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白の章 第二話 の十二

「く・・・クロちゃ、ん・・・助けて」


重い鎧を着けて命からがら走りきった白夜はブースに来て力尽きたようにテーブルに突っ伏した。


「髑髏水晶が、・・・・侍で、・・・追われて」

「・・・あの、黒井音子さんでしたらちょっと出かけてくるって、今しがた・・・」


恐縮したような声は音子とは似ても似付かぬ愛らしいもので。

なによりその内容に、ええっ!と飛び起きた白夜は、我が目を疑ってフリーズした。


何故ここに桃瀬よ?


こんなところにというのは甚だ失礼だが、オタクの祭典というべき場所に何故桃瀬がいるのか。


しかもその格好・・・・―――

オタクのみならず世の男共を秒殺せんばかりのブルマー姿ではないか!?

さらに露出度の高い水着より、ブルマーやミニスカの生足にこそあるこの脅威は何なんだろう。

永遠の謎。


・・・・・・・・・つまるところ大っっ好きです!ブルマ。


どうやら声がくぐもっていた所為で白夜だと判別できなかったようで、落ち武者の凝視に桃瀬は顔を赤らめモジモジとマントで足を隠そうとする。

いやん、そのチラリズム。

白夜は兜の下の顔をだらしなく伸ばす。


だがそれも束の間。


「大丈夫!?落ち武者クン!」


背後から追ってきた声に白夜は飛び上がった。

心配した茜沢が優秀な脚力で後を追ってきてくれたのだ。

ちなみに天使はずっと後ろでまだ陰も形も無い。


「いえ、これは浮気などではなく・・・その、すこぶる真面目に愛しています、ブルマー・・・いえ、きょぬー・・・」


誰も聞いていない言い訳は、直ぐに少女の悲鳴に掻き消された。


追いついた侍の一人が桃瀬を羽交い絞めて宙に吊り上げる。


「ひっ・・・」


苦しさに顔を歪めて後ろを見た桃瀬は兜の下の透明な髑髏に小さく呻き、そのままガクリと頭を垂れた。


「わ、桃瀬っ!」


駆け寄ろうとした白夜の前に武者が立ちはだかる。その後ろにも一人。

茜沢が滑り込み、白夜と背をあわせる形でそれに対峙する。


「・・・一体、何人いるのよ・・・」


後から彼らの仲間と思しき武者がぞろぞろと集まり、総勢十人ほどが二人を包囲する。

ようやく到着した天使は輪の外から手も足も出ない状況を見て臍を噛む。

多勢に無勢。

さすがにこの人数差は分が悪い。


白夜の動きを封じた後、武者の一人が前に進み出た。

ぎこちない仕草で剣を抜き、向かった先は桃瀬のところだ。


白刃の切先がピタリと白い喉下に焦点を合わせる。

それが、ひと思いに薄い体操服を引き裂いた。


「や、めろっ!」


迸った悲鳴に腕がピタリと止まる。


次の言葉を待つようにフリーズしたままの侍に、白夜はひゅっと息を吸い込み、震える声を吐き出した。


「お、俺が・・・代わるから。」


なるべく平静を装ったつもりなのに声は無様なほどか弱く掠れた。


「うおう、落ちても侍。格好イイぞーっ」

手に汗握るアクションとブルマジョの見えそうで見えない胸に釘付けになっていたギャラリーが、シリアスな展開に感激して声援を上げる。

・・・しかし残念ながら今はそれどころではない。


人事な観衆にイラつきながら、天使は必死に言い募った。


「アホウ!そんなこと許されへんで!オマエさん自分の立場わかっとるのかいな!」

「で、でも・・・・・・だって、じゃあ桃瀬を見殺しにするのっ!?」


今更ながらに思い知る。

こいつ等は平気なのだ。人を傷付けるのも殺すのも。

彼等の目的が、単に白夜を捕えることだったから無駄な殺戮は避けられただけで、ひょっとしたら茜沢だって天使だって殺されていたかもしれない。運がよかっただけだ。


「俺に用があるなら俺が行くから。・・・だから桃瀬は離して。」


ノーモア戦争なんてご大層な思想はない。

だけど少なくとも、自分の所為で他人が傷つくのを黙って見過ごせるほど冷血漢にはなれない。


「このすっとこどっこいがっ!たとえ何人の命犠牲にしよってもオマエさんを捕らえられるわけにはいかんのやっ!」

「・・・・なんで」


声が震えた。

きっと兜の下の顔は泣きそうに歪んでいる。


「天ちゃんが・・・なんでそんなこというの。天使のくせにオカシイじゃん。」


反抗期の子供みたいにそういって白夜は自ら武者に歩み寄った。


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