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白の章 第二話 の九

「あづい・・・」



遠く聞こえるアニメソングを聴きながら、茜沢と共に当てもなく場内を彷徨っていた白夜は脱水症状と疲労で直ぐに足元を覚束無くさせた。

ブースは建物内に限定されているが、外ではイベントのようなものが催されていて、コスプレ姿も多数ある。

太陽はさらに高度を上げ、会場はさながら灼熱ジゴク。

鎧は重いし、熱が凝って暑いし。


「やーん。その動き方、迫真の落ち武者っぽくてナイスッ!」


「・・・そ、そうですか。で、へへ・・・」


豊満な胸を押し潰す勢いで腕にギュウギュウしがみ付かれているというのに、いかんせん籠手の所為でまるで感覚が無いのが虚しい。

無邪気に誉めそやされ、まさに落ちてしまいそうな状態にも関わらず染み付いたフェミニスト根性でつい笑顔を返してしまう。頬宛の所為で表情など見えないが。


気を失うにはまだ僅かな余裕があったが、これ以上歩いていられないと倒れる決意を固めた瞬間、後ろから

「すいませぇん」

と声がかけられた。

若者の盛り場でも見劣りしないような可愛いギャルの二人連れだ。


「写真を撮ってもよろしいですかぁ?」

「ええ。良いわよ。」


屈託ない笑顔で撮影を強請るギャルに、茜沢が愛想よく受け答える。

心得たもので、少女達からカメラを受け取り、ホラ並んで並んでとにわかカメラマンと化す。


手引きに応じてそそくさと構図を作りながら、一人が「あ、どうせなら・・・」といきなり駆け出し、鎧姿が勇ましい将軍様と戻ってきた。


白夜は要求に応じてズバッと切られ―――ハイ、パチリ。

ついでにぐったりしたところを哄笑を上げた将軍様の足蹴にされて―――ハイ、チーズ。


ギャル二人が「アリガトウございましたぁ~」と去っていく頃には周囲に名将連れのギャラリーが順番待ちの列を作っていた。

音子の言を肯定するように、主役は何人もいるが脇役は唯一人で、落ち武者は引く手数多の人気者だ。


茜沢はカメラを返す都度「是非ブース99ラブラボへお寄りくださいませ~」と言い添え、ドサ周りとしては中々よい仕事ぶりといえた。



カメラ撮影が一頻りになる頃には白夜がのっぴきならない状態で、二人は一先ず敷地の端にある植え込みの日陰へ移動し休憩を取ることにした。


ほとほと疲れきった白夜に茜沢がブリックのイチゴミルクを用意してくれた。

兜の取り方も分からない状態で、ストロー付きはありがたい。

バカキャラがブームのげーのー界で、こんなふうにさり気無く人間的な気遣いが出来る茜沢に高感度が増す。


―――顔も可愛いし、スタイル抜群だし、言うことないよね~。

きっと料理も上手いはず。

そして甘えさせ上手の姉御肌。

ひょっとして俺の赤い糸はこの娘と繋がっていたのか。

ってことはこの出会いはベートーベンですかっ!?       

       それは運命。


一人勝手に盛り上がっていた落ち武者は、茜沢が茂みに不可解な視線を向けていることに気付いた。

不思議そうに身を乗り出し、白夜もすぐにそれに気付く。


躑躅の根元にポコポコと穴が開いている。

「セミとかカニとかが出てきた跡みたい。」

「・・・こんな大きなヤツはいないと思うけどね。」

礼儀的な突っ込みをしつつ白夜も茜沢の感想に共感する。


穴は植樹を無造作に引き抜いた程の大きさで、無造作ながらも作為的に撫で付けられたような跡があり、何かを引き抜いたというより何かが這い出てきた、といった感じだ。


その時、不意に人の気配が近づき、二人は揃って顔を戻した。

五人ばかりの各種名将がご自慢の得物を手にぞろぞろと歩いてくる。


「もーしわけありませんがぁ~今休憩中で・・・」

すかさず笑顔で対応する茜沢の正面で、侍の腕が機械仕掛けのようにユルユルと持ち上がった。

二人はその仕草の意味が理解できずポカンとする。


次の瞬間――――


ぶんっ


風の唸りを上げて刀が勢いよく振り落とされた。



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