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第一話 の六

「絶対アラビアンナイトって嘘。昼間公務こなして帰ってエッチしてその後朝まで物語聞いて・・・って、何時寝てるんだよ?お前こそ魔人だろって、その王様。」

一時間目の古典の授業中、白夜は睡魔と激戦を繰り広げていた。瞼が重い。というか溶ける。チーズのように蕩けてピザの上でトロリ・・・・――――って、それ夢やんけ!

気がつくと書いた覚えのない異世界文字がノートにのたくっていたり、体が49度ほど傾いでいたり。


天使の話は明け方まで続いた。そのお陰で三千世界のあらましは一頻り把握出来た。勿論、自分の存在についてもだ。

ちょび髭天使は三千世界の中の絶対神という空間の存在で、空間に歪みが生じると絶対神が諸にその影響を受け、三千世界全てに混乱をきたすのでそれを防ぐために創設された三千世界の空間歪み管理職の人員なのだ。所謂公務員、なのだが試験レベルが高く、コチラの世界でいう医者や弁護士、政治家といったレベルのエリート的立場らしい。

この世界が最重要監視区域なのは、この世界の揺れが一番大きいからだ。

異世界には色々あって、その中には当然ヒトガタでない存在もあって、揺れの原因は様々らしいが、ここの場合はニンゲンの禍福が要因になる。禍福とは幸不幸。

当人にとって不幸など全て払拭したい無用の長物だが、禍福は表裏一体。悪を含んだ上で安定が保たれているわけだから、悪を完全に取り除くとすべからく安定が崩れる。

空間にも不可視の自己防御能力があって、世界が不幸に傾きかえると幸に、幸に傾きかけると不幸にと抑制するがその推移は極めて遅く、修復がなされる間絶対神への影響が大きいため人為的に禍福が制御される。

ニンゲンの禍福は周囲の状況や個人の気分によって±2、3のところをバイオリズムのように上下していて、事によっては稀に4、5くらいにいくこともある。

常人ならば1レベルの幸せでゲージポイントが1増加するところを、白夜の場合3、4ポイントで増加する。

こういう異常体質は稀にいて、天使達はボーナスゲッターと呼ぶ。

毎日がポイント二倍デーのオメデタイ雰囲気だが、振れ幅がデカイというだけで管理する側にとっては厄介極まりない。

尤もそのレベルならば干渉対象外だが白夜の場合、楽観的な性格が災いして常にゲージはプラス1、2辺り。つまりちょっとしたイイコトで常人の最高ゲージを簡単に凌駕する。とてもとてもイイコトに遭遇した日には常人では珍しい5以上を簡単に弾き出すと予測され、これは即監視対象レッドラベルとなる。

その状態で制御不可能と認定されれば、抹殺は確実だ。

本来天使は空間がマイナスに傾きかけた時に、人々に幸福を齎しプラスに戻すのが役目だ。それとは対象に人々に不幸を齎すのは小悪魔の役目である。

面白い事に悪魔の認識がコチラの世界と絶対神とでは微妙に異なる。悪魔は必要悪とはいえ殺生与奪を任されているため、天使よりも格が高い。

悪魔職は最低でもジェネラリィーエンジェルから昇格した後の役職でなければ試験すら受けられないという。

それ故、悪魔は天使よりも人員が圧倒的に少ない。

それ故、悪魔の仕事は些か粗い、というか乱暴だ。

例えば、マイナス10に傾いたゲージをゼロに戻すために天使は1レベルの幸せを十人に与えるが、悪魔はプラス10のゲージを戻すために5レベル前後の不幸を2、3人とか、最悪10レベルの不幸をどーんと一人に与えてしまうのだ。

そもそもがそういった荒業師ばかりなので、ポイントゲッターなど見つかれば上官への報告と共に抹殺許可を貰うに決まっている。

中には、他所で禍福ゲージが大きく傾いたときの防御手段として監視対象下で保護されるポイントゲッターもいるが、管理しやすいように常時感情の起伏が乏しい奴が選ばれるのが通例だ。ちょっとしたことで浮かれる白夜など論外。

不幸を与えることはそもそも天使の役目ではないが、抹殺といえば不幸の際骨頂なのでそれを回避するのは天使の役目だろう、とちょび髭天使は屁理屈ともいえない理由を掲げて白夜に禍を齎してきた。

・・・というのは建前で、任期の間、よりポイントの高いニンゲンを制御すれば、内申が上がるらしいのだ。

未知の存在と戦う以上味方は多いに越したことはないので、その辺りの本音についてあえて言うまい。

『デートにこぎつけただけで禍福ゲージが軽く+5・6に跳ね上がるんやで。これで女コマした日にゃどーなることやら・・・』

『まさか性欲花盛りの青少年に実も花もなく立ち枯れろとかッ?』

『ほんじゃ事の直後に直下型大不幸を落としてやろか?』

『イヤダッ!』

『も〜アレも嫌コレも嫌て、聞き分けない餓鬼みたいな事言わんといてな。』

天使は煩わしそうに言うが、仕方ないと納得するにはデカイ選択だ。

ポイントゲッターなんて俺の所為じゃないのに。せめて後ろ向きな性格ならば良かったが、楽天的なのも生来のものなのでもはやいかんともしがたい。

『あ、でもさ、俺昔すんごい大事故に見舞われたことあるよ?それも天使だか悪魔の仕業なのかな?』

やや人事的なのは、白夜自身はその事故についてまったく記憶してないからだ。事故の後遺症だと言われているが、未だに綺麗さっぱり抜け落ちて断片すら思い浮かばない。

『さてな。ワイの任期前の話はよう知らん。せやけどもしそうなら既にポイントゲッターとして登録されとるはずなんやけどなぁ。ま、ちいっと気になる事もあるで調べとくわ。』

『気になることって・・・・?』

天使はまたハッキリしたら話すと言って、白夜もそれ以上深く突っ込まなかった。ともかくその時は眠かったのだ。


眠い。


堪えきれず欠伸を零した白夜に周囲から棘のある揶揄が囁かれる。

「おやおや。帝王は今日も寝不足らしい。」

「やっぱり寝不足の破滅が先かな?」

いやいや、殺気も相当なものですよ。

周囲の不穏な圧迫感に突っ込みながら白夜は続けて出そうになった欠伸を辛うじて飲み込む。

今朝のホームルームに現れた天子も明らかに寝不足と分かる虚ろな顔で、二人の関係は否応なく妄想された。

しかも迷惑千万な天使はクラス内の殺気濃度を顧みず、

『明け方のが一番激しかったわ・・・』

などと呟くものだから、空気はさらに悪化した。

確かに、徹夜は同じでも、年寄り並みの早起きで部屋に襲撃した妹に弄り捲くられた天使のほうがグロッキーだろう。

針の寧ろに晒されながら白夜はあることを思い出し視線を廊下側の後方へ向けた。

黒井音子は今日もカリカリと雑音を上げて周囲の不安を無造作に煽り立てている。昨晩はポイントゲッターの話で時間が尽きて黒井音子の事をすっかり聞き逃した。

気をつけろとは一体どういう意味なのか。

「おい、東郷。・・・黒井がどうかしたのか?」

教壇から古典のまだ若い男教師におそるおそる尋ねられ、白夜は飛び上がって驚いた。

黒井音子に迂闊に触れんじゃねぇよッ、新米教師めがッ!

白夜は呪われたらどうしてくれるんだと内心本気で激昂し、即効で否定する。

「い、えっ、滅相もありませ・・・」

それを遮るように教室のどこかから妙な思いつきが迸る。

「あ、ひょっとして白夜のモテル原因って、黒井音子の魔術によるものかっ!?」

そんなアホな・・・。

内心で突っ込むのは白夜だけでクラスメートは何の根拠かその戯言を鵜呑みにして、恋愛成就を黒井音子に迫る。

が、


ニタリ


口だけの不気味な笑みに迎撃され、机ごと非難した。

殺気からまんじりとしない不安へと空気の色を変えた教室で白夜は、早いうちに黒井音子のことを聞いておこう、と思う。

猫を妹に受け渡すのはもう少し後になりそうだ。

不信感を増した母の顔と間違った慈愛を滲ませる父の顔がまざまざと目に浮かんだ。


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