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サハの王国  作者: 富幸
1/5

旅立ち

 僕の家族は、父親の新しい職場に向かう事になった

 僕のパパは、機械の設計技師で中東に新しくコンビナートの建設に携わる為に家族で移住する事になったのだ。

 僕達家族は、関西空港から中東行きに搭乗する為空港のゲートでパパとママは、先に異常もなく通ったが、僕が通ろうとすると警音が鳴り響き僕は、係員に留められた。

「坊っちゃん、何か金属を身に付けて居ませんか」

「僕、何も持って居ないけど」

「いっちゃん、ポケットの物を出して見せなさい」

「ハイ、ママ、これだけだよ」

 僕は、ポケットから宝玉を取り出して係員に見せると係員は

「可笑しいですね、ガラス玉には、反応しない筈なのに」

 と首を傾げながらも僕の身体を点検すると

「すみません、どうぞお通り下さい」

 と僕を通してくれた。係員は、側に居た同僚に

「故障でもしたのかしら、主任さんに連絡しなきゃいけないかしら」

 しかし次の客が通った時には、正常に作動した。僕の家族は、搭乗し日本を離れた。

「パパ、ビジネスクラスじゃなかったの」

「御免、俺の都合で一便遅れたからエコノミィしか取れなかったんだ」

「いっちゃん、御免なさいね窓際が取れなくて」

「うぅん、僕は、パパやママとなら何処でもいいよ」

「いっちゃんは、優しいのね、だからママは、いっちゃんが大好きよ」

「いっちゃん、家族内で優しいのは、好いけれど、いっちゃんが、これから先中学・高校・大学を出て社会に出たら優しさだけでは、いけないよ。世の中は、生と死・善と悪・好嫌い・仕事と遊び、など判断に迷う事が多々あると思うが決して後悔をする事が無い様な決断が出来る男の子に育って欲しいだけだ。間違っても親父みたいな妄想に取りつかれて家族を捨てる様な男に成って欲しくない」

「パパ、先程から聞いて居るといっちゃんに矛盾した事を言って居るわよ」

「エッ、俺が」

「そうよ、パパは、いっちゃんに後悔する様な選択は、するな、親父やお袋の様な生き方をしてはいけない。と言うけれど私からみると、お父様もお母様も後悔をする様な決断をしていないと思うわ、うぅん、むしろ後悔をしない為に仕事を捨てて田舎に帰ったのだと思うわ、いずれにしても、お父様もお母様も後悔どころか幸せだったと思うわ」

「そうかぁー、一人っ子の俺を捨てて自分達だけで幸せかぁ、家族が寄り添ってこそ幸せ、というんじゃーないのか」

「パパは、家族に、こだわり過ぎるのよ」

「当たり前だ、俺は、この世で家族が一番だと思っている」

「そうでしょうね、パパは、一番大切な時期に家族が居なかったんですものね。でもパパ、大丈夫よ、私もいっちゃんもパパに付いて行くから、ねっ、いっちゃん」

「うん、僕、パパもママも大好きだよ」

「有難う、ママもよ」

 僕は、ポケットの宝玉を握り締めながらお爺ちゃんの言った事を思いだしていた。

 お爺ちゃんからこの宝玉を頂いた時お爺ちゃんが

「いっちゃん、この宝玉にたよっては、いけない。」

 と言っていたし、又、この宝玉は、持つ人の能力も性格も変える事が出来る物だ。それだけに、この宝玉を持つ資格を問われる事になる。とか、この宝玉は、世界を変える力を持って居る。とも、言った。

 その時の僕は、お爺ちゃんは、おおげさだ。この様な小さく綺麗な玉にその様な力が在るとは、思えなかった。

 しかしこの宝玉を握り締めていると心は、落着くし何事にも動じなくなる。

 以前のオッチョコチョイの僕とは、大きく変わった様な気がするのだ。

 お爺ちゃんの言っていた。性格も変わる。と言う事か、それとも単に僕が成長しているだけなのかは、判別出来ない。

 いずれにしてもこの宝玉は、僕の波動でしか起動しないオーダメイドな代物なのだ。

 僕は、この宝玉を握り締めながら、僕は、この宝玉と伴に、新しい世界に向かって旅発っていくのだろうと思った。

 僕達家族が乗った飛行機は、途中シンガポールの空港に寄港したがそこでは、大半の乗客が入れ替わる中、通路を隔てた僕の隣の席には、スカーフを付けた女の子が乗って来た。

 僕は、その服装を見た瞬間

「あぁ、日本を離れた」

 と強く実感した。今迄は、機内でも日本語の話声が聞こえていたが乗客の大半が入れ替わる。と聞いた事のない言葉が聞こえてくるのだ。

 隣の席の女の子が父親らしき男性と話をしていたが僕には、初めて聞く言葉だった。

 僕は。ポケットの宝玉を握り締めると軽く目を閉じ、その言葉に集中した。

 すると少女の話す言葉の意味が理解でき、はなしている言葉の発音まで頭に浮かんでくる。

 目をつむり宝玉を握り締めながら女の子の声を聞いていると、ふと空港の電話で別れを告げた。さくらちゃんの事が思い浮かんだ。

 空港の電話の向こうから、さくらちゃんが震える様な涙声で言った

「もう、会えないの」

 その言葉に僕は

「うん、さようなら」

 の言葉しか言えなかった。他の言葉を出すと僕も泣きだすと思ったから,あえて短く電話を切ったのだ。

 夏休みの出会いから今日の別れの電話迄の短い間だけど僕の心にさくらちゃんが大きく占めていた事は、確かだった。

 今は、僕もさくらちゃんも別離という傷を受けて深紅なった心も、去る者は日日に疎し、と言う様に僕とさくらちゃんとの思い出も月日の流れの中で薄れて行くものかもしれない。

 心の傷も月日が経つに連れて、薄紅色の淡い思い出という心の傷として残って行くのだろう、と思うと悲しい様なせつない様な思いに絡まれた。

 僕は、何故この様に考えだしたのだろう、自分でも不思議である。

 以前の僕なら、この様に考え込む前に、投げ出し難しい事は、なるべく避けて来たのに、と思うとポケットの中で握り締めている宝玉の力を感じているのかもしれない。

 僕は、さくらちゃんの事を考えるのを止めてしまった。と言うより、今、僕は、中東に飛び立つ航空機のなかである。

 今の僕の年齢や環境では、未練より諦めの方が勝ったのである。


 中東迄の航空機の室内では、色々な言語が飛びかい。人々の会話が飛び込んでくる。

 その色々な言葉が宝玉を握り締めていると、その言葉が理解出来るのだ。

 僕は、この宝玉さえあれば世界中どこでも言葉に不自由しない。

 と思う反面、この宝玉の機能について興味が湧いて来た。

 お爺ちゃんから宝玉を頂いた時にお爺ちゃんは

「この宝玉にたよっては、いけない」

 と言われたけれど言語の意味と理解には、最適で、この宝玉さえ有れば色々な言語が飛び交うこの世界で言葉に障害が無いと言う事になる。

 この先、僕の大切な道具になると思った。僕は、目を閉じたまま異国の人々の会話を中東迄楽しんだのである。

 僕の家族は、首都のナフスタを経由してダボダ市に着いた。

 この都市は、首都ナフスタから遠く離れ前面は海、後方は砂漠が広がる辺境の地だった。当然日本人も少なく僕は、首都ナフスタに有る日本学校に編入する事になった。

 僕達家族は、現地サポターのアランと言う人に宿舎に案内された。

 そこは、市の郊外で近くに図書館や博物館が立ち並ぶ静かな住宅地だった。

 しかし少し歩き街を外れるとその先は、砂漠だった。見渡す限り砂の海で真っ赤な夕日が沈む時は、その砂の海が黄金色に染まった。

 僕は、この風景だけは、日本では見られないと思った。

 宿舎は、二階建で、日本で住んで居た家の数倍の広さだった。

 アランが帰った後ママは

「パパ、こんなに広いお家に住むの、家賃が大変でしょ」

「ママ、家賃の心配なぞしなくていいんだ。全部会社もちだし会社は、会社で費用をプロジェクトに含めるのだから」

「でも、私には、この家は、広すぎるわ、掃除だけでも大変よ」

「ママ、先程アランが言っていた事を聞かなかったの、ママは、家事や掃除などする必要は、ないんだよ、明日から住み込みのお手伝いさんが二人来るって言っていただろう」

「エッ、そうなの、私達家族だけじゃーないの、嫌だわ、他人と同居するなんて、それに私、食事の用意だけで他に何をすればいいの」

「ママ、食事の用意もしてくれるそうだよ、ママは、俺といっちゃんの世話だけしていれば良いのさ」

 パパの言葉にママは、考え込んでいたが、顔を上げ、きっぱりと

「私、嫌よ、私は、飾り物じゃないわ、それに主婦として家族の食事まで他人に任せる訳にはいかないわ、家庭の食事は、家族の要よ、台所に他人は、入れないわよ」

「ママらしいね、俺もママは、そう言うと思った。明日アランに会ったら、そう伝えておくよ」

 次の日の午後アランさんが、中年の女性と若い二人の女性を連れて来て、中年の女性を指差し

「奥さん、此方がベリー若い方がサリーです、この二人が明日から手伝いに入る者達ですが、旦那さんからお聞きしましたが使用人は、一人でいいと言う事ですがどちらを選ばれますか」

 僕は、ポケットの宝玉を握り締めながらアランさんの話を聞いて居た。

 その時二人いたママと同じ位の年格好の女性の一人がママに向かって膝を折り拝む様な仕草で哀願する様に

「奥様、私達の家は、子沢山で貧乏です。ここの働き口を断られると家族が路頭に迷います。お願いですから二人共働かせて下さい」

 と耳慣れない言葉で喋った。僕とママは、女性が突然膝を折って拝む様な仕草で、すがる様に懇願する姿に吃驚した。

 日本では、考えられない出来事だった。僕は、その婦人の哀願する姿を見た瞬間、僕達日本人は、神は、人は自由で平等であると説いたが、人の世界では、富める者とそうでない者の格差がある事に僕は、愕然とした。

 目の前で女性が哀願する姿を見ると一抹の憐れみと何故か悲しみを感じ、つくづくここは、異国だと実感した。

 しかし現地語の判らないママは、その女性とアランさんを見比べながらキョトンとしていた。

 僕がママにそっと

「ママ、この人は、私の家は、子沢山で貧乏です。ここの働き口を断られると家族が路頭に迷います。お願いですから二人共働かして下さい。と言っているよ」

 と言うと側にいたアランさんとママが同時に僕を見つめながら

「いっちゃん、この女の人の言葉が判るの」

「坊っちゃん、坊っちゃんは、サハの言葉が判るのですか」

「エッ、この人の言葉は、サハ語と言うの、僕初めてだよ」

「そうよ、アランさん、私達家族は、アラビア語は、判らないわよ」

「でも、先程この女性のしゃべった言葉を坊っちゃんは、完璧に訳していましたよ。それもアラビア語でなくサハ語なのに、一体どこで習ったのです」

 僕は、一瞬、拙った。と思ったが

「だって、この人ママにすがる様にしゃべっているから、こうじゃないかなぁーと思っただけだよ」

 と適当な事を言って誤魔化したがアランさんは、信じられない。と言う様な疑いの目で僕を見つめた。

 僕はママに

「ママ、人助けだと思って二人共来て貰ったら」

「そうですよ、奥さんこれだけの宿舎ならお手伝いの二人や三人は、当たり前ですから、坊っちゃんの言う通り人助けと思って」

 僕とアランさんに説得されてママは渋々

「仕方がないわねぇー、判りました。明日からお願いします」

 とアランさんに頭を下げた。アランさんの説明に二人の女性は、大喜びでママに頭を下げながらアランさんと帰って行った。

 翌日、パパが会社に出かけるとアランさんが昨日の二人を連れて来た。二人共古ぼけた鞄一つだけであった。

「お早うございます、奥さん二人を連れて来ましたが、お住まいの段取りは、決まりましたか」

「えぇ、昨夜主人と話をして二階は、私達家族が使用しますので、二人には、一階の部屋を使って下さい」

「良いのですか、一階の部屋を使わせて」

「良いわよ、自由に使わせて」

 するとアランさんは、暫く考えていたが顔を上げると

「奥さん、それは、いけませんメイドには、メイドの待遇があります。私が思うに、貴方がたは、引っ越し荷物が余り有りません。そこで一階の奥に荷物部屋が二部屋有りますので。そこに入らせては、いかがです」

「でもアランさん、あそこは、小さな窓が一つだけで、住むのには、無理では」

「なぁに、構いませんよ、彼女達が住んでいる家より、余程ましですよ」

「そうなの、私達には、判りませんから、おまかせしますわ」

 とママが言うとアランは、二人を連れて奥の部屋に向かった。

 私達がママの入れたお茶で雑談をしていると、暫くして二人がメイド姿で私達の前に来ると

「奥様・お坊っちゃま、本日から努めさせて頂きます」

 とたどたどしい日本語で挨拶をすると異常とも思える様に深々と頭を下げた。

 僕は、二人の様子を見ながら、この二人は、きっと昨日帰ってから一生懸命日本語の挨拶を練習したのだろうと思った。

 アランさんは、二人の様子とママの顔色を見比べていたが、ホットしたようにして帰っていった。

 夕方になってパパが帰ると

「ママ、どうだった」

「どうって」

「ほら、今日来た二人だよ」

 ママは、パパの問いかけに、うかない顔をしながら

「えぇ、二人共よく働いてくれるわ」

「ママ、それにしては、うかない顔をしているね」

 ママは、パパの問いかけに

「二人共良く働いてくれるのは、有難いん、だけど」

「だけど、どうしたの」

 ママは、そこから関を切った様に

「あのね、パパ、私が働くと二人が来て、私に何もさせないのよ、掃除だって洗濯だって全部よ、私が何か仕掛けるとすぐに飛んで来て何か言いながら、私にさせないの、たまりかねて、つい声を出すと、アイムソーリ・アイムソーリと言って頭を下げるのよ、その姿を見ると何も言えなくて引きさがるけど、他人が見ると私がメイド虐めをしている様に見えるでしょ、何を言っても言葉は、通じないし今日は、ほとほと疲れたわ」

「御苦労さんだったね、明日アランに相談してみるよ」

「そうしてくださる、私疲れたから今日は、早めに休ませてもらいます」

 と言ってママは、寝室に入った。この日からママの憂欝な日々が始まり、ママから笑顔が少なくなっていく、パパは、僕に

「いっちゃんは、ママをどう思う」

「うーん、ママとメイドさんは、言葉が通じないからね、僕から見ると双方共気の使い過ぎだと思うよ、メイドさんは、ママの顔色ばかり見て居るもん」

「そうだろうね、あの二人、前の働き口で首になり、長いこと働き口が無かったそうだからね、それだけに気を使っているのだろうね、いっちゃんは、男の子だからママとメイドさんのクッションにならないといけないよ、学校は、編入手続きをしているけど、学校も当分休みだしね、それにね、女性同士のトラブルには、子供が入るとトラブルがトラブルにならない事が多いいからね」

「そうなの、わかったよ、パパ、僕に任せてよ」

 次の日パパが出社した後、僕はリビングのソファでぼんやりと座って居るママに

「ママ、散歩に行かない。近くに図書館や博物館それに少し遠いけど市場もあるらしいよ」

「御免ね、いっちゃん、ママは、とてもそんな気分になれないし、言葉が判らないから迷子になるわ」

「大丈夫だよ、僕、まだ市場には、行った事ないけど図書館には、行って居るから」

「そうなの、でもママは、いいわ、とてもその様な気分になれないもの」

「そうなの、じゃー僕、図書館に行って来るね」

「気を付けて行くのよ」

「はーい、行ってきます」

 その日から二日程経った日の昼前に僕が庭に出ているとキッチンの方でママが大きな声を出している。

 僕がキッチンに行くとサリーさんがママに向かってしきりに頭を下げている。僕が入るとママは、僕を見て少し、ほっ、とした様に

「ねぇ、いっちゃん、聞いてちょうだい。ママがお昼の用意をしようとするとサリーさんが邪魔をするのよ」

 ママが僕と話をしている間サリーさんは、黙って側に立っていた。

 ママは、僕にさんざん愚痴を言って少しストレスが発散したのか

「ごめんね、いっちゃん、ママの愚痴など聞きたくないのにね」

「いいよ、ママだって我慢している事は、判って居るからこれからも言いたい事があれば、僕で良かったら聞くからね」

「有難う、いっちゃんは、やさしいからママ大好きよ」

「ママ、僕、サリーさんと話をしてみるから」

 と言って僕がサリーさんを手招きするとサリーさんは、ママに頭を下げると僕に付いて来た。

 僕達は、ベランダに出て置いてある椅子に腰をかけると僕は、サリーさんにサハ語で話しかけた。

「サリーさん、僕のママを悪く思わないでね、ママは、サリーさんに、私にも何かさせて、って言っているんだからね」

 僕が話をしだすとサリーさんは、目をみはり

「ぼ、坊っちゃんは、サハ語が話せるのですか?」

「うん、僕、サハ語でも何語でも判るよ、でもこれママやパパは勿論の事他の人にも内緒にしてね」

 サリーさんは、僕の顔を吃驚顔で見つめながら暫く考えていたが

「坊っちゃん、一つお尋ねしますが奥様は、私達に何をお望みですか」

「ママは、ねっ、僕達家族の食事だけは、ママが作りたいだけだよ」

「そうですか、奥様自身が食事の用意をなされるのですか・・・・?日本の方って変わっていますね、私が今迄お仕えした奥様達は、どの御方も台所のお仕事なぞ嫌いな方達ばかりでしたのに」

 こうして僕は、サリーさんに、日本人の家族の在り方やママの思いと意向を詳しく伝えた。サリーさんは、

「ぼっちやん、日本の方って、つくづく不思議な人達ですね、でも一番不思議な日本人は、坊っちゃん、あなたですよ」

 と言いながらサリーさんは、まるで不思議な生き物を見る様な目で僕を見詰た。

 丁度その時ベリーさんが両手に食材をぶら下げて帰って来た。僕が手招きをするとベリーさんが来て

「坊っちゃん、何か御用ですか」

「うん、いまサリーさんと話をしているんだ。ベリーさんにも聞いて欲しいと思ってね」

 とサハ語で話しかけるとベリーさんは、吃驚して手にぶら下げていた食材を落とすと

「ぼ、坊っちゃんは、私達の言葉が判るのですか」

「勿論判るよ、先程サリーさんにも言ったけど僕は、何語でも話せるから」

 僕の言葉にベリーさんは、荷物を落としたまま拾う事もせず両手で口を押さえたままドングリ眼で僕を見ていた。

 僕は、ベリーさんにも腰を掛けさせ今迄サリーさんに話した事をベリーさんにも詳しく説明をし、ママの思いを二人に伝えると、二人は、了解し納得した。

「それはそうと、ベリーさんとサリーさんに一つ聞きたいのだけど」

 今は、二人共打ち解けて僕と話をしだし

「坊っちゃん、どの様な事でしょう」

「僕、貴方達お二人を見ていて何時も思うのだけど、お二人は、僕達家族に気を使いすぎだと思うけど、それがメイドの仕事なの」

 僕の質問に二人は、顔を見合わせ、暫く考えていたがベリーさんがきっぱりと顔を上げると

「坊っちゃん、メイドは、お仕えしている主人の家族に気を使うのは、当たり前の事ですが、それ以上に私達サハの者達は、このアラビアでは、細心のの注意を払わないと仕事は、無論のこと悪くすれば地域ゃ国から排除されるのです」

「どうして、そうなるの、何か訳でもあるのかなぁー」

「それは、サハの一族の者は、このアラビアでは、嫌われ者だからです」

「どうして嫌われ者なの」

「それは、サハの民がゼンダという名の神様に呪いを掛けられて居て国も持たない流浪の民だからです」

「どうしてそうなったの」

「さぁー、大昔の事だから私達も詳しい事は、判らないけど、大昔サハの国に強欲な国王がいて周辺地域の覇者となり,奢った国王は、ゼンダ様の戒めを破り、あまつさえゼンダ様の娘で水を司るオシス様と言う神様に供えられた財宝を我が物にしようとして神罰を受け、サハの民は、ゼンダ様より国を追われた。とサハの伝説に有りますけどねぇ―、嘘か本当かは、判りませんが現在でもサハの一族には、国もありませんし、第一このアラビアでは、サハの民と言う事を隠して生活している者は、沢山います」

「でもベリーさん、伝説では、サハの国が有ったのでしょ、今は、どうなっているのです」

「今は、サハ砂漠に埋まっているそうです」

「えっ、国が砂漠になっちゃったの」

「そうらしいですね、オシス様は、水を司る神様ですからね、砂漠で水が無いと言う事は、死を意味しますから、サハの国は、砂漠の中に在って緑豊かな土地だったと私達は、教えられましたけど砂漠の中にその様な所が在ったと言う事が信じられませんわ」

 僕は、ベリーさんの言葉の端々に国を持たない流浪の民の悲哀を感ずると共にサハの伝説に興味が湧いた。

 伝説では、サハの一族が何故流浪の民になった事を伝えた様に思えたがしかし現在においてもサハの人々は、アラビアの地域に受け居られず、その身分を隠す様に生きている。

 僕は、この二人のメイドさんが必要以上に気を使う意味を理解した。

 その日から僕は、ママとメイドの間で通訳の役目を担うと共にベリーさんやサリーさんとの会話が増えていった。

 その日からキッチンは、ママの城となり、ベリーさんもサリーさんもママがキッチンに居る時は、手伝いをしなくなった。

 その御蔭でママのご機嫌は、段々と良くなり笑顔が戻って来て元の朗らかで優しいママになった。

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