自動配信
気づけば俺は『自動配信』などという奇怪なスキルを習得していた。
「クフェア様、俺の同意を得る前にスキルを与えているじゃん!」
「それがお前の運命だからだ。良いか、アルメリア! お前は余の為人の為に献身的になれ! 世界中の人々を助けてさしあげるのだ!!」
この人、なんかキャラが違うぞ!!
いつもはもっと厳粛なのに、どうなっていやがる。
てか、俺が世界中の人々を助ける?
なんのメリットがあるというのだ。
「悪いけど俺は暇じゃないんだ。他をあたってくれ」
「ええい、口答えするな! 断るのなら、こちらにも考えがあるぞ」
「な、なんだよ」
「アルメリア、お前をブラッドサッカー伯爵と婚約させる」
ブラッドサッカー伯爵といえば悪名高い貴族だ。不摂生な生活を送り、肉体は張り裂けそうなほど巨体で巨漢なのだとか。
図体が大きいだけでなく、民から金品を巻き上げているようだ。
「そんなヤツと婚約させるな!」
「なら、自動配信を行え。魔物を滅するんだ」
「そっちの方がマシだな」
「良い返事だ、アルメリア。では、とっととゼフィランサス教会から出て行け」
蹴り飛ばされ、俺は教会を追い出された。
あのボケナス……クソ!
扉のカギを閉められた。
俺は追い出されてしまったようだ。
同時に、凄い違和感に襲われた。なんだか目の前に文字らしきものが流れていたんだ。
『配信はじまった?』『おー、銀髪の女の子か』『シスターちゃん、可愛い』『職業はプリーストっぽいな』『へえ、俺のパーティに入れたい』『名前なんて言うの?』『美人さん!』
な、なんだこれは!
ま……まさかこれがクフェア様が言っていた自動配信か!?
マジかよ。本当に自動で配信されているんだ。
なんか違和感が凄いな。
てか、どうやって反応すればいいんだ、これ。
とりあえず、話してみるか。
「お……俺、ではなくて、わたくしはアルメリアです」
『アルメリアちゃん!』『きゃわわ』『よろしく』『もうファンになった!』『チャンネル登録しておくね』『可愛い新人さん発見』『ギルドの掲示板から来ました』
反応がたくさん返ってきた。
そうか、独り言みたいにつぶやけばいいんだ。
「はじめまして。右も左も分からないんです」
『まずはギルドへ向かう』『そして服を脱ぎます』『クエストを受注するべき』『今ならイベントやってるから、モンスター討伐でいいと思われる』『初心者向けだよー』『オヌヌメ』
なるほど、ギルドか。
コメントを頼りに俺は冒険者ギルドへ向かった。
すると道中でプロテアに出会った。
「やあ、アルメリア様」
「プロテア、俺は今忙しいんだが」
「そう言わないでくれ。ところで君は冒険者ギルドに向かっているのかい?」
「そうさ。俺は自動配信をしてダンジョンへ向かい……モンスターを討伐する」
すでに配信はしてるけどね。
今も尚、コメントは流れ続けている。
けど、今は止めておきたい気もしていた。
するならダンジョンへ行ってからがいい。
「困っているようだね。僕も付き合おう」
「その前に教えてくれ。プロテアは配信について詳しいのか?」
「もちろんさ。この僕は配信の先駆者といっても過言ではない」
「マジか」
「父上が偉大な魔法使いでね。配信という仕組みを作ったのも父上なんだ」
プロテアの家系は魔法使いらしい。父親は独自の魔法を使って今の『配信』というスキルを編み出したようだ。それを広めたのがプロテアの家というわけだ。
それなら誰よりも詳しいはずだ。
「丁度良い。配信の止め方を教えてくれ」
「それなら簡単さ。スキルを再発動すると停止する」
そういうことか。
スキルの発動条件は念じること。たとえば『配信』ならそれをイメージして、オン・オフを使い分ける。
俺は今、配信をオフにした。
……お、コメントが流れなくなった。
「ありがとう、助かった」
「いやいや、君の為ならなんだってするさ」
「もう用は済んだ。じゃあな!」
「アルメリア、僕を置いて行かないでくれ~!!」
ダッシュでプロテアを撒き――俺は冒険者ギルドへ。
建物は大きくてお城のようだった。それに、人がたくさんいて活気があった。こんなに冒険者っているんだな。知らなかった。
受付へ向かうと受付嬢が対応してくれた。
「いらっしゃいませ。ご利用ははじめてですか?」
「右も左も分からない。詳しく教えてくれ」
「分かりました! では説明いたしますね」
一気に説明を受けるが、俺は目をグルグル回した。そんないっぺんに言われても困る!
「要は……モンスターを討伐してランキングを上げればいいんだな?」
「その通りです! ランキング上位に入れれば、視聴者数も爆発的に増えますし、稼ぎも増えますよ~」
そういう仕組みらしい。
よし、がんばるかッ。
受付のお姉さんによれば帝国の近隣にあるという荒野にオークが出没するらしく、三十体の討伐をお願いされた。
三十か……そんなに倒せるかな。