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カケラの子供たち  作者: 海埜 ケイ
8/8

生きたい心と知りたい心

今回はリズside→レスsideになります。


 暗くて細いダクトの中を、リズは滑り落ちている。施設側の人間に見つかりたくない一心で、近くにあったダクトの入り口に飛び込んだまではいいが、少し考えなしだったかもしれない。

 胸の前で腕をクロスさせ足を曲げて、なるべく身体を縮めて抵抗を無くしているが、それでも防ぎようがない問題がリズの前に立ち塞がっていた。


(それでも、いてっ! ところどころに出て、いてっ! 留め具がいってぇ!)


 ボトルねじが剥き出しになっているのだろう。ところどころにある凹凸が容赦なくリズの身体の柔らかいところにぶつかり、リズは声に出さずに心の中で悲鳴を上げていた。これなら、あの場にあったシーツか何かで身を包みながら落ちていればもう少しマシだったのにと、思わずにはいられない。

 どこまで落ちるのか分からない恐怖が、一定間隔で訪れる痛みのお陰で緩和されるのはいいことだが痛いものは痛い。


(後で身体を見たらあざや切り傷だらけになっていそうだけど、それくらいは我慢しなきゃな)


 あの場面で見つかることは最大の失策に繋がる。リズはこの施設にいてはいけない存在。まだ施設の人間にバレていないと信じたかったが、あの時、No.007と呼ばれる少年がリズの方を見たことによって最悪の想定を考えるべきだ。


(相手側は、私の存在に気付いて動き始めている)


 ならば、この施設で身を隠し続けるのは危険だ。だが、外の様子がどうなっているのか分からない状況で外に出るのも不安が残る。


(施設にいる人間は恐らく、戦い慣れていない研究者ばかりのはず。外の警邏隊と比べたらまだ安全地帯ではあるか)


 それも、施設の人間が警邏隊たちを呼びよせたら、完全にリズの詰みではあるが投了ではない。いくつもの手を考えて、自分を生き残らせる方法を考えーーーーて、リズは落ちた。




「は?」


 スポッといい音が鳴ったと思ったら、鼻から脳天へ突き刺さるような塩素の臭いが入り込み、涙目になりながら目下の液体に口端を引き攣らせた。


「まさか、これ…………!!」


 キツイ塩素の臭いと身体中にできた切り傷や打ち身傷。ざっと見たところ一辺百メートルはありそうな長方形の液体の池が近付いてくる。リズは目を固く閉じ、そのまま液体の中へ落ちた。

 身体中の傷口に液体が入り込んでは痛みを発する。表面の皮膚も液体に触れてからピリピリと痛み出したので、この液体は毒だと気付き、リズは足を動かして水面下を目指した。


「っは、はあ、はあ、はあ」


 身体が酸素を欲し、何度も深呼吸を繰り返すが、その度に濃度の濃い塩素が入り込み、頭がくらくらした。あまりここに長居をしてはいけないと思いつつ、身体中が怠慢になり上手く動いてくれない。


(くそっ、これを狙って放置したのか)


 No.007がどうして何も言わなかったのか、今更ながらに気付きリズは悪態を漏らした。

 密告せずとも、リズはこの場へ落ちてそのまま力尽きて死ぬ。そう判断されたのなら、放置された理由も納得がいく。


(舐めた真似を……)


リズは目を凝らして周囲を見回し、出られそうなダクトを探す。

 こんなところで倒れてたまるかと、リズは半ば意地になって泳ぎながら出口を探すのだった。






~・~





『この子を寝る部屋に連れて行きなさい』


 食べる部屋を出た後、僕は教えてくれる人にそう言われた。

 僕たちと同じような容姿で、僕と同じくらいの子供。髪の長い子がいなくなったとはいえ、新しい子が来るのは早いと思った。


(それに小さくないんだね)


 いつも来る新しい子は大体、僕の腰までの身長しかない子供。同じ身長の子供が来ることなんて今までになかったので少し不思議な気がした。


「はい、分かりました」


 僕が返事をすると、教えてくれる人は向きを変えてエレベーターの方へ行ってしまった。

 残された僕たちはお互いに見つめ合い、僕はその子に手を差し出した。


「寝る部屋、行く」


 その子は瞬きをして僕の手を見つめた。


「あ、……手を繋ぐ。離れない、仲良くすること。だから手を繋ぐ、良い?」


 ついリズに教えて貰ったことをやろうとして困らせてしまった。そうだ。僕にとっては知ったことでも、他の子にとっては知らないことだ。その事をつい忘れてしまっていた。

 その子は僕の手の平に自分の手を重ねて握ってくれた。

 僕はホッと息を吐くと、その子は淡々とした口調で僕に尋ねた。


「君が“知りたがり子供”なの?」


「え?」


 咄嗟に言葉が出ず瞬きを繰り返していると、その子は目を伏せ「そう」と短く言葉を吐き、口端に笑みを浮かべた。


「君が“知りたがりの子”であるか、僕は知る必要がある。君はなかなかに成長しているし、あの髪の長い女よりも、良い“カケラ”だと思うよ」


 ゾクりと、寒気が背中に走り、僕は身震いを起こした。

 笑顔が“怖い”と思ったのは初めてだ。

 いつもリズがしてくれる笑顔は優しくて安心するものだから、怖いと思う笑顔があるなんて知らなかった。


(それに、この子は何か変な気がする。どう変なのか分からないけど、他の子とは違うんだ)


 新しく来た子だからじゃない。僕たちとは違う何かがあると思ったら、胃の辺りがキュッと小さくなった気がした。

 今まで知らないことは全て知りたいと思っていたのに、何故だろう。

 新しく来た“その子”のことだけは知りたいとは思えなかった。





リズの性格が粗野になっていたのは、土壇場の状況+レスがいないからです。基本は優しい口調ですが、苛立ちが募ったり戦いの時は粗野な言動をよくします。ボルトが当たると痛いんですよ。

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