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住民一揆?被害にあった民の救済と減税を求める!

『アラブの春』とは、二千十年から中東地域に広がった民主化運動の事だ。

民主化運動というか、反政府騒乱だね。

個人的な印象としては、なんとなくけしかけられた騒乱にも思えた。

結果、良きに終わった国はほとんど無かったと記憶している。

国の形なんてものは、結局のところ民に合った形に落ち着く訳で。

それを無理に変えようとしても、多くの場合は成功しない。

『日本はアメリカのお陰で民主主義国家になった』なんて言う人もいるけれど、日本は明治時代からちゃんと民主主義国家だった。

少しルールに不備があって失敗はしたけれど、民主主義国家だった事に間違いはない。

それに大昔から、日本は既に形の違う民主主義国家だったと言えるのだ。

聖徳太子の十七條憲法。

第一條にあるのは、簡単に言うと『上下関係なく和を持って話し合えば上手くいく』という事になるのだろう。

みんなで話し合って決めるというのは民主主義の根幹であり、今の民主主義よりも民主主義と言っていい。

或いは『君民共治(くんみんきょうち)』だね。

民だけでなく君主も含めてみんなで統治する国。

正に日本は元々が理想に近い国だったのだ。

だからそれよりもレベルの低い民主主義なんて、どの国よりも早く根付いて当然だったと言えるだろう。


俺は受け入れた移民を、要望に応じて色々な町へと振り分けていった。

多くが貧困層ではないとは言え、自分でなんとかできそうにない人もいる。

そんな人は戦争被害の出ている町で復興作業に当たってもらったり、軍の手伝いをお願いした。

なるべくタダ乗り寄生はさせない。

今いる国民に不満を抱かせてまでやるような事じゃないから。

流石に五千人の対処には時間も人も必要で、その間戦争は休まざるを得なかった。

仕方がないよね。

これもゲームのバランスシステムみたいなものでしょ。

結局一週間、俺たちは移民の対処だけに時を過ごした。

それでまあなんとか再び戦争に意識を向け、俺たちはようやく作戦会議を開く所にまで戻ってきた。

「海老嶋は今では一番の強敵になっている。しかし不可侵条約はまだ生きており、戦えない状況だね。その件に付いてはどう思う?」

会議はなんとなく雄猫が取り仕切っていた。

一番頭が良く冷静に判断ができそうだしね。

猫なめでもギルドの司令塔的な役割をしているみたいだ。

やはり人間適材適所で仕事をしてもらうのが一番効率がいいよ。

「問題ねぇんじゃねぇか?むしろ向こうが守ってくれるのなら、こっちとしてはラッキーだ」

「そうなのだ。今は俺たちに有利なのだ!」

「だからこそ破られる可能性がありますね。約束にメリットがなければ破られる可能性があるのです」

だから孔聞、一々同じような事を二回言う必要はないぞ。

でも言っている事は尤もだ。

ボスや奇乃子の言う通り、現在この条約は俺たちに有利に働いている。

こちらが兵力を増やす猶予を与えられている訳だし。

だからこそ、当初からの懸念は今も続いているのだ。

ただし此処まで守ってきた条約を、今更破棄するのもあまり考えられないんだよな。

或いは何時破るのが良いか、タイミングを見計らっているのだろう。

こちら側が破らないのはおそらく分かっているはずだ。

それに海老嶋は俺たち以外とも同じような条約を結んでいる。

そしてそのいくつかの国は既に袋小路だ。

逆に言えば、俺たちはその小国を攻められない。

トンネルを掘るにも遠すぎる。

ならば最終決戦を俺たちと考え、いいタイミングでその小国を攻略する事を考えているかもしれない。

どちらの可能性もあるけれど、結局俺たちの選択は一つだろう。

「どちらにしてもこちらからは動けないのです。だったら別の国をガンガン攻略するしかないのです」

「海老嶋を注視しつつ、他の国の攻略か。割と大変な戦いになりそうだね」

「そんな事はないわ。私たちは強いもの。それに領土を取られたら取り返せば済む話じゃない?」

百万診のその考え、ゲームなら割とその通りだ。

だけど此処は、現実にある要素がしっかりと影響を与えてる。

取られたら取り返せば済む話ではない。

そこには等々力を慕って信じてくれている民がいるのだから。

「狛里と想香は、麓の町にクソ王と移動してそこだけは守ろう。山の砦は俺が残るし、岩山砦は何人かのギルメンがいてくれれば全く問題はない」

最悪設置型爆破魔法だけれど、こういうので大量虐殺するのもどういう影響が出るのか不安だ。

できるだけ全うな方法で確実に守っていきたい。

「嬢ちゃんは戦力として最前線に欲しいけどな。攻撃は最大の防御だぜ!」

ギルマスの考えもゲームなら正しいんだよなぁ。

だけどやはり民を無視して戦争はできないよ。

それに麓の町は等々力第二の町で、比較的帰属意識の高い住民が集まってきているしさ。

「私は策也ちゃんが言うなら町を守るの‥‥美味しい食事処も多いの‥‥」

美味しい食事処を守りたいだけかーい!

でも重要だよね。

美味しい食事があれば、心を和ませる事ができる訳だし。

「他に意見はある?海老嶋が攻めてくるかは五分五分といった感じかな。麓の町を守るのに狛里と想香が残るなら、兵は前線に多く出せる。問題ないよね。だったら次はその戦力を持って何処に攻めるのか。次は何処を主敵とするのか決めようか?」

やはり雄猫に任せて正解だな。

ちゃんと議論が正しい方向に進んでくれる。

そんな事を思っていたら、会議室のドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ!」

雄猫が返事をしてノックした者を招き入れる。

「緊急の報告です」

また緊急報告か。

今度は流石に何処かの勢力が攻めてきたに違いない。

「何があったんだい?」

「いくつかの国で、民の暴動が起こっているようです!」

なんだってー!?

と、心の中で驚いてみる。

いや実際驚いているんだけどさ。

こりゃきっとまた俺たちのせいだろうな。

他に理想的な国があれば、どうしても自国の状況に満足できず不満に思う者はいる。

ナナシの話だと、二十万人もの移民希望者がいた訳だし。

実際不満に思っている者はその何倍もの数になるのだろう。

そんな人たちが移民できなければ、自国を変えるしかないと思っても不思議ではない。

むしろそれが健全な思いだ。

自国が駄目だから逃げ出すのは、日本人の感覚ではあまり考えられない。

自分たちで自分たちの道を切り開くのは、当たり前だから。

情報資料がテーブルに広げられた。

「このような報告が入ってきた。複数の国で騒乱が起こっているのなら、今後も更に別の国で起こる可能性がある。おそらく原因は、等々力の減税による躍進と人気かな?ならばそれを利用しない手は無いと思うのだけれど?」

「つまり直ぐに動けるよう準備をしておき、様子を見て臨機応変に対処するって訳か?」

「ならば民が騒いでいる所を攻めるのではなく‥‥民の鎮圧に手こずっている間に、別の町を攻略した方がいいのではないでしょうか」

「俺としては民を助けたいのだ。暴動を直ぐにでも止めに行くのだ」

「止めてどうするんだ?今度は俺たちが民から恨まれるぞ?」

「私は孔聞様に賛成よ。騒乱鎮圧で兵はその町に集まるわ。ならば空き家を狙った方が効率的よね」

こういうのって難しいんだよな。

他国の事はその国に任せるのが一番だと俺は思っている。

でも助けが必要な場合も無い訳じゃない。

ゲームモデルの世界とは言え、目の前で起こっている事はリアルなのだ。

ゲームでも国盗り系なら農民一揆は付きものだったけれど、まさかこんな形で連鎖するとは思ってもみなかったよ。

「僕も民を助けたいのです。暴動を止めるのではなく民に手を貸したいのです」

「私もそうなの‥‥どうして今すぐ助けに行かないの?‥‥策也ちゃん、民に味方するの‥‥」

民が正しいとは一概には言えない。

まともなのは王の方で、民を悪い奴が先導している可能性もある。

でも今回はある程度理由がハッキリしている。

戦争で高い税を取られ、更に町が戦場になって民は怒っているのだろう。

『民をなるべく巻き込まないように戦わなければならない』

そんなルールがあったのは、こういう事になるリスクを示唆していたからかもしれない。

「想香や狛里の言う通りだ。これは冒険者クエストかもしれないけれど、民を苦しめるのはやはり間違っているよな。現在騒乱は何ヶ所だったかな?」

「三ヶ所なのです!」

「だったら想香チーム、狛里チーム、ギルマスチームに分けて‥‥」

「ちょっと待って!この三ヶ所の町は、全て隣接地じゃない。道のりはかなり困難で時間が掛かるよ!」

「あっ‥‥だな‥‥」

自分基準で考えてしまっていたな。

俺たちは飛行魔法が使えるけれど、第三大陸ではまだ飛行できる冒険者はほぼいないのだ。

「おい雄猫。それでも行けねぇ事はねぇよなぁ?」

「えっ?そうだね。私たちでも近い所なら三・四時間。遠くても半日あれば行けるかも。兵は連れて行けないけれどね」

「だったら行けばいいんじゃねぇか?こんなクエストは初めてだ。俺は割とおもしれぇと感じてるんだよ」

この行為は、別に町を占拠しにいく訳じゃない。

だから兵を連れて行く必要が無い訳だ。

そういう戦いも、こんな状況なら良いのかもしれないな。

「では誰が何処へ行くのか決めましょう!」

こうして俺たちは、住民の暴動が起こっている三つの町へ、民を助ける為にチームに別れて向かうのだった。


最も遠いマップ【光の通り道】にある光の町には、狛里と他走るスピードの速い猫なめのギルメンが向かう。

次にマップ【新緑の谷】にある谷の町には、雄猫をリーダーとしてボスや奇乃子が一緒だ。

そして一番近いマップ【大平原】の平原の町には、ギルマスをリーダーに百万診と孔聞などが向かう事となった。

想香は王の護衛もあるし、麓の町を守る為に残る。

俺は当然山の砦ね。

その代わり狛里・奇乃子・百万診には一寸身を付けてある。

ぶっちゃけ今の俺は、一寸身の方が色々とやりやすいからね。

本当に竹槍のデバフは最悪だよ。

さて最初に目的地に着いたのは、最も遠い町に単独で向かった狛里だった。

飛んでいけば楽勝というか、二桁に近いくらい移動速度に差があるからさ。

ちなみに国盗りクエスト中は瞬間移動魔法は使えないよ。

だけれどそんなのが無くたって、狛里にはそう差はなかった。

町には簡単に入れそうだ。

門番はおらず、防壁門は開け放たれたまま。

俺の一寸身は狛里の影の中から様子を見ていた。

町に入ると、人は少なく感じる。

多くの店は営業しておらず、屋台店舗はそのまま放置されていた。

『店の物が盗まれ放題になりそうだな』

『でもみんなそれどころじゃなさそうなの‥‥』

狛里の言う通り民の殆どが今、町を変える事にだけ意識を向けている感じだ。

祭りのようにも感じているのかもしれない。

ほら、人が一丸となって開催する祭りの時って、全てがどうでも良くなるっていうか。

全力で楽しんで、後の事は後で考えるみたいな感覚になるよね。

だからこそ危険でもある。

赤信号をみんなで渡れば怖くないかもしれないけれど、みんながトラックに撥ねられる事だってあるのだ。

『人々の反応が城の方に集中している。行こう!』

『分かったの‥‥』

狛里は『普通』に走って城へと向かった。

本気で走ったら一瞬だけれど、町が超絶でかい突風に襲われたような被害が出ちゃうからね。

城の周りには、町の人々の多くが集まっているようだった。

もうデモの域ではない。

武器を手に持って城壁を壊そうとしている。

結界もあるから簡単には壊せそうにないけれど、冒険者なら突破できる程度のものだ。

「こちらは冒険者ギルドです。現在城への突入を手伝ってくれる冒険者を募集しています。国盗りクエストに参加していない、無関係な方がおられましたら声を掛けてください」

おいおい冒険者ギルドも民の味方をするのかよ。

大抵その地の王や領主と協力関係にあるはずなんだけれどな。

まあでも俺もアルカディアの頃には、独立系商人ギルドを作ったりしていたか。

あり得ない話でもない。

「私が協力するの‥‥」

狛里はそう言って手を上げた。

『いや狛里。お前は国盗りクエストに参加しているだろ?駄目だ!』

『そうだったの‥‥だったら‥‥』

「えっと、参加してくださるのですか?」

「無料で突入を手伝うの‥‥」

狛里はそう言ってパンチ一発城壁の一部を完全に破壊した。

死人が出ていませんように。

狛里は感情で動くから危険だけれど、誰かを殺してしまったらそれはそれでショックを受ける。

尤も今は一寸身の俺がいるから蘇生できるけれどさ。

狛里が壊した場所から、民が城へと乗り込んでいった。

直ぐに狛里も後を追った。

兵が民の行く手を(はば)もうとする。

狛里はスカーフ木刀で兵の足を撫でるように叩いていった。

「ぐおぉ!弁慶が‥‥弁慶の泣きどころがぁ‥‥」

「俺の足が短くなってるぅ!」

「誰だ!?膝カックンした奴は?!うわー!」

この辺りの兵では、狛里の動きを捉える事は無理だよな。

気がついたら兵は立っていられなくなって、そこを民が蹂躙するような感じになっていた。

城の中を進んでいくと中庭に出た。

向こうの本城側と言うか、日本で言えば本丸天守閣側には兵がズラッと並んでいる。

狛里がいれば余裕で突破はできるけれど、民たちは進むのをやめていた。

上水流(かみずる)王は民の話を聞けー!」

「戦争で苦しむのは民だー!戦争をやめろー!」

「税を下げて町の復興に協力しろー!」

そう言えば国盗りゲームで農民一揆とか起こると、兵や食料・お金が大きく減るんだよな。

そして農民一揆は、特に高い税を徴収したり、頻繁に戦争している所で起こりやすい。

こうやって他国と差がない所で起こるのは、やはり俺たちのせいか。

となると今後もこのような事が、まだまだ起こる可能性がありそうだ。

「こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」

「今やめれば死刑にはならないはずだ!」

「大人しく全員捕まれ!」

そもそも民を全員死刑なんて無理だよ。

町も国も民あってこそなのだ。

みんな殺したりしたら、困るのは自分たち。

「此処で捕まるようならこんな事はしていない!」

「そうだ!俺たち民はちゃんと普通の生活をさせろと言っているだけだ!」

「戦争をする必要が何処にある?一体何が起こっているんだ?!」

戦争をする理由なんてないよな。

おそらくは冒険者が第四大陸に行く為に決められたゲーム設定なんだよ。

それに参加しなければならない俺たちも被害者だよ全く。

かといって次のステージに行かなければ、おそらく俺はこの世界での仕事を成し遂げる事ができない。

他に第四大陸に行く方法はないのだろうか。

ゲームなら課金で可能だとは思うけれど、今の俺が行く方法はきっと無いな。

だったら早くこの世界の神を倒して、こういう所から変えてもらうしかない。

「話にならない。全員捕らえる!魔法で一気に鎮圧だ!」

近衛兵の隊長らしき者が魔法を指示した。

後ろに並ぶ魔法攻撃部隊が一斉に魔法を放ってくる。

それを狛里は木刀で薙ぎ払っていった。

「なんだ?何があったんだ?」

「君たち‥‥民を攻撃するなんて許さないの‥‥」

いや狛里、そこは『おまんら、許さんぜよ!』とか『ゆるさんかいね!』とか言ってくよ。

そしたら俺世代は割と喜ぶから。

おっと、木刀を持ったセーラー服姿の狛里がスケバンに見えてしまった。

夏セーラーだけどね。

さてしかし、怒った狛里はヤバいぞ。

と言っても持っている武器は攻撃力が下がる木刀だ。

今まで通り敵兵の足を撫でるように攻撃し、行動不能にしていた。

「強い‥‥。冒険者!冒険者指揮官はいないのか?!」

近衛兵の隊長らしき者は、本城の中へと逃げていった。

冒険者ねぇ。

この状況だと流石に暴動を鎮圧する為にいるはずだよな。

でもまさかこんな事になるとは思っていなかっただろうし、領主と一緒に対策でも考えているのだろう。

逃げようとか思っていたりしないよね?

何にしても逃げた近衛兵たちを追いかけ、狛里を先頭に民は本城へとなだれ込んでいった。

まだこの町に向かっている猫なめのギルメンも到着していないのに、狛里は何処まで行く気だろうか。

こりゃ一人で片付けてしまいそうだよ。

本城の中を駆け上がり、近衛兵を行動不能にしながら、気づけば領主のいる部屋へと到着していた。

中にはクエスト参加冒険者と思われる二人も一緒だった。

「お前は、別の国の冒険者か?!民を先導するなんて卑怯だぞ!?」

「別に先導してないの‥‥民が可哀想だから助けてあげただけなの‥‥」

いや狛里、別に暴動を先導した訳じゃないかもしれないけれど、此処まで先導してきたのはお前だぞ。

「しかし何処の勢力か知らないけれど、一人でノコノコやってくるとは」

「お前は此処で死ねー!」

冒険者二人は狛里に襲いかかった。

しかし次の瞬間、二人は地面に叩きつけられていた。

木刀で背中から叩き落としたな。

力が落ちているから足じゃなくても大丈夫だと思ったのだろう。

でもかなり死にそうになっているぞ?

「足じゃないと死にそうなの‥‥どうしよう策也ちゃん‥‥」

「えっと、回復してやるか」

俺は影から出て二人を回復させた。

当然後ろ手に魔封じの手枷は付けさせてもらった。

「おおっ!一瞬にして死にそうな二人が復活しているぞ!」

「あの小さい何かはもしかして神か?」

「ああ、神に違いねぇだ」

「一寸ほどの神様だから、一寸神様だ!」

「てぇことは、あのお嬢ちゃんは神の使いか?」

「なんまんだぶなんまんだぶ‥‥」

なんか微妙に間違っちゃいない流れになってきたな。

一寸神もまあ俺の呼称としちゃ正しいし、狛里が神の使いってのはそのままだ。

でもだからこそ問題もあるんだよ。

それは隠しておきたい事実だから。

ちなみに日本では、『隠しておきたい事実を公にしたら名誉毀損』になるんだよね。

この場合どう名誉が毀損されたのか難しいけれど。

むしろ名誉な事と言える訳で。

「一寸神様だと?コレはコレは神様でしたか。何卒(なにとぞ)この愚かな領主をお助けください!」

なんかいきなり土下座とかされても。

それにやっぱり神様にされて助けを求められてるし。

「神様は話を聞いてあげるの‥‥」

狛里まで。

でもやはり最後は話し合いで解決だよね。

戦争でも相手のトップだけは殺さないんだけれど、その理由が停戦交渉をする相手がいなくなるからなんだよな。

総力戦・相手の総力を奪う戦いにおいては別だけれど、普通は目的を達成する為にそうするんだ。

しゃーない。

一応話は聞いてやるか。

「では民側の要望から聞こうか」

俺がそう言って民を振り返ると、民の代表らしき男が一歩前に出て話し始めた。

「我らの要望は簡単です。戦争をやめて、被害にあった民の救済と減税です」

至極全うな要望だよな。

こういう当たり前の要望だけが出てくる辺り、この世界は悪くないとも言える。

しかし‥‥。

「戦争をやめる事は無理なのです。この大陸では今、どの王が統治するかを決める戦いが行われていて、それは‥‥一寸神様とは別の神様の命令で行われているようなのです」

そんな設定だったのか。

ゲーム設定は神の設定だし、間違っちゃいないよな。

それにそれが第四大陸へ行く条件と絡んでいるのだから、俺がやめさせられるものでもない。

「ではお互い歩み寄り、被害にあった民の救済と減税だけでも行えばどうだ?」

「しかし財源がありません」

そりゃそうか。

この辺りは確か狛里が金を集めてくれた場所でもある。

そうでなくても戦争の激しい辺りだ。

どうしようか。

「神様。お金を貸してあげるの‥‥」

盗んだお金を貸すんかーい!

普通は『返してあげる』とか言うんだと思っていたよ。

でもこれは戦争だしな。

貸すだけでも敵に塩を贈るようなものだ。

「お金は貸してやるよ。それで民の救済と減税をすればどうだ?返済は少しずつでいい」

戦争で兵が減れば、使うお金も減ってゆく。

借金の担保をこの町にしておけば、流石に返さない訳にもいかない。

新たに兵を雇えなければ上水流は弱体化していくだろう。

それでなるべく俺たちが楽をして勝てば、お互い被害が少なく済むのも良い。

「しかし‥‥」

「住民側はどうだ?戦争は相手がある事だからやめられない。だから救済と減税だけで納得してもらえるか?」

「一寸神様がそうおっしゃるなら‥‥」

「その代わりちゃんとやってくれよ!」

「やらなかった時は、この町を今度こそ民の手に取り戻して、等々力王国に助けを求めよう」

「等々力王国はいいな。あそこは民に優しい国と聞いている!」

その等々力王国から金を借りる事になっているんだけどね。

まあでも今は俺個人か。

「どうだ領主?住民もそう言ってくれている」

「分かった。そうする事にしよう」

「良かったの‥‥話し合いで解決できたの‥‥」

いや此処までずいぶん怪我人は出ているけれどな。

死者もおそらくはいるはずだ。

怒れる民たちが、おそらくやりすぎていたりもするから。

それでもまあマシな決着にはなったんだろう。

さて他の所はどうだろうな。

別の一寸身も一寸神となって、同じように丸く収められるか試してみるか。

とりあえず光の町の騒乱は一旦収まったのだった。

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