【短編】「じゃんけんで私に勝てたら付き合ってあげる」と幼馴染みに言われて負け続けること5年。これが俺の編み出した必勝法だ!
主人公「天雨 太陽」(あまうたいよう)
幼馴染「日車 咲穂」(ひぐるまさきほ)
俺の幼馴染みは運が良い。
あれは幼稚園に通っていた頃だっただろうか。親同士の仲が良かった為か物心ついた時から一緒に遊んでいた俺達は、園内でも行動を共にする事が多かった。当時は少々やんちゃでよく二人でいたずらをしたりしていたのだが、なぜか怒られるのは俺だけだったのだ。
当然俺は先生にチクってみるが、ヤツの仕業だけは目撃者がいないせいでいつも無罪判決が下される。流石に自分だけ怒られ続けるのは割りに合わないので、次第にいたずらをする事は無くなった。これがヤツに対して最初に違和感を覚えた出来事だ。
それからというもの俺は何度も似たような体験をすることになる。ヤツはかくれんぼで見つからず、ババ抜きが強くて、くじ引きをすれば良い結果がでる。
そして極めつけは『じゃんけん』だ。
子供の頃というのは遊びや意見が衝突した際にじゃんけんをする事が多い。例えばあっち向いてホイ等のゲームや誰がおやつを多く食べるかだったりだな。
そういう場面においてヤツは無敵だった。あらゆるじゃんけんで勝ち続けて強大な権力を身につけた結果『じゃんけん王』と呼ばれることに…。まぁここまで大げさじゃないけど。
とにかく俺の幼馴染みは運が良く、じゃんけんが強いのだ。
そんな幼馴染みとの関係が変わりだしたのはだいたい小学3年生の頃だ。仲の良い男女をからかう風潮があった影響でなんとなく互いを意識し始めた俺達は、以前ほど遊ぶ事は無くなり同性で絡む事が増えるようになった。良くある話だな。
しかしそれは表向きの話。いらぬ気を利かせた親の計らいで何かと一緒にいる時間があった俺達は、互いを意識しながら共に過ごしていくことになる。
そんな感じで成長した小学6年生。
「ねぇ恋人になるってどんな感じなのかな?」
ある日唐突に切り出された話題。当時の俺達の周りでは、色気付き始めた者が付き合いだすという事件が起きていて色恋に興味が出てきたのだろう。
「なんだよ突然。そんなの俺が知るかよ」
「ふーん、じゃあ恋人が欲しいとか思う?」
「まぁ多少興味はあるな」
ここまでは普通のやり取り。この程度ならば別に気にするほどでも無い会話だったが、その日の彼女は一味違った。
「私とかどう思う?」
正直ドキッとした。
「どうしたんだよ。今日なんかおかしいぞ」
「いいから答えて」
動揺を誤魔化そうと話を反らすが、無駄な抵抗に終わった。
「あー…悪くはない、と思う」
素直になりきれない言葉。だがそれを聞いた彼女はイタズラを思いついたように笑顔を浮かべ、冗談混じりに言い放った。
「じゃあさ、じゃんけんで私に勝てたら付き合ってあげる」
◇
「今日こそ決着を付けようじゃないか」
「どうせ結果は同じよ」
とある教室の一角。二人の男女が向かい合って佇むその場所には、場違いな緊張感が漂っていた。やや体格の良い短髪の男子は、今から戦場に行くかのような覚悟を感じさせる瞳を。もう一方の明るめの髪を束ねた女子は、王の様に覇気を纏った瞳をぶつける。
暫くの静寂。睨み合う二人の間を春の気配を纏った爽やかな風が横切った瞬間。示し合わせたかのように両者が声を上げる。
「「じゃんけん、ぽん!」」
グーとパー。
勝敗は誰の目にも明らかだった。
「くそっ!また負けた!」
二人を周りで見守っていたクラスメイト達がいつものやり取りといつもの結果を見届ると、好き勝手に野次を飛ばしながら解散していく。俺はその光景を尻目に目の前の幼馴染みに目を向けた。
高校二年生となり美しく成長した彼女は、若干呆れながら溜め息を溢している。
「ねぇ太陽ってじゃんけん弱すぎじゃない?」
「俺が弱いんじゃなくて、咲穂が強すぎんだよ!」
あの日から五年、ほぼ毎日挑み続けているにも関わらず一度も勝てていない。それどころか勝てる気配すらないんだが。流石に強すぎて絶望すら感じ始めてるよ。
「少しは手加減してくれても良いんじゃないか?」
「じゃんけんでどうやって手加減すればいいのよ」
「えっと、わざと負けるとか?」
「これに関しては負けようとしても勝っちゃうんだから無理なものは無理なの」
まじかぁ。このままじゃ一生勝てない可能性すら出てきたぞ?というか負けようとしたことあるのかよ。
「俺も運が良ければなぁ」
「はいはい、授業始まるからまた後でね」
おっと、もうそんな時間か。
「おう。古文だからって寝るなよ?あの先生めんどくさいからな」
「アンタじゃないんだから余計なお世話ですー」
俺だってそんなに寝ないから。たぶん。ていうか古文って何であんなに眠くなるのかね?そんなわけで授業の準備をするために自分の席に戻ると、前の席に座る友人からまたもや呆れたような顔をされる。
「なんだよ?」
「いや、朝から糖分を摂りすぎて胸焼けしてただけだ」
は?それと俺に何の関係があるんだよ。意味わからん。友人達は揃って甘いものが好きらしく毎度のごとく俺に報告してくるのだが、それと同時に変な視線を向けてくる。正直イラっとするのでやめて欲しい。
「それにしても、いつもながら見事な負けっぷりだったな」
「うるせぇ。あれは咲穂がおかしいんだよ」
「まぁそうだな。じゃんけんで必ず勝てるとか大分おかしいし」
あんなチート持ちに立ち向かってるだけで自分を称賛したいくらいだよ。気分はさながら魔王に挑む村人ってところだ。
ちなみにアイツの運の良さや勝負強さは周知の事実となっていて、学校では結構な有名人だ。入学当初は何とも無かったのだが、俺がポロリとこぼした一言で噂が広まった結果だ。一時期は面白半分で咲穂に勝負を挑む者がちょくちょくいたのだが、全員が完膚無きまでに叩き潰されたのだ。
あと、噂が流れた原因である俺もぼこぼこにされました。そして今ではアイツに勝負を挑む奴は俺くらいになってしまったとさ。めでたしめでたし。
「前から疑問だったんだけど、じゃんけんなんてしないで普通に付き合えばよくないか?」
ついでに何故かあの約束も周知の事実になっていて、いつの間にか俺達のじゃんけんが見世物になっていた。これについては誰にも言ってないんだけど、どっから洩れたんだ?
「お前、分かってないな」
そう、何も分かってない。友人の疑問ももっともだろうが、そんな次元の話じゃないのだ。
「5年も挑み続けたのに今更やめられるか!」
俺だって馬鹿じゃないのだ。普通に告白すれば良いんじゃないかと考えた事もあったさ。しかし、その考えに至った時には全てが手遅れだった。一度勝負を始めてしまったが為に引くに引けなくなってしまったのだ。
「それに一回くらいギャフンと言わせないと気が済まない」
「あほか」
「バカ、考えてもみろ。5年間も負け続けておいて普通に告白なんてしたら拍子抜けだろうが。一回でも勝たないと男が廃る」
負け続けるのにもストレスが掛かるんだよ。積もりに積もったこの鬱憤を晴らさない限り、俺は前に進めないんだ。
「じゃあどうやって勝つんだよ」
「それが分かったらこんなに苦労してないわ!」
おい、やめろ。そんな目で俺を見るな。
「はぁー…」
溜め息もつくんじゃない!
◇
その日の放課後。
「職員室に用事あるから少し待ってて」
そう言い残して颯爽と教室を後にした咲穂を見送った俺は、一緒に帰るために彼女が戻ってくるのを待っていた。しばらく暇そうなのでどうすればじゃんけんに勝てるのか真剣に考えてみるか。
ちなみに俺達の両親はそれぞれ小規模な店を経営しているので、その手伝いのために部活には入らず二人でさっさと帰ることが多い。手伝いといえども多少の給料がでるから仕方ないね。
それにしても何で勝てないんだろうな。これでも5年間ただ闇雲に挑み続けたのではない。いくつもの試行錯誤を繰り返してきた上で、それでも結局一度も勝つことができないのだ。だが、その敗北の中でいくつか判明したことがある。
今のところアイツの運の良さについて分かっている事は三つ。
一つは咲穂自身が主体じゃなければ運の良さは発揮されないこと。簡単に言うとじゃんけんでは勝てるが、他人のじゃんけんの勝敗は当てられないて感じだな。つまり自分がその物事の中心にいなければいけないということだ。
二つ目は自分の能力以上の結果は出せないこと。これは当たり前だが、運の良さで何でもできる訳ではないということだ。例としてあげると、何も知らないテストの問題を鉛筆を転がしただけで全て正解する事は出来ないとかだな。
三つ目が咲穂にとって有益になる結果が引き寄せられるということだ。これこそが最も重要かつ、最大の難点でもある。
例えばじゃんけんに負けた方が勝ちというルールを設定したとしたら、咲穂はじゃんけんに負けて勝負に勝つ。くじ引きをしたとしたら、一等の筋トレマシンではなく三等のお食事券を当てる。そういった彼女にとっての運の良さというものを常に発揮するものなのだ。
逆にどうでもいい勝負の時は、運の良さが発揮される事は無い。
以上の事が俺が5年の間に気づいた彼女の特性だ。こうして考えると制限付きとはいえ結構なチートキャラじゃないか?我が幼馴染みながら恐ろしい子…!ていうか、色々考えていたおかげで気づいたことがあるんだけど言って良いか?
もしかして、俺と付き合いたくないからじゃんけんに勝ち続けているんじゃないか。
思えば俺は5年間あらゆる形でじゃんけんを挑んできた。幾度もルールを変えたり上手く騙そうとして虚実を交えたり、じゃんけんに負けてくれるように利益を提示したりもした。だが一度も勝てなかった。どれだけ利益を提示しようとも勝てないということは、逆に言えばじゃんけんに負ける事でもたらされる不利益が利益を上回っているということだ。そしてこの場合の不利益とはつまり、俺と付き合うこと。
なぜこんな簡単な事に5年間も気付かなかったのだろう。運の良い彼女が勝たせてくれないということは、それ以外に理由なんて無いだろうに。
これでは俺が馬鹿みたいだ。ただの冗談を真に受けて一人で舞い上がり、性懲りもなくじゃんけんばかり仕掛けて。周りの奴らもこんな惨めな俺の姿を嘲笑う為に毎日のように集まっていたのだろうか。まったく、とんだピエロじゃないか。
あぁ、ダメだな。どうにも思考がネガティブになりすぎてしまっている。こんな状態で咲穂に会ったらどうにかなってしまいそうだ。
全ては俺の勘違い。咲穂を想っている事は変わりないし、アイツのせいにするのも間違っている。だからアイツが戻って来る前に普段通りに振る舞えるようにしとかないとな…。
「お待たせー」
しばらくして咲穂が戻ってきた。思いの外時間があったおかげでメンタルも多少持ち直してくれた。
「じゃあ帰るか。バスももうすぐ来そうだしな」
家から近い学校を選んだので、咲穂と共にバスで登下校をしている。おかげで朝はぐっすり眠れて快適だぜ。早速帰ろうとする俺だが、彼女は訝しげな顔で俺を見てくる。
「ねぇ、なんか変じゃない?体調でも悪いの?」
異変に気付くの早すぎじゃない?特におかしな事をしているつもりも無いのに。流石我が幼馴染みだな。
「ちょっと頭が痛いだけだよ。そんな酷くもないから気にすんな」
心配してくれて有り難いが、正直に言える訳無いので適当に誤魔化しておく。今はとにかく早く帰って休みたいんだ。
「そっか。悪化したら大変だし早めに帰ろ」
そう言った彼女はどこか納得してない様子だったが、見逃してもらえたようだ。
気が付くと自室のベッドで横になっていた。あの後すぐに帰り始めたのだが、記憶が全然残ってない。いつものように話せていればいいが、たぶん全て空返事だっただろうな。仕事も手につかず早々にあげられたし。
「はぁー。明日からどうしようかな」
アイツも俺の様子がおかしかったのは気付いたみたいだし、上手く誤魔化せるとは思えないんだよな。それに誤魔化せたとしても一番の問題が残っている。
じゃんけんだ。今まで暇があれば毎日のように挑んできたが、流石に今の気分でできる程メンタルは強くない。じゃんけんをすれば現実を突き付けられる事になるんだしな。
「とりあえず、しばらくの間は控えておくか」
それによって異変に気付かれたとしてもしょうがない。自分の心をすり減らしながらじゃんけんなんて出来るかよ。ただ咲穂や周りの人間から追及されても良いように言い訳を考えとかないと。
あーあ。
「会いたくねぇな…」
無意識にこぼれた一言。それは誰もいない真っ暗な部屋に不思議と響き、不快な重さを伴って身体にまとわりつく。
最低だな、おれ。
そして引っ張られるように意識が沈んだ。
◇
あれから一週間が経った。
じゃんけんをしなくなった当日は、周りから物凄く追及されたり体調を心配された。だが事前に用意してた、「必勝法を編み出すまで手を隠している」という微妙な言い訳でみんな納得してくれたのだ。
いや納得してくれたのは良かったよ?けど、この扱いだと俺がバカだと思われてるようで大変遺憾なんだが。背に腹は代えられないから見逃してやるがな。
しかし、やはりと言うべきか咲穂だけは俺の異変に気付いてるみたいだ。幼馴染みだし登下校もだいたい一緒だから尚更違いが分かるのだろう。
できるだけ普通に振る舞っているのだが、何かが彼女を刺激したのか顔を合わせる度に事情を探ってくるようになってしまった。そろそろ言い訳するのも苦しくなってきたな。そう悠長に考えてた俺だが、この日状況は一変する。
「ねぇ、いい加減その態度やめてよ」
いつもの帰り道。バスを降りて家に向かう道すがら、不機嫌な様子を隠そうともしない咲穂が唐突に言い放つ。
「なんだよ突然?別に俺はいつもの通りだぞ」
いつもの様に適当に誤魔化そうとするが、彼女は目付きを鋭くして俺を見つめる。
「そんな下手くそな演技で誤魔化せると思ってるの?私を舐めすぎ」
え、まじ?そんな下手くそだった?何がダメだったのか見当もつかないんだが。
「そうか?少し調子が悪いだけだと思うぞ」
「へー、随分長い体調不良ね。一回くらい病院にいったら?少しはまともな頭になると思うし」
いつにも増して言葉が強い。これはかなり怒ってるかもしれないぞ…。とりあえず宥めないとまずい。
「落ち着けよ。ちょっと今日おかしいぞ」
そう言った瞬間。彼女の怒気が弾けた。
「ふざけないで!おかしいのは太陽のほうでしょ!?」
その声に周囲にいた人の視線が集まるが、彼女は意に介さず続ける。
「いきなり私を避けるようになるし、話してても下ばっか見て目も合わせてくれない!理由を聞いても下手くそな嘘しか返ってこないし訳わかんない!」
荒々しい言葉に反して、次第に彼女の瞳に涙が溜まっていく。
「アンタの事なんて私が一番分かってるの。楽しそうに話すときは目を見てくれるし、嘘をつくときは目が泳ぐ。何もなくてもいつも私を見てくれてた!あと…」
そこまで言いきった彼女は言葉に詰まる。
「毎日、してたじゃん。なのに…何で?なんで今更…」
途切れ途切れになる声は弱々しく、震える体は今にも壊れそうで。
「じゃんけん、諦めちゃったの…?」
決壊したように涙がこぼれる。
その瞬間我に返った俺は咲穂の様子に気が動転してしまう。そして考えが纏まらないまま口を開く。開いてしまった。
「でも、咲穂は俺と付き合いたくないんじゃないのか?だから俺は…」
決定的な一言。すぐに自分の失態に気付くが、宙に響いた言葉は既にその音を正確に伝えてしまっていた。そして呆然としている彼女は絞り出すように声をあげる。
「なんで、そんな…。私が毎日、嫌々アンタに付き合ってると思ってたの?」
その表情は酷く悲しげに歪められていき、追い討ちをかけるように涙が頬をなぞる。
「ただのじゃんけんに5年も付き合う訳無いじゃん。好きでもない奴とずっと一緒に登下校するわけ無いじゃん!」
「私の事は太陽が一番分かってると思ってたのに…」
「…ばか」
最後にそう言い残して彼女は走り去っていった。
置いていかれた俺は彼女を追いかける事も出来ずにその場に立ち尽くす。脳裏では先程の咲穂の言葉と表情が繰り返し流れていた。
あんな彼女の姿は初めて見た。いや、俺がそうさせてしまったんだ。本当に馬鹿だな俺。運の良さに目を向けた結果変な推理で勝手に決めつけて、咲穂自身の事を何も考えていなかった。じゃんけんに勝って付き合うことを目的にしていたのに、これでは本末転倒だ。
俺が考えるべきだったのは、何故じゃんけんに勝てないのかではない。咲穂と付き合えるようにじゃんけんに勝つにはどうすれば良いのか、ただそれだけだ。
ここまで来てじゃんけんに勝たずに付き合うなんて選択はあり得ない。「じゃんけんに勝てたら付き合う」という約束で5年間も待たせてるんだからな。
本来ならすぐにでも追いかけたいところだが今のまま突っ込んでも良い結果にはならないだろう。それに先程から連絡してみているが、一切返事がない。話そうにもこの様子だと今日は無理だな。
勝負は明日。
手遅れにしない為にはそれが最後のチャンスだ。大丈夫。既に答えは見つけた。
絶対にハッピーエンドにしてやるから、待っててくれ。
◇
夕日が差し込む教室の一角。
朝から俺を避け続けていた咲穂をどうにか捕まえて俺の目の前に立たせる。まじで逃げ足速いなコイツ。これからが勝負だってのに、余計な体力を消耗させられたぜ。
「なんなの?バカに付き合ってる暇なんて無いんだけど」
昨日の影響か棘のある言葉を使う彼女。はい、馬鹿ですみません。ホント申し訳ないです。
「咲穂、頼む。話を聞いてくれないか」
だがここで引いたら全てが終わってしまう。今日は無理矢理にでも話を聞いてもらうぞ。
「はぁー…正直嫌だけど仕方ないから聞いてあげる。くだらない事言ったらすぐに帰るから」
ひとまず聞き入れてくれた彼女だが、親の敵かのようにこちらを睨みながら静かに佇んでいる。いや、怖いな。けど素直に聞いてくれるのならば有り難い。
ふぅー。
ここからだ。一度の失敗も許されない一世一代の大勝負。長年の呪縛を解く為の最後の戦い。覚悟を決めろ俺。
そして有らん限りの意思を込めて言葉を紡ぐ。
「好きだ。」
一言。それだけで彼女の視線が変わる。
「じゃんけんで俺が勝てたら付き合ってくれないか」
そしてぽかんとした彼女の顔が現れる。
「は、は?いきなり何言ってるの?ていうか先ず昨日までの事を謝るのが先じゃない?」
動揺したようすの彼女が捲し立てるが、今の俺はそんな事で止まらないぞ。
「確かにここ一週間、特に昨日は酷い事をしてしまってごめん。それについては言い訳のしようもなく俺が悪かった」
「だけどそのおかげで改めて気付いたんだ」
「やっぱり俺は咲穂の事が好きだ。いつからかとか、何でなのかとかは分からないが、それでもずっと前から好きなんだ」
そこまで言うと彼女は怯んだように後退りながら、恥ずかしげに頬を染める。
「だから今度こそ、あの日の約束を果たそう」
咲穂の運の良さが彼女にとって有益な結果を引き寄せるとして、なぜ好意を寄せ合う俺達が付き合う事が出来なかったのか。
「もう一度言うぞ。好きだ。じゃんけんで俺が勝てたら付き合ってくれ」
理由は至って単純で、お互いに好意を明確に口にしていなかったから。
そんな曖昧な気持ちのまま付き合ったとしても、咲穂が幸せになるわけ無かったんだ。
「「じゃんけん」」
だから誠心誠意告白することこそが、このじゃんけんで勝つための必勝法だ。
「「ぽん」」
グーとパー。
いつかと同じ手は、全く逆の結果を明らかにした。
「初めて負けちゃった」
彼女の瞳から溢れた昨日とは違う涙。
「5年間待っててくれてありがとう。今度は恋人として付き合ってくれるか?」
そして改めて問いかけた俺の言葉に、彼女は満開の花を咲かせる。
「はい!」
それはいままで見た中で、何よりも綺麗な笑顔だった。
天の恵みで成長した向日葵は太陽に向けて咲き誇る
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