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ドワーフの魔法使い?

ユダヤ教やキリスト教の世界では、『働く事は罰』とされている。

旧約聖書にはそのような事が書かれているからね。

一方日本では、『労働は喜び』という考えが根底にあった。

だから日本人はよく働くし、仕事は楽しんで良いものだと考えている。

しかし俺が死んだ頃の日本では、仕事をただ辛いだけのものと考える人が多くなっていた。

それは教育の失敗か。

それとも感謝の心を忘れた者が増えたからか。

はたまた強制されているからか。

やがて日本はドンドンと衰退してゆく。

そんな日本をもう一度繁栄させるには、神道の精神を思い出す必要があると俺は思う。

夢ではなく目標を持って生きる事が大切なのではないだろうか。


朝起きてから冒険者カードを確認すると、俺はどうやらこの世界でも『賢者』らしい。

一応神としては『一寸の神』であり、木花咲耶姫を取り込んだ事で『繁栄の神』でもあるとか。

ちなみに狛里は『魔神』、想香は『巫女侍』となっていた。

『魔神って職業なのかよ!』とツッコミを入れたくなるけれど、ゲームの設定ってのはそんなものだよね。

この世界はもうゲームではないけれどさ。

確認ついでに、俺は一応二人に情報開示設定だけはさせておいた。

どうやらこの世界でも、見られたくない情報を隠す設定があるようだ。

ゲームでパーティーを組む時など、レベルや能力を見られたくないって人は結構いるからね。

その設定ができるのは、マスタークラス以上だっと記憶しているけれど。

さて今日の予定だけれど、もう一度最初の村に行って、神候補を探す事にする。

だいたい転生転移した辺りで神候補に出会うようにできているらしく、即ち最初の村にいる可能性が高い訳だ。

尤もそこから人脈を辿り、神候補に出会う可能性もかなりある。

まあ話数で言えば、十二話以内には出会うかな。

そんな事、この俺が分かる訳もないんだけれどね。

何にしても可能性が高いと言うのなら、とりあえずは探してみるしかないだろう。

俺たちは装備を整え準備をした。

まず俺の装備だけれど、メイン武器としては『妖糸』を持って行く。

妖糸は今までの俺の活躍を知っている人なら分かると思うけれど、一応説明すると糸の武器だね。

千里眼が使えれば、最長二キロ先の敵でも攻撃ができる優れものだ。

残念な事にこの世界じゃ千里眼が使えないので、攻撃できるのは見えている範囲だけという事になる。

一応ナイフもポケットに入れておく。

俺にはイスカンデルで出会った愛雪(あいゆき)から拝借した、『万能武器使用』のスキルもあるからね。

もしかしたら役立つ事もあるかもしれない。

後は異次元収納に、設置型フィールド魔法『テリトリー』に必要な宝石を入れておく。

この世界では『異次元収納』の事は『アイテムボックス』と言われているので、これからはそう呼ぼうかな。

他には『移動用の家』と『移動用ガゼボ』をアイテムボックスに入れておくくらいか。

正直俺の持ち物は少ない。

大きいけれどね。

狛里は武器防具に『リビングバンテージ』、そして頭に萬屋の家宝である『カチューシャ』を付けた。

カチューシャを付けると魔力コントロールがやりやすくなるので、狛里は自分の魔力レベルを三十くらいにまで抑えた。

ちょっと抑えすぎじゃね?

狛里もアルカディアに来てからは、それなりに魔力コントロールができるようになっていた。

だからできるだけ抑えてみたいのかもしれない。

子供だからな。

しかしおそらくこれで世界最強だろうから、ある意味詐欺ではないだろうか。

詐欺と言えば想香だけれど、こいつの装備も少ない。

武器として持つのはダイヤモンドミスリルで作った『超音波振動刀』と、装備衣装として『羽衣袖付き巫女服(妖糸仕様)』を身につけるだけだった。

二人とも靴や草履など身につけてはいるけれど、特に何かに影響がないものに関しては説明を省略させていただく。

アイテムボックスには、一人で何か行動が必要になった時の為に、『独身用移動用の家』は持たせておいた。

後食料なんかも大量に入れていたようだけれど、それも説明はいらないだろう。

さあこんな感じで準備万端、俺たちは再びウインバリアの世界へと戻るのだった。


俺たちは歩いて初めの村へと戻った。

昨日とは少し、何処か雰囲気が違う。

冒険者の顔がウキウキしているというか、これからの冒険を楽しもうという気持ちが表情から分かった。

そりゃ昨日はあのPKおっさんがいたからね。

楽しんで仕事ができる雰囲気じゃなかったよなぁ。

でも今日はおそらくPKおっさんは出てこない。

俺が一度殺しておいたからさ。

また出てきたら、俺が誰にも悟られないように処分してあげるよ。

それにしてもみんな楽しそうだなぁ。

一緒に冒険に行くパーティーメンバーを探したり、一攫千金を夢見たり、働く事が楽しいって感じはやっぱり素晴らしい。

命の危険がある仕事だけれど、それでも楽しめるのはどうしてだろうか。

自由にやれるのも理由だろうけれど、やりがいのある仕事だと認識しているのが大きいように思う。

人々の為にもなるし、感謝もされるし、仕事ってそうありたいよね。

さてしかしこんな小さな村の中を歩いていて、誰かに出会うというのだろうか。

多少魔力は感じられるけれど、マスタークラスにも満たない者ばかりだ。

尤も初めの村でマスタークラスがゾロゾロ歩いていても怖いけれどね。

つまり俺と想香はマスタークラスの魔力を垂れ流して歩いている訳だから、分かる者がいたら違和感をバリバリ持っているに違いない。

なんて思っていたら、建物の陰からこちらをジッと見つめる赤い髪の女の子がいた。

違和感を持っているのがヒシヒシと伝わってくる。

つか見るからに幼女魔法使いで、かなりイタイ子に思えるのだけれど‥‥。

「ジー‥‥」

そんな目で見ないでくれ。

俺たちは別に妖しい者じゃないよ。

妖女隊だけどさ。

しかしなんて言うかなぁ。

この子には勘とかではなく、単純に関わってはいけない気がする。

そう思って俺が視線を避けるようにしていたら、いつものように妖女隊は動いていた。

「何か用なの?‥‥」

「お困りですか?力になってほしいなら、お金か食べ物で手を打ちますが?」

いきなり近づかれ、その子は驚いていた。

それよりも想香、そんな子に金とか言っても無理だと悟ってくれ。

いやしかし、この子割と魔力があるな。

この村には似つかわしくない。

レベル七十くらいはありそうだ。

「俺に今、何か用だと聞いたのだー?ならば答えてやるのだー!俺はお前に用があるのだー!」

ホラ見ろ!

この論法、やっぱりヤバい子だったじゃないか。

見た目幼女のくせに一人称が俺とか、オタク臭がプンプンするぞ。

きっと転生者に違いない。

とはいえ女の子だからな。

ちょっと可愛くもあるのだけれど‥‥。

「僕に用があるのですか?」

そう言えば幼女が指差していたのは想香だったな。

一体想香にどんな用があるというのだろうか。

「そうなのだー!お姉様、どうか俺のパーティーに入ってほしいのだー!」

なるほどパーティーの勧誘か。

という事はこの幼女、一応十五歳以上って事になるんだよな。

明らかにおかしいだろ。

「パーティーの誘いは僕だけなのですか?」

「そうなのだー!」

「だったらお断りさせていただくのです」

そりゃまあ俺たちは仕事で来ている訳で、一人でパーティーに入って冒険を楽しむ訳にはいかない。

「えっ?嘘なのだー!こんなに可愛い子に誘われて断るなんてあり得ないのだー!」

自分で言うか?

確かに見た目は小動物的可愛さがあるけれど、中身はかなりイタくてヤバいだろ。

「僕たちは既に仲間なのです。一人だけ他の人とパーティーは組めないのです」

「うー‥‥。だったら仕方がないのだー。みんなまとめてパーティーに入れてやるのだー」

さてどうするかねぇ。

想香が『どうしましょう?』って顔で俺を見ている。

狛里もどうして良いか分からないといった感じか。

しゃーねぇーなぁ。

「君のパーティーメンバーは他に誰がいるんだ?」

「俺一人なのだー」

「なんで俺たち‥‥。えっとこいつ、想香にパーティーに入ってもらいたいんだ?」

「冒険者がパーティーを集める理由は二つしかないのだ。より強い仲間と強いモンスターを狩ってレベルを上げる事。もう一つはプレイヤーズギルドに入る為なのだ。俺はその両方を目指しているのだ」

当たり前の話か。

ゲームの話になるけれど、俺がプレイしていた頃は第一大陸しかなくて、ソロプレイしている者も多かった。

しかし俺がゲームをやめた後、第二大陸以降がリリースされて、その大陸に渡る条件の告知を見た事がある。

それによると第一大陸のプレイヤーズギルド砦を、ギルドメンバーとして全て制覇する事が条件だったはずだ。

つまりプレイヤーズギルドに入らないと、この世界の次のステージには進めないって事だな。

まあ課金すれば他にも進む方法はあったと思うけれどね。

現在この世界にいくつの大陸が存在するのかは分からないけれど、三つか四つくらいまでは話を聞いた記憶がある。

もしもこの世界の神を倒すとするならば、おそらく最後の大陸まで進む必要があるように思う。

誰かとパーティーを組み、プレイヤーズギルドに入る事は俺たちにとっても必要か。

問題はこのチビのパーティーに入って大丈夫かという事だ。

俺たちだけでパーティーを組んで、そしてギルドに入るなり作るなりした方が早い気がする。

しかし俺たちは既にこのチビと関わってしまった。

この子が神候補では無いにしても、そこから繋がる所に神候補がいる可能性は高い。

「分かった。君のパーティーに入ろう。俺の名前は此花策也。よろしくな」

「私は萬屋狛里なの‥‥」

「僕は兎束想香といいます。よろしくお願いするのです」

「俺は秋葉原奇乃子(あきはばらきのこ)だー!それじゃ早速パーティー登録するのだー!」

秋葉原奇乃子ねぇ‥‥。

この世界のモデルとなったゲームでの名前は、名字は漢字、名前は漢字と平仮名と片仮名に限定されていた。

どうやらこの世界でも同じ気がするな。

でもゲームをモデルにした世界だし、奇妙な名前が出てくる可能性はある。

頼むから覚えにくいのだけはやめてくれよ。

なんとなくそんな事を思った。

さてパーティー登録は、コンソール画面での操作が必要になってくる。

一応アルカディアで住民カードを扱わせているから、この辺りは二人ともできるようになっていた。

俺たちは冒険者カードを取り出し、そこから映し出されるコンソール画面を操作する。

コンソール画面について一応説明しておくと、目の前に映し出されるスマホのタッチパネルのようなモノだと思ってもらえればいい。

「冒険者ナンバーはいくつなのだ?」

「俺は『五零八七壱九零七零七』だな」

「私は『壱壱壱壱弐零零弐弐六』なの‥‥」

「僕は『四七七壱弐零壱弐壱六』みたいです」

俺たちがそう伝えると、直ぐに奇乃子からパーティーへの誘いが届いた。

奇乃子の個人レベルは‥‥ほう、七十か。

だいたい魔力レベルと同じだな。

そして冒険者レベルも同じ。

力通りのレベルまで上げていると言えるだろう。

職業は魔法使い。

歳は‥‥十九歳で設定上俺よりも上だと?!

なるほどそれで胸は結構大きいのか。

いやそれはどうでもいいんだけれど‥‥。

最年少から冒険者をやっているとして、四年で此処までか。

ちょっと成長が遅いかもしれない。

いや、種族がドワーフだと?

ドワーフと言えば魔法が下手だから、鍛冶屋か戦士になるしかないのに何故魔法使い?

この子は良い意味で超絶気違いなんだろうな。

性別は隠してあるけれど、どう見ても女だよな。

ゲームの頃は女だと男が寄ってくるから、隠しているプレイヤーも多かった。

そこまでゲームに似せているのか。

そしてパーティー名は、『秋葉原フォウ』‥‥。

あのアイドルグループのパクリにも見えるけれど、奇乃子の名字も秋葉原だし‥‥。

深く考えるのはよそう。

「みんな俺よりも年下だったのだー!ならばやはりリーダーは俺でいいのだ!」

「問題ないよ」

最初からそのつもりだったしな。

リーダーとか面倒だし。

でも普通は冒険者レベルか個人レベル、どちらかで決める事が多いんだけどさ。

とは言えその場合でも、俺たちの冒険者レベルはみんな『壱』だから、『七十』の奇乃子がリーダーで問題はない。

ちなみに個人レベルは偽装している。

俺は『百』に見えるように設定していて、狛里は『三十』想香は『百十』だ。

みんな見せている魔力に合わせていた。

「お前たち、みんな冒険者レベルが壱なのか?冒険者ギルドのクエストを利用せずにレベル上げは勿体ないのだ」

先に冒険者レベルをそこそこ上げておくべきだったかなぁ。

まあでも冒険者ギルドを利用しなくてもレベルは上げられる。

問題はないだろう。

「ずっと山ごもりしていたんだ。一々村に戻って来るのも面倒だしさ」

「何処の狩り場で強くなったのかは知らないけど、近くに町があるはずなのだ」

「町にも寄った事が無くてな。まあそんな事はどうでも良いじゃないか。それでこれからどうするんだ?」

昨日ウインバリアに来たばかりだからな。

あまり詮索されると面倒くさい。

「そうだったのだー!これからみんなで楓のギルド砦に行くのだ」

楓のギルド砦か。

確か第一大陸の北にある砦だったはずだ。

この村からの距離にして二百三十キロくらいの所にある。

飛んでいけば、ゆっくり行っても二時間ちょっと。

普通に走って行けばだいたい四時間だな。

「どうやって行くんだ?」

「当然歩いて行くのだ。と、言いたい所だけれど、お前たちも瞬間移動のスクロールは持っているのだ?」

そういやそんなアイテムあったなぁ。

瞬間移動の魔法は上級以上の魔法職しか使えないから、ゲームではレベルが上がるまで使っていた記憶がある。

「いや持ってないな。一応その魔法は使えるから必要無いし」

「魔法が使えるのだ!?だったら俺たちみんな楓の国に連れて行ってほしいのだ」

「だから俺たち、町には行った事がなくてだな‥‥」

「‥‥」

「走って行けばいいの‥‥」

「そうです!どのくらいの距離かは知りませんが、きっと直ぐに着くのです」

「そんなに近い距離じゃないのだー!」

まあ奇乃子だと、疲れずに走れたとしても一日十時間走って二日はかかる。

「仕方がないのだ。俺の持っているのを使うのだー」

なんだ持っているのか。

ならば問題ないじゃないか。

「これ一つで二万円するのだ。一人五千円ずつ徴収するのだ」

こいつ、さっきは誰かのにタダ乗りしようとしていなかったか?

自分が出す場合は割り勘かよ。

「でも俺たち、みんな千円しか持ってないぞ?」

「私はもうお金持ってないの‥‥さっき果物の無人販売所で全部使ったの‥‥」

「僕もありません!道具屋でこの髪飾りが千円で売っていたのです。魔力が壱だけ上がる可愛いリボンなのです!」

こいつら。

お金は何かあった時の為に置いておこうと言ったじゃないか。

いやもう無くても平気だけどさ。

つか魔力を壱上げてどうするんだ?

俺の適当計算が正しければ、想香の魔力は六億を超えているんだけれど‥‥。

ちなみに俺は六百八十五億、狛里に至っては三‥‥おっとこれ以上は語るまい。

「分かったのだ‥‥。もういいのだー。でもこれでギルドに入れるのだー!今まで以上に稼げるようになるのだー!」

プレイヤーズギルドで稼げるようになるか。

確かにプレイヤーズギルドに入れば、冒険者ギルドで仕事を受けるよりも中抜きされない分報酬も増える。

でもギルド砦が無いと駄目だし、持っていても守る為のコストが馬鹿にならない。

人数が多く強いギルドなら良いけれど、果たしてどんなギルドに入ろうとしているのだろうか。

ゲームの頃の記憶から推測すると、第一大陸でトップを取るなら、最低十人以上のマスタークラスが必要だろうなぁ。

「じゃあみんなで楓の町の入口まで飛ぶのだ。準備は良いのだ?」

「問題ない」

「何時でもいいの‥‥」

「初めての瞬間移動なのです!ワクワクしてきました」

「では‥‥楓の町まで、ゴー!なのだー!」

奇乃子はスクロールを広げて魔力を注ぎ込んだ。

スクロールが光り、その光は俺たちを包んだ。

一瞬異空間の中で体が宙に浮くような感覚になった後、直ぐに俺たちは地上へと降り立った。

目の前には防壁で囲まれた大きな町があった。

此処が楓の町か。

「付いたのだ。砦は町の北側だから、迂回して向かう方がきっと早いのだ」

「いやでも町に入らないと、瞬間移動魔法で俺は再び此処には来られないけれどいいのか?」

「そうだったのだ‥‥。分かったのだ。時間はかかるけど、町中を北の門まで抜けるのだ」

町中は道が入り組んでいたりするのかねぇ。

中心に城があるにしても、外を周るよりは早い気がするんだけれどな。

さてゲームならそのまま素通りして入れるのだけれど、リアルではちゃんと冒険者カードの確認が行われた。

何か有った時の為に一応記録を残しておくのだろう。

或いは瞬間移動魔法の発動条件になるのかな。

村だと確認はしないから、発動条件には関係がないか。

とにかくカード確認を済ませて、俺たちは問題なく町に入った。

特に今まで見てきた町とさほど変わらないけれど、あえて感想を言うのなら『紅葉が多いなぁ』って所かな。

この町は木々に魔法が掛けてあって、常に紅葉が楽しめるようにしているようだ。

「それで道はこっちでいいんだよな?」

「俺に話しかけないでほしいのだ。適当に北まで行けば門があるのだ」

どういう理由か分からないけれど、奇乃子は顔を隠すようにやたらとコソコソとしていた。

この町に会いたくない人でもいるのかねぇ。

まあ見つかりたくないってなら、少しは協力してやるか。

「奇乃子ちゃん、アレは何なの?‥‥」

「凄いですよ奇乃子さん!この町は何処まで行っても真っ赤なのです!紅葉が綺麗で素晴らしいのです!」

‥‥空気読んでやれよ。

そんなにでかい声で名前を呼んだら、会いたくない人に見つかるかもしれないじゃないか。

いや、どうやら会いたくないのは其処等中(そこいらじゅう)にいるらしい。

町の人達が、揃って奇乃子を白い目で見ていた。

「ん?奇乃子だと?あのクソ馬鹿がどの面さげて戻ってきたんだ?」

「この国を裏切っておいて、よくも戻ってこられたな」

「顔も見たくねぇよ。おい!塩撒いといてくれ!」

「あんた。塩を粗末にはできないよ。見なかった事にしておいて」

なんだかえらい言われているな。

一体どんな事情があったのかは分からない。

でも流石にこれは言い過ぎな気がする。

妖女隊も住民の対応を見て流石に悟ったようで、それ以降は何も喋らなかった。


結局無言のまま町の北側まで来ていた。

そして俺たちは無言で町を出る。

すると町を出た瞬間(せき)を切ったように、妖女隊は奇乃子に詰め寄っていた。

「何があったの?‥‥話してほしいの‥‥」

「そうです。どうしてあそこまで言われて黙っているのですか?僕なら軽く殴っています!」

「私なら思い切りぶん殴っているの‥‥」

二人に聞かれても、奇乃子は黙って俯いていた。

きっと色々あったんだろう。

それでも妖女隊は心配そうな目で奇乃子の前をウロウロしていた。

‥‥。

圧が凄いぞ‥‥。

流石に奇乃子も観念したように話し始めた。

「大した事じゃないのだ‥‥。ただ、俺はこの国の王から専属鍛冶師になるように頼まれていたのだ。それを断っただけなのだ‥‥」

なるほど想像はできるな。

王からすれば当然やってくれるものだと思っていた。

或いはそうなる為に、町の人たちが協力してくれていたのかもしれない。

普通に見れば、それが奇乃子にとって幸せだと思えるから。

でもそれだけの高待遇を断るのだから、奇乃子にとって幸せな仕事ではなかったに違いない。

或いは魔法使いをやることに何か意味があるのか。

何にしても奇乃子にとっては、今やっている事の方が幸せに繋がるのだろう。

俺は奇乃子の判断を応援したいかもしれない。

自分の選んだ道で苦労するなら、それはきっと頑張れるし納得できるから。

「それじゃその王様をぶっ飛ばしにいくの‥‥」

「そんな事でグダグダいう町の人達もついでにお仕置きするのです。今すぐ行きましょう!」

「いやちょっと待てお前ら!奇乃子はそんな事を望んではいないぞ!」

「そうなのだ!俺は別に王様の事も町の人の事も恨んでないのだ!俺はみんなを見返してやりたいだけなのだ!」

見返してやりたいか。

「だったら幸せにならないとな」

「その為に第二大陸に行くのだ」

しゃーない。

協力してやるか。

「ならばとりあえずはギルドに参加だな」

俺たちは遠くに見えるギルド砦に向かって、少し足を早めるのだった。

2024年10月17日 言葉を一部修正

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