第九話
ストックがあぁぁぁぁぁ!!ない。
冥が泣き疲れてぐだぐだになり眠ってしまい、あとから心配して駆けつけた会長+αに回収されている頃。
………
……
…
◆◆◆
そこは妖精界。
正義たる魔法少女と契約を交わした者達の世界。
魔法少女達のと契約した妖精達が一堂に会し、重苦しい雰囲気で話し合う。
───『それで、アンノーンに現状で対抗できるのは…』
───『うん、現状ではミラージしかいないと思う。』
───『彼女は、唯一【聖槍】の保有者だからね。』
───『…まだ覚醒してもいないけど?』
───『それは…でも、他の子達ではレベルが低いと思うよ。』
───『うん、せめて魔女ほどの力量があれば良いのだけど…』
───『…いまは…まだ難しいと思うよ、それに魔女は最上級の戦力でもあるから、うかつにうごかせないからね。』
───『はぁ、それにもう一つ気になることがあるよ。』
───『…たしかに…』
───『ゼッルだっけ?』
───『うん、たしかそんな名前だ、断言できるよ、アレは魔法少女だ、それもかなり特殊な…』
───『ん、僕たち以外の、それも位の高い妖精の契約者だ。』
───『問題は、その妖精が何所の誰なのかって事だよ。』
───『分からない、名前も姿も。』
───『はぁ…どうしようか。』
───『現状で出来ることをやるしかないよ。』
───『そうだね。』
───『うん、アンノーン並みの敵に対抗するためにミラージュを強化、これは君にお願いするよ。』
───『ん、わかった。』
───『もう一つ、その魔法少女ゼッル、並びに契約妖精の確認と、…まぁ敵か味方か…出来れば味方で有ってほしいね。』
───『そうだね、敵の動きも気になるし。』
───『うん、そのへんはこちらでやっておくよ。』
───『ん、それじゃあ、一度戻るよ。』
───『ああ、それじゃあミラージュはたのんだよ。』
───『ん、そっちもね』
妖精達が方々に消えていく。
そして最後に残った妖精が空を見上げ。
───『ゼッル…そして、上位妖精か…………何者なのだろうか。』
そう呟くと、その妖精も同じように消えていく。
………
……
…
◆◆◆
そこは病室。
時は月明かりが差し込む刻。
しずくは、考え続けていた。
この心内に波打つ感情が何なのか、この記憶に残る私は何なのか。
そして…冥…と言う名の少女。
私は如何すれば良いのだろうか。
博士からの命令を遂行するには不要な要素。
私の中の私が揺らいでいく。
分からない。
如何すれば。
その時、しずくの背後、その空間が揺らいだ。
「やぁ!黒騎士…じゃなかった、しずくちゃん?。」
それは白衣の化け物だ、姿は現実世界に紛れるためか比較的人らしい。
「…はか、せ」
元々人型であったのも関係するのだろうが、まるで医者のようないでだちに、胡散臭い糸目の男。
「ケハハ、んー君を人として現実世界のつじつまを合わせたけれど、かなり馴染んでるみたいだね?」
白衣の化け物…博士はケタケタ薄ら笑いを浮かべながら、しずくを観察する。
「んーやっぱり…概念が少し捻じ曲がったかな?……んーコレはこれでいい実験データだね…よしよし。」
「……」
パチ!
ひとしきりしずくのことを眺め回したらパチリとサギっぽく指を鳴らして話を切り替える。
「それでだ、しずくちゃん、君に望むのは予め知識に刷り込んだように獲物を見つけ出して捕まえることだ。」
「…は、い」
しずくの脳内には博士のその言葉がスイッチであったかのように、掻き乱だれ。
今まで何を考えていたのかも分からなくなっていく。
私は…私だ
しずくと言う少女はもういない。
ここにいるのは、命令に忠実な騎士だ。
黒騎士だ。
「………」
閉じた瞳を開くとそれはもはやしずくでは無く成っていた。
「ケケケ、先の命令通り君は人間界、それもこの街に紛れ込み、敵 味方双方に見つからないよううごいてもらうよ。」
「は…い」
「まず君はつじつま合わせとして、重傷人だ、傷を直してから任務に当たると良いよ、数日もすればまともにうごけるから、何なら退院もできるようにしておくからさ、ケケケ。」
しずくは傅き、脳内に浮かぶイメージを反芻する。
それは妖精の姿。
赤い六枚羽根の美しい少女の姿。
炎を纏いし化身のような、人型の妖精
「…イエス…マス、ター」
「よろしくね~ケハハ。」
………
……
…
◆◆◆
夢月・冥はぼんやりとした面持ちで妹が待つであろう家に向かって人通りの無い道を歩む。
ふらり、ふらり、時折立ち止まっては、また歩き出す。
端から見たら何とも危なっかしい。
ただそこは人通りも無く、誰の目にも止まることは無く。
当の本人である冥の脳裏では会長とその子分…
じゃなくて、しずくの事を考えていた。
生きていてくれて良かったと泣き腫らし。
気がつけば、唯々幼子にするように、優しくあやされて。
多分そのまま眠ってしまった。
煩いのが二匹病室で騒ぎ出すまで、しずくの膝で眠っていた。
しずくとは言葉少なく何を言えば良いのかも分からなかった。
ただ涙が止まらなかった。
良かったと
また会えたと
今度は無くさない、伸ばした手がとどくように。
守ると心に誓う。
まるで希望という呪いを絡めるかのように。
己の心を縛り付けていく。
それがどのような結果を招くのか。
それはまだ分からない
………
……
…
◆◆◆
その深く暗い、闇の中に蠢く何かがいた。
禍々しい何か。
あの化け物だ、姿で言えば人のような、巨躯の影。
人のようにもヘビのようにも見える。
白い髪、青灰色の肌、紅瞳のような姿でありながら、その影は三つの鎌首を跨げた蛇の姿。
どの化け物共よりもなお化け物ような何か。
まるで王のような何かがそこにはいる。
「『…道化が、理を外れたか?』」
影が虚空を睥睨し、微かに笑う。
「『クク、軛から外れ、お前は何をなすのか…赤き姫に拾われ歩むのは…果たして……ふ、いましばし観察するとしよう、クク。』」
………
……
…
◆◆◆
「あ、お姉ちゃんお帰りなさい!!。」
少女の顔が綻ぶ。
作り笑いでは無い笑顔を妹の李奈へと向ける。
夢月・冥はゆっくり、その小さな子供、妹の頭を撫でる。
「えへへ…」
照れたように、はにかむ妹。
「ただいま…りな。」
姉は…冥は微笑む。
「お姉ちゃん元気になった、ふふ、良かった。」
一種キョトンと目を見開く冥。
誤魔化し気味に妹の頭を再度撫でると、家から漂う香りに気づく。
「…お腹空いたね!」
「……誰かいるの?」
少し警戒気味に妹にたずねる。
「なんか赤髪の人がお料理してるよ?」
冥の脳裏によぎる、記憶。
数日ぼんやりと過ごしていたため忘れていた。
「……あー、うん、動き回ってるのね」
「ん?」
冥は考えるのをほうきして、りなと共に気配をたどる。
台所、そこには赤い髪の己よりも年上に見える少女……
『お?帰ったか主よ。』
「……何してるの?」
それは眩しくなるような赤髪の少女がいた。
『決まっておろう、お料理だ!』
そう言って無い胸を張る、ガルーダ。
魔法少女になる時に契約した、妖精だ。
冥はジト目で、ため息をはくと、視線をやたらと存在を主張する美味しそうな料理の数々に目がてんになる。
「…何で実体化してるの?」
そう言ったのも、姿形は元々妖精は目に見えないはずだった、むろん妹のりなには見えていない存在の筈だった。
それがどうだ。
『む?この姿か、これは仮初めよ、本来はもっと小さき者よ、いまは汝の影を借りているのでな……どうじゃ?。』
「どうって…言われても?」
おかしい、どうやって実体を得たのか。
『ふ、まぁ人の世に紛れるためとは言え、汝の影は万能なりと言えよう、やはり影の人形を依り代にしたのは正解か。』
「…??」
もはや存在自体がよく分からなすぎるこいつは誰だと言いたい、いや分かっている、分かってはかったはいるのだがそれでも……何故?。
『ふ、主よ今日はずいぶんと生気があるのぅ』
「ん……」
『まぁ野暮な話はあとじゃ、手を洗って席に着けい、妹殿はすでにぶーたれておるぞ。』
「…あ、ごめん」
『くく、はよせい、今日は自信作じゃからな!』
もうそう書きだし中。