二人で下校
「うわはははははっ! 面白いっ……でもね、あれだから、真面目に言ってるんだから、友穂は」
次の日のとある休み時間。幼馴染は僕と森崎さんの話を訊いて、めちゃくちゃ笑っていた。
「ごめんね……ていうか失礼だよー!」
森崎……友穂は怒っていた。
どうして怒っているかというと、友穂が僕をイケメン彼氏として幼馴染に紹介したら、笑われたからである。
まあそりゃあね、確かに失礼かもしれないけど、笑う幼馴染も仕方ない。
だって今まで幼い頃から一緒にいて、僕がイケメンであった瞬間がないことを知っているからである。
幼馴染は笑い終えて、真剣さをかろうじて見せながら言った。
「ごめんって。でも知ってるよ。友穂の好み、変わってるもんねー」
そう。
どうやらそうらしい。
つまり、友穂は本当に僕のことをイケメンだと思ってしまっているということだ。
なかなか独特な男性の好みなのだ。
ちなみに芸能人とかの話をしていても、友穂だけ色々と好みがズレているというか、誰にも共感されないらしい。
まあとにかく僕は奇跡だ。
こんな都合がいい感じに恋が実ることがあっていいのだろうか。
本当はイケメンではないのに、クラスの美少女で僕が恋に落ちた友穂だけが、僕をイケメンだと思っているのだ。
うわあこれは神。
僕は幸せをかみしめるしかなかった。
☆ ○ ☆
そしてその日の放課後から早速彼女と下校。
つまり友穂と下校。
二人で並んでるよ……!
別に係の仕事とかしてるわけじゃないのに。
そしてそのまま校門を出て少し歩いたところで、友穂がため息をついた。
「あのね」
「うん」
「実は……っていうか、まああのね、ほんとは私、あんまり隆斗くんのことイケメンだとは思ってない」
「えっ」
おい、いつからイケメンじゃないって言われて驚くような傲慢な奴になったんだよ自分。
でも驚いてしまった。
「だって、好みが変わってるみたいな話……」
「あ、そう。その話なんだけどね、それが嘘」
「嘘なの……?」
「そう」
友穂はうなずいた。
笑っていた。
僕を見て、かわいらしく。
そしてそれから続けた。
「私さ、連絡黒板係で、隆斗くんと一緒にやってきて、それでね、なんか隆斗くんって優しいじゃない? だから、ちょっと好きになっちゃったの。好きだったの、結構前から」
「……」
「でもね、なんか友達との会話で、隆斗くんって優しいよねって言ったらね、『え? あ、まあそうだけど流石にね……陰キャというかねー』みたいになっちゃって……。それにムカついて、え? めっちゃイケメンじゃない? って言っちゃったんだよね」
「なかなか面白いね」
「うん……ふふっ、そうかもね。でね、なんかめんどくさくなって、もう好みが変ってことにしちゃおっかなーって。だってイケメンかどうかとかばっかり話しててさ、イケメンの彼氏できたら自慢するのって、なんか疲れるじゃん?」
「そうかも」
確かにそれは疲れそう。クラスの中心グループも楽しいことばかりじゃないんだなあ。
でも、その今の友穂の話をまとめたら。
「ま、とにかくさ、私は……優しい隆斗くんが好きってこと……だからっ、よろしくね」
そういうことになるよな。
「いや、あの……」
「謙遜する暇があるならさ」
「あ、はい」
「わ、私を、大好きって、言って欲しいし、ててててっ手とかも繋いで欲しいからっ!」
「わ、わかった」
自分を下げるのは楽である。
いやでもやっぱり僕陰キャだしとか、授業よく寝ちゃうしとか、人並みに優しいかどうかも怪しいとか。
でも、相手に好きっていうのって楽じゃない。
でも、友穂が最初に、友穂から言ってくれたから、僕は今、こんなにどきどきして下校してるんだ。
だからさ、僕はちゃんと今は。
大好きって言って、手を繋いでみるくらい、やんないと。
僕は口を開いて、そして手を伸ばした。
友穂は、それに無言で、顔を真っ赤にして、でもよく聞くと小さくありがとうって言って、僕の手を握ってくれた。
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