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第六話

 体の半分が吹き飛び、黒い粒子をまき散らす。


「…ぁ…危な…かった。」


 サソリの化け物であるケーファー様の尾の針で、冥は吹き飛ばされて宙を舞う。


 鈍器(バール)のような物を盾に使ったことが功を奏したのか、腹部と片足を無くした状態で宙返り、そしてよろめきながらも着地する。


 その瞬間、冥の影が蠢き損傷箇所を修復していく。


「ッ!」


ドゴォォォォン!!


 巨大を回転させての尾の薙ぎ払いと、ハサミの一撃。


 それは高速で風を切り、刃の輝きと死の気配。


ブォォォン!!


 冥は体をまがっては行けない方向に無理やりまげて、鼻先ギリギリを通過する尾を避けて、さらに直上より振り下ろされるハサミの刃を回転することによって避けきる。


ギィン!!


カァン!!


 暴風のような刃をしのぎ、斧と鈍器(バール)で弾く。


 そして影を使い、足を縛り上げて動きを妨害し、刃を斜めに配置することで攻撃の隙間を作り出す。


 だが、コレでも化け物の親玉、動きは速く、胴体は硬く、そして何より強い。


 何度も避けて、走り、跳び、同じ箇所に攻撃する。


「うおっ?!」


ドァガァァァァアン!!


 一切の迷い無く頭を串刺しにくる尾の針を転がることで回避し、急いで立ち上がり走る。


 頭の上を通過するハサミ刃の薙ぎ払い、時折飛来する刺のような物を斧で切り払いつつ影を使って攪乱する。


 ついで目の前に迫り来る刃を一歩横にずれることで避け、間接の隙間に斧を叩き付ける。


 斧の刃先は刃毀れし、鈍器(バール)は、変な角度にまがる。


 それで、功を奏したのか刃の軌道がまがりヒビ割れ、地面に食い込む。


 その瞬間に、その腕のような物を足場に冥は駆け上がる。


 ヒビ割れた装甲の場所にバールを無理やりねじ込み、ヒビの中にさしこんでいく。


ガッヅン!!


「ッガ…!?」


 だが不意の衝撃、凄まじい勢いで吹き飛ばされて壁に叩き付けられる。


「ガはッ!。」


 吐き出された空気と、目の前に星が舞うような衝撃。


 だけど……何度も攻撃し続け、バールが刺さった箇所から得難い音と液体が流れている。


「ォォォオオオオ……ッ、ガッ!?」


 冥に怒りの咆哮と刃を叩き付けようと振り下ろされるハサミ。


 冥は影を操り、バールが刺さった場所に影の刃をさらに穿つ。


 肉を割いて影の刃を奥へ奥へと突き刺していく。


「ギア!?ァアアアアア!アアアアア!!アアバアアア!!!」


 張り裂けんばかりの絶叫。


 殻の内側へ入り込ませた影を棘のように肉を削り奥へ、さらに奥へ、その弱点へ。


「フッゥあザアァぁぁぁケェるなぁぁぁあ!!」


 なりふり構わず、その刃を冥に向かって振りかぶる。


 避けきることも出来ず、強い衝撃で体が吹き飛び、手や足から粒子をまき散らす。


 地面を転がり、それでも食らい付く。


 影を鎖にしてハサミに絡みつかせ、引っ張っられ振り回される。


 地面に叩き付けられる寸前に影の鎖を切りはなして、腹の下を滑るように潜り抜ける。


 だが、それを予想でもしていたのか冥の背を尾針が突き刺し地面に縫い止める。


 あと少し、そのはずなのに足りない。


 届かない。

 

 その時、空が輝いた。


 いや、魔法少女達が駆けつけた。


………


……



◆◆◆


 冥が、サソリ型の化け物のケーファーと戦闘を行っていたとき、黒騎士より撤退させた魔法少女達は急に目の前から消えた、(ゼッル)に慌てていた。


 リーダー的な存在で有り、のうき…回復要員のヴラーチは、ボロボロ。


 どうするか決めあぐねいていた。


 今まで的確に指示を出してくれていた、(ゼッル)は急に目の前から消えた。


 そして、何処からともなく聞こえてくる音。


 そして咆哮。


 片方は戦闘音。


 片方は黒騎士。

 

 魔法少女達はどうするか、主張し合う。


 今、まだ見ぬ仲間(ゼッル)を助けにいくと言う者。


 影がおこなっていた、一般人を助けに向かう者


 放置されている脳筋


 戦闘音の元に駆け出す者。


 各魔法少女達は、互いにバラバラに散らばる。


 黒騎士の動きを探ろうと空に上がった者は、黒騎士の姿が見えないことに疑問を感じ、探す。


 雑魚を蹴散らす者。


 大規模な戦闘音が響き、山のようなものが崩れる光景を目にして慌てて走り出す者。


 戦闘音を耳にして、起き上がる脳筋。


 反応は様々で、されどもその目線、その足が向ける行き先は誰もが、(ゼッル)が、冥が戦っている場所だった。


 そして、破壊に破壊された広場とその中央にたどりついた魔法少女達は目を見開いた。


 真っ白な姿の少女が、異形のサソリの尾針に突き刺されている光景。


 少女の体から黒い粒子が流れている、影が消えるときと同じ光。


 魔法少女達は、互いにバラバラに、されどもまるで連携のように各々が、怒りとともに残り少ない魔力で力をふるうのだった。


………


……


 

◆◆◆


 魔法少女達と冥、そして化け物の親玉であるケーファーとの戦闘を、見つめる者がいた。


 黒くて細長く、それでいて異様な、白衣の化け物。


「……うわぁ、こりゃ~ダめだねぇ」


 ケタケタと笑いながら、そう言った。


「…助けなくて、いいんです?」


 岩の上に腰掛け足をぶらぶらさせている助手がそう言った。


「ん~、まぁ良いかなぁ、あらかた力ある奴は回収したしねぇ…」


 ケタケタ笑いながら、肩をすくめ、その戦闘を観察する。


「ふ~ん…」


 助手はつまらないのか、ジト目で見つめるだけ。


 事実、大量にいたはずの化け物は、雑魚に有象無象は魔法少女達や冥の影に倒され、知性を持つ化け物の方は、生きている奴らは回収済み。


 まぁその中に狼頭の脳筋が、そいつの部下達に縛り上げられていた気がするけれども。


「…それにしても…残念無念、おもちゃの性能テスト、結果は上々だけど不具合が多すぎて…楽しくなってくるねぇ」


 そう言うと後ろを振り返る。


 そこには黒い兜を脇に抱えて佇む、しずく……黒騎士は濁った瞳でボーッとそこに佇んでいる。


「ふん?…まぁやることいっぱいだぁ~」


 また、ケタケタと笑いながら、岩の上に腰掛け足をぶらぶらさせている助手を摘まみ上げると、歩き出す。


 その先には黒い渦が巻きおこり空間が歪んでいく。


「……次に遊ぶときはもっと面白いといいねぇ~」


 白衣の化け物は、助手と黒騎士を伴い、その渦の中に消えていく。


…………


………


……



◆◆◆


 冥は目を見開き、他の魔法少女達の姿に、焦る。


 冥にとって、魔法少女達は駒だ。


 姿を見られてとか、どうして今とか色々と考え。


……考えるのを止めた。


 体を影に。


 黒い粒子を纏わり付けて、体を影へと変える。


 影は影として、この戦闘の成り行きを見つめるだけにする。


………


……



◆◆◆



 魔法少女達、最初にたどりついたのはミラージュだった。


 鋭い針に貫かれ、地面に落ちる白い少女の姿。


 それが、自分たち魔法少女と同じ存在であると直感的に感じ取り。


 見た目に少し疑問はあるが、それでも今まで、一人で戦っていたんだと目を見開き、敵を見つめ魔法少女としての魔力を使う。


「ハアァァァ!!、貫けランス!!」


 魔法少女ミラージは本気も本気でその槍を放つ。


 上空からは、追いついた魔法少女バレットが、反対方向からはモニカが、同じように魔法少女の必殺技とでもいう攻撃を叩き込む。


「なんか分かんないけど、イッケー!光有れ、モーニングスター!!」


「負けません、全力砲撃!!」


 衝撃波と光の収束、何気に巻き込まれる冥。


「ギア!?ァアアア…!!アアガァァ!アアバア!!アア!!アアバアアア!…!……」


 爆発、そして光、大規模な衝撃波が辺りを駆け巡る。


 そして、冥は光にかき消され……。


 その空間が崩壊した。


………


……



◆◆◆


 気が付くと冥はそこに、裏の世界に入り込んだときと同じような場所にいた。


 光と共に、冥は現実世界に戻ってきた。


 それと同時に、魔法少女の変身状態から、光り輝き、通常の学生服、黒髪へと。


 それはいつもの、夢月・冥(ゆずき めい)となる。


「…戻って、きた……ッ!しずく?どこ。」


 だが、そこには誰もいない。


 手を伸ばせば、届いたはずの距離に、誰もいない。


 辺りを見回しても、誰もいない。


 焦る。


 嫌な想像が脳裏を駆け巡る。


 だが、現実は非常に無情。


 いくら探せど、いくら駆け回れど、どこにもいない。


 見つからない。


 どこにもいない…


 …しずく。


 冥の心を支配するのは絶望…だった。



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