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第2話 プロローグ
日常とは、当たり前のようでいて全くそんな事はないと思い知らされる。変化のない日常が、今では恋しくてたまらない。建物の中に居たはずが、不気味な色の空に、整備がまともにされているとは到底思えないサーキット、レースが始まる直前なのに人気の全くない観客席、非日常極まりない空間に夢でも見ているのだと思わずにはいられない。しかし、ハンドルを握る手に広がる汗も、血が滲むほど噛んでしまった下唇も、レース前の心臓の音も、全てが夢でないと証明しているようで、嫌気がする。レースに集中しなければ、と意識を集中させ、静かに始まりを待つ。
暫くすると、目の前のライトに色が付いた。そして、レースの始まりを告げるブザー音が、大音量で響く。俺は、ハンドルを握り締め、アクセルを力強く踏みつける。
俺達の日常を取り戻すために―――