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白の章 第二話 の四

「あーもう弱肉強食の世界なんてクソ食らえ。この狭隘な狩場に肉食動物なんざこれ以上いらねぇっつーんだよ!」

「ホント。神様は俺達か弱い肉食動物に飢えて死ねとおっしゃっているのかもね。」

吠えるクラスメートの横で別の男子生徒も同意の意味で頷く。


季節はずれの転校生の話題は直ぐに学校中に広まった。

随分格好イイらしく、特に女子の間で関心が高まっている。

それもそのはず、噂によると転校生は雑誌モデルから進出したモデル兼アイドル予備軍なのだそうで、見た目のよさに輪をかけてミーハー熱が沸騰しているのだ。


「へー。学生の分際で働いているなんてエライねぇ。」


少々ズレた感心の仕方をする白夜にクラスメートの一人が血走った目で飛び掛る。


「オマエはどこまで暢気だ!これは全男子生徒の死活問題だぞ。女子の興味が全てあの男に奪われてみろ。俺たちは女子と話せないどころか彼女も作れない。ばかりか、ハイレベルを知った女子たちは格下の俺達を蔑み、故に俺達は理不尽に肩身の狭い生活を強いられるのだぞ!」

「大袈裟。大体、女子はこの学校だけじゃないでしょ。」

「ケッ、これだからモテル奴はッ。皆が皆お前みたいに歩けば女にあたるって楽しい人生ばかりじゃないんだよ。」

「別にあたっても楽しい結末ばかりじゃないけど・・・・」


ばかりじゃないというか殆ど全て悲しい経験だ。

だが、実状を知らない野郎共に白夜の嘆きなど実感出来るはずもなし。


「ま、立場の弱い肉食動物の俺達はさて置き本心はどうなんだ、白夜?この狩場を余裕で掌握していた百獣の王は突然降って沸いた強敵をどう見るね?」

「どう見るもなにも・・・・」


白夜はこてっと首を傾げた。


「いいんじゃない?俺お洒落な人って嫌いじゃないよ。モデルしてるの雑誌でみたことあるけどさ、その時彼が着てたシャツがいいなと思って店に走っちゃっ・・・・ぐほっ!」

「この太平楽っ!」


とうとうキレたクラスメートが白夜の胸倉を掴み力任せにグラグラ揺する。


ゲホゲホと噎せ込む姿を暫く上からねめつけ、難解な数式でも前にしたような難しい顔で小首を傾げる。


「なんでだろうな。普通どれほどいい野郎でもモテルというだけで男はライバル心が刺激されるものだが、・・・女掻っ攫うにしてもお前ならまあイイかとか思えるんだよな。そりゃ、場当たり的にムカついたりはするんだけど。」

「ああ、なんとなく理解できる。白夜なら仕方ないか?ってカンジ?あまつさえ白夜に反発心を振るい起こさんとする自分が滑稽にすら思えてくるよね。」

「なんか誉められているカンジしなーい」


それは格下に視ているということではないのか?

いわゆる保護対象動物とか。

眉を顰める白夜に「ばっか、それは人徳だぞ」と二人はまるで取り合わない。


そこに、白夜達の会話を聞きながら窓辺でぢゅる~とジュースを啜っていた男子学生が「あ」と気のない声を洩らした。


「桃瀬が例の転校生にハンティングされている。」

「「「ぬわに!」」」


北校舎の二階はテラスになっていて、天気の良い日は本やジュースを手に生徒がどこからともなく集まってくる。

桃瀬は手摺り沿いに並べたベンチの一つに友人と座っていた。

休息を満喫していたところに件の男が現れて、何か楽しげに語らっている様子だ。


校則が緩くて茶髪も珍しくない学校だが、男の緋色の髪はよく目立つ。

何でも仕事の契約で暫く髪色を変えられないと学校にちゃんと許可を下ろしてもらっているらしい。

会話の内容までは届かないが、転校生の科白に桃瀬ははにかむような笑顔を赤らめ、必死に何か言い返しているようだ。

それは怒っているというより寧ろ照れ隠しのようで、必死な仕草がまるではしゃいでいるようにも見える。


白夜は途端に拳を振り上げ大きく叫んだ。


「にゃろう!偽りの愛で校内の純真無垢な女子生徒を誑かす軽薄な男めっ。俺がこの学校の平和を守ると共に、真実の愛を教えてやるっ!」

「お前ってホント分かりやすいよな。」

「潔いくらいに遠浅だね。」


クラスメートの呆れた突っ込みを背に白夜は廊下に飛び出していた。


階段を駆け下りいざ、テラスへ―――出るずっと手前、三階の踊り場で下から来た桃瀬と出くわした。


「っ・・・桃瀬、えっとあの、・・・・・・・程よいお天気ですね。」

「ええ。ホントね。」


屈託ない返事に白夜は内心ジタバタと足掻く。

ズバッと尋ねたいがぶっちゃけられない男心。大体、桃瀬が何処の馬の骨と話していようが追求できる間柄でもなし。

遠回しに会話の内容を尋ねてみようか、敵情視察に乗り出そうか、と思案していた白夜は小柄な少女の背後からぬっと現れた人影にゲッと顔を強張らせた。

聞くまでもなく本人が目の前にいる。


目線はほぼ平行。敵のほうがやや高いかもしれない。

精悍な顔立ちに燃え立つような緋色の短髪の組み合わせはモデルとしての自負を物語るようだ。

鋭く尖ったような形の瞳にヤンチャ小僧のような愛嬌が技あり、といったカンジ。

ピアスを連ねている男なんざどこかのヤンキーかちょっと勘違いなチャラ男くらいだと思っていたのに、なんともお洒落ではないか。

無駄な贅肉どころか必用な筋肉もやや足りない白夜にとって、身長に見合うガッシリした肩幅と胸板は嫉妬めいた憧憬を抱くもので。


―――ヤバイ。マジで敵わないかも・・・


男に対峙した白夜はあっけなく弱気になる。


「えっと、彼は昨日転校してきた迎居緋廻クン。コチラが東郷白夜クンです。」


不躾にジロジロ白夜を観察した男がふーんというように目を細めて顎を聳やかす顔には既に捕虜兵士の気分だ。

先ほどの言通り男という生き物は妙に男のプライドに拘るため敵と見なした相手には容赦なく攻撃を仕掛けてくる。かくいう白夜も顔がよいばかりに同性の誹謗中傷に晒された経験はままある。

適当な相手ならともかく、ちょっと憧れている相手にナックル装着の嫌味で臓腑を抉られるのは勘弁願いたい。


ビクビクと相手の出方を待っていると、不意に男の口が豪快な笑みを模った。


「いやー、格好イイとは聞いてたけどマジだな。なるほど王子様みたいとはよく言ったな。うん。こりゃホンモノ。」


悪意のない笑顔にバシバシと肩を叩かれ白夜はへっ?と目を見開く。


「あのね学校の女子たちが白夜君のことを誉めるから会ってみたくなったそうよ。迎居君は仕事柄格好イイ人には男女問わず興味があるんだって。それで私が仲良しだって聞いたらしくて紹介を頼まれたの。」

「俺に?」


言われたことがにわかには信じがたくて白夜は呆けた面持ちで反芻する。


「えっと・・・じゃ、言い寄られてたとか、チョッカイかけられてたとかそんなんじゃなくて?」

まさか~というように桃瀬は首を振る。

「いやでも・・・なんかさっきテラスで話しかけられてすっごく楽しそうだったというか嬉しそうだった、というか・・・あっ、別に覗きとかじゃなくてたまたま偶然、ぐほっ!」

「やだぁ、別に嬉しそうとか全然違うし!」


アバラよ折れよといわんばかりの突きを食らって白夜は咽こむ。

全然違うといいながら桃瀬の顔は真っ赤で、即答の前面否定もこうなると甚だ怪しい。


珍しくもちょっと壊れかけの桃瀬から視線を外し、緋廻に向けると、緋廻はニヤリといたずら小僧のようなウィンクを見せた。


「俺はこう見えて意外と礼儀正しいんだ。初対面でヒトの女にチョッカイ出すほどケツ軽くねぇって。」

「ヒトのオンナ・・・・?」


さてここで問題です。

オンナって一体誰のことでしょう・・・もとい、ヒトって誰の?


「やだ、さっき誤解だって言ったのに。私と白夜君は友人です!あ、二人とも気があうみたいだから案内役の私はこの辺で戻るね。」


不自然なほど陽気に捲くし立てた桃瀬は止める隙もあらばこそパタパタと軽やかな靴音を響かせて階段を駆け下りていってしまった。


ヒトとは猿人類から発達した二足歩行の生き物で、人という字は二人の人間が支えあってできています。


遠ざかる桃瀬の足音を聞きながらそんなことを考えていた白夜はどんっと背中を小突かれ覚醒する。


「どうよ脈あり?」

「アンタええヒトや~。」


白夜はあっさりと男に傾倒する。


「改めて、俺は迎居緋廻ムカイヒマワリ。ご紹介の通り、男でも女でも綺麗なヤツは大好きだ。勿論、妙な趣味じゃなく。お前、格好イイ割りに性格も可愛いっぽいし気に入った。これからよろしくな。」


クサイ青春ドラマでもあるまいに緋廻は握手の手を伸ばす。

そのなんとスマートで格好イイことか。

「こ、こちらこそ。」

格好イイ上になんて男らしく清清しい人なんだ。


白夜は妙な感動と憧憬を覚えて、気恥ずかしそうにその手を握り返した。


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