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三話 期待の味

 翌日、麗子の分のお弁当も作って、食堂へ向かった。

 誰かの分まで作るのは一か月ぶりだ。お料理をすること自体好きだが、誰かに食べてもらえることはさらに嬉しく感じた。

 美空が食堂に行けば、麗子はテーブル席を取っていた。


「美空さん、こっちこっち」

「あっ、お待たせしてごめんなさい、日野さん」

「麗子でいいわよ」

「じゃ、じゃあ……これが、麗子さんの分」


 下の名前で呼び合うことが、これほど照れ臭いとは思わなかった。

 しかし、とても心地良くも思えた。

 麗子にお弁当を渡せば、彼女はまたキラキラした目でそれを受け取った。


「うわぁ! お弁当の袋も、あっ、箱も可愛い」

「あっ、嬉しいです」


 美空はその日の気分でお弁当袋や箱を変えていた。俊介は料理の味以外に興味はなかったから、基本的に美空はひとりでこの趣味を楽しんでいたのだ。


「お弁当箱を集めるのが好きなんです」

「そうなのね。あっ、ならさ、今度雑貨屋さん巡りを一緒にしない? 可愛いお弁当箱を扱っているお店を知ってるの」

「えっ⁉ いいんですか?」

「うん、ぜひ」


 まさか一緒に趣味を楽しんでくれるひとが社内にいるとは思っていなかった美空は、自分が思っていた以上にテンションが上がってしまった。


「麗子さん、雑貨屋さんへはよく行かれるんですか?」

「うん、勉強に疲れた時にね。うわぁ! 美味しそう! いただきます!」


 お弁当の中身にも素直に、そして声を大にして喜ぶ麗子を見て、また恥ずかしいような、嬉しいような気持ちになる美空だったが、彼女の勉強という言葉に引っ掛かった。


「お勉強って、昨日読まれていた本ですか?」

「資産運用? まあ、それもあるけど、フラワーアレンジメントの資格も取りたくて。私、資格マニアなの。趣味みたいなものよ」


 趣味で資格を取るひとがいるのか。

 美空は目を丸くした。


「将来のためとかじゃなく?」

「簿記と英語と中国語は将来のために取ったけど、それ以外は趣味」


(簿記と英語と中国語って将来のために必要なの……?)


「まあ、結局英語と中国語は日常会話くらいしかできないけどね」


(いや、それだけできれば十分なのでは?)


 やはりこのひとはできる女だった――心の中で麗子が言った資格を反復しながら、美空は改めて思っていた。

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