聖地へ
ダバダ市立博物館の館長ヤァングは、サハ王国調査隊を計画したがダバダ市から調査費用は、捻出出来なかった。
資金面で頓挫したヤァングは、費用集めに奔走したが地道な学術調査では、目的額までは、程遠い金額しか集まらなかったのだ。
「シャド君、今度のサハ調査隊は、実行出来そうにないなぁー」
「館長やはり市からの資金は、無理ですか」
「そうだ、市の連中の言い草が、サハ砂漠の真ん中まで調査隊を出して伝説の王国を捜すなぞ馬鹿げている。遺跡の欠片でも有れば調査する価値もあるが伝承と羊皮紙だけの根拠で調査費用など出せる訳がない。とけんもほろろだったよ」
「館長は、市の連中に、あのアブドバ家の羊皮紙の事を話しましたか」
「いや、説明は、しなかったけど」
すると二人の話を聞いて居たオドが
「館長、無理に市から費用なぞ貰う必要など有りませんよ、私に良い案がありますが」
「オド君、どうするんだ」
「なぁーに簡単な事です、館長、市の会議があるでしょその時に市内の有力者、そうですねフアース家の出席者にでも愚痴を言って下さい」
「何の愚痴を言えば良いのかい」
「フォース家の一人に、実は、アブドバ家の羊皮紙を解明したのだけど調査費用が捻出出来なくて困っている。どなたか資金援助をして頂ければ、と援助者を捜しているのですよ、と耳元で呟くだけでいいのです」
「オド君、それだけで良いのかね」
「そうです、それと市の連中には、アブドバ家の羊皮紙の事は、秘密ですよ、とでも付け加えて言えば完璧です。十日もすれば資金は、集まると思いますよ」
「そんなに、上手く行くかなぁー」
「シャドさん、掛けますか」
「判った。オドくん明後日、市の会議があるから君の言う通り、してみよう」
市の会議が有った次の日、チコが市場で店を広げていると目の前に三人の男がやって来て座って居るチコに
「チコ君とは、君かね」
「そうだよ、おっさん何か用かい」
「君に聞きたい事があってね、尋ねて来たんだよ」
その言葉を聞いた途端、チコは、右手をだし
「俺は、物売りを生業にしている。なにが聞きたいのか判らないからそちらで値段を決めてくれ」
すると男は、黙ってチコの手に千リアルを握らせた。
「で何が聞きたいんだ」
「君の家に有る、羊皮紙は、解明出来たのか」
「あぁ、羊皮紙ね、解明出来たよ」
「本当にサハ王国の財宝の在処を記載していたのかね」
「あぁ、間違いない。財宝の在処が記した物だった」
「君は、読めたのかね」
「俺に読める訳は、無いだろう、訳したものを説明受けただけさ」
「すると君は、羊皮紙の内容を知って居るのか、詳しく教えてくれないかい」
「おっさん、ここから先は、別料金だ。倍は、貰わなきゃー話せないよ」
と手を出すと男は、黙ってチコの手に二千リアルを渡した。
その日の午後、僕が部屋にいるとべりーさんが
「坊っちゃん、お友達がいらっしゃいましたよ」
「えっ、僕に友達って誰だろう」
「珍客ですよ、ほら例のチコさんですよ」
「えっ、チコ君が」
僕が慌てて玄関に出ると
「やぁ、いち、お前、良いとこに住んでいるんだなぁー」
「僕に何か用なの、まぁ上がってよ」
「良いよ、俺、市場からの帰りだから」
「そう言えば君の家を知らないね、こちらの方向なの」
「いゃ、俺の家は、反対方向だ、それよりお前、羊皮紙の事を誰かに喋ったか」
「いいや、誰にも言わないよ、どうして」
「それじゃ博物館の連中だな」
「どうしたの、何かあったの」
「うん、先程俺の所に三人の男が来てね、その中の一番年寄りが家の羊皮紙が解明出来たか、って聞くから出来たと返事をすると全部教えてくれと言うから教えると喜んで帰って行ったが、あれは、どこかの執事だね、俺は、あぁ、あの羊皮紙に欲惚けした連中が、たかりだしたか、俺は、お前が喋ったのかと思ったのさ」
「僕は、誰にも言わないよ」
「お前、気をつけろよ、博物館の連中は、あの羊皮紙を利用するつもりだ、まぁ俺も、そのおこぼれを貰ったけどね」
「おこぼれって」
「情報代だよ、あの執事三千リアルも出したぜ、当分楽が出来ると言うものだ」
と僕に言うとご機嫌で帰って行った。その日から、一週間後、館長はシャドとオドに
「両名とも喜んでくれ、調査費用が捻出出来た」
「館長、思ったより早く集まりましたね」
「館長、資金援助の申し出は、まだ有るのでしょ」
「オド君、費用が捻出出来たから、これから先は、断ろうかと思っている」
「そんな勿体無い事を、出すと言うものは、全部貰っとけば、どうせ欲惚けした連中の金じゃーないですか」
「万一、財宝が出なかったら詐欺にならないか」
「だって調査隊は、出すのでしょ、それだったら詐欺には、なりませんよ、館長は、財宝が有るとは、一言も言って居ないのですから、相手が勝手にアブドバ家の羊皮紙が解明されて財宝を取りに行くのだと思い込んでいるだけですから」
「成程、オド君は、悪知恵が働くね」
「館長、悪知恵は無いでしょ、せめて気転が聞くねぇーとでも言って下さいよ」
三人は、顔を見合わせ大笑いをした。それは、希望がかなった満足感とまだ見ぬ財宝への期待感に浮かれている姿だった。
調査費用の目途がついた館長ヤァングの動きは、早かった。
根本家では、夕食を済ませ家族が談笑をしていると館長のヤァングがやって来て、パパとママに計画書をみせながら
「実は、今度博物館でサハ王国の調査隊を計画しているのですが、この調査隊の一員としてお宅の息子さんにも是非参加して頂く様にお願いにあがった次第で」
「うちの一郎ですか、足手まといになりませんか」
「いやいや、根本君が解いたアブドバ家の羊皮紙と博物館に展示してある羊皮紙を突き合わせて考えると、今迄単なる伝説と思われていたサハ王国の存在が単なる伝説で無く実在したのではないか、博物館は、その疑問を証明するために調査隊を計画しているんです」
「うちの一郎が役に立ちますかな」
「えぇ、勿論の事で、博物館では、羊皮紙を解明した語学力に期待をしていますので是非とも親御さんにも理解と協力をお願いします」
「趣旨は、よく判りました。おい、いっちゃん、お前は、どうなんだ」
「僕は、行って見たい。発掘なんて初めてだもの」
「お前がその気なら決まりだな、ヤァングさん手を取ると思いますが、何分共よろしくお願いします」
「ご協力有難う御座います。日取りが決まりましたら、すぐにご連絡いたしますから、本日は、遅くまでお邪魔しました。私これからチコ君宅へ行きますので失礼します」
と言って帰って行った。チコが夕食を済ませ時にヤァングがやって来て
「チコ君と言うのは、君の事だね、初めてお目にかかるが、私は、博物館の館長をしているヤァングと言う者です、今日は、お願いに上がったのだけど」
「おっさん、俺に願い事って何だ」
「単刀直入に言えば、サハ王国発掘調査に参加してもらいたい」
「馬鹿言え、死の王宮になぞ行くものか」
「でも君達サハの民に取っては、故郷だろう、いま現実がどうなって居るか見て見たいとは、思わないか」
「そりゃー俺だって見て見たいとは、思うけど聖地に行くまでには、流砂や砂嵐が待ち受けているんだぞ」
「その点なら大丈夫だよ、途中ムスクの街で五人の案内人を雇う心算だ」
「それだけで、砂漠を横断する事が出来ると」
「ムスクの案内人は、サハ砂漠を知り尽くしているし、その案内人を五名も予定しているからね、君も心配しないで参加して欲しい。それに根本君も参加するのだよ」
「えっ、あいつも参加するのか、うーん」
「そうだよ、だから君も参加して欲しい」
「わかった、おっさん俺も行こう、但し一日日当百リアルは、欲しい」
「何だ、そんなに安くて良いのか」
「エッ、じゃー幾ら呉れるんだ」
「私達は、人扶は、二百リアルで計算しているけどね」
「資金があるんだね、人扶にそれだけ支払ったら足がでやしないか」
「大丈夫だよ、この発掘調査には、賛同者が多数いるから、それじゃー決まりだね、日取りが決まったらすぐに連絡するよ」
館長ヤァングは、シャドとオドに調査隊の準備を指示した。
その三日後には、発掘人扶を二十名集めて、これを二班に分けシャドとオドを副隊長にして大型トラック二台に分乗しダボダ市を出発し一路ムスクを目指し出発した。
僕とチコは、ヤァングと共に先導車に乗車した。僕に取って砂漠を旅する事は、初めての旅だ
調査隊がムスクに着くと隊長のヤァングが僕とチコに
「このムスクノの街で案内人の募集と物資の補給の為二日間滞在する事に成る。君達にとっては、初めての旅だ。街の見学でもして来るといいよ」
僕とチコは、ヤァングの言葉に顔を見合わせ宿を出たが初めての街にほぉり出された気持ちだった。
「チコ君何処か行くとこが在る」
「馬鹿な事を聞くな、初めて来た街で何処に行くと言うのだ」
「そうだね、仕方ないから街でもぶらつくか」
「いち、お前、何か買うものでもあるのか、無いのなら、この様な、熱い時に散歩でもあるまい、どこか食い物屋でも見つけて冷たいものでも呑もうぜ」
チコは、目ざとく食堂を見つけるとそこに入って行くと店の奥に居た主人が
「いらっしゃい」
と大きな声で僕とチコを迎えた。チコが
「おっさん、俺にココナッジュース、いち、お前は、何にするんだ」
「君と同じものでいいよ」
「おっさん、ココナッジュースもうひとつね」
僕とチコが小さなテーブルで待って居るとジュースを持って来た店の主人が
「お前さん達は、調査隊の一員かね」
「いや、俺達は、調査隊のオブバアーザだ。博物館の連中に頼まれて付いて来ているだけだ」
「ほぅー、その若さで客員扱いとはねぇー」
「俺は、ともかくこいつは、凄い奴だからね、博物館の連中も一目置く様な奴なのさ」
「へーぇ、その若さで何をしているんだね」
「こいつは、ね、古代の神官文字が読めるのさ」
「まさか、冗談だろ、神官文字が読める者など、居ないと聞いて居るけど」
「所が読めるんだね、現に俺っち、に有る羊皮紙を解読したからね」
「お前さん、ところに有った羊皮紙って」
「あぁ、サハ王国の財宝を記したものさ」
チコの言葉に主人は、一瞬、エッ、と言う様な顔をして
「もしかしたら、お前様は、アブドバ家のお方では」
「そうだけど、おっさん、俺っちを知って居るのかい」
「だとすすると、お前様は、チタ様の御子息で」
「そうだよ、俺の親父は、チタ、アブドバサハだけど、おっさん、俺の親父を知って居るのかい」
「勿論ですとも、私は、トドムと言いますが、貴方様の御父上様は、高潔な御方でこの街の貧しい子供は、どれ程の援助を受けた事か、チタ様が亡くなられた今でも、その志を受けた者が貧者に援助するという良き習慣が根付いて居るのです」
「へーぇ、うちの親父こんなムスクの街にまで来ていたのか」
「そうですよ、このムスクの街は、古代には、サハの国だったそうですから、貴方様の御父上様も私共の店に来て親しくして頂いたものです」
「おゃっさんは、俺の親父との付き合いは、長かったのかい」
「そうですねぇー、御父上が若い頃に私の店に来られて私の父親にサハの王宮跡に行きたいから、と案内を頼まれたのです。父親が何故行きたいのか、と聞くと御父上は、私の先祖は、サハの国王だ。と聞いているが証拠となるものは、何一つない。それなら現地に行けば何か得るものが有るかも知れないし、確かめる為にも行って見たい。と申されるので父親は、あそこに行く事は、死に行くようなものです。貴方様がどうしても出自を確かめたいのなら無理に行かなくても方法は、有りますよ。と申しますと御父君が、是非教えて欲しい。と申されるので父親が実は、私共の家に伝わる羊皮紙で知る方法が有りますが、その文字は、誰にも読む事が出来ません。しかしその羊皮紙には、サハ王国の興亡の歴史が記載されていると伝え聞いております。と申しますと御父君は、是非とも見て見たい。とおっしゃるので父親が倉から木箱を取り出し見せると御父君は、全部の羊皮紙に目を通していましたが、そのうち一枚の羊皮紙を取り出すと、この羊皮紙は、私の家に有る羊皮紙と同じ文字を使っている。私には、読めないが私の家の羊皮紙は、サハ王家の財宝の所在を記したものと伝えられて居る。これも同じものかも知れないから大切にこの家で保管した方がいい。後の羊皮紙は、私に分けて頂けないだろうか、と申され多額の現金で買い上げていただいた。それ以来亡くなるまで御父君とは、お付き合いが有りました」
「それで親父が捜していたものは、見付かったのかい」
「いいえ、御父君は、最後まで捜されていたようですが、御父君があの様な事件に巻き込まれたのも、一片には、この事が関って居ると思います」
「親父も馬鹿だねぇー、アブドバ家がサハ王家の末裔であろうと、なかろうと関係あるまいに」
「坊っちゃん、御父君をその様に悪く言うものでは、ありません。御父君は、高潔でお優しい方だったんです」
「俺は、親父の想い出は、無いからね、親父が死んだ時母親がずーと泣いて居た事しか記憶に無いから、俺の親父の想い出は、それだけだ」
「坊っちゃんも苦労なさったのですね」
「俺が、ものごころが付いた頃には、母親も居ないし爺様と二人だけで農作業ばかりしていたからね」
「その様な坊ちゃまが何故今ムスクの街へ」
「あぁ、それは、こいつの勢だ。こいつが俺の家に伝わる羊皮紙を解読したせいさ」
「あのアブドバ家に伝わる羊皮紙をねぇー、それならこの家に伝わる羊皮紙も読む事が出来ますね、暫くお待ち頂けますか」
と言いながらトドムは、奥に入って行った。程なく一枚の羊皮紙を手に持ち、それをテーブルに広げると
「これを、解読する事が出来ますかな、これは、貴方様の父君が、残しておけ、と言われた羊皮紙ですが」
「おい、いち、お前これを読んでやれ」
「判った。貸して」
僕は、チコから羊皮紙を受け取ると羊皮紙の全文に目を通し
「良いかい。読むよ、サハ王国書記官ダダこれを記す。王族が都を退去する日、王妃サラマ様は、国王や王族が安置されている霊廟に入られると国王の棺から御印を取り出すとそれを愛しむ様に胸に抱き都を去られた。と書いてあるよ」
「ほーう、この羊皮紙には、その様な事を書いてあるのか、いやぁー恐れ入った。君、この紙に今読んだ事を書いてくれないか、羊皮紙と共に家宝として大切に保管しておくから」
「いち、それだけか、みしるし、って何だ。お前は、時々訳のわからない言葉を言うから」
「御印がどの様な物か、と言う事かい。(日本で言えば○○○○だけどね・・・苦笑)僕が思うには、おそらく玉璽か王冠だとおもうよ」
「ぎょくじ、って何だ」
「王様が使う印鑑だよ、君の家にもあるだろう」
「スタンプならあるぜ」
「普通のスタンプじゃー無いよ、例えば黄金製の印鑑でサハ国王の印とか、それか国王の象徴の王冠だと思うよ」
「そりゃー駄目だ。そんなもの、我がアブドバ家には、ないからね」
「君は、見た事もないの」
「ない、ない。そんなものがあれば、爺様も借金なぞするものか」
「坊っちゃん、それじゃーアブドバ家には、御印は、無いとおっしゃるので」
「俺も見た事も無いし、爺様からも聞いた事は、ないね」
「そうですか、だから御父君も捜しておられたのですね」
「そうだろうなぁー、おい、いち、そろそろ宿に帰ろうぜ、おやじ、邪魔したね」
といって僕とチコは、店を出て宿に帰った。宿に帰ると玄関横の広間で博物館の連中と現地の人が口論をしていた。
「おい、いち、面白そうだから見学をしていこうぜ」
と言って部屋の片隅に二人共座り込んだ。館長のヤァングが
「我々は、どうしてもサハ王国の調査に行かなくては、いけないのだ。それにこの調査団には、アブドバ家の御子息も同行して頂いて居る。それなのに案内を拒否する訳を聞かせて欲しい」
「そうですか、アブドバ家の御子息も参加されているのですか、分りました。私達も行かないとは、言いません只、王宮跡に行くのは、大変危険です。それにトラックは、使えませんし物資を運ぶのも人出が要ります。だから人出も経費もかかります、それでも行くと言われるのですか」
「それは、承知だが、トラックは、使えない。とか危険が多いいとは、どういう事だ。何故トラックが使えないのだね」
「まずこのムスクの街から王宮が在っただろうと言う所迄行くのには、道が無いので車は、駄目です。それに其処まで行くのに砂嵐は、避けれても、サウンドホールが何処にあるか調査しながら進むため昼間しか動けません。通常五日でいけるとこでも、倍とは、言いませんが日数が掛ります」
「危険が在るのは、わかった。それで案内人は、集まるのかね」
「今の所三人は、行ってもよい。と返事を貰っていますが、後の二人が渋って居ます」
「それは、金額面で渋っているのかね、どのくらい出せばよい返事が貰えるかね」
「日当で五百リアルも頂ければ、うん、と言う返事が貰えると思いますが」
「判った。それだけ、だそう、それにラクダもなるべく多く集めてくれ、それに人出が居るようなら一日二百リアルで雇って呉れてもいい」
「えっ、人扶に日当二百リアルも頂けるので」
「そうだ、但しここでは、十人を予定している」
「もし集まりすぎたら」
「それは、そちらで調整してくれ」
二日後に、用意が整った調査隊は、王宮跡を目指し出発した。
今迄見た事もない様な隊商の長い列に街の人々は、驚嘆の目で隊商を見送った。
調査隊は、ムスクの街を出発して八日目にサハ王国の都が在ったと思われる地点まで来たがそこは崩れかけた巨大な岩が林立する砂漠だった。
隊長のヤァングが
「各員、野営の準備にかかれ」
と指示し隊員は、作業に掛ったが僕とチコには
「君達には、設営作業は、無理だから近くを探索でもしていなさい」
「チコ、行こう」
「どこに行くんだ、こんな砂漠の真ん中で」
「もし、僕達が方向を少し間違えていたら今いる所は、都の街外れじゃー無いかと思うんだ」
「どうしてそう思うんだ」
僕は、チコに説明をする為に帳面を取り出し東西南北を記入すると
「博物館の羊皮紙に神殿の裏の岩山が二つに割れて崩れたと言う記述があってね、ほら見て御覧ここにある岩は、僕達が居る方から右手の方向に岩が林立しているだろう、もし神殿の岩山があれだとすると僕達は、都よりだいぶ北にいると思うんだ」
「成る程、お前この砂漠の真ん中でよくそこまで気が付くね、どうするんだあそこまでは、相当遠いぃぞ」
「隊長にも、話して見るけど、何か痕跡でもと思っただけだよ」
「無理だろう、痕跡なんて四方砂の海だもの」
「そうだね、ちょっとでも手がかりでもと思っただけだよ」
「無理、無理お前だから言うけど砂漠で無理をすると命取りになるぞ」
「うん、気をつけるよ、探索を止めて隊長に話をしてみるよ」
僕とチコは、隊長ヤァングに
「隊長、今、私達が基地を設営している場所は、王宮からずーと北に居ると思いますが」
「どうしてそう思うんだね」
「はい、羊皮紙に神殿の裏山が二つに裂けて崩れた。と言う記述があります。もしあの先に見える岩山がそうだとすると神殿は、あの麓に在るのではと思ったものですから」
すると側で僕達の話を聞いて居たシャドとオドが
「そういえばその様な記述があったなぁー」
「おいおい、シャド君もオド君もしっかり頼むよ、君達は、少なくとも専門家だから、根本君、確かに君の推測は、当たって居るかも知れない。明日から重点的に調査しよう」
次の日調査隊は、南の岩山を目指し麓に着くと先頭を歩いて居たオドが
「隊長、隊長、あれ、あれ」
と大声を上げた。そこには、遠目には、石柱と見ま違う様な、半分崩れ砂に埋もれた巨大な円柱が三か所に立っていた。
「隊長、これは王宮の建物跡では」
「そうだろうね、円柱の大きさと言い間隔と言い。此処が王宮の跡地として間違いないだろう、けどその前に、基地の変更と、この砂を取り除く作業からだね」
翌日から円柱前に調査基地を設置し砂の除去作業に取り掛かった。
僕達もシャドやオドについて発掘作業を手伝った。発掘作業が二日、三日と日が経つにつれて広大な王宮の全容が姿を現しだした。
王宮の全容が現れるにしたがって王宮の形がはっきりしだしたが、不思議な事に左側にあったと思われる建物群が無く、まるで左半分が抉られた様に無くなって居た。
右の半分の建物群は、柱も無く瓦礫の山となっているがその瓦礫を一つ一つ取り除いて行くとそこは、厨房跡地なのか、青銅製の鍋や釜それに陶器の皿やコップ破片が多量に出土した。
それらを分別しながら片付けていくと厨房の一角に石の箱が出て来た。
その石箱の蓋をシャドとオドの二人で取り外すと回りで見ていた作業員が一斉に
「ワァー」
「ウォー」
と叫びとも唸り声とも言えないような驚嘆と歓声をあげた。
その石箱には、黄金の大皿、小皿とスプーンが各二枚づつ入っていたのだ。
「隊長、出ましたね、お宝が厨房の食器類でさえこうだから、宝物殿のお宝は、想像が付きませんね」
「シャド君、オド君、これでやっと私も詐欺師呼ばわりは、されないね、ホットしたよ」
「嫌だな―隊長まだ気にしていたのですか、それより厨房でこれ程のお宝ですから、宝物殿の発見と発掘に作業を集中した方が良いですね」
「隊長、私もオド君の意見に賛成です。一日も早くお宝が見て見たいものです」
「両名共わかった。これからの作業は、宝物殿の発見に全力を集中しよう」
隊長ヤァングが僕に
「根本君、君は、あの羊皮紙を読んでみて宝物殿は、だいたいどの辺りに在ると思うかね」
「そうですねぇー、記述では、王宮の奥の地下との記述が有りましたから恐らくこの巨大円柱の外側の小部屋から地下に入る階段が有ったものと思います」
「とすると、円柱より後方だな、よし円柱の後方を重点的に捜索をしよう」
砂の除去作業は、順調に進み円柱の後方から多数の小部屋の跡が出て来た。
その内の一部屋で床の石が剥がされていて砂で埋っていた。
砂を取り除くに従って階段が出て来て階段を降りた所に石の扉が有り作業員が数名で開けると現場に居た作業員から歓声が上がった。
その真っ暗で大きな部屋には、大きく立派な木箱が五箱置いて有った。
隊長ヤァングを先頭にシャドとオドが木箱に駆け寄りシャドが蓋を開けると
「ウワァー、隊長、空です。何もない」
するとヤァングとオドも他の木箱の蓋を開けて回ったがどの木箱も空だった。
「あぁー全部空だったぁー」
大きな悲鳴とも溜息とも区別のつかない様な声をあげその場にいた全員が気が抜けた様に、その場に座り込んだ。
「あぁ、宝物殿は、盗掘に有って居て、空だったか」
その時から王宮の発掘作業は、遅々として進まなかった。
僕とチコは、王宮の発掘作業を離れ神殿の調査に取りかかった。
「おい、いち、神殿の場所が判るのか」
「うん、あれが王宮跡なら神殿は、この上に在ると思う」
「何故、判るのだ」
「あの博物館の羊皮紙に王宮の裏山と言う記述が在ったからね、それから考えると、この上だと思うよ」
僕とチコが一段高い平地に着くと、僕達は、持っていたスコップで砂を除けた。そこは、一面石畳だった。
「ここが神殿跡地だろうね、基地に帰って報告した方がいいね」
僕達は、基地に帰ると隊長のヤァングに
「この王宮跡から少し上がった所に神殿の跡と思われる場所が在りました」
「そうか、シャド君、君のチームは、明日から神殿跡の砂の除去作業に取り組んでくれ」
「隊長、王宮跡の作業に支障が出ませんか」
「シャド君、多分王宮跡には、我々が求めたものは、もう出ないと思う。確かに君が抜けると、王宮跡の発掘作業に支障は、出るが王宮跡ばかりに手を掛ける訳にはいかない。並行して作業を進めた方が良いし、神官の秘宝と言うのも魅力的だしね」
「そうですね、判りました。私のチームは、明日から神殿跡に回ります。それと根本君とチコ君は、私のチームを手つだって貰いますからね」
「良いだろう。根本君もチコ君もシャド君の手伝いを頼むよ」
翌日から僕達は、神殿跡の発掘作業に取りかかった。
神殿跡は、王宮跡より高台に在る為か砂の量が少なく作業は、順調に進み二日程で神殿跡の全体が姿を現した。
僕とチコとシャドの三人で神殿の祭壇跡を調べると祭壇裏の敷石が動く事を見つけた。
三人してその敷石を動かすと地下に続く階段が出て来た。
「チコ君、悪いけど隊長とオド君を呼んで来てくれないか」
「判ったよ、二人を連れてくれば良いのだな」
チコは、神殿跡を出て王宮跡で監督をしている二人を呼びに行った。
「隊長、オドさん神殿跡で地下室を見つけましたので二人共神殿跡に来てくれとシャドさんが呼んでます」
「そうか、すぐ行く」
と言って三人は、神殿跡に急いだ。
「おーい、シャド君、地下室を見つけたのか」
「隊長、早く、早く、隊長に一番乗りをして貰おうと思って待っていました」
「有難う、有難う、では、みんな私に続いてくれ」
と言ってヤァングは、慎重に階段を降りて行くと階段を降りた正面に小さな部屋があり正面に祭壇が設けられて居て祭壇の一番上に小さな木箱が置いてあった。
祭壇には、黄金のお盆が供えられており、その中には、金の水差しと甕が有り、祭壇の両側には、黄金製の燭台があった。
「隊長、ここは、荒らされて居ませんね。それにしても狭くて小さな地下室だけど、作りは、豪華ですね、ここで神官は、何を祈っていたのでしょうね」
「シャド君、この地下室は、神と神官だけの交流の部屋だったかも知れないね。とするとアブドバ家の羊皮紙に記載されている。神官の秘宝と言うのは、あの祭壇の上に有る木箱の中に有るかも知れないね」
ヤァングに言われてシャドが木箱を祭壇から降ろし中を確かめると
「隊長、こりゃーガラス玉ですよ、それも半分に割れていますよ。こりゃー神官の秘宝と言う様な代物では、ありませんね、なぜこの様なガラス玉を大切に木箱に入れて祭壇の一番上に置いたのだろう」
ヤァングとオドも木箱の中を覗き込みながら
「確かにガラス玉だね、何故割れた玉を大切に取っておいたのだろう」
と言いながらヤァングは、その小箱を
「さあ、根本君、これが君の知りたがっていた。神官の秘宝だよ」
と笑いながら僕に渡してくれた。僕は、その箱を受け取り蓋を開けると、あれ、と思った。
その割れた玉は、僕のお爺ちゃんが精霊様から頂いた白い宝玉と同じものだったからだ。
でも何故、精霊様の宝玉が日本から遠く離れた中東の、それも砂漠の真ん中にあるのだろう、と思った。
僕は、その小箱を持ち地下室を出るとチコが
「おい、いち、その小箱に神官の秘宝が有るのか、俺にも見せろよ」
「うん、隊長がこれだって」
「なんだ、こりゃーガラス玉じゃーないか、それも半分に割れている。これが秘宝と言うのか、ガラクタじゃーないか」
「そうだね、ガラス玉のガラクタだね」
と言って僕は、神殿前の階段に座り小箱を見ながら思い浮かべていた。
確か、あの時精霊様である緑星人達は、宇宙船の事故にあって、この地球に不時着したと言っていた。
とすれば、その時に無事に逃げ出したのは、精霊様達とは、別の宇宙ボートで逃げた乗組員もいたのかも知れない。
そのボ―トは、何らかの理由でこのサハ砂漠の真ん中の、この地に不時着したのだろう。しかしコンピューターが選んだこの地下には、地底湖が有り緑聖人は、その水を利用してその土地を緑に変えようとしたのかも知れない。しかし太陽からの強烈な熱や地球の濃密な大気に耐える場所の無い砂漠で生き残る為には、地下の湖に隠れるしか無かったのかも知れない。と僕が考えていると肩を、ポンと叩かれた。
「おい、いち、何を考えているんだ。祭壇にあった財宝を運びだしたが、お前が気にしていた、神官の秘宝、らしきものは、出なかったぞ」
「うん、もういいんだ。神官の秘宝の意味が判ったからね」
「何が判ったんだ。俺にも教えろよ」
「うーん、君に教えると笑われそうだなぁー」
「何をだ。絶対に笑わないから教えろよ」
「本当だね、実は、この木の箱に入って居るガラス玉は、宇宙人が置いて行ったものなのだよ」
「いち、お前本気で言っているのか」
「僕は、何時でも本気だよ」
「じゃー何故、宇宙人が置いて行ったものが、ここに有って、何故それが壊れて居るんだ」
「この宝玉は、その持ち主の波動によって起動するんだ。もし本人が死亡すると破壊する様になっているんだ。だから僕は、この宝玉の持ち主が博物館の羊皮紙に記載されていた。神官オロだと思っている」
「いち、お前、本当に大丈夫か熱は、ねえなぁー、それにしても、とんでもない事を考えつくものだね。俺、お前の頭の方が判らねえぜ」
「本当の事だよ」
「判った。判ったよ、お前の言いたい事は、他の者は、いざ知らず、俺は、お前を信ずるよ、友達だからね」
「信じてくれて、有難う」
僕とチコが話をしていると神殿の地下室の方からオドが大声で僕達を呼んだ。
「おぉーい、根本君もチコ君も来て見ろ」
僕達が地下室に入って行くと地下室の祭壇の後ろの壁が開いて壁の後は、洞窟になっている。
ヤァングとシャドがその洞窟に入って居て僕達が洞窟の前迄来ると二人が奥から出て来て手と首を振りながら
「オド君、残念、宝物は、一つも無かったよ、奥は、大きな地底湖があるだけだよ」
「そんなぁー、てっきり秘宝の隠し場所だと思ったのに」
「隊長、僕も洞窟の中に入って良いですか、チコ君、君は、どうする」
「俺か、俺は、いいよ、池だけしか無いんだろ、お前だけ行ってこいよ」
僕は、ポケットの宝玉を握り締めながら洞窟の中に一人で入って行った。
洞窟の中は、緩やかな階段になっていて、外からの明かりが入るのか、薄っすらと明るい。
入口から三〇メートル程入ると清浄な水で満たされた地底湖の畔にでた。
僕は、ここで緑星人が過していたのだろうと思った。この場所ならば地球の強烈な大気から身を守る事が出来るし水の中に居れば乾燥する事も無い。
この場所で神官一族は、緑星人とコンタクトを取って居たのだろう、それ故神官一族は、緑聖人を神官の秘宝として大切にしていたのだろう、と思った。
そして母星Ⅹからの救助を待っていた緑星人は、事故当時に出発した救援隊に救出されたが日本に不時着した精霊様達の宇宙ボートは、通信機器の故障により救援隊と連絡がつかずに救助されなかった。
この為精霊様達は、日本の森に同化せざるを得なかったのかも知れない。
しかしここの緑聖人は、日本に不時着した仲間よりは、早期に救助されたのかも知れない。
その時の神官がオロと考えると宝玉が地下室の祭壇の最上部に置かれていたのも理解、納得が出来た。
僕が洞窟から出て地下室を出てチコに
「チコ君も入って見れば良かったのに、大きな地底湖だったよ」
「俺は、いいよ、興味無いもの」
「でもね、サハ一族に取っては、大切な事かも知れないよ、特にサハ王家の子孫を名のる君に取ってては」
「いち、それは如何いう意味だ」
「うん、あの地底湖の水があれば、この地域一帯で農業が出来るのでは、と思ったからさ、つまり君達サハ一族が聖地としている、この土地で農業が出来ればサハの人達にも帰れる所が出来るということだろう、それは、つまりサハの国作りになる。と思ったのさ」
「いち、お前とんでもない事を考えつくものだなぁー判った俺もその地底湖を見て来る」
と言ってチコは、地下室の洞窟の中に入って行った。僕は、チコを待ちながら、何故博物館の羊皮紙には、水源が枯れて国を捨てた。と記載されたのだろう。
現に神殿の地下洞窟には、地底湖が存在するのに、この地底湖の存在を知って居たのは、神官一人と言う事になる。
それにしても地底湖が枯れる。と言う事は、考えにくい。
色々と考えたが羊皮紙に記載されている水源と言うのは、地底湖から水を汲み上げる装置が地揺れに寄って破壊された為に水源が枯れたのでは、無いかと思った。
神官オロが宮殿前で処刑されるとオロの宝玉は、自壊したが、地底湖から水を汲み上げる装置も地震によって同時に破壊された事に寄って水源が枯れた様に思えたのかも知れないのではないかと思った。
その時、チコが地下室から出て来て
「お前の言う通り広い地底湖だね、あれだけの水源があれば相当大きな農園が有っても大丈夫だが水を汲みだすのに大変だぞ」
「大丈夫だよ、まず初めに太陽光発電パネルを設置してその電力で地底湖の水をくみ上げて利用すれば良いんだよ」
「お前が言う程美味く行くかな」
「その点は、問題無いと思うけど、一番のネックは、初期投資の資金だね」
「それが一番のネックじゃーないか、俺は、自慢じゃーないが金は、無いぞ」
「そうだね、今の僕達には、夢の様なものだものね」
「でもね、いち、お前の言う事は、忘れないよ、俺も大きくなって金でも出来たらお前の言った事を実現出来る様に努力してみるから」
「うん、夢が叶うとといいね」
僕とチコが神殿を出て王宮前迄来ると博物館の三人が頭をそろえて相談をしていた。
「シヤド君もオド君も聞いてくれないか、これから先、幾ら発掘してもお宝は、出ない。と思うから取敢えず発掘調査は、中止して帰還しょうと思う、しかし資金がたっぷり残って居るので第二次調査を計画すれば良いと思っている」
「そうですね、王宮も神殿も一応発掘出来ましたし、有る程度財宝と言える物も発掘出来ましたから帰ってからの報告も云い訳が出来ますからね」
「そこだよ、シャド君、我々も調査資金を集めた以上報告をしなければいけないからね」
「隊長、資金提供者には、返礼はどうします」
「オド君、それだよ、厨房跡から出た黄金の食器や青銅製の発掘品があるだろう、あれでも贈呈しようか、と思っている」
「そうですね、仕方ないでしょうね、何しろ宝物殿の箱が空だったのですからね。ダボダにあの空箱を持ち帰り説明会の時に披露すれば納得していただけるのでは」
「そうだね、そうしょう」
三人は、そう決めると撤収に向けて全員に指示した。
翌日調査隊は、基地を撤収するとダボダに帰還を開始した。