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カケラの子供たち  作者: 海埜 ケイ
7/8

それぞれの交錯

久しぶりの更新です!

レス・リズ+所長sideがあります。



「遅い」


 また一人で起きれなかった。ふわふわする重い頭をゆっくりと起こすと、上のベッドで寝ている子にまた起こして貰ったのだと知る。


「ありがとう」


 僕の言葉に何の反応もせず、声を掛けてくれた子はさっさと階段を下りてしまった。

 リズなら「どういたしまして」と笑って言ってくれただろうけど、ここにいる子にそんな反応を求めてはいけない。


(顔を洗う順番があるもんね)


 いつの間にか誰かに反応を返してもらうことに慣れてしまったのかもしれない。

 寂しさを紛らわせるために、僕は瞼に掛け布団を押し当てて、顔を洗う部屋へ向かう子供たちの数が減るのを待った。

 ギシギシと音を鳴らしながらベッドを降りていく音を聞きながら、僕は昨日の夜のことを思い出しては笑顔になった。


(昨日は楽しかった。リズと、竹笛と、もっとやりたかった)


 今まで音を楽しむなんて想像もしていなかった。音は聞くもので、知るために必要なことだけは知っていた。けど、音は楽しいものでもあった。綺麗で声よりも遠くまで響くもの。それが自分で出せるなんて信じられなくて、何度も竹笛を吹いては自分で出しているのだと分かり嬉しくなった。

 変わらない毎日、晴れることのない疑問が溜まる日々。それだけが僕の世界の全てで、施設の外へ行くまでは変わらない日々が続くものだと思っていた。


(けど、僕はリズと出会えた)


 はじめて知る言葉。奏でる楽しさ。一緒にいる安心感。

外の世界には僕の知らない色々な事があるのだと、リズのお陰で知ることができた。 

 リズは「まだここにいる」と言っていたけど、いつかは出て行ってしまう。

 そうしたら、また変わらない日々、晴れることのない疑問を持つ毎日が待っている。


「ずっと一緒にいたいよ……」


 声に出しても、この想いがリズに届くことはない。

 リズはいなくなる。初めて僕は考えることを捨てたいと思った。




 勉強する部屋でいつもと同じ勉強が待っていると思っていたが、今日は違った。


「ねえ」


 声を掛けられた。声を掛けてきたのは昨日、喧嘩した髪の長い子だった。


「私、分かった“ゆーじん”のこと」


 髪の長い子はリズとは違い、にんまりと口元だけが笑っていてあまり好きになれない顔をした。


「“ゆーじん”は一人前の言葉、私、“そーそー”する。あなたとはさよなら」


「え?」


「さよなら」


 掛ける言葉が見つかる前に髪の長い子は振り向かずに自分の座る場所へ行ってしまった。

 勉強する部屋に“教えてくれる人”が来たので僕も自分の場所に座る。

 どういうことだろう。

 “友人”の意味は昨日、リズが教えてくれた。“一緒にいて楽しい人”のことだ。それを知ることが、どうして“一人前”であり“そうそう”をすることに繋がるのだろうか。


(リズなら知ってるかな? 友人を作ることが一人前で、……そもそもリズは“そうそう”を知っているのかな?)


 この施設を出るための儀式を、リズが知っているとは限らない。いつの間にか、知らないことはリズが知っていて当然と思ってしまっていたが、それは間違いだ。

 リズにだって知らないことはあるだろう。


(想像もつかないけどね)


 不思議だ。リズのことを考えると、あっという間に時間が過ぎていく。

 時間はいつもと変わらないはずなのに、もう身体を動かす時間だ。



 みんなが体操を始める中、いつもならみんなのことを見ているだけの“教えてくれる人”が、髪の長い子のところへ行って声を掛けた。


『行きましょう』


「はい」


 髪の長い子は勉強する部屋の子供たちとお別れの言葉を言うこともなく、“教えてくれる人”と一緒に勉強する部屋を出て行った。

 これが別れ。

 “そうそう”をして、一人前と認められた子供は施設に帰ってくることはない。例え、今度は自分が“そうそう”をして一人前になり、外に出たとしても二度と会うこともないと言われている。


(外の世界って、どうなっているんだろう)


 太陽のない漆黒の闇の世界。人間が一人もいない世界で、一人前になった子供はどうやって生きていくのか僕には分からなかった。

 “教えてくれる人”に聞いたとしても、きっと教えてくれないだろう。

 もしかしたら、リズみたいに旅芸人をして生きていくのかもしれない。


(たくさんの音に囲まれて楽しく生きていけたらいいなぁ)


 髪の長い子も、リズも、僕も、みんなが笑って暮らせる世界があったら良いなぁと僕は思った。






 ~・~




 今日は久しぶりに静かな夜を過ごすことになりそうだ。

 暗闇の中、リズは寝転がりながらぼんやりと天井を見上げていた。

 仲間たちと一緒にいた時はいつも誰かしら側にいたし、それより前は集団生活をしていたので一人になることはなかった。それより更に前の幼少期のことを思い出すと胸の辺りがキュッと締まり苦しくなる。

 帰りたいけど帰れない過去。良い思い出があり過ぎて、あまり思い出さないようにしていたが、どうにも身体が暇になると余計な事ばかり考えてしまうので、首を振って考えを四散させた。最後にここ最近の日々を思い出しては、リズは苦笑してしまった。


(私も、随分とほだてられたな)


 毎夜、無邪気に話しをしに来るレス。当たり前のことを知らず、この施設で教えて貰ったことだけが真実だと疑わない無垢な子供。一緒にいると、リズの荒れた心に優しさの水を落としてくれるので、つい長話をしてしまっていたが、それが裏目に出てしまった。

 まだ10歳前後のレスに夜更かしばかりさせてしまったせいで、話している時に寝落ちするようになった。リズといる時にこうなのだから、おそらくは昼間の生活にも影響が出ているだろう。

 レスが夜更かししていることが施設側の人間にバレた時、リズの存在が相手に伝わると考えた方が良いと思い、リズは頻繁に来ないようにとお願いしたのだ。


(……それに、今日ばかりはゆっくり寝て欲しいなぁ)


 リズの姑息な画策だけではなく、純粋にあのくらいの年の子供が夜遅くまで起きていても、あまり良いことはないだろうと思ったのも事実だ。

 きっと、明日の夜は今日の分まで話すんだ!と意気込んでくるだろう。

 その時を想像しながら、リズは笑みを浮かべて目を閉じる。――――と、リズの聴覚の良い耳が近付いてくる音に気付き、跳ね起きた。


(……レスの足音じゃない。この音は、靴……しかも複数の大人だ)


 リズは咄嗟に壁側に身を潜めて息と気配を殺す。

 足音はどんどんと近付いていきーーー倉庫の扉が開かれた。


「No.007、あなたの寝具や身の回りのものを運びます。手伝いなさい」


「はい、所長」


 年老いた男が命じると、一人ではなく複数人の足音が倉庫の中に入り作業を始めた。敷布団は奥の方に積んであるが、掛け布団やシーツの類はすぐに取り出せるようにしているため、作業は手前の方を中心に行っているようだ。


(誰か転院者がいるのか。しかし、それだけの理由で所長が来るだろうか。もしかしたら他に何か目的が……)


 リズは袖に隠していた先の長い細い針を取り出し、所長という男の顔を一目見ようと身を乗り出した瞬間、No.007がリズの方を首ごと向いた。

 目が合う前に身を潜め直したが、見られていないとは断言できない。声が漏れないように歯を食いしばるも、リズは自分の心臓の音がうるさくて上手く頭が回らなかった。


「どうした、No.007」


 No.007はリズのいる方をゆっくり指さした。

 周りで作業をしていた男たちが顔を見合わせてリズの方へ近付いてくる。

 マズい、非常にマズい状況だ。入り口と天井にある換気口以外に逃げ場のない場所で、どこへ逃げればいいというのか。このまま見つかれば相手を殲滅するか、できなければ自決しなければならない。


(どうする、どうする)


 手にある獲物は細い針二本。これだけでどこまでいけるだろうか。

 逡巡している内にも、相手はどんどんと近付いてくる。

 リズは深く息を吐き出し、そして行動に移した。






~・~





「所長」


「どうしたのですか?」


「誰もいません」


「……そうですか」


 No.007が反応していたから、てっきり外部の鼠がいると思ったが、どうやら勘違いだったらしい。やはり、すぐには見付かってはくれないようだ。

 ほんの少しだけ期待していただけあり、落胆している自分に苦笑し、気持ちを切り替える。


「まあ、そのためのNo.007の投入です。準備を進めますよ」


「「はい」」


 作業員たちが返事をし、作業が再開される。

 所長はNo.007の方をちらりと見ては、その視線の先にある人には有害な消毒液場へ続くダクトを見たが「まさか、ね」と自分の考えを否定し、視線を逸らすのだった。




最近、忙しくて更新が遅れて申し訳ございません。

これからリズが行動的になり、レスとの会話が少なくなってきます。

楽しんで頂けたら幸いです!

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