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白の章 第二話 の一

昼休みの美術室にて、天子は立ち尽くし顔を引きつらせた。


「オタク化しとる・・・・」


白夜を捜して来て見れば、オタク魔窟と悪名高き美術室で女子生徒と同化しコシコシと消しゴム掛けの手伝いに精を出していた。しかもイヤイヤというより寧ろ意欲的だ。


「おいッしっかりせい!学生の昼休みといえば他クラスのヤツと出会う社交時間。テラスに出て、女共に囲まれていた校内一のタラシ野郎はどないしたんやっ!」

「あ~そんな浅ましい過去もあったねぇ。」

白夜は消しゴムを持つ手を止めて、達観気味に頷いた。

「俺はさぁ、今まで人目を気にしすぎたんだね。女の子にいい様に見られたくて、背伸びして格好つけて・・・でもね。俺ここにきて分かったんだ。人の目を気にせず自分の等身大の姿で生きる素晴らしさに!ここにいるとホント楽なんだよねぇ~・・・」

「アカン。ちょろっといい事を言っているようだが、すべからくオタクの思考や。」

天子は震え上がる。


「ええか。人間人目を気にせんくなったらお仕舞いやで!女はブクブクと太り、男はオッサンという生き物に早変わりや!」

「その見本のようなヒトに言われてもね。」

今は無き三段腹を思い浮かべて白夜は小さく突っ込む。


「ともかく色気を取り戻せ。色気あってこそのオマエや!せや、ワイが桃瀬とのデートでも設定してやろか?あの娘で役者不足なら別のイカスギャルを紹介してやってもええで。」

「天ちゃん・・・」

必死の説得をする天子をマジマジと見詰め、不意にその眉を顰める。


「・・・・ひょっとして管轄内の禍福ゲージがマイナスに傾いているから手っ取り早く俺を使って±0に戻そうなんて考えてる?」


ぎくっ


あからさまな動揺に白夜はああやっぱりと半眼する。


「ヒトを心配するようなふりして結局それだもんね。大人って汚い。」

「つれないこと言いっこなしや~。仕方ないやんけ。今管轄内で不審な行方不明者が多発しよって人々の不安がマイナスに傾いちょるんやもん。」

天子は開き直ったようにエベレストのごとき胸を反らせてブーブーと口を尖らせた。


界隈で立て続けに起きた行方不明事件。

否、事件と断定していいものか警察捜査本部も頭を悩ませている。


行方不明になったのは十代から四十代までの十名。この数は、あくまでも警察に捜査依頼が出された数で、実際の行方不明者はもっと多いのかもしれない。


蒸発自体は珍しくもないが、行方不明者はいずれも闊達で明朗、少なくとも一つのことに拘りグチグチと悩むタイプではなかったらしく、周囲の者の殆どが失踪の原因に首を傾げるような有様だ。


失踪要因が見当たらない事から何か外的要素が加わった可能性を示唆するものの、捜査線上に犯人らしき人物像は浮かばず、事件と断定するような証拠―――例えば失踪者の成れの果て、有体に言ってしまえば死体―――なども一向に出てこない。

当然、身代金が要求されるようなこともなく、事件性が立証出来ない現段階では警察としても単なる失踪扱いで細々と捜査を進めるに留まっているようだ。


勿論そんなのは公務員の態のいい言い訳で、失踪理由もない者が立て続けに何人も消えているのだから大事件じゃないか、というのが一般市民の本音である。


ある日突然、何の前触れもなく忽然と姿が消える。それはまるで神隠しだ。


理不尽な消失の次の犠牲者が自分になりはしないかと人々は不安を募らせている。

明確ではない、しかし漠然とした不安。

それがこの界隈の禍福ゲージを緩やかにマイナスに傾けていた。


「な、頼むわ~。何も禍を背負うてくれ頼んどるんやないやんけ。幸せ、幸福、ハッピーハッピー。お前さんが幸せでワイも幸せ万々歳。せやろ?」

「そう言われると、そうかな?」

「ほな決まりや!事は急を要するで今週末なんか―――」


「今週末は用事がある。」

遮るように横から割り込みが入った。


紙面から顔も上げず、静かな声音で端然と言い放った音子に二人が視線を向ける。

「誰もアンタの予定なんぞ聞いとらん、・・・ですが?」

「無論、ソイツの予定だ。」

「寝言は寝て言え、・・・ではなく。家族旅行の予定もなく、友人との予定も未定とはワシも調査済みでんがな。あまつさえこの女運の悪い男にデートの約束なんぞ入っているわけもなし。」

「最後の行は余計―っ」

白夜はむっと口を尖らせ抗議する。


音子は軽快にペンを走らせながら続ける。

「コミケに参加する。それがソイツの今週末の予定だ。何か異論が?」

「多いにあるわいっ!あからさまにアンタ、・・・様の予定でんがな。自分の都合にコヤツを従わせようなんざ身勝手にも程があるわ、・・・と思いますがな。」

「自分の都合で俺に禍福を齎す天ちゃんもどうかと思うけど」


いきり立つ天子を横目にボソリと呟きながら、白夜は言い合う二人を交互に見やり首を傾げた。

「そーいえばさ、クロちゃんって絶対人なんだ?」


カリカリとペンを走らせる音子は別にして、天子はゴインと豪快な音を上げて机に突っ伏した。


「・・・お、オマエさん今の今まで何も知らずに一緒にいたんかいな。暢気にも程があるで・・・」

「え~、だってクロちゃん別に害成さないし、知らなくても気にならなかったからさぁ。」

「クロちゃん言うなーっ。」


天子は泡を食って叫んだ。


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