのね」
アーニャンは予想してたんかい!
だったら先に言っておいてくれ。
まあでもまだまだこの程度なら、俺の敵にはなり得ない。
結局アーニャンがやってきて間もなく、冒険者たちはいなくなっていた。
半分以上は死んで教会へと飛ばされていたようだけど。
「楊ちん、こんな風になっているのならぁ~、先に言っておいてねぇ~」
「えっ、うん。言ってなかったかなぁ?ごめんなさい」
アーニャンも天冉に対しては素直です。
とはいえこれくらいなら楽勝か。
尤も、冒険者レベルが襲ってきてくれたから良かったけれど、この世界の神クラスが襲ってきていたらどうなっていたか分からない。
この先は慎重に行動した方が良さそうだ。
もうおそらく、この世界の神に俺たちの行動は見えているだろうから。
そんな訳で冒険者の刺客を退けた俺たちは、本格的にダンジョン攻略に乗り出した。
「この辺りわぁ~、既に開拓が済んでるのよねぇ~?」
「うん。倒したモンスターのドロップアイテム以外にめぼしい物はないわよ。ドロップアイテムも、階層が深くなるほど良い物が落ちるから、この辺りじゃ狩りもあまり美味しくはないわ」
ダンジョンのお決まりだな。
一階層目から強い敵が現れて、ドロップアイテムも美味しいなんて事はない。
「おっ!こりゃいきなり強そうなのが出てきたんじゃねぇか?」
土筆の言う通り、目の前にはレイドボスモンスターの中でも上位に入りそうな、ドラゴンのようなモンスターが現れた。
流石に最後の最強ダンジョン。
常識破りだな。
だけれどこれくらいなら、土筆たちが連携すれば勝てるだろう。
撫子もいるし‥‥。
って、今回撫子は来てないんだったな。
少し心配もしたけれど、土筆と孔聞が連携してアッサリとモンスターを倒していた。
二人とも更に強くなっている。
こういうゲームモデル世界は、レベルの上昇が早いよ。
なんか必死に強くなろうとしていたアルカディアでの頃が馬鹿らしくもなってくる。
それだけまわりも強い奴が多い訳だけどさ。
ただおそらく、このダンジョンが最高クラスだろう。
ここで上げられるレベル以上になろうと思えば、それは流石に難しいに違いない。
何にしても、全員ここで行けるところまで強くなってもらう。
俺たちはゆっくりと確実に、ダンジョンを進んでいった。
五階層まで来ると、レイドボス以上に強いモンスターが現れた。
もうどういうモンスターなのかも分からない。
名前はついているのだけれど、ドラゴンのようで怪獣のようで、おそらくゲームオリジナルなのだろう。
或いはこの世界独特のものの可能性もある。
だからどういう攻撃をしてくるのか、全く予想がつかない。
「アーニャン!こいつとはどう戦えばいいんでぇ?」
「ドカンとやっちゃえばいいよー」
「そんなんじゃ分かんねぇよ!」
まあな。
だけど多分、見たままの敵だと考えていいのだろう。
ただ厄介なのは‥‥。
「冒険者が集まってきているのです」
「だな」
全く、今度はモンスターと戦っている最中に襲ってくるか。
「モンスターと戦っている隙をつけ!」
「両方を相手にはできないはずだ!」
でもな、モンスターはお前らの味方でもなんでもないんだぞ?
「うわぁー!こいつら俺たちに襲いかかって来やがった!」
「違う!あっちに攻撃しろ!」
「ラッキーだぜ。冒険者が囮になってくれている!今の内に叩くぞ!」
「俺の魔法で動きを封じるのだ!調教してやる!調教してやる!」
奇乃子は優しいなぁ。
動きを一瞬止めたおかげで、冒険者たちもかろうじてモンスターの攻撃を回避できたみたいだ。
でもそんな冒険者を見逃す天冉ではない。
「ごめんあそばせぇ~。悪い人はレベルダウンの刑よぉ~」
つまり殺して教会送りって事ね。
冒険者は確かにレベルは高い。
そして数も多い。
でも烏合の衆だし、所詮はモブキャラなんだよ。
名もなき冒険者が、ユニークキャラの俺たちに勝てる道理は全くなかった。
強力になったモンスターは奇乃子たちが倒し、冒険者は天冉中心にみんなで教会送りにした。
「これで冒険者は全員倒せたかしらぁ~?」
「おそらくね。このダンジョンに入れる冒険者は限られているもの。これ以上はいないと思うわ」
これでようやく落ち着いてダンジョン攻略できそうだな。
そう思った時、ダンジョンの奥から再び冒険者らしき者が歩いてきた。
まだ残っていたか。
しかも今回の奴は少しレベルも高そうだ。
なんて思ったのだけれど、直ぐにその者が黒川だと気がついた。
「黒川?」
「お前たち、流石は俺に勝っただけはある。アッサリとここまで来たか」
こいつ、また俺たちの邪魔をしようってのか。
でも殺気は全く感じられなかった。
「また邪魔するの?‥‥」
「今度は僕たちも参戦するのです。瞬殺必至なのです」
「いや、ちょっと待ってくれ。俺は別に戦いに来た訳じゃない」
ほう。
戦いに来たんじゃなければ、どうしてこんな所にいるんだ?
単純に狩りにでも来ているのだろうか。
「じゃあなんでこんな所にいるんでぇ?」
最近土筆のキャラが江戸っ子になってきたな。
どこからそんな喋り方を仕入れたのやら。
「俺は単純に、このダンジョンの先に進む為に来ただけだ。そ、そうだ。この先のエリアは、一部の者しか進めないようになっているんだ。もし良かったら、俺が案内してやろうか?」
おいおい、黒川が一体どういう風の吹き回しだ?
あれほど第五大陸に行くのを止めようとしていた奴が、今度はダンジョンの先に進むのを手伝ってくれるというのか?
当然何か裏があるよな。
罠なのか?
でも今の黒川から、そのような悪意は感じられない。
何か狙いがあるようには思えるけれど、俺の勘だと悪くない話に思える。
「この先は科学という名の魔法によって、部外者は絶対に入れないんだ。そこにお前たちを入れてやると言ってるんだ。どうだ?」
あからさまに怪しい。
つか科学とか言ってもいいのか?
いいのか。
分かるのは転生者くらいだしな。
それにぶっちゃけ、おそらくは魔法の方が凄いんだよ。
入れないって言うけれど、おそらく俺や狛里なら入れるんだろうなぁ。
それでも入れてくれると言うのなら、入れてもらおうじゃないか。
俺は天冉の視線に頷いた。
「分かったわぁ~。案内よろしくねぇ~」
「うむ」
そんな訳で俺たちは、素直に黒川についていった。
程なくしてその場所へ到着した。
「ダンジョン内にこんな所があったんだな」
「私もここまで来るのは初めてだよ」
どうやら最強ダンジョンの経験者二人も、ここまで来たのは初めてのようだった。
それにしても、確かに科学の力で作られた場所のようだ。
鋼鉄製の壁の一部が、自動ドアになっている。
それを開けなければ先には進めないみたいだな。
この程度なら、おそらく俺や狛里ならなんとでもなりそうだけれど、俺は黙って黒川の行動を見ていた。
どうやら暗証番号を入れて、ロックを解除するシステムのようだ。
「くそっ!押し間違えた‥‥」
おいおい何やってんだよ。
結構数が多そうだから、一度ミスると長いじゃないか。
それにだいたいこういうのって三回ミスると一日使えなくなったりする。
冗談抜きで頼むぞ。
などと心配していると、どうやらロックは解除されたようだ。
ゆっくりとドアが開いていった。
「おおっ!」
なんとなく近未来を思わせるようにドアがゆっくり開いてゆく。
表現は少し難しいが、単純に横に開く自動ドアではない。
少し斜めに切れるように、左上と右下へ扉は消えていった。
「策也でも驚くのだ?」
「ま、まあな」
驚いたってよりは、近未来的で格好いいと思っただけなんだけどね。
「さあ入ってくれ」
そんな訳で俺たちは、黒川に案内されるまま、中へと進んでいった。
中に入ると、そこはしばらく宇宙基地の廊下のような場所が続いていた。
ここで殺傷力の高いレーザー攻撃とかあったら、かわすのは大変そうだな。
ただ黒川も一緒に入っているし、そういう罠があるようにも感じなかった。
俺たちは何も話さずに、ただ黒川の後についていくのだった。




