三話 期待の味2
まず勉強自体があまり好きではない美空からすると、何が楽しくて資格を取るために勉強をするのか分からない。
それだけでなく、資格という結果を残していることも、自分とは大違いだと美空は思った。
茫然としている美空を他所に、麗子は肉じゃがを頬張った。
「見た目だけじゃなくて、本当に絶品!」
「ありがとうございます」
美空は、複雑な気持ちで礼を言った。
「食べないの?」
「えっ?」
弁当袋を開けようとしたまま固まっている美空を麗子は不思議そうに見詰めていた。
昨日は話をするだけで精一杯だったが、正面から見ると麗子はやはり美人だ。
(麗子さんとあたしじゃ……)
「美空さん、雑貨屋さん巡りさ、今週の土曜に行かない?」
「えっ⁉」
あまりにも急な誘いに、美空は戸惑った。
しかし、さっきあれほど嬉しそうに答えたのに、断るのは可笑しな話だと思った。
「なんか予定がある?」
柔らかな笑みで再度麗子に訊かれ、美空は首を横に振った。
「いいえ、ぜひ」
「よし! なら、連絡先交換しよう」
麗子の笑みは、自信喪失をしている美空を優しく包むようだった。
(せっかく麗子さんが誘ってくれたんだから、比べるのはやめよ)
美空もスマートフォンを取り出すと、三歳年下の妹の美海からメールが来ていた。
それを開いて、今日が何の日なのか美空は気付いた。
〈お姉ちゃん、お誕生日おめでとう! 良い出会いがいっぱいあると思うから、新しい一年も楽しんで! わたしはいつもでお姉ちゃんの味方だよ!〉
「あ……」
「どうかしたの?」
また固まってしまった美空に、麗子が訊いた。
「あっ、すみません。今日、お誕生日だったなぁって……」
「えっ⁉ 美空さんの? おめでとう!」
「あっ、ありがとうございます!」
俊介と月子との別れで、これから誕生日は独りで過ごすのだろうと勝手に思っていた。
しかし、新しい出会いがあり、祝いの言葉までもらえるとは――
失っても、もしかするとまた一歩踏み出すことができるかもしれない。
お弁当を嬉しそうに食べる麗子と話しながら、美空は何かを期待していた。
(悪いことがあれば、その分良いことがあるのかもしれない)
この期待が美空にとって何を運んでくるのか――この時の彼女はまだ知らない。