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対山ノ内戦!麓の町を奪え!海老嶋の狙い

戦いで勝つには、『有利な戦場で戦う』事だ。

その為には『相手を動かす』のが基本となる。

こちらから動いた場合、戦場は相手に有利な所に決められてしまう。

例えば今回なら、山道で戦うか、その出口で戦うか、町の外で戦うか、防壁を使って守りを固めるか、城に籠城するか、決められるのは山ノ内側だ。

侵攻したこちら側は、最も不利な場所で戦う事になるのだろう。

その最初に設定された山道出口では、伏兵に気付けたから勝利を手にする事ができた。

さてこの先も相手の土俵で戦って、すんなり勝利できるのだろうかねぇ。

そして勝つ為に戦場を決めたいのもあるけれど、日本人の俺としてはやっぱり町の外で戦いたいものだ。

町中にまで戦いが及ぶと、当然一般庶民にも犠牲が出るだろうからね。

そうなると俺は回復に努めなければならなくなるかもしれない。

昔日本国内ではいくつか大きな戦争も起こっていたけれど、その時一般庶民の犠牲者はほぼゼロと云われている。

日本で暮らしていた頃、テレビドラマなどで『表出ろよ!』なんてセリフはよく聞いたけれど、日本は昔からそういう戦争をしてきたんだ。

一般庶民に迷惑をかけない原っぱに出て戦争をする。

今こそ山ノ内の連中に叫びたくなるよね。

『町から出て戦えよ!』


山ノ内の鼠獣族の兵たちは、揃って素直にこちら側にはつかなかった。

このままだと死ぬ事になるかもしれないのにだ。

つまり山ノ内には必殺の何かがあるのかもしれない。

「それで?何があるってんだ?俺たちがあっさり負けると思っているようだが?」

ボスが尋ねると、鼠獣族の兵たちは顔を見合わせてから話し始めた。

どうせ死ぬならって思ったのかな。

「二つのヤバい奴がいる。一人は凄い範囲攻撃魔法を使う奴だ。あの魔法なら千の兵が一瞬で壊滅するだろう」

広範囲の攻撃魔法か。

角行と思われる者がレベル二百を超えていたから、同レベルかそれ以上の者が放つ魔法を想像してみる。

千の兵が一瞬で壊滅。

確かに鼠獣族の兵ならそうなるだろうな。

こいつらそれぞれは精々レベル七十くらいまでだ。

傭兵専門の者たちが千人集まっても、レベル二百を超えるような人間にはそう簡単には勝てない。

恐怖に思うのも無理はないか。

「そしてもう一つがもっとヤバい。城の城壁の上に設置してある魔法砲台だ。アレが放つ魔法攻撃は五千以上の兵を一瞬にして薙ぎ払える」

あのアニメの巨大な兵が、口から放つレーザービームのようなものを思い浮かべる。

蟲の群れが一瞬にして薙ぎ払われるアレだ。

つまりバクゥビームのようなものかな。

でもそれくらいなら、俺や百万診の防御(シールド)魔法でだいたい止められるだろう。

思ったよりも大した事はなかったな。

しかし、だからと言ってこのまま前進していけばそれなりに被害も出るかもしれない。

奇乃子はどう判断するかね。

「それは確かに怖いのだ!でも安心するのだ。だったら此処で少し待ってみるのだ。向こうから攻めてこないなら帰ればいいのだ」

戦わずに帰るんかーい!

いやでも俺は奇乃子たちに任せると決めたんだ。

そうだよまだボスがいる。

ボスが行くと決めたら奇乃子も前に進むだろう。

「いいんじゃねぇか?そもそもこれは敵の罠の可能性があった訳だし、一旦引くのもありかもしれん」

おいおい、これは国盗りゲームなんだぞ。

既に出遅れている俺たちは、早く領土を広げて力をつけなければならない。

尤も狛里か想香のどちらかを最前線に持ってくれば楽勝だとは思うけれど、それだとこいつらを鍛える事ができなくなる。

できれば前に進んでもらいたいんだけどな。

でも実際チートがいない戦争なら、奇乃子の判断は正しいのかもしれない。

「大丈夫なのだ。俺は無理をしないのだ。だからお前たちも俺の仲間になるがいいのだ!」

「分かったよ。とりあえず命が繋がる可能性に掛けるぜ」

「みんなもそれでいいか?!」

「おう!俺たち傭兵は負けた時点で命は無いものと思っている。此処からはあんたらに従うぜ」

そんな訳で三百人ほどの鼠獣族がこちらの味方に付く事となった。

俺や百万診、サポート部隊は直ぐに回復を施していった。

「じゃあ回復を終えた者から、これを渡しておくのだ!」

奇乃子はアイテムボックスにしまっていあった歩兵用装備を皆に配っていった。

槍と防具は沢山予備を用意してあるからね。

「これはありがてぇ」

「今までよりも少し守りが堅くなるな」

まあ山ノ内もそこそこ良い防具を使っているから、そんなに大きくは違わない。

でもうちのは俺が作っていて、このレベルじゃ最高級品なのだ。

命が助かる可能性もかなり上がるだろう。

これだけの兵があれば、目の前の町は落とせると思うんだけれどねぇ。

山道を出た所からも、遠くに町の防壁は確認できた。

五キロは離れているから、小さくしか見えないけれど。

その後俺たちは奇乃子とボスの指示に従って、ここに砦を築いていった。

砦というか陣だね。

しばらく此処でキャンプをするみたいだ。

そんなに悠長な事をしていてもいいのだろうか。

そもそも今回の出兵は、あえて相手の罠にはまったフリをして蹴散らす為ではなかったか?

既に罠には飛び込んでいる訳で、予想通り森静の町方面から山の砦へと兵が動いているのが確認できていた。


そんな訳で俺本体。

北側の道にある第一の関所柱(せきしょばしら)が、敵軍の侵攻を知らせてくれていた。

間もなく設置型爆破魔法の効果範囲に入ってくるだろう。

一寸身の俺から奇乃子に情報を伝えた。

「奇乃子、現在北側森静の町方面から山ノ内の行軍を察知した。やはり麓の町から多くの兵がいなくなったのは誘いだったようだな」

「そうなのだ?策也は一人で大丈夫なのだ?」

「全く問題はないよ。それでそろそろ設置型爆破魔法の効果範囲に敵軍が入ってくる。使うなら早めに言ってくれ」

「使うと敵がほとんど全滅するという話なのだ。それは虐殺なのだ。使わないで追い返せるならそうしてほしいのだ」

「分かった。じゃあそうするよ」

この山の砦が落とされる事はまずあり得ない。

防御結界も防壁の強度も、神クラス以上でないと突破できないように作られてある。

つまり第三大陸でこの守りを突破できる者なんて皆無なのだ。

絶対とは言えないから、一応俺がいるんだけどね。

山ノ内の軍が設置型爆破魔法の効果範囲に入ってきた。

警戒して進んではいるけれど、どうやら全く気づいてはいないようだな。

とりあえず今回は奇乃子の命令通り見逃してやる。

それに俺もちょっと無双を楽しみたいし。

しかしかなりの大軍のようだな。

五千の兵がほぼ全てやってきているようだ。

今爆破すればおそらく冒険者以外は全滅だろう。

冒険者も守りの能力(スキル)や魔法がなければきっと死ぬ。

それくらい強いものだ。

範囲内の敵兵が徐々に減り始めた。

爆破エリアを越えてきたか。

ではそろそろ砦から目視できるだろう。

俺は砦の防壁扉を閉めて上にあがった。

兵たちには砦に来ている商人や旅人に声を掛けてもらう。

「現在山ノ内軍がこちらに攻めて来ております!防壁扉を閉めさせてもらうのでご了承ください。尚等々力王都方面の扉は引き続き開放しております。この砦は鉄壁ですので皆さんの身は安全ですが、不安に思われる方はそちらから退避することも可能です」

それを聞いて少し滞在してる人々はざわついていた。

しかし逃げる者はいないようだった。

実際、下手に動くよりも砦の住民エリアの方が安全なんだよね。

砦は戦闘エリアと住民エリアが完全に別れているから、ほぼ戦闘に巻き込まれる心配はないのだ。

町で暮らすよりも安全と云われている。

尤も不便だし息苦しいし多くは住めないけれどね。

「兵は迎え撃つ準備だ。弓兵と魔法兵は防壁の上から攻撃する。俺が単騎で戦場に出るけれど、気にせず攻撃してもらって構わない。俺が味方の攻撃に当たるような事はあり得ないから」

俺の攻撃手段はこの竹槍一本。

ならば前線に出るしかない。

いや久しぶりに戦闘を楽しめそうだ。

俺は防壁の上で敵軍が来るのを待った。

徐々に敵軍は近づいてきて、一度動きを止めた。

そしてその場で陣形を築いてゆく。

横に広がって数の優位性を全面的に利用する作戦だな。

こちらの戦力は千四百名ほどだし、当然の作戦にも思える。

攻撃側は守備側の三倍の兵を用意しなければ勝てないと云われているけれど、ちゃんとそれ以上で攻めて来ているんだよな。

パッと見た所、冒険者クラスの魔力を持った者も三十名ほど確認できる。

正式参加の将棋駒がいるのかどうかは分からないけれど、一応全員とっ捕まえて牢屋にぶち込んでやるのが一番いいだろうか。

なるべく殺さないで戦闘不能にし、一寸身で魔封じの手枷を付けて影に落としておく事にしよう。

敵軍が一斉に突撃してくる中、俺は防壁から飛び降りて敵を迎え撃つべく向かっていった。

さて竹槍で何処まで戦えるかな。

なんてね。

普通に戦ってもこの程度の相手なら全く問題はないだろう。

それに俺には『超飛龍槍術』があるんだよね。

俺にとって竹槍は、妖糸の次に使える武器の一つなのだ。

強化もしてあるしな。

俺は正に三国志の『張飛』の如く敵を薙ぎ払っていった。

剣技などのスキルは、魔法や能力とも違う分類とされている。

この辺りで一応魔法や能力について話しておくと、まず魔法というのは『魔導』『魔術』『念術』『妖術』などの総称とされる。

魔導には『黒魔法』『白魔法』『幻術』『呪術』などがあり、魔法と言えば一般的には『魔導』と『魔術』の総称として扱われる事が多い。

その意味での魔法というのは、魔力によって起こす現象の事だ。

魔力とは、人間本来が持っている生命エネルギーによって、魔素から集められる別の力の事。

小さいエネルギーで大きな魔力を得られるので、自分が本来持っている力以上の事ができるようになる。

能力とは念術の事で、魔力を使わず自分が本来持っている生命エネルギーだけで起こす現象だね。

生命エネルギーの事は、念力(ねんりょく)とか気力(きりょく)とかいう事もある。

或いは俺のような神が使う場合は、神力(しんりょく)という事もあったりする。

厳密には別だけれど、今の俺の力は念力や気力だと思ってもらえればいい。

ちなみに念力は魔力容量の十分の一程度しか持っていないので、魔力と同じように使った場合約十倍早くに枯渇する事になる。

よって自然とストッパーを掛けてしまう場合が多く、威力が劣る傾向にある訳だけれど、当然俺はその辺りのコントロールも余裕だ。

他にも特別な能力として、妖精の妖術がある。

妖術は妖精だけが持つ『妖力』を使うもので、魔力を集めそれによって妖力をパワーアップして使うのが特徴だ。

妖精は元々念力や気力に当たる妖力が人間の二百倍ほどあって、それを魔力によって約二点五倍にして使用する。

つまり生まれながらにして人間の約五十倍強い威力の魔法(妖術)を使用できるので、魔法能力が高いと云われている。

簡単に言うと妖精は、人間の約八十レベル分上の魔法能力を持って生まれてくる。

だから最初から魔力レベルは八十くらいとされている訳だ。

しかしその分当然魔力レベルを上げるのが困難であり、徐々にその差は埋まってくる。

最終的には、人間よりも本来持っている力が四倍程度に落ち着く。

それはあくまで容量の話なので、同じ魔力レベル同士なら威力云々には影響がない。

ただし更に細かい事を言えば、魔力よりも念力や妖力の方が使用時ロスが少ないので、人間でも人によっては魔導や魔術よりも念術の方が威力が上がる場合もある。

だから妖精は魔力レベルが同レベル同士であっても、人間よりも強い魔法(妖術)が使える事になる。

まとめると、基本的には妖術の威力が最も強く、続いて魔術や魔導、そして念術という順番になるわけだ。

念術の際のストッパーを外せる俺の場合は、念術でも妖術と同等の威力を持たせる事ができるんだけれどね。

もっと言えば、一寸の大きさになってロスを失くせる俺は、どれでも同じ威力で使う事ができる。

さてこれらは特別な力ではあるけれど、それ以外に技術的スキルが存在する。

それが剣術スキルなどだね。

魔力や念力や妖力を同時に使う事もできるけれど、基本的にはそれらを必要としない。

まあこういったものが絡み合って強さというものが決められる訳で、魔力コントロールを制限されている今、技術的スキルはとても重要になっていた。

「なかなか強いぞ!気をつけろ!」

「一人で出てくるだけはある!」

「等々力王の側近二人とは別だ。おそらく金将か銀将だろう」

「しかし武器は竹槍の形をしているな。まさか歩兵じゃないだろうな」

そのまさかの歩兵ですよー。

しかしかなりの戦力を此処に投入してきているな。

この砦を落とされたのが相当ショックだったのだろうか。

前に狛里と想香が倒した角行らしき者もいるな。

一度死んだ奴を危険な所に投入して戦わせるのは当然か。

つまりここにやってきてる奴らは、ゾンビの如く戦い続けるのだろう。

それは面倒だし、全員捕らえてしわないとな。

俺は身動きが取れない程度に痛めつけると、後ろ手に魔封じの手枷をつけて影に落としていった。

手枷と影に落とすのは一寸身の仕事ね。

でもそれをしても気づく者はいないはずだ。

死んで教会に飛ばされたと思ってくれるよね。

「どうして蘇生を待たず教会に飛んでるんだ?」

ありゃりゃ。

蘇生できる奴は当然いるか。

だとすると姿が消えるのは違和感を持つよね。

だったらまずは蘇生できそうな奴から倒していかないと。

俺は敵のいる奥深くまで移動していった。

「何故一人が倒せない?」

「ありゃ明らかにレベチだ!うちのマスター以上だぜ?」

「一緒にかかれ!何としても砦は奪還する!」

まだ向かって来てくれるか。

ならば冒険者は全員捕らえられそうだな。

俺は一人で無双できる戦場を楽しんだ。

ほんのひと時無双して、敵兵は既に半分を切っていた。

流石にもう俺が出なくても問題はないだろう。

冒険者もおそらく全員捕らえられたよな。

じゃあそろそろ砦に戻るか。

そう思った時想香よりテレパシー通信が入った。

『策也タマ。海老嶋が動いているようなのです!』

『ほう。やっぱり攻めて来るのか』

とりあえず山ノ内はほぼ片付いたし、少し休んで第二ラウンドをするのも悪くはない。

或いは設置型爆破魔法で終わりにするか。

ちなみに想香に付けている一寸身は、普段はリンクを切っているので連絡はちゃんと狛里や想香と行う。

こいつら寂しがるからね。

『いえ、攻め込んだ先は山ノ内領・森静の町なのです』

『マジか?!』

絶対裏切ってこっちに攻めてくるものだと思っていたけれど、狙いは町を空けた山ノ内だったのか。

一応俺たちとの約束は守ると。

『マジなのですよ』

『今情報が入ってきたの‥‥森静の町は海老嶋が占拠したようなの‥‥』

狛里もテレパシー通信に割り込んできた。

『早いな。妄想じゃないよな?』

『失礼なの‥‥妄想と現実の区別くらい‥‥八割くらいは分かるの‥‥』

二割は分からんのかーい!

しかしそれが現実として、これはもしかしたら嫌な流れになるかもな。

『分かった。ありがとう。引き続き何かが分かったら直ぐに知らせてくれ。海老嶋の動きには要注意だ』

『オッケーボス!』

『分かったの‥‥妄想も全て報告するの‥‥』

『それはいらんぞ』

全く狛里のやつには困ったもんだ。

ちょっと妄想にハマったんじゃないだろうな。

おっとそんな事を考えている場合ではなかった。

俺は一寸身で直ぐに奇乃子へと伝えた。

「奇乃子。森静の町が海老嶋によって落とされたらしい。これはひょっとすると悪い流れだ。早急に麓の町を落としてくれ」

「どういう事なのだ?」

「地図をよく見て考えろ。俺たちが今攻撃できるのは山ノ内と海老嶋領だけだ。しかしもしも山ノ内領が全て海老嶋に取られたらどうなると思う?」

「平和なのだ!周りに敵がいなくなるのだ!」

「喜んでいる場合じゃないぞ!これがリアル世界ならそれでも良いかもしれないけれど、これは国盗りクエストだ。何処にも攻められなくなったら、俺たちは海老嶋がどうにかなるまで戦争に参加できなくなるんだよ」

そう、これが海老嶋の作戦だったんだ。

小国を相手にして下手に兵を減らしたくはないし、背後でチョロチョロされるのも目障りになる。

だからそういう国々と不可侵条約を結び、大きな国を一つずつ確実に落としていく。

そして最後不可侵条約を結んだ小国だけを残せば、後は一国ずる楽に処理して天下統一だ。

そうなったとしても俺たちは負けないとは思うけれど、おそらく面倒な戦いになるし時間もかかるだろう。

不可侵条約を破ってしまえば済む話かもしれないけれど、さてうちのメンバーがそれを良しとするかは疑問だよね。

コレは俺の我儘だろうな。

でもやっぱ仕事は早く終わらせてお家に帰りたいよね。

そんな事を考えていると、町の方から何か魔法が放たれた。

「あいつの魔法だ!」

「きっとこの距離でも届くぞ!」

「やっぱり俺たち殺られるのか?」

鼠獣族の兵が騒ぎ出した。

混乱するのは良くないぞ。

兵が脱走したりするかもしれない。

「大丈夫なのだ!防御魔法で守るのだ!」

「ようやく私の出番のようね。此処まで何も活躍できなくて、孔聞様に申し訳ない思いだったのよ」

「女神さま、それは自分も同じなのです。自分も自分に申し訳ない思いでした」

自分に申し訳ないってなんだよ。

そして百万診!

自分と孔聞が同じ思いで嬉しいみたいな顔してんじゃない。

ちゃんと防御魔法で攻撃を止めるんだ。

絶対魔法防御なら楽勝で止めれるんだけどなぁ。

今の俺では千四百人全員を守れるだけの魔法は使えなさそうだ。

百万診と孔聞の魔法で、しっかりと全員カバーできていた。

しかし孔聞の方は少し防御魔法の強度が足りないかもしれない。

俺はそれを強化して支えた。

降ってきたのは氷の矢だった。

空から落ちてくる魔法って意外と威力が上がるんだよね。

こんなのを鼠獣族が喰らえば即死だろう。

怖がるのも分かるよ。

でもこんなものじゃ俺たちは倒せないぞ。

それにこれくらいの魔法なら、奇乃子にだって放つ事はできる。

少し射程が遠すぎるけれどな。

「こんな魔法を使うなんて怒ったのだ!ライトニングアローエンブレム!」

いやこの程度の魔法は戦争なんだから使うだろ。

つか流石にこの距離だと奇乃子の魔法じゃ届かないよな。

俺は少し奇乃子の魔力をパワーアップさせておいた。

攻撃魔法は使えなくとも、他人の魔法をパワーアップさせる事はできるみたいね。

放たれた魔法は無数の光りとなり、鷹を形どった雷が町の防壁の上を攻撃していった。

奇乃子だと流石にこの距離じゃ見えないよな。

それなのに防壁の上を綺麗に掃除しているぞ。

勘が鋭いのか。

それとも偶々なのか。

どちらにしても今のは割と効果のある攻撃と判断できた。

敵はどうやら慌てているようだ。

一度掃除された防壁の上で、人が右往左往している。

まだそこそこ兵は残っているな。

そう思って見ていたら、更に巨大な砲塔のような魔導具がこちらに向けられるのが見えた。

「鼠獣族の傭兵が言っていた魔法砲台とやらが、こちらに向けられるように移動しているぞ」

「本当なのだ?どうして今更使うのだ?攻撃してくるのだ?」

「確かに今更だな。エネルギー充填が百二十パーセント必要だったんじゃねぇか?」

「使用までに時間がかかるって訳ね。だったら早めに攻撃した方が良かったんじゃないかしら?」

「我々は無駄に時間を与えてしまったのでしょうか?それは敵を有利にしてしまったという事でしょうか?」

どっちにしても撃ってくるとしたら、今更逃げても遅いだろう。

ならば止めるしかない。

俺はサファイアシールドとエメラルドプリズムを発動した。

両方最大限まで展開する。

思考の数以上だと今はしんどいな。

魔力コントロールが制限されている今、それ以上無理はしない方がいいだろう。

さてどんな攻撃が飛んでくる?

予想通り魔力ビーム的な攻撃なら、エメラルドプリズムで攻撃方向を捻じ曲げる事ができる。

そうで無かったら、サファイアシールドで受け流そうと考えていた。

それでも無理なら、百万診と孔聞の魔法を強化してなんとか止めてみよう。

俺は三段構えで魔法砲台からの攻撃に備えた。

一瞬魔法砲台が輝いた。

するとその直後、ビーム攻撃がこちらに向かって放たれる。

正に思った通りの魔法ビームが、左手から右側に向けて俺たちを薙ぎ払おうと飛んできた。

しかしどうやら射程距離が足りず、かなり手前の地面を削り飛ばすだけだった。

だから使わなかったのね。

でも今更使うってのは焦っている証拠か。

思った通り防壁門が開かれた事で、焦っているのはまず間違いない。

狛里からテレパシー通信が入る。

『麓の町に向けて海老嶋軍が出発したの‥‥』

『そうか、ありがとう』

こりゃ急がないとな。

しかし今、少ない兵を伴って戦争参加の冒険者たちがこちらに向かって走ってきた。

おそらくこの町に、海老嶋軍が近づいて来ているのを知っているのだろう。

早々に決着をつけないと守れないと判断したんだろうなぁ。

「奇乃子!迎え撃つぞ!町から出てきてくれたのはラッキーだぜ」

「ボス、分かったのだ。兵もみんな突撃なのだ!」

「自分たちも行くのです!魔法攻撃部隊は射程に入れば先制攻撃ですよ!」

「サポート部隊は孔聞様の強化よ!他も余裕があれば強化してもいいわよ」

おいおい百万診、孔聞だけを贔屓し過ぎじゃないか?

でも相手冒険者は皆格上だし、力を一点に集めるのは悪くない作戦ではある。

それがエネルギーブラストしか使えない孔聞じゃなければね。

なんて思っていたけれど、集中的にパワーアップされた孔聞がボスと奇乃子だけを強化する事で、奇乃子とボスは敵冒険者よりも魔力で上回った。

結果オーライかよ。

一寸身の俺も戦闘に参加すれば、数の差で圧倒する俺たちが負ける訳がなかった。

逃げる敵を追いかけるようにして町へと入り、そのままあっさりと城を落として勝敗は決した。

「直ぐに町の防壁の上に等々力の旗を立てるんだ!」

海老嶋軍が来る前に、麓の町を落とした事を伝えなければならない。

でないと町で乱戦もあり得るからね。

幸い海老嶋軍はこちらに近づいて来ているようだったけれど、途中で状況を知り引き返してくれたようだった。

危なかったな。

時間的にはギリギリの戦いだったけれど、奇乃子の命令で直ぐに攻撃に行かなかったのが結果的には正解だったようだ。

待つ事をせず直ぐに攻撃していたら、魔法攻撃や魔法砲台によってこちらも無傷とは行かなかっただろう。

攻略にももっと時間がかかったはずだ。

先に動くと負けの戦い。

我慢比べで勝利したと言った所か。

尤も奇乃子は別に我慢した訳じゃないけれどね。

何にしても俺たちはギリギリのタイミングで勝利した。

しかしまだ安心はできない。

海老嶋の山ノ内侵攻は、この後も続けられるだろうから。

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