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ミライの悪魔  作者: 宵暁
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第2話 エピローグ

探さなければ、探さなければ、器を、吾に最も相応しい器を。

美しく、情熱的で、秀逸で、強かな器を!

人の世には、強欲な者などありふれている。

吾は、そんな器では満足し得ぬ。

吾は求めているのだ。

決して尽きることのない底なしの欲望を!


嗚呼、つまんない。つまんない、つまんない、つまんない!時間通りに鳴るチャイムも、誰も聞いてない話を何回も言い続ける先生達も、愛敬を振りまき、自分の保身をしている同級生も、なんの面白味も無い!美和の事を満足にさせてくれるものは何にも無いわけ?嗚呼、つまんない。

「美和ちゃん、また小テスト学年トップだったでしょ?流石だね!」

「さっすが美和!」

「可愛くて、頭も良いなんて完璧じゃん!」

「そんなに褒めてくれたって何も出ないよ?でも、すっごい嬉しい!ありがとう」

聞き飽きた言葉ばっかり。

言葉をもらった一瞬は、確かに満足感を感じるし、陳腐な賞賛の言葉を求めていたことも事実のはず。だけど言われた後には何も残らない。一瞬の快楽の後は、虚しさしかない。例えるなら、ガムの最初の一口が終わっちゃった時みたいな感じ。嗚呼、つまんない。美和の周りに、集まってくる人達も、うざったい。媚びる言葉ばっかりで、気持ち悪っ。

「じゃあ、美和ちょっと行くところあるから、ごめんね」

少し俯き加減で、相手を見上げるようにしながら、絶妙な声音を使い分けてっと。

「大丈夫だよ。こっちこそ、引き止めちゃってごめんね」

表情筋をフルに活用し、手を振って別れを告げる。やっと居なくなった。本当に誰かと居ないと自分の輪郭を形成できない奴らってバカみたい。浮ついた奴らを見下しながら、寮への帰路へついた。

     

 嗚呼、本当に月曜の朝って最悪の気分。あんなバカみたいな奴らと、また1週間を過ごさないといけないなんて、本当に反吐が出そう。美和が笑顔の裏で、こんな事思ってるなんて1ミリも気付かない鈍感さ加減にも飽き飽きする。そんな事を考えている内に昇降口に着いちゃった。

「美和〜。おはよ!」

おえっ、もう来た。女子特有の甲高い声が後ろから聞こえ、無視したい気持ちを押さえながら、笑顔で振り返り、挨拶をする。

「今日は部活紹介の日だったよね!美和は何部に興味あるの?」

そういえば、今日は部活紹介があるんだっけ。学生のお遊び程度の集まりに、期待しちゃってバカみたい。まあ、良い暇つぶしにはなるかもね。

        

 ありきたりで、つまんない部活の紹介を適当に聞いていると欠伸が止まらない。期待した美和がバカだった。普通の学校よりは、多少専門性が高い程度の部活ばかりだった。

「バスケットボール部の皆さん、ありがとうございました。続いては研究部・天文科の皆さんです。よろしくお願いします。」

司会の生徒が、明らかにカンペ読んでますというような棒読みで、天文科の名前を出した途端、会場から歓声が沸き起こる。は?なにこの盛り上がり方。隣にいる噂好きのモブ女子に聞いてみよっと。それとなく聞いてみると、ありえない物を見るような目で見られた。

「え、美和ってば、十神里彩先輩を知らないの?」

誰それ?なんか、聞いたことはある気がする名前だけど、全然わかんない。

「あ、あの人だよ。あのマイク持って出てきた黒髪美人の人!」

モブ女子の指差す方に視線を向けると、確かに顔の整っている女が立っていた。

「里彩先輩って美人な上に、学園トップレベルの天才の一人だし、才色兼備って言葉が先輩のためにある言葉って感じだよ。」

うわっ。そうやってお高く留まってる奴って、美和大っ嫌い。あの涼しい顔も、見下されているようで、イライラする。それに、この横にいる女のあの女を称賛する言葉の数々も耳障りで仕方ない。

「里彩先輩って、天文学の知識とかで天気を的中させちゃったり、中学生の時に新しい星を発見して、命名までしちゃったんだって!」

「へー。凄い人なんだね」

「それにね、あの人は生徒会長のお気に入りなんだって!」

はあ?なにそれ、じゃあ生徒会長から支援を受けてるってこと?じゃあ、成果を出せるのなんて当たり前じゃない!そんな奴をチヤホヤしちゃってアホみたい。もう見たくないと、視線を逸らすも、周囲の歓声やあの女を称賛する声に嫌でも存在を認識してしまう。さっさと終われと心の中で耳を塞いだ。

           

部活紹介が終わり、帰りのホームルームを終えると誰も使っていない実験室に飛び込み、電気も付けずに、イライラを収めるため、長い時間を費やしていた。腹立つ。本っ当に、あの女嫌い。大っ嫌い。澄ました顔しちゃってさ『私はなんでもできて、アンタ達とじゃ釣り合わないのよ』って感じで最悪。アイツの成果は、生徒会長から気に入られてなきゃ、なんにも出せなかったくせに!あの澄まし顔で、なんでもやってのけるあの女も、あの女を気に入っているバカな生徒会長にも、腹が立つ。許せない、絶対に。アイツらの持ってる全てが欲しい。全てを奪いつくしてやりたい!欲しい、欲しいの!何が何でも欲しい!!その全てがあれば、美和はもっと、もっと輝けて、唯一無二になって、沢山愛されるんだから!!!ふと、窓の外を見ると、すっかり日は落ち、辺りは暗くなってしまっていた。外を呆然と眺めていると、どこからか頭の中で響くような笑い声が聞こえてきた。声の方を振り返ると、部屋の隅の一層暗くなっている場所から、爛々と光る2つの目がこちらを見つめていた。

「お前、飢えているな。ここまで渇ききり、永遠に満たされることの無い欲望は、そう拝めるものではないな。素晴らしい、どうだ吾がお前の渇きを満たしてやろう。」

実験室の電気はついてないとはいえ、暗闇に慣れた目でも闇に紛れて姿が全く見えない者なんておかしい。突然現れた不審者に、身構え鞄を握り締める。隙をついて、逃げださないと。

「はあ?何言ってんのアンタ。気持ち悪いから近づかないで!」

「お前、それが素か。いつもの吐き気のする猫かぶりはどうした?その性根の悪さも気に入った。お前、吾と契約をしろ。」

今だ!不審者が目を瞑った一瞬の隙をついて扉の方へ走る。

「キッモ!付いてこないでよ!!」

捨て台詞を叫びながら、実験室を急いで飛び出し、寮へと急ぐ。ようやく寮が見えてきて、速足で門をくぐる。

「重森さん、親御さんからお手紙が届いていますよ」

あの女に対する不快感と悪魔とかいう奴に対する気味悪さを抱えながら、寮の中に入ると、寮母さんが待ち構えていた。パパとママからだ!その事実に、胸が躍る。

「ありがとうございまーす!」

上機嫌で手紙を受け取り、駆け足で自室へ戻る。扉を雑に閉め、鞄をベッドに放り投げ、手紙の封を切る。

『美和、パパもママも今月は帰ることが出来そうにない。

 また、お金を振り込んでおくよ。愛しているよ、ママとパパより』

手紙なんて読まなければ良かった。胸の中の不快感に突き動かされるまま、手紙を握り潰して、ゴミ箱に投げ捨てる。一度深呼吸の後、スマホを操作し、振込金額を確認する。10万円!たったの10万円なの!!パパやママの美和への愛情は、そんなものなの!!!信じらんない。先月も同じ金額だったじゃん。湧き出る怒りの感情に任せて、部屋中の物を投げ捨てる。ムカつく、ムカつく、ムカつく!なんなのよ!!服を引き裂き、鞄を投げ捨て、人形を殴りつける。そうして一通り、暴れたことで落ち着きが戻ってくる。肩で息をしながら、怒りが収まるように自身の肩を抱く。物の数もお金の桁も満たされている証、地位や名声は求められている証拠、愛されている証明。美和は、誰よりも愛されているんだから。だって、こんなに贈り物を貰えるんだもん。愛されていないわけがないじゃない。自分に言い聞かせ、ようやく冷静さを取り戻す。でも、まだ足りないの、もっと愛されたい。もっと、欲しいの、欲しいの、欲しいの、欲しいの!どうしたら、満たされるのよ。自問自答を繰り返し、放課後に出会った悪魔の存在を思い出す。あの悪魔なら、満たしてくれるかもしれない。そう思って、立ち上がり、実験室に向かおうと振り返ると、そこには先程の悪魔の姿があった。

「行動の早い人って、美和大好きなんだ」

「奇遇だな。吾も理解の早い者は好ましい」

「じゃあ、交渉成立ね」

互いに握手をして、目と目で交渉の成立を確認する。

嗚呼、何だか満たされる。久方ぶりの心地良さに笑いが止まらないわ。

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