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謎の人物は深雪?未発見のダンジョンも攻略?

『他人の気持ちになって考えろ』

なんて言われる事もあるけれど、結局自分にできるのは『自分がその人の立場だったら』という事でしか考えられない。

だから人は、他人の気持ちになんてなれないし、何を思っているかなんて分からないのだ。

それでも人は分かろうとする。

そして人を作り上げてゆく。

出来上がった人が、本当にその人を表しているのかなんて分からない。

ただ作り上げた人にとってその人は、紛れもなくその人なのだろうね。

会えない日々が美化したその人でも、彼女にとってはそういう人なのだから。


黒川に付いていた俺の一寸神は、アッサリと行方が追えなくなっていた。

それはそうだ。

瞬間移動魔法を使われれば、何処に飛んだかなんて分からない。

全ての到着場所を監視する事も不可能で、仕方なく黒川を追う事は諦めた。

まあおそらくだけれど、いずれは香にもたどり着く事になるだろう。

黒川は第五大陸に俺たちを行かせない事が、香の幸せを守るのだと言っていた。

つまりこれから起こる事で、香の幸せは壊されていくはずなのだ。

どういう繋がりでそうなるのかは分からないけれど、繋がっているのならいずれ会えるだろう。

そんな訳で俺は、一旦黒川を忘れる事にした。


さてダンジョン攻略であるが、未攻略と言われるダンジョンを俺たちは巡っていった。

一日一ダンジョンを攻略して、今四つ目をクリアした所だ。

いや、正確には攻略を確認したと言った方が正しいか。

未攻略ダンジョンは、既にどこも攻略済みだったのだから。

「ここも謎の誰かに攻略されてんな。どうなってんだ?」

「こんな、人を煽るような手紙を残しているのです。きっと冒険者か冒険者ギルドに恨みのある人じゃないでしょうか?」

想香の言う通り、そんな気もしないではない。

例えば俺だったら、選択肢の一つとしてあり得る話だ。

「だけどぉ~、私たちの目的にもぉ~、奇乃子ちんの目的にもぉ~、どうでも良い事ではあるわよねぇ~」

確かに今の所はそうかもしれない。

でも、その謎の誰かが回収したであろう何かが、目的に繋がっている可能性が無いではない。

更にその謎の誰かが情報を持っている可能性もある。

なんとなくだけれど、これらの攻略はおそらく一人でやった気がする。

ならばそいつはアーニャンクラスの強さを持っているか、それ以上の可能性があるって事だ。

「アーニャンは、こういう事をする誰かに心当たりはないんだよな?」

既に一度聞いている質問なのだけれど、改めて俺は問うてみた。

「私の知っている中で、冒険者ギルドに敵意を持っている者は、全てのまど民となっているわよ。合計百二人全てね」

「そうか‥‥。ん?百二人?ちょっと待て。今登録されているのは元の八人に百一人を足した百九人となっているぞ?」

「あれ?おかしいわね。全員にっこりタウンに連れてきたはずなんだけれど‥‥」

そういえば一人、気になる気配を感じていた。

しかしその時以来、俺はその者の気配を感じていない。

つまり連れてきたメンバーの一人がいなくなっている?

「とりあえず一旦ホームに戻りましょう~。またモンスターが湧いてきてるわぁ~」

「ここのモンスター‥‥気持ち悪いの‥‥。気持ちよく妄想もできないの‥‥」

狛里はまだ妄想していたのか。

まあ心の中で何を思い考えようと、それは個人の自由だからな。

日本でも憲法典には『思想及び良心の自由』が記されていた。

他人はそれについてとやかく言う事はできないのだ。

ついでに言うと良心の自由もあるから、狛里が正義を貫き行動する事も、俺がとやかく言えるものではない。

いや言いたくなるし、言う時は言うけれどね。

「では戻りましょう!自分が退路を開きます」

「じゃあ俺もやるしかねぇか」

こうして孔聞と土筆のレベル上げもしながら、俺たちは一旦ホームのにっこりタウンへと戻るのだった。


ホームに戻ってから、アーニャンと左之助にはのまど民のリストを確認してもらっていた。

「あれれ?一人足りたいわね?でも誰がいないのか思い出せないわ。確かに全員で百二人のはずなんだけれど」

「俺にも思い出せないな。確かに百二人いたはずなんだが‥‥」

二人とも分からないのか。

一体どういう事だ?

二人が単純にど忘れしている可能性もないではない。

でも普通に考えてありえないだろう。

隠している様子もないし、だとするとその者が分からないようにしていた?

しかしあの時感じた気配に悪意はなかった。

仮に誰かがアーニャンたちに混じって存在を分からないようにしていたとして、目的はなんだろうか。

冒険者ギルド側の誰かの指示によって偵察にきていた?

いや、そんな事だとしたら、必ず何かしら嫌な気配に感じたはずだ。

単純にどんな様子なのか見て来てほしいと頼まれた者?

それも違う。

それ以前からアーニャンたちとは仲間として一緒にいたから、百二人と把握していたんだ。

「他のメンバーが覚えているかもしれない。とりあえず確認してみよう」

「そうねぇ~。なんだかスッキリしないものねぇ~」

「じゃあ左之助、任せるね」

おそらく確認した所で名前は出てこないのではないだろうか。

『誰かがいた気がする』

みんなそう答えるに違いないと、俺は確信していた。

しかし人というのは色々な人がいるもので、一人覚えているという者がいた。

「ええ。いましたよ。時々『いるなー』って思ってたんだよね。歳は三十歳くらいだと思うけれど、見た目は結構若かったよ。女性で‥‥」

女性なのか。

確かに、そう言われるとそんな気がする。

どこか気になる気配があって、なんというか悪い気はしない‥‥。

「名前は確か‥‥。そうだ!|『みゆき』って名前だったよ!」

その名前を聞いた異世界組姦し娘たちは、俺の顔を振り返った。

おい想香、お前は半分みゆきだろ?

もしも関係があるなら、お前が真っ先に何か感じているんじゃないのか?

「名前が偶々同じだけじゃね?」

「どうしたんだ?その名前に何か覚えがあるのか?」

左之助に問われて、俺は特に隠す事なく話した。

「俺、結婚してるんだけどさ、妻の名前がみゆきっていうんだよ」

「なるほど。偶々名前が同じだったってだけか」

「まあそうだな」

いやしかし、この世界は俺が過去にやっていたゲーム世界をモデルにしてる。

此処まで何度かゲーム内にいた奴らが出てきているんだよな。

となると、俺やみゆきをモデルにしたキャラが、この世界にいないとも限らない。

そしてみゆきは、確かこのゲームを『深雪(みゆき)』って名前でやっていたはずだ。

「そのみゆきって人の名前、漢字は分かるか?」

「確か深い雪って書いて深雪だったと思うよ」

間違いない。

おそらくはみゆきをモデルにした人間だ。

まさかそんな人が近くに来ていたのに気づかなかったとは。

尤も完全に別人でもあるから、気づかなくても別に愛が足りない訳でもないけどさ。

なんか悔しいな。

「それでその深雪は、どういう人なんだ?仲間じゃないのか?」

「私は仲間だと思っていたんだけど、特に意識して付き合っていた訳じゃないし。みんなも普通に接していたと思うんだけど‥‥」

この子以外はみんな忘れている?

「君だけが覚えているって事か。それに何か心当たりは?」

「ん~。あまり話したくなかったんだけど、仕方ないね。この世界では、記憶のリセットが行われるって話があるじゃん?だから私、自分の記憶を操作する能力を手に入れててね。それで数時間ごとに記憶の記録を行っているんだよ。もしかしたらそれで覚えているのかもね」

なるほど。

俺の魔法記憶を制限付きで行うような能力を持っているのか。

そして深雪は、自分の記憶を消し去るような能力を持っている。

状況は大体分かったな。

では何故深雪は此処へ来て、そして何処かへ行ってしまったのか。

おそらく様子を見に来たのだろう。

でも敵ではないとするなら、逆に仲間としてふさわしいのかどうか確認に来たと言った所だろうか。

もしも俺たちが深雪のお眼鏡にかなっていたなら、また向こうからこちらに接触してくるに違いない。

つか深雪がいるのなら、俺をモデルにした人物もこの世界にいるのではないだろうか。

名前は確か、北都尚成にしていたよな。

絶対いるとは言えないけれど、きっと深雪の傍に尚成もいる。

確信したというか、そうあってほしいと思った。

「それでどうなのぉ~?その深雪ちんがダンジョンを先に攻略していたのかしらぁ~?」

「多分違うと思う」

みゆきをモデルに作られたキャラなら、そんな事はしない。

むしろ‥‥。

あっ、そうか。

俺をモデルに作られた尚成がいるとしたら、そいつがやった可能性の方が圧倒的に高いだろ。

そしておそらく、俺が今冒険者ギルドに対峙して、この世界を変えようとしている事を考えれば、尚成が冒険者ギルドに不満を持っていてもおかしくはない。

「説明しても色々ややこしいから結論だけ話しておくけれど、おそらくこの世界にも、北都尚成が存在する」

「えっ?‥‥それって策也ちゃんなの?‥‥」

「イスカンデルの北都尚成とは違って、俺本人ではない。ただ、似た性格をしているとは思うんだ。となると、ダンジョン攻略をして手紙だけを残したのは、尚成の可能性もあるんじゃないかと俺は思う。尤も、まだまだ可能性としては『あり得る』くらいのものだけどね」

そう。

深雪だってみゆきモデルとは限らないし、仮にそうでも尚成がいるとも限らない。

ただなんとなく、そう考えれば全てがしっくりくるだけ。

「なんだかよく分からないけど、俺たちのやる事は決まっているのだ。俺は男になる魔法を見つけるのだ。そしてみんなはこの町を発展させて、世界を自由にするのだ。それでいいのだ」

全く奇乃子の言う通りだな。

ちょっとなんとかのパパみたいだ。

あいつバカとか付いてるけど、意外と頭いいんだよね。

「そうね。私たちにとって、その辺りの話が行動を左右するものじゃないわ。この町を住みよくして、冒険者ギルドも魔王も打倒して自由を掴む。それだけよ」

目指す所はハッキリしている。

とりあえず深雪の事とダンジョンクリアの事は置いといていいだろう。

次は未発見のダンジョン探しだ。

そんな訳で謎の攻略者と深雪の事は、一旦置いておく事にした。

おそらく俺たちの目指す先で、きっと何かしら関わってくるだろうしね。


という事で、次の日は手分けをして新しいダンジョンを探していた。

ダンジョンの見つかっていないマップは合計四つ。

俺たち異世界組それぞれと、アーニャン、土筆、孔聞がペアとなって探す。

アーニャンは天冉と、土筆は想香と、孔聞が狛里と、そして俺は一人で行くつもりだったけれど、急遽奇乃子が付いてくる事になった。

異世界組が別れているのは、俺とのテレパシー通信が使えるからね。

それにそれぞれの安全を考えれば、それが一番だろう。

見つけたらそこへ集合して、みんなで攻略をする事になっていた。

「二十キロ四方を隈無く探すのは大変なのだ」

「まあ普通に探したらそうだろうな。だけど俺には索敵能力がある。ダンジョンに魔物がいるなら、見つける事ができるかもしれない」

尤も、ダンジョンは魔物が封じられた場所でもあるから、それ以上の魔力が必要なんだよね。

生態系ができているダンジョンなら見つけられる。

魔生の魔石によるダンジョンなら、人間が作ったものだから神の俺なら大丈夫。

だけれど、暗黒神が管理するようなゲームで一般的な攻略ダンジョンだと、普通はこの方法は使えないんだよな。

一霊四魂を使えばおそらく可能だとは思うけれど、発動し続けるのは割と重労働だ。

そんな訳で俺たちは、無理しない範囲で探す事にした。

俺たちが探し始めて十分が過ぎた頃、狛里から連絡が入った。

『見つけたの‥‥』

うん、やっぱり狛里は只者ではない。

勘も鋭いし、おそらく無意識に見つける為のスキルでも身につけているのだろうな。

『分かった。すぐにそっちに向かう』

姦し娘たちとは、和魂を持って居場所が分かるようになっている。

天冉と狛里、狛里と俺、俺と想香が繋がる事で、集合が可能なのだ。

ただ移動は当然自力なので、瞬時に集まる事は不可能なんだけどね。

尤も姦し娘たちだけなら、闇の家経由で集まる事も可能だけどさ。

それぞれ現地人を連れているから、走るなり飛ぶなりして集まる必要がった。

そんな訳で集合までには一時間を要した。

「遅いの‥‥」

「そうねぇ~。もう待ちくたびれちゃったわぁ~」

「俺たちは全速力で来たのだ。これ以上すぐには集まれないのだ」

「うげぇ‥‥。気持ちがわりぃ‥‥」

「僕が手をひっぱって連れてきました。流石にこれ以上速くは土筆さんが壊れてしまいます」

アーニャンは流石に天冉についていけたか。

奇乃子は場所が近かったので、俺と普通に走って一時間もかからなかった。

でも土筆は遠い所からの集合だった事もあり、想香に引っ張られて来たようだな。

おそらく数百キロのスピードに引かれた訳だから、腕が捥げそうになっていたに違いない。

尤も土筆ももう神クラスに強いから、身体的に問題は何もないだろうけれどね。

いや、持久力を付ける必要はあるかもしれないか。

「それじゃぁ~、ダンジョンに行こうかしらぁ~」

「どこに入口があるのだ?」

集まったのは深い森の中。

どこにもダンジョンの入口らしき所はない。

でももう奇乃子にも分かるだろう。

「ここにあるの‥‥」

「どこなのだ?ここと言われても‥‥。何かがおかしいのだ」

「ああ。何か魔法がかけられてんじゃねぇか?」

「違和感があります。つまり、これはもしかして隠蔽の魔法でしょうか?」

「正解!」

どういう訳か知らないけれど、このダンジョンは隠蔽の魔法によって隠されていた。

だから今まで誰にも見つけられずにいた訳だね。

しかしどうもおかしい。

「一体誰がどういう理由でこのダンジョンを隠したのでしょうか。僕は気になります」

想香の言う通り、このダンジョンを隠す意味が分からない。

潜ってみればその理由が分かるかもしれないけれど、隠したという事は既に発見されているって事だ。

冒険者ギルドは見つかっていないと言う。

ならば隠したのは冒険者ギルドマスターの霧雨さつきか?

たとえば危ないダンジョンだからという理由で隠していてもおかしくはない。

でもあの霧雨が隠したにしては、魔力も小さいし雑に隠してある。

ある程度レベルの高い冒険者が来れば見つけられるだろう。

高レベルの者には『見つけてください』と言わんばかりだ。

土筆や孔聞レベルでも違和感に気づくのだから、冒険者ギルドが本気で探す気になれば見つけられたはず。

それに全マップにダンジョンが存在するという話もあり、冒険者ギルドが隠している風でもないんだよな。

となると隠したのは‥‥。

「隠しているのは、冒険者ギルドじゃない別の誰かだろう。このマップにダンジョンがあるんじゃないかという情報を出しているからな。でも見つけられない場所でもない。となると‥‥」

「見つけた者は皆、ダンジョンに入って死んでんじゃねぇか?」

「それはありえません。何故なら、冒険者はすぐに生き返るからです」

それにこうして隠蔽魔法が機能しているのだから、術者はほぼ生きていると考えられる。

だから見つけた者が皆死んで、情報が出てこなかった可能性もない。

「ずっと隠している可能性もあるけれど、やはりメリットがないよなぁ」

「神様の悪戯(いたずら)みたいね」

「本当ねぇ~」

神様の悪戯か。

「何にしても、とりあえずダンジョンに入るのだ。そうすれば理由も分かるかもしれないのだ」

「その通りです。つまり行きましょう」

皆は頷き、隠蔽魔法を解除しつつそこへ入ってゆく俺に付いてきた。


入口は普通の大きな洞穴だった。

そこから中の様子は窺えない。

このダンジョンはどうやら、他とは違って明かりとなるものが無いようだった。

直ぐに想香がライトの魔法で中を照らす。

そういえば出会った頃は、ライトの魔法に大喜びしていたよな。

直ぐに面倒がっていたけれど、今ではもうそのどちらでもないか。

俺はなんとなく少しの寂しさを覚えた。

あの時の想香は、もういないか。

日本で暮らしていた頃に感じた、みたまの成長を少し思わせた。

ダンジョンはどうやら、まっすぐ奥へと繋がっているようだった。

ゆっくりと下っていて、先で分岐している。

それ以上は入ってみないと分からないといった感じだった。

「それじゃぁ~、先頭わぁ~‥‥。策也ちんよろしくぅ~」

「えっ?俺?」

どういう事だろうか。

普段なら土筆や孔聞を鍛える為に、先頭を行かせると思ったんだけどな。

「天冉ちゃんも勘が鋭いの‥‥。私もそうした方がいいと思うの‥‥」

狛里もか。

俺には嫌な予感はない。

だけれど確かに普通ではない何かを感じはするな。

「分かった」

俺は最初にダンジョンへと足を踏み入れていった。

隊列は俺を先頭に、前後を異世界組で固めるようにしていた。

最後方は天冉、そして狛里だ。

俺と狛里で前後を固める辺り、天冉はこのダンジョンを最高レベルに危険だと判断しているのか。

だとするなら、ダンジョンが隠されていた意味も分かる。

強い者しか入るなって所か。

でも俺にはまだ嫌な感じはしない。

何がそう思わせているのだろうか。

想香も割と平気そうに見えるけれど、どうだろう。

だた奥へと進むにつれて、アーニャンや奇乃子も何やら感じているようだった。

「何か嫌な感じがするわね」

「そうなのだ。俺たちはもしかしたらもうマズイ事になっている気がするのだ」

二人の反応に答えるように、想香から冥凛がいきなり分裂した。

「ん‥‥」

そして俺の前に出て止まるよう手のひらをこちらに向けた。

先は少し開けた場所になっているようだった。

「この先に何かあるのです?」

「ん‥‥」

冥凛は頷いた。

そして想香に意思を伝える。

「冥凛は言ってます。この先はそこそこ危険みたいですよ。だから先に、自分と策也タマが先に入ると言っているのです」

「えっ?俺と冥凛だけ?」

「はい」

どういう事だろうか。

確かにこの先には何かがありそうだ。

俺と冥凛なら、それも問題は無いという事なのかね。

「分かった。じゃあ冥凛、行くぞ」

「ん‥‥」

そんな訳で、俺は何故か冥凛と手を繋いで、二人だけで先へと進んだ。

直ぐに開けた場所に出る。

思ったよりも広い場所だ。

洞窟の先にはいくつも道は続いており、少し高くなった場所や天井の方にまでも穴が見えた。

なるほど、ようやく感じられてきた。

此処は侵入者を一斉に襲えるようになっている場所なんだ。

でもなんだろう。

俺は大して危険には感じないんだよな。

そう思った時、冥凛がよく分からない声を発した。

「ん~‥‥」

超音波で何かやり取りするような、そんな感じに思えた。

すると直後、沢山のモンスターが穴から湧くように出てきた。

いや、これはモンスターじゃない。

妖凛や冥凛と同様の邪神だ。

ニョグタのような固有種ではなく、邪神の下っ端たちといった感じだけれど、それぞれが神レベルに近い魔力を持っている。

それが無数に湧いて出てくるのだから、土筆や孔聞レベルなら瞬殺されてもおかしくはない。

なるほど、だから天冉や狛里は危険を感じていたのか。

それにこいつらに食われたら、おそらく蘇生も、教会での生き返りも無理だろう。

ここは、この世界の暗黒界なのかもしれない。

さてしかし、邪神たちは襲ってこなかった。

直ぐに想香の声が入ってくる。

『冥凛曰く、異世界とは言えクトゥルフの魂を持つ策也タマの事は、皆が主だと判断しているようなのです』

それでか。

俺にとってこのクラスの邪神は、もしかしたら可愛いものなのかもしれない。

妖凛が俺から分裂してでてきた。

そして直ぐに冥凛のように、何かよく分からない声を発した。

「プンプン」

すると無数の邪神たちは、道を開けるように眼の前から去っていった。

「何々?もう全てが俺の命令には従う?この先も低レベルの邪神は襲ってはこない?そっか」

まさか異世界でもクトゥルフの力が活きるとはね。

「みんなは俺たちに手を出すな。今このダンジョンにいる八人の人間は敵ではない!」

俺がそう言うと、邪神は直ぐにいなくなっていた。

でもこれである程度は想像できるな。

このダンジョンはきっと何度か見つかっている。

でも報告する前に入って、邪神に食われたんだろう。

魂は浄化され、全ての記憶を失って生まれ変わる

だとすると、隠蔽の魔法はいったい誰がかけているんだ。

案外本当に神様の悪戯なのかもしれないな。

なんとなくそんな気がした。

さて、邪神が去ったので俺たちは先へと進んだ。

「いったいどうなっているんだ?」

「自分も知りたいです。つまり話してください」

話して信じてもらえる話なのかね。

まあ内緒にしている訳でも無いし話しておくか。

なんて思っていたら、察して想香が話してくれた。

「策也タマの中には、異世界のなのですが、邪神の王クトゥルフの魂が宿っているのです。だから策也タマを主と勘違いしたようですよ」

「出鱈目なのはもう知ってるのだ」

「ああ驚かねぇ」

「‥‥」

強くなったなみんな。

俺は皆の成長に少し目頭が熱くなった。

ならないけどね。

そんな訳でダンジョン攻略はただ進むだけとなった。

このダンジョンで無数の邪神に襲われたら、流石にアーニャンクラスでも単独クリアは難しいだろう。

そんなダンジョンをただ歩くだけでクリアできるのだから、本当にマジで俺ってチートだよな。

クトゥルフの力なんだけどさ。

つか俺の中にクトゥルフの魂が宿っている事なんて、すっかり忘れていたよ。

神様が覚えていた事に俺は感動した。

さて、進むだけのダンジョンは、直ぐに最奥のボス部屋まできていた。

流石にボスくらいは襲ってくるだろうと思っていたけれど、襲ってこないどころか存在すらしないようだった。

「どういう事なんだ?」

「ボスがいないのだ」

「どう見てもボス部屋ですよね。つまりボスがいるはずなのです」

「策也ちん?これはどういう事なのかしらぁ~?」

俺に聞かれても分かる訳がないのだけれど、可能性として考えられる事はいくつかある。

そもそもそういうダンジョンだった可能性。

ボスなんていなくても、このダンジョンは十分に攻略が難しいダンジョンだった。

或いは既に誰かが攻略し終えている可能性。

それを考えると、謎の人物が関係している可能性もあり得る。

まあその結果は、奥に見える宝箱を開けてみれば全てが分かる事だろう。

「宝箱を開ければ答えが分かるかもな」

「やっぱりそうなのかしらねぇ~」

という訳で、俺たちはとにかく宝箱を開ける事にした。

開けて中を確認すると、中には金銀財宝が入っていた。

「凄いのだ!かなりのお宝なのだ!」

「すげぇ。なんだかわかんねぇが、魔力も感じるぜ」

「おそらく強化アイテムが入っているようですね。そしてお金はかなりの額になりそうです」

どういう事だ?

俺たちはこのダンジョンをクリアしたって事なのか?

ラスボスもいなかったのに?

すると狛里が何かに気がついた。

「手紙が入っているの‥‥」

それは財宝に埋まって、少しだけ角が出た状態であった。

天冉が財宝をどけて手紙を取り出し、開いて目を通す。

それを横から覗き込んだアーニャンが、声に出して読み始めた。

「邪神がいる秋森(しゅうしん)ダンジョンの攻略おめでとう。と言いたい所だけれど、ラスボスは俺が先に倒させてもらったよ。あいつ危険だからね。でも此処まで来られた君たちには、これらのアイテムと宝をプレゼントする。おそらく君たちは冒険者を辞めた者たちだよね?君たちがやろうとしている事の役に立ててほしい」

これもまた謎の人物からの手紙か。

覗き込んで文字を見ると同じに感じる。

ん?同じ?

この字、どこかで見た事があるような気もするな。

少し俺の字に似ているのか?

でも俺にしては綺麗すぎるか。

それに似ている文字がいくつかある程度で、俺が書いた文字とは思えない。

俺は試しに地面に同じ文字を書いてみた。

概ね全然違うか。

そもそも俺をモデルにした人物がこの世界にいたとして、文字まで似る訳もないよな。

ゲーム世界で文字なんて書かず、チャットはタイピングだしね。

「いくつかの文字は似ているの‥‥」

「でも概ね違うのです。仮に北都尚成の書いた手紙でも、策也タマと似る事はありえないんじゃないでしょうか?」

「まあな。この世界を作った神が、俺本人の事を直接知った奴じゃなければね」

そう言えば、黒川のように俺を直接知っている奴もこの世界にはいるんだよな。

まさか黒川がこの手紙の主か?

いや流石にありえない。

奴ではこのダンジョンをクリアはできないだろう。

他に御伽策也だった俺を知っている奴なんて‥‥。

あっ‥‥、香なら知ってるよな。

まさか香がこの手紙の主とか?

或いはこの世界を創った神が香の可能性。

いや、黒川は香を守ると言っていた訳で、香はこの世界にいる事になる。

みゆきと同じように、自分の創った世界に来ている?

なんの為に?

考えても分からないな。

理想の世界を作ってそこで暮らしたかったっていうなら、それはそれで分からなくはない。

でも神となって天界で暮らせるのなら、それはそれで理想の世界という話もある。

それにこの世界が、あの香が求める理想世界とも思えない。

可能性は可能性として全否定はできないけれど、当面はどうでも良い事だから忘れておくか。

何にしてもとりあえず、俺たちはにっこりタウンを運営していく為の資金と、今後の冒険やレベル上げを助けてくれるアイテムを手に入れた。

残りのダンジョンも見つけて、とにかく攻略していこう。

そしたらその先で色々と分かるはずだ。

謎の人物は、手紙の内容を信じるなら味方のようだしね。

慌てる事もない。

俺たちは宝箱を回収して、帰りもサクサクとただ歩くのだった。

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