第1話 期会い
暗い暗い
まるで海のような空間にただ沈んでいく
どこまでも続くようなけれどもすぐに底につきそうな
そんなチグハグな思いをもって沈んでいく
沈んでいくにつれてどんどん感覚がなくなっていく
手も足も見えてるはずの目も
しまいには自分という感覚も徐々に消えていく
あぁ…俺は誰だったっけ…
「..........」
.....そうだ 俺は俺だ
あぁ....そうだ 名前は.....
俺の名前は月下 高狼
しがないただの中学生だ
特技をあげるとすれば妄想だ
漆黒の剣や月下の孤塔、さらにはカッコいい技名まで考えてある
特に月下の孤塔は個人的に1番好きだ
自分の名前にかかっているのがいい
世間一般では中2病と呼ぶらしいがもう今はどうでもいい
なぜどうでもいいんだ?
「..........」
あぁ、そうだ 俺は死んだんだ...多分..
いつも通りの下校中
横断歩道で女の子を庇って...
それからどうなったんだろ...
そこからの記憶がプッツリと消えている
それはそれでもまぁいい
あの女の子は無事だろうか?
妹は元気だろうか?
父さん母さんは....
微かに涙が滲んだ
消えていく感覚のなかでもはっきりと感じるほど
未練がないかと聞かれればある
むしろタラタラだ
もっと妄想したかったな...
学校で友達が欲しかったな...
妹に誕生日プレゼント渡したかったな...
父さんに行ってきます言えば良かったな...
母さんにご飯美味しかったよって言えば良かったな...
後悔ばっかりだ
もっともっとと次から出てくる
だがその中でも強く思うのが...
「もう一度家族に会いたかったな」
それだけだ
それさえ叶えば俺は...
そうして沈み続ける俺は思考すらも消えていく
ただ深く深くどこまでも
暗い暗いこの空間を
堕ちていくのだった...
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「コングラッチュレーション」
そう陽気な、だがどこか落ち着いた
またしてもチグハグなものが俺の耳をつついた
目を覚ました
先ほどと違って消えていく感覚もない
5体満足の俺がそこにいる
ただ1つ難点を言うと俺は裸だ
俺は少し太っている
特に下腹が
家にこもって妄想やお手製の魔方陣を描いたりしていたので運動などは特にしていない
ゆえに少しだけ怠惰な体つきだ
それを実感させられるから裸はあまり好きではない
「まぁ、死んだらどうもこうもないか...」
少しだけ落ち込んだがすぐに切り替えた
否 切り替えさせられた
そこは先程いた空間と違って沈まない
だが何もなくただただ白い空間だった
「何処だ ここ...」
「何処だと言われれば。少し難しいですが。強いて言うと神界。でしょうか?」
「ウワァッッ!」
いきなり声を掛けられたので驚いた
声のした方向を見るとそこにいたのは1人の女性だった
いや人なのかどうか分からない
そんな風貌の女性(?)だった
白く垂れ下がった綺麗な髪、赤く染まった宝石のような瞳、透き通った絹のような白い肌
そしてあまり見かけない例えるなら露出度の高いウェディングドレスのような服を着た女性(?)が立っていた
そして僕に優しく微笑みかけると両手を広げて
「ようこそ。神々の城へ。」
そう言った女性の瞳は赤々と輝いていた
その赤々とした瞳はどこか獲物を見つけた狼のように輝々としていた