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ミライの悪魔  作者: 宵暁
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第1話 エピローグ

入学式は無事に終わり、教員達は入学式の片付けと新入生歓迎会の準備に忙しなく動き回っている。

「隆雄先生!その荷物はこの教室ではなくて、です!」

「そっちでしたか!高崎先生、申し訳ない!」

同期の高崎先生に、間違いを指摘され荷物を再度、持ち上げ運び始めると、近くでその会話を聴いていた学年主任が口を開く。

「隆雄先生、またですか。先日も気を付けるように忠告したはずでしたよね。以後気を付けてください。」

「申し訳ありません!!!次からは気を付けます!」

オレにできる精一杯の謝罪をすると、周囲から笑いが起こる。コソコソと話す言葉が、心臓を切りつけていく。その度に、情熱が冷えていくのが恐ろしい。

「見て、隆雄先生また怒られてる。しかも、あんな大声で恥ずかしくないのかしら?」

「謝罪だけ精一杯やれば許されるとでも思ってんじゃねえの?ミスされるとこっちが尻ぬぐいをさせられるんだから、いい加減にしてくれよ」

「頑張ってくれてるのは分かるけど、空回っているというかねぇ。あの熱血さが鬱陶しいんだよね。この間も、部活動で指導に熱が入っちゃって、各寮の寮長から『まだ帰って来ない』って連絡が来てたらしい」

いつもなら、何てことのない言葉のはずなのに、今は一つ一つの言葉が重く感じる。今日の朝、不思議な7つの光線を見たから良い一日になると思ったんだけどな・・・・・・。いや、これぐらいでへこたれてたら駄目だよな!生徒にも顔向けができんしな!!そうと決まれば、早速できることを探すか!近くに男性教師を見つけ、声を掛ける。

「何か手伝えることはありますか!!」

「え・・・・・・あー、特にないかな。こっちはいいよ、他の人を手伝ってもらってもいいかな?」

男性教員は、オレの顔を見ずに答える。その態度に生活指導担当のオレとしては、納得がいかないが何とか堪え、返事をしてからその場を離れる。職員室にでも行けば、何か仕事を貰えるだろうと急ぎ足で職員室へと向かう。決して廊下は走らない!教師は、生徒の見本としてあるべきだからな!!歩いていると複数の生徒が集まっているのが見えた。何やら、一人を取り囲んでいるようだったため、急いで生徒たちの元へと向かう。

「お前ら!何してるんだ!!」

「げ、隆雄じゃん。ダル」

「マジかよ。めんどいな」

取り囲まれている生徒は、俯きながらズボンのポケットに手を突っ込んでいた。よく観察すると、紙幣の端がはみ出していた。いじめである事を察する。生徒指導を行うものとして、断じて許すことができん!

「お前ら、何をしていたんだと聴いている」

「俺たち何にもしてませんよ〜。俺たち仲良いんで、廊下で話し込んじゃってただけっすよ。な?」

「・・・・・・はい。」

金髪に染めた生徒が、俯いている生徒に声を掛け、答えさせる。力関係がはっきりしているな。

「だったら、なぜ彼は金を握り締めているんだ!!」

言いながら、ポケットに突っ込まれている手を掴み、ポケットから出させる。きつく握られていたようで、紙幣はぐしゃぐしゃになっていた。彼の手にも爪の跡がしっかりと残っており、悔しさが痛いほど伝わる。すると、取り囲んでいた生徒たちが、次々に舌打ちをし始める。

「テメェ、覚えてろよ。」

「おい、チビ野郎。センコー呼ぶなんていい度胸してんじゃねぇか。明日から覚悟しとけよ」

それぞれが、捨て台詞を吐きながら去っていく。よし、悪は成敗された!!そう満足感に浸っていると、俯いていた生徒が、鋭い視線をオレに向けた。

「よ、余計な事しないでくれよ!!先生のせいで、もっと酷くなったらどうしてくれるんだよ!!!」

生徒は怒鳴り、走り去っていく。ああ、傷つけてしまったのだろうか。生徒への対応が上手くできず、落ち込む。しかし、このまま立ち止まっていてはいけないと思い直し、後悔をしながらも次の仕事を探す。すると三年生の教室の前に居る同僚を発見し声を掛ける。すると、苦い顔をしながらも答えてくれた。

「じゃあ、これを体育倉庫に運んでおいてくれないか」

同僚は、彼の足元にある荷物を指さしながら言う。

「了解した!オレに任せておいてくれ!!」

今できる限りの精一杯の返事をして、荷物を抱える。早歩きで廊下を歩き、階段を下る。

嗚呼、疲れた。

言葉が零れた。そうだ、口から零れたとは、こういうことをいうのだろう。まさか、オレからこの言葉が出るとは夢にも思わなかったからこそ、驚きが隠せない。失望した。根性の無さに苛立つ。歩いていたはずの足が、いつの間にか止まっていて、動かない。前に踏み出せない。足が鉛のように重い。気合を入れるために、ため息を吐き、両腿を思い切り叩く。荷物をしっかりと持ち直し、体育館へと急ぐ。厄介払いであると知りながら。無駄な努力であると理解をした思考に蓋をしながら――――。やっとの思いで体育館に辿り着き、扉を開ける。闇だった。一寸の光も入り込むことはなく、そこに空間があるのかを疑いたくなるほど暗かった。いつもなら、窓から何かしらの光が入り込むはずが・・・・・・。違和感を覚え、辺りを見回すが何かが居る気配も、何も無かった。しばらく闇を見つめていると目が慣れてきたようで、体育館の床に描かれている線が見えてきた。それを、暗闇の中でも活動ができる合図として、歩き始める。視覚と記憶を頼りに体育倉庫の前に行く。そして、真っ暗な体育倉庫に足を踏み入れた。

「人が気持ちよく寝てるってのに、邪魔すんじゃねぇよ」

「え?」

オレ以外は、誰も居ないはずの真っ暗な体育倉庫で、オレではない声が響く。何とも言えないような恐怖心が身体を支配し、まるで言う事をきかない。不審者であれば撃退しなければ、生徒であれば指導しなければ、教員であれば笑い飛ばさなければと役割に応じた行動は、いくつも頭の中に浮かぶが、いかんせん体が動かない。その声は、この世全ての不快感を混ぜたようだった。聞いただけで鳥肌が溢れ、冷や汗が流れる。血の気が引いていき、気絶してしまいたくなる。

「あ?何か言えよ。・・・・・・お前」

”何か”が近づいて来る。オレは後退することもできず、死を覚悟する。まだ何も成しえていないのに死ぬのか。まあ、いいかと意外にも頭は冷静だった。きっと生きていても、厄介者扱いしかされないのであれば致し方ないさ。これでやっと堕落できると、柄にもないことを考える。

「始めは、最も嫌いな分類の奴が来たかと思ったが・・・・・・その怠惰は気に入った。お前に永遠の怠惰と安寧を約束しようじゃないか!」

そこでオレは、その日見た光線の正体を知ったんだ。

それは、紛れもなく、確かにオレの――――――希望だったんだ。


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