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サハの王国  作者: 富幸
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女神の微笑

 サハ王国発掘調査隊がダボダに帰還し博物館で解散した。

 僕とチコも隊長に挨拶をして博物館を出た。

「チコ君、僕、家に帰るね」

「俺も、早く家に帰ってのんびりしたいよ」

「そう言えば君の家は、砂漠の方に在ると言って居たね」

「そうだよ、お前は、俺の家を知らないだろう、俺の家は、広いんだぞ、何しろ後ろは、見渡すかぎり砂だけだからなぁー、お前も一度俺んちに遊びにこいよ」

「うん、今日は、駄目だけど近いうちに行かして貰うよ」

「あぁ待って居るからな、じゃーあばよ」

 僕は、チコと別れて家に帰った。

「只今、帰りました」

 玄関を開けるとサリーさんが出て来て

「まあ、坊っちゃん、お帰りなさい。奥様・奥様坊っちゃんが帰られました」

 と大声でママを呼ぶとママが出て来て

「いっちゃん、お帰りなさい。どうだった砂漠の旅は」

「うん、疲れたよ、何しろ見渡す限り砂だけで、見るものは、なにも無いんだもの、でもね、ママ夜の星空は、もの凄く綺麗だったよ、僕、星に包まれた。とおもったもの」

「サハの王国は、どうだったの」

「サハの王国は、あったけど、財宝は、盗掘に遇って宝箱は、空だったけど、青銅製や陶器の日用品は、多数発掘されたよ」

「色々なものが出たのね」

「今回は、王宮と神殿だけの発掘だけど、また近い内に第二次調査隊を出す予定だって」

「あら、まだ調査するの、その時もいっちゃん達は、ついて行くの」

「いや、僕とチコ君は、行きませんと返事をしたから」

「どうしてなの」

「今回で目立った財宝が出なかったからね、第二次調査隊は、純粋な学術調査隊になると思うよ、ママ、僕疲れたから部屋に行って休むからね」

 と言ってリビングを出た。


 サハの調査から帰って二日程して僕は、チコの家に向かった。

 あの羊皮紙に記載されていた。女神の微笑の意味は、サハ調査隊に同行して現地に行っても解明出来なくて心の中に、もやもやとして残っていたからだ。

 途中小さな子供が五六人遊んでいたので

「ねぇ、君達、この辺りにチコと言う人の家が在るのだけど知って居たら教えてくれないか」

 すると女の子が

「チコ・・・?あぁ、この先に在るお化け屋敷ね、もう少し此の先よ」

 僕は、チコの家の前に来た。家は、石造りで長年に渡って手入れがされて居ないのか建物の壁には、つたがからまり庭木は、伸び放題で一見して草木に埋もれた古代の遺跡を見ている様な感じだった。

 チコの家が古い屋敷で、サハ王家の末裔だとは、聞いていたが、なるほどと思った。

 玄関で、今日は、と大声を出すと家の横からチコが、ひょっこり顔を出し

「何だ、いち、お前か、てっきり借金取りかと思った」

「借金取りがくるの」

「あぁ、この家も近々取りあげられるのさ、それよりこっちに来いよ、水も果物もあるぜ」

 チコの案内で屋敷の裏手に回り、そこに置いて有るベンチに腰を降ろした。

「先程の話だけど、どうして屋敷や農地を手放さなければならない様な借金をしたの」

「俺の家は、爺様の代にサハの実から医薬品の原料や食品の添加物を作って欧米の会社に販売をしていたのさ、当然その当時は、羽振りも良かったから、サハの貧しき者達を大勢使っていたのだ。お前も知って居るだろうが、親父が関った事件で俺の親父が死んで莫大な借財を抱えたのさ、その為に爺様は、持っていた会社や技術を従業員だけは、解雇しない事を条件に手放したり、家の財産を整理して借財を返済したけど、しかし当然の事ながら家は、貧しくなったのさ、その当時は、大勢の使用人や農園の作業員達を雇えなくなり解雇する事になった。しかし人の好い爺様は、農園で働く大勢の作業員や使用人に対して生活に困る事の無い様に手厚い退職金を借金までしてだしたのさ、それでも爺様が生きている時には、なんとかやりくりをしていたけど爺様が亡くなった時に返済期限がまだ三年も有るのに、俺に返済能力が無いと思ったのか借金の返済を求めて来やがった。その返済期限が後十日もすれば来るのさ」

「君は、家を失ったら、どうするの」

「なんとかなるさ、しかしこの農園を手放すのは、俺も辛いのさ」

 僕達が居る屋敷きの裏は、広い畑になっていて市場で売って居たサハの実があちこちになっていた。

「ここは、サハの畑なの」

「そうだよ、俺は、ここで毎日収穫して市場で売るのが仕事さ」

「これだけ広い畑だとは、思わなかったよ、水源は、どうしているの」

 するとチコは、自慢げに

「俺っち、専用の水源があるのさ」

「へぇー、井戸でもあるの」

「うん、こちらにきてみな」

 と僕を屋敷の奥の方に案内してくれた。そこには、一面石畳みを敷き詰め、その中央に小さな泉があり、コンコンと水が湧き出ている。

「これが、この家の宝だよ、この泉の御蔭で畑が出来るのさ」

 僕は、泉の側に行くと両手で水をすくい。それを口にした。

「冷たくて、美味しい水だね」

「だろ、俺達は、この水を飲んで大きくなったのさ」

 僕は、泉から少し離れた所に小さな石造りの神殿がある事に気付き、その中を覗き込むと、その中には、両手で甕を持った小さな少女の立像を祭っていた。

 少女の立像は、全身が青黒く、神殿の、ひさしに隠れて見えないのと薄暗い為と、作られた素材のせいなのか顔まで青黒くその表情までは、見れなかった。

「チコ君、これ神様なの」

「あぁ、お前初めてか、これがオシス様だよ」

「へーえ、これがオシス様なのか」

 僕は、日本で神社に参拝する様に立ったまま手を叩いてお辞儀をすると

「お前、何だ、それは」

「オシス様を拝んだんだよ」

「その様な拝み方では、オシス様は、ほほ笑んでくれないよ」

 僕は、チコの何気なく言った言葉に

「えっ、君、今、何と言った」

「だから、お前みたいな拝み方では、オシス様は、ほほ笑んでくれないよ」

 僕は、はっ、と気が付いた。あの羊皮紙の文字は、微笑、でなく、ほほ笑み、と訳さなければ、いけなかったのだ。と

「それじゃー君が拝んで見せて呉れないか」

「うーん、今の時間だとオシス様のほほ笑みは、無理だろうな」

「どうしてなの」

「朝一番に日が昇る時でないとほほ笑みは、見られないのさ」

「そうか、だから、女神の微笑が、いずる光に照らされて見える笑顔のその地に幸いあり、か、チコ君、僕、明日夜明け前に来るから、僕、是非ともオシス様のほほ笑みを見て見たい」

「お前も相当物好きだね、無理に明日で無くても良いのに、オシス様は、この泉の守り神様だからどこにもいかないよ」

「それは、そうだけど気になるのさ、女神の微笑が、その意味が解けるんだよ。これほどわくわくする事は無いだろう」

「そうかぁー、俺には、お前の気持ちの方が判らないぞ」

 僕は、チコの家を案内してもらったが、有るのは、農園で使う道具類で財産と言える物は、一つも無かった。

「これで判ったろう、この家を手放す訳が、俺だって先祖代々守って来たこの土地を放すのは、しのびないけどね」

 と寂しそうに僕の顔を見た。僕は、何も言えなくてチコの家を出た。自分の考えに自信が持てなかったのだ。

 翌日夜明け前にチコの家に着いた僕をチコは、庭のベンチで待っていた。

「いち、遅いぞ、こっちにこいよ」

 と僕を奥庭に在るオシス様の泉の側に連れて来て

 泉の南側の大きな敷石を指差し

「お前なぁー、その石に膝を付き両手と額を前につけて日が出る迄待て」

 僕は、チコの言うとおりにするとチコは、立ったままで

「もう少し待てよ、時が来たら教えてやるからな」

 僕は、チコに言われた通りの姿勢で待っていると

「おい、頭だけ上げてオシス様を見て見ろ」

 僕は、チコの言う通りに顔を上げてオシス様を見上げる様にみると朝日が泉に反射して神殿の少女像を照らしている。

 その顔をみると少しほほ笑んで居る様に思えた。

「本当だ、女神様がほほ笑んでいる」

「そうだろう、お前だから教えたのだぞ、この事は、家の者にしか教えては、ならない。と爺様から堅く言われていたけどね」

「どうして僕に教えてくれたの」

「うーん、どうしてだろう、お前は、他の者と違っているからかなぁー」

「ねぇ、これから僕の言う事を笑わないで聞いてくれる」

「なんだい。大切な事か」

「うん、もし僕の考えが当たって居たら君は、大金持ちになると思うよ」

「なんだ、バカな事を言うなよ、ハハハハハ」

「もーう、だから笑わないで、と言ったのに」

「お前、本気か」

「本当だよ、君の御先祖様が子孫の為に残した財宝がこの石の下に埋められていると思うよ」

「本当かい」

「あの羊皮紙の最後の一枚は、このアブドバ家の財宝の在処を記載したものだと思うよ」

「だったら取り出そうぜ、もし財宝があれば、この家や畑を手放さなくてすむからなぁー」

 僕とチコは、道具を持ち出し回りの小さな石から取り除き残った大きな敷石は、滑車を使い少しずつ動かして行くと敷石の下に石の箱が出て来た。

 二人して石の蓋を開けると中に木の小箱が三箱入って居た。

「やっぱり、あの羊皮紙は、財宝の在処を示した物だったね、早く開けて見てよ」

 チコは、木箱を食い入るように見ていたが真ん中の一番大きい箱の蓋を恐る恐る開けると其処には、眩いばかりの黄金に宝石を散りばめた王冠とそれに寄り添う様に黄金に宝石をちりばめた王妃のティアラが入って居た。

「凄い物だね、これは、国王シャバの王冠だね、そのティアラは、サラマ王妃のティアラだろうね。やはりアブドバ家は、サハ王の末裔だね。これは、君がアブドバ家を受け継ぐ証だよ」

「お前、どうしてこれかシャド王のものだと判るんだ」

「だって、ムスクのトドムの家に伝わる羊皮紙に記載されていた御印だと思うよ」

「そうか、これが御印か」

「そうだと思うよ、多分サハの王族達は、ムスクの街まで落ちのび、そこからバラバラになりサラマ様は、さらにこのダボダまで来て、ここに落ち着きアブドバ姓を名乗り、その時、トドムの先祖のダダの一族は、ムスクに住みついたのだと思う、だから君の家にある羊皮紙とトドムの家に在る羊皮紙が同じ神官文字で書かれたのだろう、しかし君の家の羊皮紙とトドムの家の羊皮紙がダダに寄って掻かれたものなら一つ矛盾する事があるんだ」

「なんだ、その矛盾って」

「君の家の五枚の羊皮紙がダダに寄って書かれた物なら君の家の財宝の在処をダダは、知っている事に成るし、もしダダがサラマ様と別れる時に書いたものなら君の家の一枚の羊皮紙は、後日サラマ様から依頼されたダダが書いた事に成るんだ」

「なるほど、じゃーダダは、最初五枚の羊皮紙を書いてサラマ王妃に四枚渡し一枚を自分の手元に置いた。サラマ王妃は、俺の家で王冠や財宝を隠すとその場所が子孫だけに判る様に暗号化してそれをダダに書かせたと言うのかい」

「うん、少なくとも僕は、その様に思っている」

 僕が、そう言うとチコは、僕の顔を見ながら

「これ、夢じゃーないだろうね」

「夢じゃー無いから次の箱も開けて見せてよ」

 チコは、震える手で右の小さい箱を開けるとそこには、色とりどりの宝石が入って居て左側の箱には、黄金に宝石を散りばめた装身具が数点入って居た。

「凄い物だね、これだけあれば借金が返せるね」

「馬鹿言え、この黄金の装身具を一つ売ればチャラさ」

「でもこのまま此処には、置いとけないから早く家に持ち帰った方が良いよ、僕が此処で見ているから」

「うん、そうする」

 と言ってチコは、装身具の入った箱を持つと母屋にむかっていった。

 僕は、箱の前に腰を降ろし、二つの箱を見ながらサハ王宮での発掘を思い浮かべていた。

 王宮の宝物殿に在った五つの空箱には、どれ程の財宝が入って居たか、この目の前の小箱でさえ凄いと思うのに、人が入っても余り有る程の木箱に入る財宝など想像もつかなかった。

「おい、何をぼんやりしているんだ」

「あぁ、御免・御免つい木箱を見ていたら王宮の宝物殿の空箱を思い出していたんだ」

「もう一回行って来るから見て居てくれよ」

「あぁ、良いよ」

 チコは、宝石の入った小箱を持つと母屋に帰って行った。

 僕は、王冠の木箱を最後に運ぶのだろうと思い。待って居るとチコが帰って来るなり

「お前、もう少しだから頑張って呉れ」

 と言って王冠の木箱は、そのままで石の蓋を持ちかけている。

「チコ君、これは、どうするの、家には、入れないの」

「あぁ、それか、それは、俺の物にするわけには、いかない。それは、オシス様のものだしアブドバ家のものだ。だから元のままに埋め戻すつもりだよ」

「良いのかい。アブドバ家がサハ王の末裔だという証拠だよ」

「良いんだよ、あれだけの財宝があれば借金を返した上屋敷きも農園も立て直す事が出来るもの、それ以上のものを望めば、オシス様の罰があたる。それに、ここに王冠やティアラが無かったら、毎朝礼拝する時にオシス様のほほ笑みが見られないような気がするから」

 と言ってチコは、はにかむ様な笑顔を見せた。僕は、アブドバ家の人達は、子供が小さい頃から、朝、日の出と共に起きてオシス様を礼拝し女神のほほ笑みを見る事により一日の幸せを願う事を伝承として教えたのだろう、この場所は、アブドバ家に取って、神と国王の謁見の場所だったのだ。と思った。

「そうか、判った」

 と二人で石箱の蓋をし、その上から巨大な敷石を乗せ元通りに直したが作業がすんだのは、夕方だった。

 泉の回りを掃除して母屋迄帰るとチコが

「お前これからどうするんだ」

「家に帰るよ、どうして」

「そうか、ちょっと此方に来てくれ」

 と言って僕を部屋に招くとテーブルの上に置いてあった二つの木箱の蓋を開けると僕に

「お前、いるだけ持って帰れ」

「えっ、僕に」

「そうだ、少なくとも半分は、お前のものだ」

「チコ君それは、違うよ、このお宝は、君の御先祖さまが、子孫が困窮した時の為に残した物で僕と君で分ける物では、無いと思う、それよりこのお宝でアブドバ家がこれからも続く事の方が意義があるだろう」

「それは、判って居る。俺もそのつもりだ。けど、俺の気持ちがすまんのだ」

「僕の事は、気にしなくてもいいよ」

「お前は、良くても、俺が駄目なんだ。一つでも良いから貰って呉れ」

 チコの余りの懇願に

「判ったよ、この髪飾りを頂くよ」

「そんな、小さな髪飾りで良いのか、こちらの大きい方が、よかないか」

「これで良いよ、ママにあげようと思っているけど、僕のママは、髪飾りなどしないから、それにその様な大きなティアラをあげると吃驚して腰を抜かすよ」

「お前は、本当に欲の無い奴だなぁー、本当に、それだけで良いのだな、後から欲しいと言っても、やらないぞ」

「うん、判っているよ、それよりこの小箱を泥棒に取られないでね」

「大丈夫さ、自慢じゃーないが、うちぐらい古い家になると隠し部屋の二つや三つは、あるからね」

「それで安心したよ、見たとこ金庫が無かったからね」

「当たり前だ、この家が出来てから何百年も経っているのだぞ」

「そうだね、それだけに君の代で手放す訳には、いかないだろう」

「そうだよ、お前の御蔭で、この屋敷や農園の整備が出来るし、今のままの生活が出来るよ」

「これからが大変だね」

「その点は、大丈夫さ、俺は、小さい時から農夫だから働く事は、苦にならないのさ」

「それを聞いて安心したよ、僕は、帰るね、髪飾り有難う」

 僕は、チコの家を出て家路を急いだ。途中椰子の林に日が沈みかけていた。真赤な夕日に椰子の木がシルエットとして映り僕の足を帰宅へと急がせた。

「只今、帰りました」

 僕が玄関に入るとママが一番先に出て来てベリーさんとサリーさんが顔を出した。

「いっちゃん、お帰り、今日は、遅くまで遊んだのね」

 僕は、ポケットから、例の髪飾りを取り出すと

「はい、これママに上げるよ」

「まーあ、いっちゃん、この様な代物をどうしたの、まさかこの前の発掘で誤魔化したものじゃー無いでしょうね」

 ママの後で見ていたベリーさんもサリーさんもその髪飾りを食い入るように見つめている。

「大丈夫だよ、これは、友達から貰ったものだよ」

 ママは、その髪飾りをじっーと見ていたが

「まさか、これ土の下から掘り出したものじゃー無いでしょうね、その様な品物ならママは、いらないわよ」

「土の下って」

「つまりお墓を暴いて手に入れたものと言う事よ」

「確かに土の下から出て来たものだけどお墓じゃー無いよ、アブドバ家の財宝を掘り出しただけだよ」

「その時にくすねたの」

「ママ、怒るよ、掘り出しを手伝ったお礼に貰ったものだよ」

「本当なの、お手伝いをしただけでこの様な高価な品物をくれるかしら」

「ママが、あの財宝を見たら目を回すよ、凄いんだから」

「坊っちゃん、アブドバ家の財宝って本当に有ったのですか」

「本当だよ、あの羊皮紙に書かれていた事は、全部本当の事だった。けどサハ王宮の財宝は、空箱だったけどね、最後まで手こづらせた羊皮紙は、アブドバ家だけの隠し場所だったのさ」

「それを坊っちゃんが見つけたと」

「そうだよ、そのお礼にこの髪飾りを呉れたのさ、この髪飾りは、サハ王妃のサラマ様が付けていた髪飾りだと思うよ」

「奥様、その様な事なら遠慮なくお貰いになる事ですわ」

 ママは、その髪飾りを黙って見ていたが

「ベリーさん、サリーさんちょっと此方に来てね」

 と両名をリビングに誘うと自分の部屋に上がって行った。程なくして降りて来ると持っていた髪飾りをベリーさんに

「この髪飾りは、私達が持つべきものでなくて、サハの人が持つべきものよ、べりーさんあなたが持って居なさい。でもそれでは、サリーさんも辛いでしょ、だからサリーさんには、これをあげるから」

 と細長い宝石箱をサリーさんに渡した。サリーさんが箱を開けるとそこには、銀の土台に真珠を散りばめた髪飾りがあった。

「えっ、奥様これを私に、これは真珠では、有りませんか、この様な高価な品物を私に」

「そうよ、真珠だけど、良いものよ私は、髪飾りなどしないから、この品物は、ね、友達に頼まれて買った品物だけど悪い品物では、ないのよ、その友達の実家で取れた最高の品物で作ったものだと聞いて居るわ、だからサリーさんが使ってちょうだい」

 ベリーさんもサリーさんもママから渡された髪飾りを手にすると

「奥様、この様な高価なものを私達にくださると」

「そうよ、貴方達には、何時もお世話になっているでしょ、そのお礼よ」

「本当によろしいので」

「良いわよ、いっちゃんもこれでいいでしょ」

「僕は、いいよ」

「はい、これで決まったわ、二人共夕食のお手伝いを宜しくね」

 と言ってママ達三人は、キッチンに入って行った。

 次の日、リビングで僕とベリーさんが話をしている時に電話のベルが鳴りベリーさんが出て

「坊っちゃん、チコ様からお電話ですよ」

 僕が電話に出ると

「おはよう、俺だけど、お前今日何か予定有るか」

「別に何も予定は、ないけどどうしたの」

「そうか、じゃー俺に付き合ってくれないか」

「いいよ、何処に行くの」

「なぁーに、ちょっと金策に行くのさ」

「判った。家の前で会おうよ」

「ママ、ちょっと遊びに行ってきます」

「いっちゃん、遊びに行くのは、良いけれど昨日みたいに遅くなる時は、電話を入れるのよ」

 チコと僕は、家の前で落ち合うと街の中心に足を向けた。

「ねぇチコ君何処に行くの」

「うん、ドラド通りに在るカシムの店に行くのさ」

「カシムの店ってどういうとこなの」

「あぁ、ダボダ、いちの宝飾店さ、このティアラを売ろうと思ってね」

 「一体幾ら有れば借金が返せるんだい」

「そうだなぁー、二百万リアルもあればおつりが来るかなぁー」

「そんなに、借金があったの」

「だから、あの木箱の中に有った大きいティアラを持って来たのさ、お前に来て貰ったのは、このティアラがサハ王妃のティアラだと説明して欲しいからさ」

「その品物は、王妃様のものと違うの」

「それはそうだけど、これは、あの埋めもどしたティアラより数段落ちる品だ。多分日常的に使っていた代物だと思う、これと同じものがもう一つ有るからね、だから少しでも高く買って貰う為には、サハ国王妃の代物だ。と言う箔をつけたいのさ、それには、羊皮紙が読めるお前しかいないのさ」

「なるほど、君は、大人だね、商売に長けている」

「当たり前だ。一人で生きて行くには、最低限の生活が出来る金が必要だからね」

「そうか、君も苦労しているんだね」

「そうかぁー、俺は、苦労したとは、思ってないぞぉー、それより早く行こうぜ」

 僕とチコは、カシムの店に入ると店員が

「お客様、入る店を間違われたのですか、ここはカシムの店ですが」

「おっさん、俺達、客じゃーないんだ、俺の家に伝わる宝物を売りに来たんだ」

「あぁ、左様でそう言う事なら品物を見せて頂きますが」

 チコがポケットから紙に包んだティアラを取り出すと、それを受け取った店員が、ほぅーと溜息をつきながらそれを暫く見つめていたが

「お客様少々お待ちいただけますか」

 と言ってティアラをカウンターに置くと奥に入って行った。

 暫く待つと二人の男を連れて来た。男の一人が

「お客様、私がこの店のオーナーのギド、カシムで御座います。お見知りおきをお願いします。ここでは、なんですからこちらへどうぞ」

 と言って奥の応接室へ案内してくれた。

「お客様,お尋ねしますが、見た所その若さで、これ程の品物をお持ちのお家とは、どちらさまでしょうか」

「あぁ、俺か、俺の名は、チコ、アブドバサハだ。その品は、我家に伝わるサハ国王妃サラマのティアラだと言われている品物なのだ」

「アブドバ家、あのサハ王の子孫と言われる」

「そうだよ、俺は、その家のあととりさ」

「でも、確かアブドバ家は、破産したとお聞きしましたけど」

「あぁ、確かに破産寸前だったよ、しかし、こいつの御蔭で家の財宝を捜し当てたのさ」

「すると、この品物だけでなく、まだ有ると」

「おっさん、それから先は、云えないよ、買うか買わないか返事が欲しい」

「これ程の品物だと買い取るにしても裏付けが欲しいのですが」

「あぁ、証拠ね、それならムスクの街にトドムと言う食堂があってその家に有る羊皮紙に記載されている王妃のものだといわれている」

「でもお宅の羊皮紙は、誰にも読めないとお聞きしましたけれど」

「おっさんも、この様な商売に、手を染めているのに耳が短いんだね」

「どぉ言う事ですか?」

「おっさん、最近博物館がサハ王国の調査に行った事は、知って居るね」

「えぇ、サハ王国学術調査隊を出して帰って来た。と聞いていますが」

「あれは、ね、俺の家の羊皮紙が解読された事により宝捜しに行ったのさ」

「まさか、博物館が宝探しとは、その様な事が」

「だから、おっさんは、耳が短いと言われるんだよ、もう暫く待てば判るよ、それより買うのか買わないのか、はっきりして呉れよ」

 チコの催促に三人は、頭を揃えて相談していたが

「これ程の品物は、当店では、重すぎます。当店では三百万リアルが限度です。そこで一つ提案ですが、この品物をドバイのオークションに私共の店名で出品させて頂けないでしょうか、勿論競売に掛る費用や手数料は、頂きますが」

「あぁ、俺は、良いよ、それで現金は、何時呉れるんだい」

「お客様がお望みなら、手付料として、幾ら出しましょうか」

「そうだなぁー限度額の三百万リアル欲しいね」

「判りました。出しましょう」

「おい、おい、おっさん、そんなに簡単に決めていいのかい。手付だよ、手付」

「大丈夫ですよ、あの品をオークションでは、最低価格を五百万リアルで出す心算ですから、勿論競売後の精算に付きましては、競売費用や手付・手数料につきましては遠慮なく頂きますが、それでも貴方様の手元には、多額の現金が残るものと思いますし、私共も名前が売れるものと期待しています」

「判った。ところで現金は、二百万リアルは、欲しい。残りは、小切手でも良いよ」

「判りました。暫くお待ち下さい、預証や現金等を用意させますから」

 僕とチコが待って居ると大きなバックに書類と現金を詰めて持って来た。するとギドが

「お客様、先程、お話の有りましたムスクの街に有る羊皮紙を取り寄せる事が出来るでしょうか」

「取り寄せてどうするんだい」

「オークションに掛ける時に、その羊皮紙も付けて出品すれば価格が跳ね上がりますので」

「さぁーそれは、ムスクのトドムに聞いてみないと返事は出来ないよ」

「出来れば、貴方様の方から交渉して頂ければ有難いのですが」

「俺に交渉しろってか、俺、嫌だよ、ムスクまで行って断られるのが関の山だもの」

「左様で、では、こちらで話を進めてもよろしいね」

「あぁ、そうしてくれ、その方が俺は、有難い」

 僕とチコは、バックを持ってカシムの店を出るとタクシーを呼びチコの家まで帰った。

「いち、冷たい飲み物があるから上がって行け、今日は、お前が居てくれた御蔭で交渉がうまく行ったよ、有難うな」

「僕は、何もしなかったよ」

「いや、何もしなくても、お前が居てくれたから、俺が強気に出れたのさ、お前は、俺の後盾だからね」

「だって、僕達友達だろ、それよりこの現金で早く借金を返済した方が良いよ、それに、お金が余れば金庫を買った方がいいよ、君一人だと物騒だよ」

「あぁ、俺も金庫は、欲しいと思った。現金がこれ程床を取るとは、思わなかったからね」

「じゃー、僕、今日は、帰るね」

「えっ、もぅ帰るのか、まだいいだろう」

「だけど僕まだ今日の勉強をしていないからね、今日は、誘って呉れて有難う」

「俺の方こそ、無理に付き合わせて御免な、これからも無理言うけど、宜しく頼むよ」

「あぁ、良いよ、僕で出来る事は、連絡して、じゃー僕帰るね」

 僕は、チコの家を出ると我が家に足を向けたが家に着くまで、心が弾み嬉しくて仕方がなかった。

 友達のチコにオシス様が、ほほ笑んだ様な気がしたと思ったからだ。

 その日から二日後、チコの所にムスクのトドムから連絡があった

「もしもし、アブドバ家のチコ様ですか、私、ムスクのトドムです、実は、私の所にカシムの店の店員が来まして我が家にある羊皮紙を買いたい。と申しますので、、私が家宝だから売らない。と言いますと店員は、一万リアル出しますから是非分けて下さい。と言われたけど渋ると値段を上げて行き等々十万リアルの値を付けたので手放しましたが、あの様な古臭い羊皮紙に十万リアルもの高額を出す訳を尋ねましたら店員は、ニヤニヤ笑って教えてくれませんでした。どうにも気持ちが悪くて、これは、チコ様に訳を聞くのが一番だと思い連絡させて頂いた次第で、本当に私がこの現金を頂いて宜しいのでしょうか」

「あぁ、カシムの奴、もうおっさんの所にも行ったのか、良いんじゃーない。取っとけば、家の家宝と言っても、たかが古びた羊皮紙だろ」

「そんな羊皮紙に十万リアルもの大金を出す価値があるのでしょうか」

「あぁ、それは、俺がカシムの店にサラマ王妃のティアラだと言ってティアラを持ち込んだからさ」

「えっ、チコ様それでは、御印が見付かったのですか」

「あいつの御蔭で見付けたよ、間違いなくアブドバ家は、サハ王の子孫だったよ」

「それは、ようございました。それでは、私も安心してあのお金を使わせて頂きます」

「あぁ、又ムスクの街に行った時は、寄らせてもらうからな」

 と言ってチコは、電話を切ったがチコには、トドムの喜ぶ顔が見える様であった。


 サハ調査隊がダボダに帰還して五日後、市内に有るアラビアンホテルの大広間でサハ王国発掘報告会が開かれた。

 主催者は、博物館のヤァング、シャド、オドの三人の連名で参加者は、十五名程であった。ヤァングが

「本日は、お忙しい処お集まり頂き有難うございます、お集まりの皆様には、今回のサハ発掘に伴う資金援助にご協力頂き有難う御座いました。このたびの発掘調査の経緯や会計報告書を書面にあげておりますので、お目を通して頂ければ幸いです」

 ヤァングの挨拶が済むと黙って聞いて居た参加者から

「結局お宝は、無かった。と言う事だな、君達は、こう言う事を想定して金を集めたのか」

「いえ、私達もまさか盗掘に合って居るとは、想像もしませんでした。現に王宮の地下宝物殿には、羊皮紙に記載されている様に、ここに展示している木箱が五箱有りました」

「それにしても、財宝が少ないねぇ―燭台や食器類ばかりで、それも陶器や青銅器が大半じゃーないか、これがお宝と言えるかね」

「私共も、これ以上発掘しても経費がかかるものと判断し皆様の了解を頂くために発掘を中断してきたものです、しかし発掘の過程で神殿の地下に地底湖を発見しております。この地底湖の水を利用すれば、広大な農地を開発できるものと思われます」

 その言葉に参加者のファース家から

「君達は、サハ王国の財宝を捜しに行ったのでは、なかったのかね、少なくとも我々は、その様に理解したからこそ資金を出したのだよ、それなのに君達は、何だね、持ち帰ったものは、ガラクタばかりで、これでは、投資した価値がない。残った残金は、出資比率に分けて返金したまえ」

 最大の出資者であるファース家の発言に会場内は、同調者で騒然となった。ヤァングは

「皆様お静かにお願いします、先程残った資金は、返還するようにと提案が有りましたが、博物館では、第二次調査隊を計画しております、残った資金につきましては、この調査隊の費用に充てようと考えております、なにとぞご理解とご協力を、お願をいたします」

「何を言うか、お宝も掘り出せない。お前達に誰が大切な資金をつかわせるか、全額とは、言わないからファース家の言う通りにして返金しろ」

「でも、あの土地には、膨大な水源が有りますからその調査費用として協力をお願い出来ませんか」

「だからお前達は、学者馬鹿と言われるんだ。考えて見たまえ、王宮跡地に行くまでの道路も無い土地にどれだけの価値が有ると言うのだ。投資すると言う事は、利益が出る事で資金を出すのだよ、水が有る広大な土地なら捜せば、どこにでも見つける事が出来る。無理に砂漠の真ん中でなくともね」

 この様に報告会は、荒れに荒れて結局残った資金は、返還され三人の懐は、空になった。

 それどころか三人が勝手に資金を集め学術調査の名目で宝探しの調査隊を出した事に批判が集まり三人は、博物館を首になり路頭に迷う事になった。

 この報告会の十日後に新聞の片隅に、サハ王妃サラマ妃のティアラがドバイでオークションに出品される。

 との記事が掲載され、それには、サラマ妃は、サハ王シャバの妃で悲劇の王妃と呼ばれサハ王国が滅亡する時ダボダに落ちのびアブドバ家を創設した。と伝えられている。

 今回のティアラも、最近アブドバ家で発見されたもので、今回その品が売りに出されたものである。

 このティアラは、高額で落札される事が予想され代理のカシム店オーナーのギド氏は、オークションの最低価格を強気の一千万リアルで出品すると語った。

 この新聞記事が掲載されると、先日の博物館の宝探しで首になった三人と比較され、ここでも三人は、笑い者にされてしまった。

 確かにアブドバ家に伝わった羊皮紙には、ゼンダの呪いが掛って居たのかも知れない。

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