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カケラの子供たち  作者: 海埜 ケイ
3/8

食事②


 飲める水を渡したら、リズは嬉しそうに笑ってくれた。

 僕も嬉しかった。今日はリズとお話しする時間が少ないのが残念だ。明日はちゃんと起きていよう。


「ご飯?」


「そう、レスはいつも何を食べているのかな?」


 リズは不思議な事を聞く人だ。


「朝の食事、白くて四角のものと牛乳」


「白くて、四角?」


「そう、味がなくて口の中が渇くけど、えーよーがあるって教えてくれる人が言ってた」


 リズは少し考えた素振りを見せると、僕にあるものを見せてくれた。


「もしかして、こういうもの?」


「! そう、それの白いの」


 なんと、リズが見せてくれたものは、僕たちの朝の食事と全く同じものだった。色は白くないけど形も大きさも同じだ。


「リズも朝の食事?」


 聞いてみると、リズは眉を下げて首を左右に振り、持っていた四角の食事を袋に入れて戻してしまった。


「ううん。これは“携帯食”と言って旅をしている時にしか食べないし、これだけが食事って言うことはない。携帯食は飽くまで、次の食事までの繋ぎだから、これだけしか食べないのは良くないことだ」


「うん。だから夜に緑の豆のスープ食べる! 繋ぎのご飯!」


 “携帯食”という言葉が、次の食事までの繋ぎのご飯ということは、やっぱり朝食べるもので正しかった。僕は笑って「一緒!」と言ったのに、リズは笑ってくれなかった。ずっと眉を下げている。どうして、そんな顔をするのか分からなくて、僕は自分が何か悪いことをしたのか不安になった。


「ごめんね、自分から聞いておいて、不安にさせちゃって」


 僕は頭を振った。


「知りたい事、悪いことじゃない。僕も知りたい、それ何?」


 僕はずっと気になっていたリズの背中に背負っている物を指さした。

 リズは「ああ」と答えて、背負っている物を見せてくれた。


「“キタラ”という弦楽器だよ。私はこの楽器で音楽を奏でるのが好きなんだ」


 そういうと、リズはキタラというものを横抱きにして、真ん中の糸を指で弾いた。

 不思議な音が倉庫の中に響く。


「あんまり大きな音は立てられないけど、これくらいならいいかな?」


 リズは近くのシーツを引っ張り、僕ごと頭から被った。

 真っ暗だった世界がより真っ暗になって、僕とリズだけの空間ができる。

 リズはゆっくりと大きな音にならないように弦を弾いた。




『夢見る少年 空に浮かぶ雲を越えて

 母なる大地に別れを告げよ 父なる大地が呼んでいる

 我らが故郷に別れを告げよ 涙は流さず歩く少年

 世界の果てに己の望みを叶えてみせよ』




 リズが弦の音に合わせて言葉を重ねる。

 不思議だ。不思議で胸の中で何かが暴れていて、口から飛び出しそうだ。

 これはなんだろう。全身が熱く感じて、もっと聞いていたい気もした。


「それは、何?」


「“少年の夢”という童歌みたいなもの。私の好きな曲の一つでもあるんだ」


「きょく?」


「曲は、音楽の一つで、楽器を奏でるために必要なものなんだ。計算でいう“式”みたいなものだよ。式が曲で、計算が奏でること、すると答えである音が出てくる。計算と同じ考え方さ」


「………」


「難しい?」


「難しい」


「説明が下手でごめんね」


 しゅんッと、項垂れるリズに僕は慌てて首を左右に振った。


「ううん、知らないことたくさんある。僕は知れて嬉しい。たくさんの知らないこと、教えてくれてありがとう」


「レスはいい子だね」


 リズが頭を撫でてくれる。僕はそれが嬉しかった。


「もっと、曲、聴きたい」


「じゃあ、ほんの少しだけだよ」


 リズは再び弦を弾き、音に言葉を乗せた。

 たくさんの難しいことを知っているリズ。

 “わらべうた”が何なのかは分からないけど、きっとリズの音みたいな優しいものなんだと僕は思った。






~・~





 気が付くと、レスは丸くなって寝てしまった。

 無理もない。見たところ10歳前後の子供が、こんな真夜中に2日連続で起きているのだから眠くないわけがない。リズはキタラを背負い直し、レスを横抱きにして立ち上がった。

 倉庫から出るのは躊躇するが、レスをこのままにしておけない。細心の注意を払いながら倉庫から出る。

 白い回廊に窓はなく、外の様子が一切分からない。蝋燭やランプなど明かりの類は見当たず、それでも薄らぼんやりと明るいのは、壁に蛍石の原石が埋め込まれているせいだろう。

 注意深く回廊を見回してみるが監視カメラも見当たらないので、出歩いても大丈夫そうだ。そもそも監視カメラなんてものがあれば、昨日、侵入した時点でリズの存在が施設内の人間にバレて、既に拘束されているだろう。

 その代わりに巡回する者がいないとは言い切れないので、一応、腰ベルトに吊っている護身用の小刀をいつでも抜けるよう、レスに当たらないように腹部の方へズラシておく。


「さて、レスの部屋はどこにあるんだろう」


 部屋の前に名前プレートなどが掛けられてあれば楽なのだが、そもそもこの子たちには名前がないのだから名前プレートはないだろう。

 一通り見て、もし、レスの部屋が分からなければ、端から順番に部屋の中を覗いていかなければならないなと考えていたが、それは杞憂に終わった。

 扉の1つが開け放たれ、部屋の中を覗くと1つだけベッドのカーテンが空いている場所がある。おそらく、慌てて来てくれたのだろう。


「フフッ、不用心だなぁ」


 リズはレスをベッドの上に横たわらせ、掛け布団を掛けてあげた。


「おやすみ、レス」


 リズはカーテンを閉めて、階段を降り、もう一度だけレスの部屋を見回した。

 5段ベッドが左右に2つ置いてあるだけの部屋。空気は常に循環しているのか綺麗だが、娯楽の類は1つもなく、机すらない。先ほどレスに掛けてあげた布団はペラペラで、マットレスも硬そうだった。まるで牢獄のような部屋。


「これが、“カケラの子供”にとっては当たり前のことなんだろうな」


 忘れかけていた記憶が蘇り、リズは目を瞑った。思い出したくない。苦しいも、悲しいも、楽しいも、幸せも、何もかも知らなかった頃の無知な自分。


「どっちが幸せなのかなんて、誰にも決められないよね」


 だから自分で決めるしかない。

 ここにいるのは後8日前後。リズは唇を強く噤み、部屋の扉をゆっくりと閉めた。





平日の更新はほぼありません。休日も時間があれば更新できると思います。

次回もよろしくです。


※キタラは個人的に弾いてみたい楽器の一つです。

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