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捕虜開放とパーフェクト想香誕生!

第三大陸の国盗りクエストは、同じギルドで二国以上に参加する事はできない。

単独で参加している所と比べて不公平になるからだ。

同じギルドのメンバーが参加する国同士で協力し、時を見て国を譲れば簡単に攻略できてしまう。

しかし一旦ギルドを抜けてしまえば、その手はやはり使えてしまっていた。

そうやってギルドメンバーの上層部を早めに第四大陸に送り、そちらでレベルを上げてから協力する為に戻って来るのは当たり前の戦略。

聞いてしまえば当然と思えるけれど、まさか此処までゲームなんだと少し呆れてしまうよ。

ちなみにそのような事を知らなかったのは、俺たちだけみたいのようだ。


結局湖の町は海老嶋の手に落ち、俺たちは袋小路となっていた。

海老嶋にしてみれば、まんまとしてやったりなのだろう。

一旦山ノ内への侵攻はストップしていた。

包囲網が完成した事で、海老嶋は余裕の休憩って所だ。

今頃何もできない俺たちを見て、笑っているのだろうか。

そんな訳で打つ手が無くなった俺たちは、しばらく様子見の休憩に入っていた。

そこで俺は、みんなの意見をまとめてから、バグ世界の牢獄に捕らえてある山ノ内勢力の冒険者に会いに行った。

冒険者用の牢獄は、他とは違って一つの生活スペースにしていた。

アパートと食堂を備えたような、割と快適な空間になっている。

俺はそのスペースへと無造作に入っていった。

当然捕らえられている冒険者たちは驚く。

捕らえられた者たちとは言え、敵の真っ只中に一人で入っていく訳だからね。

でも当然此処でみんなに襲われたからと行って、俺がどうこうされる事はあり得ない。

みんなの魔力が封じられている中で、俺だけは魔力が使えるからね。

「よく此処に一人で入ってこれたな」

「別に襲ってきてもいいぞ?俺を殺したりしたら此処からは二度と出られなくなるだけだからな」

俺がそう返すと、その男は黙って去っていった。

この中じゃ割と格下の奴だよな。

やはり弱い犬ほどよく吠えるか。

さて、あいつは何処にいるかな?

俺は一度狛里に倒された、あの角行らしき男を探していた。

おそらくこの中では一番格上だ。

魔封じの牢獄の中では、魔力反応がないから探すのも難しいよ。

そう思ってウロウロしていると、程なくしてその男はあっさりと見つかった。

忍者のような暗殺者っぽい服装で、散切りボブのような黒髪だし間違いない。

「えっと、ちょっと良いか?俺は等々力の歩兵なんだけれど、あんたと話がしたいんだ」

男は少し驚くような表情を見せたけれど、冷静な返事でこたえてきた。

「分かったよ。だけど今は食事中だから、少し待ってもらえるかな?」

「そうだな。ゆっくり食べてくれ」

俺はそう言ってテーブルの斜め前の席に座ってそっぽを向いた。

流石に食べている所を見られていては落ち着かないだろう。

尤も此処に座っていられても同じかもしれないけれど、正直他に行くあてもないからね。

俺は無言でそのまま待っていた。

十分ほど待っていただろうか。

男はようやく食事を終えて席を立った。

「お待たせしたね。では何処で話をしようか?他に聞かれるとマズイ事なら私の部屋でも構わないが?」

「いや、別にそういう話でもないよ。ただあんたの立場が一番上で、皆がそれに従うんじゃないかと思ったから選ばせてもらっただけだから」

「なるほどね。だったら此処でそのまま話すのはどうかな?」

「ではそうしよう」

そういう訳で、俺たちは食堂のテーブルでそのまま話を続けた。

「それで私に話とはなんだい?」

「まあ簡単に言うとだ。今俺たちはこの国盗りクエストでちょっと行き詰まっていてね。それでどうしようかと考えていたんだ」

「ふむ。私たちに協力でもしてもらいたいのかな?」

「いや、このままだと何処まで今のまま続くかも分からないだろ?その間あんたたちをずっと閉じ込めておくのも可哀想かと思ってね」

このクエストが一体どれくらいで終わるのか。

初めての俺たちには分からない。

孔聞や百万診は『平均三ヶ月』なんて言っていたけれど、普通に考えてそんなに早くに終わるとは思えなかった。

仮に終わるとしても、それだけ閉じ込めておくのもやはり気が引ける訳で。

だったらもう開放してしまおうかと考えていた。

「それで私たちを開放してくれるって話かい?でも当然条件があるんだよね?」

そりゃ無条件って訳にもいかないよな。

開放すれば又敵となって襲ってくるだろうし。

「まあな。開放する代わりに、もう今回のこのクエストには参加しないって事でどうだ?」

もう参加しないなら、別に閉じ込めておく必要はないからな。

「えっ?そんな事でいいの?」

「いやそれだけ守ってくれたら、閉じ込めているよりも楽だろ?」

俺は何か間違っていたのだろうか。

ゲームだったらそんなもんだろ?

リアルならそもそも等々力の為に働いたりはしない訳だし。

「それはそうだけど、私たちが裏切る可能性とかは考えたりしないのかな?」

「そりゃ考えているさ。でもその時は、レベルが壱になるまで繰り返し殺すだけだよ。一度殺られたあんたなら力の差が分かるだろ?」

こいつは一度狛里に瞬殺されている。

力の差が分からない奴でもないだろう。

「確かに。私はこの第三大陸にあそこまで強い者がいるとは思ってもみなかった。同じように第四大陸から来ている者はいるけれど、それでもあそこまで強くはない」

やっぱり第四大陸から来ているのはこいつらだけじゃないんだな。

結局これは国盗りゲームのギルド戦なんだ。

そこに俺たちは壱パーティーとして参加したって所か。

となると本気でやっても、俺たち七人だけだと結構苦労しそうだ。

こういうゲームは武将や軍師の数がある程度必要になってくる。

領土が増えれば守る場所も増えてきて、圧倒的人不足に陥るからな。

「それで、どうする?みんなと相談が必要なら一日待つけど?」

「その必要ないよ。実は我々も相談して考えていた事があってね。その方向で問題はないよ」

「そうか。なら今からでも‥‥」

「いや。ただ開放してもらうって話じゃないんだ」

「ん?」

ただ開放を希望していた訳じゃない?

「正直貴方がた等々力の冒険者がいたんじゃ、今回優勝は不可能と考えていてね。たとえ開放された全員が再び山ノ内の為に働いても、貴方がたには勝てない。だったら今回のこのクエスト、貴方がたに勝ってもらって早急に終わらせた方がいいって事になるんだよ」

「なるほど‥‥。ん?つまり今度は俺たちの陣営で戦ってくれるって事か?」

「もちろんそれもあるよ。そして山ノ内の領土も何も全て譲ろうと思うんだ」

「へぇ~‥‥。えっ?そんな事できるの?ズルする人がいるから、簡単に傘下には入れなかったと思うけど?」

そう、このクエストで国の吸収併合なんてできたら、みんなで協力すれば割と簡単に統一ができてしまう可能性がある。

そこはだからできなかったはずだ。

「でも普通に攻め込んで普通に占領はできる。守り側が全て冒険者の指揮下であれば、戦わずに譲る事もできるよね」

「そうならないように、王は編成を調整した気が‥‥」

「国が大きくなれば、冒険者以外の部隊も必ず半分以上になるように編成と配置を王が指揮するね。戦争に負ければ、役職についている冒険者も行動を制限される」

「だろ?」

いやそこまでは知らんけどさ。

まあ当然大国が国を譲る行為なんてものは阻止されるだろう。

リアルだと完全に裏切り者扱いで死刑になるはずだ。

「でも昨日此処に来た双子の話だと、この等々力の配置はむしろ逆に見えたって言うんだ。そして私が捕らえられた貴方との戦い。あの時あの砦にいたのは貴方だけだったよね?どうして弓兵も魔法兵も同時に指揮できていたのか」

「ん?そりゃそのように王に編成の許可をもらっているからな」

「そんな許可、普通はあり得ないよ。歩兵の隊長は歩兵の隊長でしかありえないのがこのクエストなんだ。協力している私たちも、ただ戦闘に参加しているだけで指揮はできていない」

「ああ。そりゃそうだよな」

すっかり忘れていたけれど、うちの指揮権は狛里の脅しによって全部想香の思い通り、つまり俺の思い通りに動かせるようになっているんだった。

「どうしてあんな編成ができるの?どうして貴方は歩兵隊長でありながら魔法部隊も指揮下におけているんだ?」

「それは‥‥。うちの角行が王様を脅して全権を奪ったからじゃないかな?」

「‥‥」

「‥‥」

「王様って、実は結構強いんだよ?」

「マジで?」

魔力がほとんど感じられないし、『守れ守れ』と五月蝿いからただの雑魚かと思っていたよ。

「部下に良いようにされないように、強さは魔力レベルで二百五十くらいあると云われている」

「でもおまえら、暗殺しに来てたよな?」

暗殺に来るって事は、暗殺ができるって思った訳だろ?

「私たちの目的は、元々飛車と角行だったよ。もちろんあわよくばってのはあったけれど‥‥だったら護衛のいない王子から狙うでしょ?」

そういや王子の護衛とか全く考えて無かったな。

「王子も強いのか?」

「王様ほどではないけれどね」

既に俺たちは狛里のチートでバグを起こしていた訳か。

「なるほどな。でもだからと言って、山ノ内の王を脅して国をいただくのは難しいな」

「どうしてかな?」

「うちの王様は悪い奴だったから()らしめたんだ。でも山ノ内の王にはまだそんな感情を持ってはいないからな」

「‥‥なんだかこのクエストに向かう姿勢が、私たちとは全然違うね‥‥」

「クリアは目指しているんだけどな」

そんなに必死にやっている訳でもない。

俺としては第四大陸だろうと第三大陸だろうと、神候補が鍛えられればどちらでも良い訳で。

早くに次を目指したい気持ちもあるけれど、俺は俺の我儘を封印しているんだよ。

「とにかく私たちは貴方たちとはもう戦わないし、味方しようとは思う。捕らえられはしたけれど、これだけの暮らしができる捕虜生活を提供できる相手には勝てそうにない。それに殺されずレベルが下がらなかった事に皆助かっているんだ。特に第四大陸から来ているメンバーはね。レベル上げが大変だから」

こんな収容施設なんて、作れるのは俺くらいだもんな。

これも力の差を示すものになっていたか。

ただ不自由はさせたくないって思っただけなんだけどさ。

「分かった。協力してくれるって言うならお願いするよ。ところであんたは山ノ内の角行‥‥じゃないのか?死んでも山ノ内の角行として働けるのか気になっていたんだけれど‥‥」

「ん?私は第四大陸から来て、ただギルメンの為に協力しているだけだよ。だけど質問の答えを言うと、死んだらただの冒険者扱いだね」

「もしかして山ノ内で前線に出て戦っているのは、ほとんどただの冒険者なのか?」

「将棋の駒たちは、普通出てこないよ。或いは指揮をしていても、状況が不利になれば直ぐに逃げるし」

まともにクエストをやっているのは、もしかしたら俺たちだけなのかもな。

いや、王を脅すとかまともじゃないけどさ。

「俺の名前は此花策也だ」

「そういえば名乗ってなかったね。私はプレイヤーズギルド『猫も歩けばなめんなよ!』のナンバースリーをやっている『雄猫(おすねこ)』だ。ギルメンの呼称で失礼するよ」

ギルドでは呼称が当たり前の世界だったのか?

それは知らなかった。

だったら俺も‥‥と思ったけれど、俺は既に欲望ズを抜けていたな。

「よろしく雄猫。俺の事は策也でいいよ」

「分かった策也」

こうして俺は、プレイヤーズギルド『猫も歩けばなめんなよ!』略して『猫なめ』のメンバーを全て開放した。


さて猫なめのメンバーを開放したけれど、直ぐに状況が変わる訳でもない。

まずは雄猫が猫なめメンバーの説得をし、俺たち等々力に協力するよう納得させる必要がある。

俺としては逃がしたメンバーが敵対してこなければそれで良いけれど、味方になるというのだから答えを待つ必要があった。

そんな訳で時間ができた俺は、想香を砦に呼んで一心同体水入らずをさせていた。

王の守りはもうあまり必要なさそうだけれど、狛里と一寸身だけは置いておく。

王が強いとは言え、完全にノーガードも心配だからね。

一心同体水入らずは、因幡の白兎である兎白と岩永姫、そして木花咲耶姫の三人水入らずって事だ。

姫ちゃんの召喚は、意識が混ざり合わないように時間があれば行ってはいるけれど、やはり完全な同一に近い存在となっている為、この所召喚を頻繁に行っていた。

妖凛は何故か一緒にはならないみたいなんだけどね。

別の所に魂があるからか、或いは妖凛が神ではなく邪神だからか。

俺の体の半分近くは妖凛の体でもあるんだよな。

とにかく姫ちゃんだけは、魂が一緒にならないように注意が必要だった。

「しかし姫ちゃんが俺の妖精になって一年以上か。なんか知らないけれど、最近姫ちゃんが外に出ていても妖精魔術が使えるようになっているんだよな」

そうなのだ。

このウインバリアに来てから、妖精を取り込んでいなくても妖精魔術が使えるようになっていた。

この世界には妖精って人間種族が存在しているからか。

或いは妖精霧島が俺の魂に完全に戻ってきたからか。

それとも両方なのか。

理由なんて分からないけれど、どうやら俺は人種族と妖精種族のハーフ的扱いになっているようだった。

見た目は変わらないけれどね。

「そうなのですね。だとするとわたくしの存在意義は、もう無いという事でしょうか?よよよよよ」

「策也タマ!姫ちゃんを泣かせたら駄目なのです!もう一緒の存在なのですから、自分を泣かせているのと同じなのですよ!」

「いや全然嘘泣きだろ!それに一緒の存在って言えば想香と一緒だろ!元々一人だった訳だし」

そう、現在の想香は因幡の白兎と岩永姫であり、それと木花咲耶姫は元々一人の女神だったのだ。

本来は一人だったけれど、一度三人に別れ、そして今は二人に別れている状態だった。

「だったら姫ちゃんはソロソロ僕たちの所に戻って来るのです。指針の神もそれを望んでいるのです」

「そうなのですね‥‥」

「ん?指針の神?」

初めて聞く名前だな。

確か兎白は『詐欺の神』だし、岩永姫は『不老不死の神』だ。

そして木花咲耶姫は『繁栄の神』である。

「策也タマには話してませんでしっけ?」

「ん。知らんな」

「えっと兎白は因幡の白兎なのです」

「そうだな」

「白兎。つまり『白兎(知ろう)』と『詐欺』二つの力を持った神なわけです。本来は指針の神が軸になるのですね」

「知ろう?詐欺?」

まさかそんな所で切れていた名前だったのか。

「知ろう。それは知るの未然形である『知ろ』に、推量・意志・勧誘の助動詞である『う』が付いた状態となります。何かを成していない、何かを知らない人に対して、教え勧め導く意志を持った神。それが指針の神なのです」

なんで想香がそんな難しそうな事を知っているんだ?

みゆきの記憶があるにしても、なんだか納得がいかない。

俺には言っている事がまるで分からないのだが。

「簡単に言えば、本来のおまえらは四人で一人って事になるのか?」

「厳密には五人でしょうか。器である兎束は『束ねる神』即ち『結びの神』となるので、つまり今はみゆきさんも一緒というか。みゆきさんがいなければ僕たちはそもそも存在していない訳ですし‥‥そういう意味では僕たちはみゆきさんでもあるのです」

なんだかややこしいな。

想香もみゆきと言われて、『そうか』と納得するのは難しいぞ。

「まあその辺はどうでもいいや。それで指針の神がそれを望んでいるってのは?」

「今のまま策也タマの中と外を出入りしていたとしても、姫ちゃんの意思は消えて失くなる可能性が高いと思います。策也タマが妖精魔術を使えるようになっているのなら、これはいいタイミングなのではないでしょうか。繁栄の力も既に策也タマは持っていますし、姫ちゃんの役割は既に完了しているのです」

なるほどねぇ。

指針を示す神がそう言うのなら、それは正しい事なのだろう。

想香の行動の何処までが指針の神の意志だったかは分からない。

でもこれまで想香の暴走が割と良い結果的に繋がっている事がある。

白兎の頃もそうだったか。

その指針の神がこのままだとヤバいというのなら、姫ちゃんには戻ってもらった方がいいのかもしれない。

おそらく想香の中でなら、十分にその意思が残るのだと思うから。

姫ちゃんは便利で頼もしい、心の中のアドバイザーだったんだけどなぁ。

「そうか。俺は姫ちゃんには姫ちゃんの意思を残してほしいと思っている。今のままだといずれ意思が失くなってしまうというなら、元に戻った方がいいんじゃないだろうか」

やっぱちょっと寂しいなぁ。

でも妖凛みたいに完全に別意識を共存させるのは、やはり難しいのだろう。

魂は、有るべき所に帰るもの。

きっとそれが一番落ち着くに違いない。

「そうですね。わたくしもソロソロそうする必要があるとは思っていたのです。でも主様と一緒でいられるのが心地よくて、気づかないようにしていたんですね」

「まあ俺が言うのもなんだけどさ。想香と一緒になるってのは、みゆきと一緒になるって事だ。だから俺と一緒なのはこの先もずっと変わらないと思うぞ」

なんか勘違い男のセリフみたいで言ってる自分が少し嫌だな。

でももしも姫ちゃんが俺と一緒にいたいと思ってくれているのなら、それはきっと叶えられるんだと思うよ。

「分かりました。戻りましょう。それにその方が面白い事になるかも知れませんし。フフフフ」

その笑い、ちょっと怖いぞ。

でも姫ちゃんがこの先もずっと俺の傍にいられるのなら、これでいいのだ。

「決まったのです。では早速合体するのです。このみゆきさんの体なら、僕たちを一つにしてくれるのです!」

想香の体が光りだした。

そして姫ちゃんも同じように輝いていた。

輝く光りはゆっくりと一つになって‥‥。

次の瞬間には、想香だけがそこに残っていた。

見た目は全く変わってないな。

完全に想香のまんまだった。

でも、別の魔力、つまり妖力も感じられた。

これで想香も、俺と同じ人族と妖精族のハーフのようなものになったのかもしれない。

「なんですとー!」

急に想香が叫んだ。

「どうした?何か問題があったのか?」

「いえ‥‥。気にしないでほしいのです。姫ちゃんが秘めちゃんだっただけなのです」

そう言って想香は、首をブルブルと振りまくっていた。

「それで上手くいったのか?」

「もちろんなのです。策也タマの記憶とか色々流れ込んでくるくらいにバッチリです!」

「えっ?」

ああそういうのもあるんだ。

姫ちゃんに対してプライバシーは全く無かったからな。

俺の全てが‥‥想香に‥‥。

「ちょっと待て!俺の記憶はあまり視るなよ!」

「大丈夫なのです。記憶の奥底に沈めておくのです」

クソッ!まさかこんな事になるとは。

「不公平じゃないか!姫ちゃんとはちゃんと双方向だったんだぞ!」

別に姫ちゃんの記憶を覗いたりはしてないけどね。

「わ、分かりました。では僕の記憶も策也タマと共有するのです。合体しましょう!」

「合体だと!?何を言い出すんだ!?」

「大丈夫なのです。少女隊のように合体が可能になったのです。姫ちゃんを取り込めるように、僕も取り込みが可能になりました」

「マジで?」

「マジなのです!」

とうとう想香とも合体する日がこようとは。

ゴメンよみゆき。

あっ‥‥でも想香もみゆきな訳で、少女隊よりも問題がないと言えばないじゃないか。

それに今まで姫ちゃんとずっと合体していた訳だし。

「よし!想香!今すぐ合体だ!」

「あーれー!襲われるー!」

こうして俺と想香は初の合体をする事になった。

これで俺の能力のほとんどを、想香にも伝える事ができてしまうな。

一部俺固有の能力は無理そうだけれどさ。

具体的には『一寸身』と『神眼』系か。

バクゥの目とか旧邪眼とか千里眼とか、物理的に必要なのは継承は難しい。

少女隊のように改造できるゴーレムだったら可能なんだけれどね。

生身の人間は改造できないよ。

今じゃおそらく妖精人間だけどさ。

だからといって『早く人間になりたい!』とは言わないよ?

むしろ妖精人間の方が上位種と言えるからね。

何にしても一つの懸念は払拭された。

そして想香がパワーアップした。

能力だけじゃなく魔力もね。

もちろん俺は少しパワーダウンした。

まあ誤差程度だけど。


想香が帰った後、俺はやはり少し寂しい気持ちになった。

一人の時の話し相手はもういない。

妖凛?

知っての通り話さない子なのです。

まあでも妖凛がいてくれるのは心強いんだけどさ。

俺がピンチの時は必ず助けてくれる相棒だから。

さて久々の独身生活を楽しみますか。

などと思ってみても、何もする気が起こらなかった。

今は雄猫の返事待ちだし、やれる事も何もない。

こういう時はやっぱ、めでたい奴らに中和してもらうのがいいだろう。

俺は闇の家へと飛び込んだ。

いつもの部屋に行くと、相変わらずの二人がゴロゴロして待ってくれていた。

「御主人タマが来たのです!」

「今日こそは勝つのね!」

襲いかかってくる二人を、俺は抱きしめるように受け止めた。

今日はね、少し寂しい気持ちなんだよ。

だからお前ら、俺を温めておくれ。

「今日の御主人タマは弱いのです!」

「チャンスなのね。このまま地面に叩きつけるのね!」

俺が受け止めた二人は、容赦なく俺を後頭部から地面に叩きつけてきた。

「うごっ!」

こいつら容赦ねぇな。

こっちが傷心でやってきているのに、その対応が心地いいぜ!

「お前ら!今日はボコボコにしてやる!」

「弱い御主人タマが怒ったのです!」

「此処からが本番なのね!もう一度マットに沈めてやるのね!」

「かかってこーい!」

結局俺たちは、いつも通りプロレスを楽しむのだった。


さてプロレスにも勝負がついて、俺たちはなんとなく応接室でゴロゴロとしていた。

「という訳で今行き詰っていてな」

「そんな不可侵条約は破ればいいのです」

「そうなのね。ゲームなんて勝った者が勝ちなのね」

「そうは言ってもなぁ。ゲームでありながら現実世界なんだよ。目の前で可愛い女の子が泣いていたら、それがゲームだと分かっていても慰めるだろ?」

「ぶん殴る必要があるならぶん殴るのです!」

「女々しい女の子には天誅を食らわせるのね」

「お前ら鬼だな!」

まあ冗談だろうけれど、こういう会話は面白い。

会話に生産性を求める奴もいるけれど、会話の生産性なんて楽しければいいのだ。

この闇の家を俺の為に残してくれた神様には、本当に感謝するよ。

俺も神様だけどさ。

少女隊とはここでしか会えないけれど、此処に来ればだいたい会えるのはマジでありがたい。

「ところで御主人タマ。少し弱くなったのです?」

「そうなのね。ちょっと力の差が縮まった気がしたのね」

「ああ。姫ちゃんが俺から離れていったからな」

「フラれたのです」

「捨てられたのね」

「そうだな‥‥」

「元気を出すのです。捨てる神あれば拾う神があるのです」

「そうなのね。もうすぐ誰かが拾ってくれるのね」

おいおい俺は子猫かよ。

別に捨てられた訳じゃないけどさ。

ただなんというか、自分の一部が少し欠けた感じなんだよな。

そんな会話をしていると、闇の家に人が入ってくる気配がした。

俺のオアシスにいきなり入ってくるとか、一体誰が?

ここに自らの意思で入って来られるのは、俺と少女隊、後は分身と妖凛だけなんだけど‥‥。

あっ、姫ちゃんが想香と一緒になった事で、想香も此処に入れるようになったんだ。

あれ?でもこの気配、想香じゃないよな。

そう思って部屋の入口を見ていると、入ってきたのは天冉だった。

「えっ?どうして天冉が?」

ちょっと驚きだな。

魔法を教えたのはこいつら以外には考えられないけれど。

「あら策也ちん、来てたのねぇ~」

「天冉には闇の家に来る魔法を教えたのね」

「まさか使えるようになるとは思っていなかったのです。天冉は普通じゃないのです」

やっぱりこいつらが天冉に教えたのか。

天冉はよく分からないチートセンスを持っているからなぁ。

教えれば使えるようになっちゃうんだよ。

「よくこの魔法が使えるようになったな」

「私が本気になれば、きっと何でも覚えられるのよぉ~」

本人もそう言っているし、間違いなさそうだ。

俺が見た所、実際魔法が覚えやすくなる『超センス』の能力は持っているようだった。

それに娘のみたまの器だった人間。

どんな超能力があっても驚かないよ。

「それでどうしたんだ?育児放棄をエンジョイしているようだけど」

天冉は既に第一子を産んでいた。

男の子だし、既に陽蝕の跡継ぎはできてる。

それで天冉は、既に自分の役割を終えたと認識しているようだった。

「親がなくても子は育つのよぉ~。それでもう今の生活に退屈しちゃったのよねぇ~。またみんなと冒険の旅に出たいわぁ~」

生まれて間もない子供を置いて、みゆきとは真逆の性格をしてそうだ。

このあたりも実はみたまに似ているのかもしれない。

天冉はイスカンデルで出会った狛里の親友だ。

そして俺が日本で暮らしていた時の娘、みたまの依代となっていた子でもある。

実際には見ていないので全て聞いた話だけれど、俺の中に姫ちゃんや妖凛がいるように、天冉の中にみたまがいるような状態が十三年以上あったようなのだ。

だからまあ俺にとっては娘のような気持ちにさせる子だった。

しかし一緒に冒険の旅ねぇ。

天冉は割としきってくれるし、俺としてはいればそれだけ楽のできる子だ。

また一緒に旅ができるのなら、割と望む所か。

性格的には少し難もあるけれど、敵にしない限りは問題ない。

素直に言えば、絶対に敵にはしたくない子。

とは言え此処から別世界に行く手段はまだ分からないのだ。

「また一緒に旅ができるといいけどな。天冉がアルカディアなりウインバリアに来られたらね」

そう、それが無理だから一緒に冒険の旅はできない。

「そうなのよねぇ~。せめて不老不死にもなりたいのだけれど、それも異世界に行かないと無理なのよねぇ~」

「天冉は不老不死になりたいのか?」

「もう子供も産んだしぃ、私だけ年を取るのもちょっと寂しいわぁ~」

「いや陽蝕も年を取ってるよな?」

「もう陽蝕くんはいいのぉ~。子供も産んじゃったしぃ~」

なんか陽蝕が可哀想になってくるな。

まあでも女性ってのは、子供ができたら旦那よりも子供になるっていうし普通か。

でも天冉の場合、子供の事も放置プレイなんだよね。

そもそも母親には向いていないのだろう。

「そんな訳で策也ちん。私を不老不死にする方法考えておいてねぇ~。私が十代の内にお願いねぇ~」

「へいへい。何か方法がないか考えておくよ」

この闇の家は、今では俺専用のテリトリーのような場所になっている。

使える能力などは基本的には元いた世界に依存するんだけれど、効果対象が異世界人だとどうもそちらに効果が依存するみたいだった。

つまり此処で天冉に対して不老不死魔法を使っても効果が無いって訳。

この仕事が終わるのは何時になるか分からないし、とりあえず天冉をウインバリアに連れて行く方法を考えるか。

帰れなくなる可能性もあるけどさ。

この後は妖凛と分裂もして五人で酒を飲んで騒いだ。

仲間のお陰で寂しさはいつの間にか忘れていた。

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